東日本大震災について思う ⑥ 〜中小企業白書による東日本大震災の分析〜

2011年8月20日土曜日 | ラベル: |

 経済産業研究所のBBLセミナーで、中小企業庁 事業環境部 調査室長: 星野光明氏の「2011年版中小企業白書・-震災からの復興と成長制約の克服」のお話をお聞きしました。中小企業白書は例年なら4月下旬に公表されるのですが、今年は東日本大震災の分析を加えたため、7月1日に公表されました。
 「中小企業の業況は総じて持ち直しの動きが見られたが、東日本大震災の影響により大幅に悪化している。」と言うのが冒頭の結論です。
 以下星野光明氏のお話に沿って分析内容をご紹介致します。

1. 資金繰り
 資金繰りについては、「資金繰りは、リーマン・ショック前の水準以上に回復していたが、震災が発生した2011年3月に、大幅に悪化した。」とされています。震災関連倒産件数を見れば下記の通りです。
東日本大震災
(3月11 日発生)
阪神淡路大震災
(1 月17日発生)

備  考
件 数
件 数
 3   月  8 件 (1 件) 1  月 1 件(1 件)



1995 年合計
144 件(78件)
 4   月  25件 (3 件) 1  月13件(3 件)
 5   月  64件 (8 件)   3  月 21件(10件)
 4  月 27件(14件)
 5  月 14 件(8 件)
 6  月 12件(7件)

* ( )内は直接被害による倒産件数  6月7日現在
○東日本大震災 破産準備中等の実質破綻も40件発生(3~5月)。

 東日本大震災の場合、阪神淡路大震災に比べ倒産件数が大きく上回っています。

2.東日本大震災の中小企業への影響
 東日本大震災では、地震、津波、原子力発電所事故、電力供給制約等の様々な事象が生じ、これらが複合的に関連して中小企業に広範かつ甚大な影響が生じました。このほか、サプライチェーンを通じた影響や消費マインドの低下による影響が全国的に拡大しました。
 商工会が把握している会員企業の被災状況によると、建屋・家屋の被害は、沿岸部で全壊が約5割である一方、内陸部で一部損壊が約8割と、津波の影響を受けた沿岸部でより大きな被害が発生しています。
 津波の影響を受けた地域には約7万5千社、地震の影響を受けた地域には約74万社、原子力発電所事故の避難区域等には約7千5百社。東京電力管内都県には約145万社の企業が存在しています。(最後に添付の資料参照)

3.津波の影響 
 津波により影響を受けた地域は、生活面、経済面双方から見て、小規模な都市雇用圏*1であるものが多く、これらの地域では、漁業及び漁業から派生する食品加工業等が主要産業となっていましたが、津波により、工場、店舗、港湾等の産業基盤や地域のコミュニティの基本的機能が壊滅的な被害を受けました。
*1都市雇用圏とは、おおむね①人口集中地区の人口が1万人以上で、②周辺市町村から中心市町村への通勤率(通勤者数/就業者数)が10%以上の圏域であり、単一の市町村を超えて形成される通勤圏を表す。このような都市雇用圏は我が国全体で251ある。
○1995年の神戸都市圏の人口は、221.9万人。(第5位)

4.地震の影響
 津波の影響は受けていないが、地震により影響を受けた地域でも

   ①建物の損壊・液状化
   ②設備の保守・点検が専門家の不足で受けられないこと
   ③物流の停滞により原材料の調達や商品の配送が行えないこと

などにより、中小企業や商店街の事業活動に大きな影響が生じました。
【政府の支援策 】
 このような状況を受けて政府は、金融支援、雇用支援の大幅な拡充を実施するとともに、事業を再開したいという要望があることから、仮設店舗、仮設工場等の整備、地域経済の核となる企業グループ支援等を進めています。
 (独)中小企業基盤整備機構は、地域コミュニティにとって不可欠な機能を提供しています。例えば地域の中心的な商店街等支援等です。

5.原子力発電所事故の影響
 原子力発電所事故の避難区域等では、農林漁業で約12%、建設業で約15%、製造業で約21%、電気・ガス・熱供給・水道業で約2%が働いており、全国、福島県と比較すると、これらの業種で就業する者の割合が高い傾向にあります。
 また、原子力発電所事故の避難区域等では、化学部品、輸送機械部品、電子機器部品等の特定の分野において高いシェアを有する企業が存在し、当該企業の事業活動の継続が困難となり、自動車やエレクトロニクス等のサプライチェーン全体に影響が波及したとも考えられます。
避難区域等の企業は事業の継続が著しく困難となっており、先行きの見通しも立たない状況にあります。
 避難区域等の周辺で生産された商品では、取引の停滞や取りやめが発生。国内外を問わず、旅館ホテル等でも、風評被害が広がり、また取引先から製品の安全性の検査、確認が求められています。
【政府の支援策】
 こうした状況を踏まえ、影響を受けた中小企業に対して、特別な金融支援、雇用支援、経営支援、風評被害への対応支援、仮払い補償の実施等を行っています。

