東京電力の現状と将来の見通し⑦ 〜平成23年度第3四半期決算〜

2012年2月20日月曜日 | ラベル: |


素敵な京都の雪景色 今回は祇園・円山公園界隈の2枚です。
素敵な京都の雪景色 その3です。 

HP 「京都の四季より」 円山公園
 











素敵な京都の雪景色 その4です。

HP 「京都の四季より」 祇園 石塀小路












 東京電力の第3四半期決算が2月14日に公表されました。 

○業  績
✩平成23年度第3四半期損益計算書 (連結)          (単位百万円) 
  平成 23 年度 平成 22 年度
前年同期比
増  減
(23.4.1 - 23.12.31) (22.4.1 - 22.12..31)
 売上高 3,800,831 3,959,930 △ 159,099
営業利益
 (同上率)
△  144,377
 (△ 3.8 %)
326,908
( 8.3 %)
△ 471,285
(△ 12.1% )
経常利益又は経常損失
(同上率)
△ 220,528
 (△ 5.8  %)
278,640
  ( 7.0 %)
△ 499,168
(△ 12.8 %) 
引当金増 988 3,558 △ 2,570
特別利益
(原子力損害賠償支援機構交付金)
(有価証券売却益)
(固定資産売却益)
1,619,838
 
( 1,580,232 )
 ( 24,903 )
( 14,613 )

 

1,619,838
 
( 1,580,232 )
 ( 24,903 )
( 14,613 )
特別損失
( 災害特別損失 )
(資産除去債務会計基準適用に伴う適用額)
(原子力損害賠償費)
(有価証券売却損)
(関係会社株式売却損)
2,001,653 、
(312,294)
 
  -
( 1,644,512 )
 ( 40,136 )
 ( 4,709 )
57,189
 -
( 57,189 )
   -
   -
   -
1,944,464
( 312,294 )
 
(△ 57,189 )
( 1,644,512 ) 
 ( 40136 )
 ( 4,709 )
当期純利益又は純損失
 (同上率)
 △ 623,014
 (△ 16.4 %)
139,896
 ( 3.5 %)
△ 762,910
 (△ 19.9 %)
 月  商 422,315 439,992  △ 17,677

 営業利益段階、経常利益段階ともに前年同期比5,000億円に近い大幅マイナスです。事故を主因とする特別損失で赤字は更に膨らんでいます。

✩第2四半期・第3四半期対比                   (単位 百万円)      
科  目 平成 23 年度
第3四半期
平成 23 年度
第 2 四半期
  増  減
 
(23.4.1 - 23.12.31) (23.4.1 - 23.9.30)
売上高 3,800,831 2,502,752 1,298,079
営業利益
 (同上率)
△  144,377
 (△ 3.8 %)
△  60,600
 (△ 2.4 %)
△  83,777
 (△ 1.4 %)
経常利益又は経常損失
(同上率)
△ 220,528
 (△ 5.8  %)
△ 105,748
 (△ 4.2  %)
△ 114,780
 (△ 4.2  %)
当期純利益又は純損失
 (同上率)
 △ 623,014
 (△ 16.4 %)
 △ 627,299
 (△ 25.1 %)
4,195
 ( 8.7 %)
 月  商 422,315 417,125 5,190

 4半期の数字は何れも期初からの累計なので 最近3ヶ月の傾向を見れば、売上は1兆2,981億円増加していますが、営業損失は△838億円で損益内容は更に悪化しています。経常損失段階でも1,148億円赤字が増えています。特別損益の関係で純損益の金額は若干のプラスになっていますが、本体の業績とは関係のない理由によるものです。
 東京電力本体の業績は悪化の一途を辿っています。

*平成23年度第3四半期 特別損益 △381,815
  平成23年度第2四半期 特別損益 △507,757
      差   額                    126,572

*特別損益内訳                                  (単位 百万円)
 項  目 平成 23 年度
第3四半期
平成 23 年度
第 2 四半期
 増  減
(23.4.1 - 23.12.31) (23.4.1 - 23.9.30)  
特別利益
(原子力損害賠償支援機構交付金)
(有価証券売却益)
(固定資産売却益) 
1,619,838
 
