㈱資生堂の「企業価値向上に向けたコーポレートガバナンス」について

2012年6月20日水曜日 | ラベル: |

5月29日(火)に経済産業研究所のBBLセミナー*1で㈱資生堂の前田新造会長の「企業価値向上に向けたコーポレートガバナンス」のお話をお聞きしました。㈱資生堂がトップの強力なリーダーシップの下、企業価値向上に向けたコーポレートガバナンス体制の確立に努力しておられる状況が良く理解出来ました。コーポレートガバナンスは、企業のリスクマネジメント体制にも大きな影響を及ぼします。以下にその内容をご紹介申し上げます。

 今回の景色は、私が小・中・高校時代に住んでいた九州の佐賀市です。佐賀平野にあり、目立たない小さな街ですが、緑が多く綺麗な川やクリークが市内至るところに流れています。

○市内を流れる多布施川です。

○神野公園 ・藩主鍋島家のお茶屋の跡です。


○㈱資生堂の「企業価値向上に向けたコーポレートガバナンス」について
Ⅰ.社名の由来
  『至哉坤元 万物資生』   易経 坤卦の巻
  「至れる哉(かな)坤元(こんげん) 万物資(と)りて生(しょう)ず。」
  (大地の徳はなんと素晴らしいものであろうか。すべてのものはここから生まれる。)

Ⅱ.資生堂の企業理念
  「私たちは、多くの人々との出会いを通じて,新しく深みのある価値を発見し、美しい
   生活文化を創造します。」
  「日本をオリジンとし、アジアを代表するグローバルプレーヤー」

Ⅲ.コーポレートガバナンスの基本的考えかた
  「目指すミッションを高いレベルで果たし、それぞれのステークホルダー(お客さま・
  株主・社会・社員・取引先)から価値を認めていただくこと。」
    ↓
  「企業価値の向上」
  「企業は社会の公器である。」
  「ガバナンス強化は企業価値向上の前提条件。仕組み・ルールだけに頼らず
  企業理念・使命で統治する企業へ。」

Ⅳ.コーポレートガバナンスの基本方針
  責任体制の明確化
  経営の透明性・健全性の強化
  意思決定機能の強化
  監督・監査機能の強化

① 取締役会
 取締役が独立性や倫理性に欠けることなく、十分な権限をもって取締役会に「多様な視点」「多様な経験」「多様なスキル」を持ち込み、十分にその機能を果たしていく。
 定款で取締役の定数は2001年度までは「7名以上」とされていたが、2002年度以降「12名以内」とした。現在8名である。
 その構成は、会長・社外取締役3名・執行役員兼務取締役4名(社長・専務1名・常務1名・取締役1名)。因みに専任執行役員は常務2名・執行役員12名。
 監査役は5名、社外監査役3名・社内監査役2名。
 役員の任期は取締役1年・監査役3年、社内ルールで同一役位での在任上限期間を設定している。原則4年最長2年延期可能。その後は昇格か退任。
 取締役会の諮問委員会として、役員報酬諮問委員会・役員指名諮問委員会がある。
社外役員の起用に当たっては「経営に外部視点を取り入れ、業務執行に対する一層の監督機能強化を図ることを目的に起用している。
 招聘段階から恣意性を排除し、社外役員の独立性、倫理性を徹底して確保できる環境を整え、それを維持する。

② 役員報酬制度
 ○2005年 - 2007年
50
固定報酬
〈 月額基本報酬 〉
50
業績連動報酬
〈 賞与・ストックオプション 〉
 

 ○2008年 以降 
 
(平均)
 
40
固定報酬
〈 月額基本報酬 〉
60
業績連動報酬
〈 賞与・ストックオプション 〉
 
社 長
31
固定報酬
69
業績連動報酬
副社長・専務・常務(平均)
44
固定報酬
56
業績連動報酬
執行役員
48
固定報酬
52
業績連動報酬

Ⅴ.前田会長の3つの夢
① 100%お客様指向の会社に生まれ変わること。
② 大切な経営資源であるブランドを磨きなおすこと。
③ 魅力ある人で組織を埋め尽くすこと。