6.電力供給制約の影響
 東京電力管内の企業数は、約145万社であり、その大半は中小企業です。
 帝国データバンクのデータでは、管内企業数と、管内企業と直接取引を行う管外企業数を合わせると、全国の約5割を占めます。特に、製造業と卸売業では、管内企業と直接取引を行う管外企業数 が多く、全国的に影響が及ぶ可能性があります
 夏期に向けて、東京電力・東北電力管内において、ピーク期間・時間帯15%の需要抑制を達成するためにも、中小企業は、更なる節電に取り組んでいく必要があります。

7.その他の全国的な影響
○サプライチェーンへの影響
 被災地域における出荷額が大きく、産業に不可欠な品目を供給する企業との取引が困難になることにより、サプライチェーンに影響が及んだケースもありました。
こうした影響の全国的な広がりを受け、特別相談窓口を設置しており、資金繰り、雇用、税制等についての多岐にわたる相談が寄せられています。
○被災地域における出荷金額上位5品目1

 
順  位
 
品目名
出荷額 ( 百億円 )
 
構成比(%)
被災地域
全  国
1
自動車部分品・附属品
67
2,654
2.5
2
その他の電子部品・デバイス・電子回路
33
405
8.1
3
集積回路
31
431
7.1
4
洋紙・機械すき和紙
30
208
14.4
5
 
自動車
( 二輪自動車を含む)
27
969
2.8
     全   品   目
1,165
30,525
3.8

資料:経済産業省「平成20年工業統計表」再編加工
(注)1.被災地域は、青森県、岩手県、宮城県、福島県における災害救助法を適用した市町村(2011年3月24日時点)を集計した。
2.工業統計表の商品分類表の製造品番号に基づいた品目単位での集計値である。

○消費マインドの低下による影響
 震災による消費マインドの低下により、小売業、旅館、ホテル等のサービス業を中心に影響が拡大しました。

【 所 感 】
 断片的には既に報道されている部分もありますが、企業(特に中小企業)について、東日本大震災が与えた影響を包括的・網羅的に分析されていて、大変参考になると思います。

○プレゼンテーション資料
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/11071101.pdf

○中小企業白書 2011年版
http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h23/h23_1/h23_pdf_mokuji.html

○参考資料
①  津波被災地域
2009年 企業数       75,098社
2008年 製造品出荷額等  4.4兆円.
2007年商品販売額      7.4兆円
○東日本大震災により、災害救助法を適用した市町村(2011年3月24日時点)のうち、国土地理院が4月18日に公表した「津波による浸水範囲の面積(概略値)について(第5報)」により、津波の浸水を受けた青森県、岩手県、宮城県、福島県の39市町村を集計した。そのうち仙台市については、宮城野区、若林区、太白区を集計した。
②地震被災地域
2009年 企業数       742,462社
2008年 製造品出荷額等 35.6兆円
2007年商品販売額     206.5兆円
○東日本大震災により、災害救助法を適用した市町村(2011年3月24日時点)のうち、国土地理院が4月 18日に公表した「津波による浸水範囲の面積(概略値)について(第5報)」により、津波の浸水を受けた青森県、岩手県、宮城県、福島県の39市町村を除いた市町村及び仙台市青葉区、仙台市泉区を集計した。
③原子力発電所事故の避難区域等
2009年 企業数       7,503社
2008年 製造品出荷額等  0.3兆円
2007年商品販売額      0.3兆円
○原子力発電所事故の避難区域等を含む市町村として、田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村の全域を集計した。
④東京電力管内都県
2009年 企業数        1,454,598社
2008年 製造品出荷額等   111.6兆円
2007年商品販売額       262.9兆円
○茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、静岡県を集計した。


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集合訴訟とリスクマネジメント

2011年8月11日木曜日 | ラベル: |

 今日で満78歳になりました。この年になっても未だブログが書けるのは幸せだと思います。
 7月27日、公益財団法人 損害保険事業総合研究所の損害保険特別講座で、東京大学名誉教授、中央大学法科大学院教授 西村高等法務研究所 所長 落合 誠一先生の「大量消費者被害の解決と集合訴訟』―集合訴訟は問題の真の解決となるか― のお話をお聞きしました。