( 1,580,232 )
 ( 24,903 )
( 14,703 )
 
568,179
 
 ( 543,638 )
( 24,541 )
 -
1,051,659
 
1,036,594
362
14,703
特別損失
( 災害特別損失 )
(資産除去債務会計基準適用に伴う適用額)
(原子力損害賠償費)
(有価証券売却損)
(関係会社株式売却損)
(資産除去債務会計基準適用に伴う適用額)
2,001,653 、
(312,294)
 
  -
( 1,644,512 )
 ( 40,136 )
 ( 4,709 )
 
   -
1,075,936 、
(185,028)
 
 -
( 890,978 )
  -
  -
 
( 57,189 )  
925,717
127,176
 
 
753,534
△   40,136
△   4,709
 
57,189

 この3ヶ月間の原子力損害賠償支援機構交付金の増加額が原子力損害賠償費の増加額を上回っていることが主因で特別損益が1,266億円のプラスになっています。

*原子力損害賠償支援機構交付金増加額  1,036,594
  原子力損害賠償費増加額                 753,534
    差   額                             283,060


○キャッシュフロー
 第3四半期決算報告書にはキャッシュフロー計算書がありませんので、極めてラフですが、試算して見ました。細かいことが判りませんので、或いは間違っているかもとは思いますが、大凡の傾向は掴んでいると思っています。

✩平成23年度第3四半期キャッシュフロー実績のラフな試算と前四半期との比較
                                      (連結・単位億円)
科      目 平成 23 年度
第3四半期
平成 23 年度
第 2 四半期
 
 増  減
(23.4.1-23.12.31) (23.4.1 - 23.9.30)
営業活動による
キャッシュ・フロー
△  1,770 △1,064 △706
投資活動による
キヤッシュフロー
4,298   △2,371 6,669
事業のキヤシュフロー 2,528 △ 3,435 5,963
財務活動による
キヤッシュフロー
△  5,354 △ 3,762 △1,592
当期総合
キヤッシュフロー
△  2,826 △  7,197 4,371

 本体業績の悪化で、営業活動によるキャッシュフローは3ヶ月で更に706億円悪化しています。(9月末まで6ヶ月で1,064億円悪化)
 投資活動によるキヤッシュフローの大幅改善6,669億円は、電気事業固定資産減1,576億円に加え、その他固定資産減477億円、投資等の減3,047億円などの結果で、東京電力の合理化努力の結果だと考えられます。
 財務活動によるキヤッシュフローは、社債の償還を主因に悪化の一途です。
 総合キャッシュフローは大きく改善しています。

平成23年度第2四半期キャッシュフロー計算書には、9月末までの原子力損害賠償金の支払い額は1.303億円と明記されていましたが、今回はキャッシュフロー計算書がないので判りません。

 
 損益計算書に計上されている原子力損害賠償支援機構交付金と 貸借対照表に計上されている未収原子力損害賠償支援機構交付金の差額5,586億円が原子力損賠償金の支払額かなと推測します。大分支払いが進捗したとも言えますが、折角原子力損害賠償支援機構からの支援が決まっているのですから、残りの1兆216億円についても早期に支払われることを希望します。

   *原子力損害賠償支援機構交付金       1,580,232
        未収原子力損害賠償支援機構交付金  1,021,622
        差     額                           558,610 

 なお2月13日に主務大臣の認定を受けた特別事業計画の変更ついては、別途検討したいと思います。

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電機大手の業績について想う 〜 パナソニックとソニーの再生を心から願う 〜

2012年2月10日金曜日 | ラベル: |


素敵な京都の雪景色 その2です。
HP 「京都の四季」より  鳥居本 平野屋(鮎料理)