(所感)
 5月10日の『藤井範彰著 「内部監査の課題解決法」を読んで』で、私は「新会社法・金融商品取引法と内部統制・リスク・リスクマネジメントの関係を理論的に整理することは極めて重要だと思っています。」と書きました。さらに、根底には、コーポレートガバナンスの在り方があります。
 5月29日のBBLセミナーで、現職の社外取締役の方から、前田会長に対し、「社外取締役は、企業の内容を十分に把握出来ないのではないかと懸念ずる。」との質問がありました。前田会長のお答えは、『執行役員が会社の業務を遂行しているのに対して、社外取締役の方々からは、「多様な視点」「多様な経験」「多様なスキル」を持ち込み、十分にその機能を果たして頂いている。』と言うことでした。私はお話を聞いていて、経営がしっかりしていれば、優秀な社外取締役は「経営あるいは経営者の後継者に関して十分な意見をお持ちになれるのだ。」と痛感しました。総ての会社がこうなっているとは思えませんが。
 「和魂洋才」と言いますが、㈱資生堂が欧米と異なる日本の会社組織に、かくも見事にコーポレートガバナンスを根付かせているのは、優れた経営者の徹底したご努力の結果だと感銘致しました。特に、「役員の任期は取締役1年・監査役3年、社内ルールで同一役位での在任上限期間を設定している。原則4年最長2年延期可能。その後は昇格か退任。」を厳格に実行されているのは、トップの確固たる信念がなければ行えないことだと思いました。コーポレートガバナンス体制は各社で異なると思いますが、一つの模範例かと思います。
 なお最後に前田会長が言われた、『人は「コスト」ではなく、「キャピタル」である。人材育成を重視し、社員の成長と会社の成長が重なるような会社にしたい。』と言うお言葉には全く同感致しました。

*1 BBLセミナー (RIETI 独立行政法人 産業経済研究所HPより)
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/index.html

米国の大学や研究機関では、先生、学生たちの間でBrown Bag Lunch Meetingというものが頻繁に行われています。(自分の昼食を茶色の紙袋に入れて集まるところから、この名前がついたそうです。)
BBL(Brown Bag Lunch Seminar Series)とは、ワシントンのマサチューセッツアべニューにあるシンクタンクで日夜繰り広げられているような政策論争の場を日本にも移植し、policy marketを作りたいという思いで、当研究所が企画しているブレインストーミングセッションです。
国内外の識者を招き、様々な政策について、政策実務者、アカデミア、産業界、ジャーナリスト、外交官らとのディスカッションを行っています。会場スペースの制約もあり、現状では非公開としておりますが、これまでに行われたセミナーの概要や配付資料、今後の開催予定等は、こちらでご覧頂けます。

●㈱資生堂前田新造会長の「企業価値向上に向けたコーポレートガバナンス」
BBLセミナー資料 (引用許可済)
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/12052901.pdf

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内田知男著「リスクマネジメントの実務」を読んで

2012年6月10日日曜日 | ラベル: |

内田知男さんの「リスクマンジメントの実務」をご紹介致します。内田さんがリスクマネジメントのコンサルティング実務に従事されたご経験と、慶応義塾大学・大分大学・関西学院大学・名古屋商科大学におけるリスクマネジメントの講義の集大成で、リスクマネジメント、BCP(事業継続計画)の実務の解説と、「リスクマネジメントの教科書」としての基礎的事項の解説の双方を含んでいます。リスクマネンジメントに関わる者に取って、この分野についての広い視野を与えて頂けるご本だと思います。
 3月10日に東京ガス吉野太郎さんの「事業会社のためのリスク管理・ERMの実務ガイド」をご紹介致しました。これは吉野さんが長年企業のリスク管理・ERMの実務に従事されたご経験をご本に纏められたものです。
 5月10日の藤井範彰さんの「監査の課題解決法」も藤井さんの長い実務経験に基づく視点で内部監査の現在の問題点を論じたご本です。
 私がお付き合いしているリスクマネジメントの各分野の優れた実務家の方々が、ご経験に基づく解説書を次々に出版されていることは、誠に意義深いことです。

今回から趣向を変えて、私の印象に残った各地の景色をお目に掛けます。
バーミューダの主要産業は観光と損害保険です。損害保険代理店時代に研修旅行で2泊3日滞在しました。
バーミューダの夕焼け。


志摩半島大王崎の夕日。


○内田知男氏について
 内田さんは、1973年一橋大学商学部卒業後住友銀行にご入行、経済調査部・企画部金融調査室長・企画部部長を経て、銀泉保険コンサルティング㈱(現銀泉リスクソリューションズ)社長・理事長として、リスクコンサルティングの実務に従事されました。
昨年6月エリーパワー㈱監査役に就任されました。エリーパワー㈱は大型リチウム・イオン電池製造のベンチャー企業です。http://eliiypower.co.jp/