 消費者庁の「集団的消費者被害救済制度専門調査会」は平成22年10月28日の第1回会合以降審議を重ね、平成23年8月19日 の第15回会合で取纏めを終え、消費者委員会の承認を得る運びとなり、早ければ来年にも、集合訴訟の立法化が実現される状況になっているそうです。

 ○消費者庁 制度 集団的消費者被害救済制度について
  http://www.caa.go.jp/planning/index.html#m01-1
  http://www.caa.go.jp/planning/index.html
  http://www.consumer.go.jp/seisaku/caa/soken/seido/shiryo/index.html
  http://www.consumer.go.jp/seisaku/caa/soken/seido/seido.html

 アメリカにおいて、タバコ・銃などについて大規模な集合訴訟(クラスアクション)が提起されたことは記憶に新しいことです。日本でも身近な問題になるとは思ってもいませんでした。
 私は、本件に関しては全くの素人ですが、方向は「二段階型」になるようです。即ち、

 ① 手続追行主体が対象消費者の範囲を特定して、訴訟を提起。
 ② 一段階目の判決において、対象消費者の範囲を定めた上で、共通争点について確認する判
決を行う。判決の効力は、その後に届出(④)をした者に有利にも不利にも及ぶ。
 ③ 一定の期間までに、対象消費者に届出を促す通知・公告を行う。
 ④ 一定の期間までに届出をする。

 集合訴訟(クラスアクション)の導入は、消費者に取って金額が少額で多数の被害者が生ずるような「集団的消費者被害紛争」解決の切り札だと言われています。弁護士さんに取っては、仕事が増えることになります。しかし企業は大きなリスクを負うことになります。
 落合誠一先生は、「集団訴訟制度の導入は、日本の社会がアメリカ型の訴訟社会へ大きく舵を切ることを意味し、わが国の社会の在り方についての大問題である。従って各層の広範囲な議論を経た、社会的コンセンサスが必要である。」と言う視点から見ると、検討過程が訴訟手続上の技術的な問題だとして法律関係者中心で行われており、一般国民、さらには実際にリスクが発生する企業側にどこまで検討・理解されているか問題だと憂えておられます。
 *例えば、消費者庁の集団的消費者被害救済制度研究会はメンバーは学者・弁護士ばかりで、オブザーバーにパナソニックの法務室長さんがいるだけです。
 「集団的消費者被害紛争」解決の手段は、裁判、ADR(裁判外紛争解決)、行政による解決等さまざまであり、どの手段をより活用すべきか我々自身が決めるべき問題だと落合誠一先生は強く訴えられました。私もその通りだと感銘しましたので、ご紹介申し上げる次第です。

○ご興味のある方は、下記の本をお読み下さい。
 「集合訴訟の脅威」〜企業経営・経済成長戦略に与える影響〜 西村高等法務研究所編
平成23年3月 商事法務研究会 2,200円(税別)    ISBN978-4-7857-1852-7

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災害時の金融支援 ④ 東日本大震災に対する㈱日本政策金融公庫の支援策及びその他の機関の支援策

2011年8月1日月曜日 | ラベル: |

 ㈱日本政策金融公庫は国民生活金融公庫、中小企業金融公庫、農林漁業金融公庫、国際協力銀行が担っていた業務を引き継いで、2008年(平成20年)10月1日に設立された政策金融機関です。
 国民民生活事業(旧国民生活金融公庫)部門は、小規模企業者「製造業・その他の業種:従業員20人以下 、商業✳・サービス業:従業員5人以下 (✳商業とは、卸売業、小売業〈飲食店含む〉を指す。)」を取引の対象としています。
 中小企業事業(旧中小企業金融公庫)部門は、一般の中小企業を取引の対象としています。
東日本大震災についての日本政策金融公庫の支援策は、「東日本大震災により被災された皆様への支援体制について」に記載されています。

 前回述べた信用保証協会の保証枠の拡充と、日本政策金融公庫の災害時の融資制度が「政府の災害復旧貸付制度」の二本の柱です。これを活用することが中小企業に取って、最も有効な災害時のキャッシュフロー対策になります。

1) 特別相談窓口の設置及び電話相談の実施(詳細略)
2) 各種融資制度
【国民生活事業】  6000万円 (各融資制度の限度額に上乗せ)
【中小企業事業】  3億円(別枠)

●中小・小規模企業向け融資制度(国民生活事業・中小企業事業)
「東日本大震災復興特別貸付」(平成23年5月23日より取扱い開始)


利用対象者融資限度額融資期間
(据置期間)
融資利率
○直接被害を受けた方
○原発事故に係る警戒区域等*1内に事業所を有する方
【国民生活事業】
6千万円
(各融資制度の限度額に上乗せ)
【中小企業事業】
3億円(別枠)