 2月4日の日本経済新聞に、「電機大手8社の2012年3月期連結決算は、パナソニックのほかシャープ、ソニー、NECが大幅な最終赤字となる。日立製作所、東芝、三菱電機の総合電機3社は減益ながら安定収益を確保し、くっきりと明暗が分かれる。これまでのリストラ効果や収益源絞り込みの成否が、稼ぐ力の差につながっている。」と報じられています。
 私は昭和35年(1960年)から数年間銀行の調査部門で電機業界を担当しましたので、それからずっと電機業界の動向をフォローして来た積りですが、電機大手8社の業績の明暗には思うことが多々あります。
 昭和35年ころの電機業界は発電機、変圧器などの電力設備を作る重電メーカーとテレビ、洗濯機、エアコンなどを作る家電メーカー、電話交換機、通信設備などを作る通信機メーカーなどに分かれていました。当時、重電に加え家電製品も手掛けていた日立製作所・東芝は総合電機メーカーとして,家電メーカーの松下電器産業(現パナソニック)・ソニー・シャープなどより業界では一段格上のメーカーだとされていました。また、日本電信電話公社(現NTT)の膨大な設備投資を受注する電電ファミリー企業の頂点に日本電気(NEC)が君臨していました。
 重厚長大の総合電機メーカーに比べ松下電器産業(現パナソニック)・ソニー・シャープなどの家電メーカーは、マーケット志向の経営で消費者の需要にマッチした製品を次々に量産・販売して急成長を遂げ世界のトップ企業になりました。
 下記は、2月4日の日本経済新聞の記事の表(一部付加)です。8社の明暗がはっきりしています。総合電機メーカーの健闘、家電メーカー・NECの転落です。
 あれから50年経った今,再び総合電機メーカーが格の違いを示したとも言えます。

                                            (単位 億円)

 
電機大手の連結業績
会社名
  期     間
売上高
最終損益
 



日立製作所※
2011 年4~ 12 月期実績
6兆 8376 (   1 )
852 (   ▲61 )
12 年3月期通期見通
9兆 5000 (   2 )
2,000 (   ▲16 )
三菱電機 ※
2011 年4~ 12 月期実績
2兆 5603 (  ▲2 )
820 (   ▲30 )
12 年3月期通期見通
3兆 6700 (   1 )
1,000 (   ▲20 )
東芝 ※
2011 年4~ 12 月期実績
4兆 3538 (  ▲7 )
120 (   ▲70 )
12 年3月期通期見通
6兆 2000 (  ▲3 )
650 (   ▲53 )
 
 



 
 
 
ソニー ※
2011 年4~ 12 月期実績
4兆 8927 ( ▲13 )
▲2,014 (連続赤字)
12 年3月期通期見通
6兆 4000 ( ▲11 )
▲2,200 (連続赤字)
シャープ
2011 年4~ 12 月期実績
1兆 9036 ( ▲18 )
▲2,135 (赤字転落)
12 年3月期通期見通
2兆 5500 ( ▲16 )
▲2,900 (赤字転落)
パナソニック
2011 年4~ 12 月期実績
5兆 9653 ( ▲10 )
▲3,338 (赤字転落)
12 年3月期通期見通
2兆 5500 ( ▲16 )
▲7,800(赤字転落)



富士通
2011 年4~ 12 月期実績
3兆 1720 (  ▲2 )
14 (   ▲96 )
12 年3月期通期見通
4兆 4900 (  ▲1 )
350 (   ▲36 )
NEC
2011 年4~ 12 月期実績
2兆 1122 (  ▲4 )
▲975 (連続赤字)
12 年3月期通期見通
3兆 1000 (  ▲0 )
▲1,000 (連続赤字)
 カッコ内は前年同期比増減率%、 ▲は減または赤字、 ※は米国会計基準

 日本経済新聞の記事によれば、
『日立は平成10年3月期からテレビなど不採算部門のリストラに取り組み、「得意のインフラ関連事業へとシフトしてきた」(中西宏明社長)ことが実を結び、前期比では16%減ながら、2000億円を稼ぎ出す見通し。東芝、三菱電機もインフラ事業などが伸び、家電部門の落ち込みを補う。この3社はリーマン・ショック直後の09年3月期に合計1兆円超の最終赤字となったが、今期は3650億円の黒字の見通し』
 『テレビ事業の不振が業績を直撃するパナソニック、シャープは今期の最終赤字が過去最大となる。ソニーは4期連続の赤字となる。3社は09年3月期にも合計6000億円強の最終赤字に陥ったが、今期の赤字は合計1兆2900億円にのぼり、リーマン・ショック後を上回る苦境だ。「リストラ不足」も否めず、収益回復に手間どるようだと、生き残りを賭けた合従連衡が現実味を帯びてくる。』
『富士通は国内シェア首位のIT(情報技術)サービスが安定し、黒字を確保する。』
と記述されています。