○リスクマネジメントの実務【ISO31000への実践的対応】 














同書「はじめに」で、
「この十数年間に、米国COSOの内部統制フレームワークに始まり、英国ターンブルガイダンス、米国COSOのエンタープライズリスクマネジメントフレームワークあるいはわが国の会社法並びに金融商品取引法の下での内部統制への要請など、様々な形でのリリスクマネジメントに対する考え方や組織的対応への要請事項が示されてきた。(中略)これまで様々な形で取組が進められてきたリスクマネジメントについてISO31000をガイドラインとして用いて、いかに現在のリスクマネジメントシステムを効率的に改善し運営していくかが多くの組織にとっての課題となろう。」
と述べておられます。
 第1編リスクマネジメントでは、①リスクマネジメントトは、②リスクとは、③リスクマネジメントのア枠組み、④リスクマネジメントプロセス、⑤リスクマネジメントを支える枠組み、⑥リスク定量化とリ企業価値経営、⑦リスクファイナンシングの順で
リスクマネジメントに関する広汎な解説がなされています。 
 第2編では①事業継続管理(BCM)とは、②BCM体制の実践的対応の順で、内田さんが企業のBCMのコンサルタントに当たられた実務経験に基づく叙述がなされています。
 リスクマネジメント、BCMについての広い視野を得るには絶好の入門書だと思います。


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東京電力の現状と将来の見通し⑩ ~ 平成24年3月期決算 ~

2012年6月1日金曜日 | ラベル: |

東京電力平成24年3月期決算が公表されました。決算短信「来期見通し」添付資料に、除染費用については、「法律に基づく具体的な実施内容を把握出来る状況になく、賠償額を見積もることが出来ないから計上しない」と記載されています。こんな前提での業績予想の開示で良いのでしょうか。 以下は東京電力平成24年3月期決算についての感想です。

素敵な京都の6月その1.2です。

善峰寺  経堂下 さつき HP 「京都の四季」より

同上 HP 「京都の四季」より
 京都では東山、西山と言います。東山三十六峰が有名ですが、私は西山が好きです。西山に善峰寺があります。素敵なお寺です。

 ○業 績 (連結)
  平成 22 年度実績 平成 23年度実績  
 前期比増減
(22.4.1 - 23.3.31) (23.4.1 - 24.3.31)
売上高 53,685 53,494 △ 191
営業利益又は損失
 (同上率)
3,996
( 7.4 %)
△ 2,725
(△ 5.1 %)
△ 6,721
(△ 12.5 %)
経常利益又は損失
(同上率)
3,177
( 5.3 %)
△ 4,004
(△ 8.1 %)
△ 7,181
(△ 13.4 %)
引当金増減 61 24   △ 37
特別利益
特別損失
   ―
△ 10,777
25,169
△ 28,679
25,169
△ 17,902
税金等調整前当期損失 △ 7,661 △ 7,538 123
法人税等 4,784 228 △ 4,556
当期純利益又は損失
 (同上率)
△ 12,473
(△ 23.2 %)
△ 7,816
(△ 14.6 %)
4,657
( 8.6% )
 月  商 4,474 4,458 △  16

 平成23年度売上高は前期比1910億円減の53,494億円、人件費・経費の圧縮に努めたものの、撚料費の大幅増により営業利益は△2,725億円、経常利益は△4,004億円となっています。

○特別損益内訳                   (単位 億円)
 項  目 平成 23 年度実績
(22.4.1 - 23.3.31)
平成 23 年度実績
(23.4.1 - 24.3.31)
 
増  減
特別利益 ①
(原子力損害賠償支援機
構交付金)
(有価証券売却益)
(固定資産売却益) 
( 関係会社株式売却益 )
   -
   -
   -
   -
  -
25,169
( 24,263 )
( 288 )
(416)
( 202 )
25,169
 
( 24,263 )
( 283 )
( 416 )
( 202 )
特別損失 ②
( 災害特別損失 )
(資産除去債務会計基準
適用に伴う適用額)
(原子力損害賠償費)
(有価証券売却損)
(関係会社株式売却損)
10,777
(10,205)
 