設備資金20年以内
(5年以内)
運転資金 15年以内
(5年以内)

(1)被害証明書*5等の発行を受けた方
 ○基準利率より0.5%引下げ
 ○融資後3年間について中小企業事業の場合は1億円、国民生活事業の場合は3千万円を上限に基準利率より1.4%引下げ
(2)上記以外の方
 ○基準利率

○間接被害を受けた方
(上記対象者の方と一定以上の取引がある方)

設備資金 15年以(3年以内)
運転資金 15年以(3年以内)
(1)被害証明書*5等の発行を受けた方
 ○基準利率より最大0.5%引下げ*2
 ○融資後3年間について3千万円を上限に基準利率より最大1.4%引下げ
(2)上記以外の方
 ○基準利率
○その他震災の影響により、売上が減少している方など
(風評被害による影響を含む)
セーフティネット貸付(経営環境変化資金)と合わせて
【国民生活事業】
4千8百万円*3
【中小企業事業】
7億2千万円
設備資金 15年以内
(3年以内)
運転資金 8年内
(3年以内)
(1)特に業況が悪化している方など、一定の要件に該当する方
 ○基準利率*4より最大で0.5%引下げ*2
(2)上記以外の方
 ○基準利率*4


*1: 警戒区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域。
*2: 売上高等の減少で0.3%引下げ、雇用の維持・拡大を要件に0.2%引下げ。
*3: 生活衛生セーフティネット貸付(運転資金のみ)の融資限度額は5千7百万円です。
*4: 中小企業事業の場合、信用リスク・融資期間等に応じて所定の利率が適用されます。
    国民生活事業2.25%・中小企業事業1.75%・(貸付期間5年以内の基準利率)  
    国民生活事業 http://www.jfc.go.jp/k/riritsu/index.html#a1
    中小企業事業 http://www.jfc.go.jp/c/jpn/topics/base.html
*5: 被害証明書等: 災害などで被災したことを証明するための書類。災害によって家屋が損壊を受けた場合には市町村が被害の状況を調査して、『罹災証明書』が発行される。塀や家財・車といった家家屋以外の対対象について「被災証明書」が発行される。

○商工組合中央金庫の支援
東日本大震災の影響を受けている中小企業等の皆さまへ
~ 東日本大震災復興特別貸付の概要 ~ を公表しています。
http://www.shokochukin.co.jp/chusyosien.pdf

○民間金融機関の支援策
仙台に本店を置く七十七銀行は「東日本大震災復興支援ローン」を公表しています。
http://www.77bank.co.jp/pdf/kinri/loan/77houjinshienloan.pdf
          ※他にも民間金融機関の支援は数多く存在します。

○地方自治体の支援
○宮城県 
東日本大震災で被災された中小企業者へ新しい融資制度を創設しました。
「災害復旧対策資金  (東 日 本 大 震 災 災 害 対 策 枠)」
http://www.pref.miyagi.jp/syokeisi/shokinhan/syoukin1/saigaisikin.pdf
          ※他にも地方自治体の支援策は多く存在します。
○福島県・経済産業省
原子力災害に伴う「特定地域中小企業特別資金」を開始。
http://www.chusho.meti.go.jp/earthquake2011/download/110523NCA-T-Fin1.pdf
福島県及び経済産業省は、4月22日の基本合意を踏まえ、中小企業基盤整備機構の高度化融資スキームを活用し、原子力発電所事故の被災区域から移転を余儀なくされる中小企業等が、福島県内の移転先において事業を継続・再開し、雇用を維持するために必要な資金の融資申請を6月1日より受付開始。
融資利率: 無利子  担保: 無担保 です。 これは、今までに例のない制度です。  

○金融支援制度を如何に活用方するか
 中小企業は平素から取引金融機関と、大地震発生時にキヤッシュフロー面から事業継続が出来るか、政府の施策の利用をも含めて良く協議しておく必要があります。信用保証協会の保証制度の活用に当たっても先ずは取引金融機関の理解が大事です。
 取引金融機関も、大地震が発生した場合に備え、与信リスク管理の視点から,企業の事業継続、キャッシュフロー対策の状況を把握し,検討しておくべきです。この点についての民間金融機関の対応は、現状まだ不十分であると私は思います。
 地震発生後、企業は大規模な災害発生時等に設置される相談窓口に相談をされることをお勧めします。担保・返済等について問題がある場合も、弾力的に相談に応じてくれるはずです。
 また、中小企業は平素から日本政策金融公庫・中小企業事業部門や商工組合中央金庫との間で融資取引関係を構築しておけば、地震発生後に災害復旧貸付を申し込む場合、既に会社の状況を把握して貰っていますから、話が早く進むと思います。

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