 前回2月1日のブログ「コダックの破綻に想う」でも書きましたが、「本業再強化の戦略」の中核事業(Core Business)の定義にある「企業の成長ミッション(持続的な売上、利益の創出)達成のために不可欠な、商品、スキル、顧客、チャネル、地理的要因の組み合わせについて、総合電機メーカーは富士フィルム同様に事業内容の変革を実行し、家電メーカーやNECはそれが成功しなかったのだと思います。
              *クリス・ズック、ジェームス・アレン著,須藤美和監訳 2002年日経BP社  P.26

 私が勤務していた銀行は松下電器産業(現パナソニック)のメインバンクでした。松下幸之助氏が銀行で行員に講話をされたこともあります。
 松下電器産業は消費者の好む製品を徹底した生産管理・品質管理のもとで生産・販売しました。昔は総合電機メーカーのテレビはある部分は過剰品質ではないかとも言われていました。また、ナショナル店会という、傘下電器店の組織化・育成を強力に推進し、松下電器産業の家電販売網の強さは圧倒的でした。しかし、これが後に家電量販店対策の際問題になりました。又、傘下に工場をもち、研究開発から生産販売、収支に至るまで一貫して担当する独立採算の事業体である、事業部制と言う他社に例の無い組織で企業内の活性化を図り、ユニークな発展を遂げましたが、単品商品の販売時代から、システムの販売の時代になるとこの体制にも問題が生じました。同社は再三の危機を経営改革により乗り切って来ました。しかしここに来てお家芸のテレビの採算が悪化し、家電分野内だけでの改革では行き詰まっているのかなと思います。今後どうなることか。シャープも同様だと思います。
 ソニーは、当初から世界トップレベルのブランドイメージを意識し、独創的な製品の開発で発展を遂げて来ました。私の若いころはトランジスターラジオ・トリニトロンテレビ、その後VTRのβ方式は一般向け商品分野では販売政策で負けましたが、β方式は今も放送用・業務用機材では圧倒的な製品声価を保っています。ウオークマンも画期的な新製品でした。今のソニーの有価証券報告書の「事業の概況」を読むと、昔日の面影は全くありません。
 私はソニーの元社長・会長の大賀典雄氏とオペラの団体東京二期会で監事をご一緒しました。大賀氏はカラヤンと親交があり、カラヤンが亡くなった日大賀氏はカラヤン宅を訪れていて、次期カラヤンの映像企画の打ち合わせの最中に体調が急変し、カラヤンの最後を看取られたそうです。(ブログ 浅間通信員 21年7月16日) 
 http://asamatsuushin.cocolog-nifty.com/blog/2011/07/post-40d8.html
 
 大賀氏は東京芸術大学音楽学部声楽科卒業で、二期会の創設者の一人故中山悌一先生のお弟子です。現在のCDは、大賀氏がベートーベンの第九が録音出来る74分を録音容量にすればほとんどの音楽は録音出来るとフィリップスに提案して規格が決まったと言うことが大賀氏のお別れ会の年表に記載してありました。お別れ会に行って、大賀様のご逝去はソニーの輝かしい一つの時代の終わりを象徴する出来事だと思いました。(ブログ6月30日)

 ソニーの輝きは失われてしまいました。将来の方向も見えず、赤字を続けるソニーの現状は残念無念です。
 NECは脱電電後、色々事業の再展開を図りましたが、結局上手く行っていません。経営者の問題もあったと思います。
 私は、パナソニック・ソニーという我が国の二大家電メーカーが再生することを心から願っています。

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コダックの破綻に想う ~事業継続(BCP)はリスクマネジメントの究極のゴール~

2012年2月1日水曜日 | ラベル: |

今年の北陸の豪雪は現地の方々に取っては大変なことだと思います。北陸の方々には申し訳ありませんが、京都の雪景色はいつもながら本当に素敵です。これが見られるのも写真のお陰です。
 