  ( 572 )
   -
   -
   -
28,679
(2,978)
 
 -
( 25,249 )
  ( 404 )
   ( 47 )
17,902
•  7,277
 
•  572
25,249
404
47
① - ②  △ 10,777
 
•  3,519 7,258

 特別損失中、原子力損害賠償費は原子力損害賠償支援機構交付金で賄っていて、東日本大震災による損失2,978億円が赤字を拡大させています。
 いつも思うことですが、キャッシュフロー計算書では、原子力損害賠償の支払い額は5,663億円となっており、未収原子力損害賠償支援機構交付金が17,627億円も計上されています。折角原子力損害賠償支援機構からの支援が決まっているのですから、残りについても早期に支払われることを希望します。

○ キヤッシュフロー  (連結)                     (単位 億円)
科  目  
平成 22年度実績
 
平成 23年度実績
前年同期比
増  減
現金及び現金同等物の期首残高 1,531 22,062 20,531
       
営業活動によるキャッシュ・フロー 9,887 △ 29 △ 9,916
投資活動によるキヤッシュフロー △ 7,920  △ 3,351 4,569
事業のキヤシュフロー 1,967 •  3,380 △ 5,347
財務活動によるキヤッシュフロー 18,596 △  6,147 △ 24,743
当期総合キヤッシュフロー 20,563 •  9,527 △ 30,090
       
現金及び現金同等物の期末残高 22,062 12,539 △ 9,523
月 商 比 4.9  ヶ月 2.8  ヶ月 △  2.1 ケ月

 営業活動によるキャッシュ・フローは,前期比9,916億円の大幅悪化です。投資は大幅に削減されていますが、社債償還を主因として財務活動によるキヤッシュフローは△6,147億円です。

○社債・借入金残高推移                  (単位 億円)
   
22.3.31
 
23.3.31
24.3.31
 残 高 23.3.31 対比
  社   債 47,396 44,266 36,775 △ 7,491
長期借入金 16,144 34,238 32,761 △ 1,477
1 年以内に返済の長期借入金 7,476 7,748 9,325 1,578
短期借入金 3,636 4,062 4,418 356
合   計 74,652 90,314 83,279 △ 7,035

 上記の残高推移で明かなように、社債減7,491億円が大きくキャッシュフローを悪化させています。長期借入金と1年以内に返済の長期借入金の合計額は101億円増加しています。これは平成23年3月31日期末の1年以内に返済の長期借入金7,748億円を返済後7,849億円を改めて借り入れていることを意味します。短期借入金も356億円増加しています。金融機関は引続き貸出を継続して残高を維持しています。
 問題は社債の償還です。資金調達にあたり社債に対する依存度が大きいと事故災害発生時に、社債の償還がキャッシュフロー悪化の大きな要因となります。その結果大事な現預金は9,523億円の大幅減となっています。

  ○来期業績見込み                   (単位 億円)
  平成 23年度実績 平成 24 年度見込  
 前期比増減
(23.4.1 - 24.3.31) (24.4.1 - 2 5 .3.31)
売上高 53,494 60,250 6,756
営業利益又は損失
 (同上率)
△ 2,725
(△ 5.1 %)
△ 2,350
(△ 3.9 %)
375
( 1.2 %)
経常利益又は損失
(同上率)
△ 4,004
(△ 8.1 %)
△ 3,550
(△ 5.9 %)
454
( 2.2 %)
当期純利益又は損失
 (同上率)
△ 7,816
(△ 14.6 %)
△ 1,000
(△ 1.7 %)
6,816
( 12.9% )
 月  商 4,458 5,021 563

前回の繰り返しになりますが、

① 家庭用電気料金の値上げを前提としているが、どの程度認められるかは現状不明。
② 廃炉費用については、「現段階では、各(廃炉)工程の具体的な費用の積上げによる総額の見積りは困難である。」とされている。
③ 除染費用については添付資料に、「法律に基づく具体的な実施内容を把握出来る状況になく、賠償額を見積もることが出来ないから計上しない」と記載されていて、平成23年3月期の実績の記載も無い。
等の問題点があり、来期業績の見通しを検討することは困難です。
 廃炉費用・除染費用・原子力損害賠償の事務経費等を何処まで国が負担するのか、発送電を分離するのかなど、根本的な議論を行った上で対処しなければ東京電力の再生は困難だと思います。依然前途は暗澹たるものがあります。

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