HP 「京都の四季」より  嵐山 渡月橋の雪景色












 イーストマン・コダックが1月19日、米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用をニューヨークの連邦地裁に申請したと報じられています。コダクロームと言う黄色い箱に入った写真用カラーフィルムは全世界を制覇していました。
 私は昭和43年(1968年)10月に都市銀行の銀座支店貸付係長に転勤しました。銀座支店は富士写真フィルム(現富士フィルムグループ・富士フィルムの前身)の取引店でした。残念ながら、その時代わが国のプロの写真家は殆ど富士カラーフィルムを使っていませんでした。プロの写真家は富士カラーフィルムの画質に不安を持っていたからです。そのころの富士カラーフィルムは青色が強かったと思います。一般向けのカラーフィルムは色調が冷たく、暖い色を表現しにくかったと記憶しています。その後大いに改良されました。
 当時、富士写真フィルムはコダック対策に全力を投入していました。カラーフィルムの品質を改良するとともに、全国に現像所を展開し、現像サービス網の充実を図ってコダック迎撃に必死だったことを鮮明に記憶しています。
 追いつき追い越せは敗戦後の日本企業のモットーでした。小松製作所は昭和38年(1963年)に当時の新三菱重工業と米国キャタピラー社がキャタピラー三菱を設立した時、全社を挙げて品質の改良に取り組み、その後の発展に繋がりました。重電・家電業界はアメリカのGE(ゼネラルエレクトリック)、自動車業界はアメリカのGM(ゼネラルモータース)が目標でした。
 コダック破綻の原因については、90年代後半から急速に普及し始めたデジカメを世界で初めて開発したにも関わらず、高収益のフィルム事業に固執してデジカメの商品化でライバルの日本勢の先行を許し、特定の製品や事業で成功し過ぎたために次の波をつかみ損ねる「イノベーター(先駆者)のジレンマ」の典型だとされています。企業の寿命は30年だと言う説があります。必ずしもそうだとは思いませんが、企業の盛衰は激しいものがあります。

 東日本大震災の後、BCP(事業継続計画)への関心が非常に高まっています。BCPでは中核事業を特定し、中核事業の目標復旧時間を定めるとされています。わが国企業におけるBCPの策定は、事故・災害発生後の復旧対策的な色彩が強く、自社の中核事業とは何かという根本の議論があまりなされません。私は日本でトップクラスのBCPのコンサルタントの方に、「中核事業を決定するに際し、企業とどう言う議論をされるのですか。」とお聞きしたことがあります。その方は、「中核事業を決めるのは企業側で,われわれは企業が決めた中核事業を前提にしてサポートをします。」と答えられました。それも一理はありますが、この場合は、企業側の自覚が大切だと思いました。
 BCPの策定にあたり「中核事業」について、多くの企業は最も売上の大きい、或いは利益の大きい事業部門を考えるのではないかと思いますが、それで良いのでしょうか。わが国のBCPの解説書には「中核事業」の決定方法についてはあまり記述がなされていません。技術的なことが先行して、BCPに関する経営の根本理念が欠落しているのではないでしょうか。
 「本業再強化の戦略」という本は中核事業(Core Business)を
① 自社に最も高い収益を齎す顧客層、
② 自社において最大の差別化要因になっている戦略スキル、
③ 自社に不可欠な商品・サービス、
④ 最重要チャネル、
⑤ その他上記四つを支える重要経営資産(特許・ブランド・ネットワーク拠点など)だとしています。
 中核事業とは「その企業の本質を規定している、或いは企業の成長ミッション(持続的な売上、利益の創出)達成のために不可欠な、商品、スキル、顧客、チャネル、地理的要因の組み合わせである。実際に中核事業を定義する際には経営陣に激しい議論が起こるかもしれない。」と記述されています。
            *クリス・ズック、ジェームス・アレン著,須藤美和監訳 2002年日経BP社  P.26
 中核事業を特定することは、自社の事業の将来を見極めることだと思います。私は銀行時代、支店長になるまでは専ら企業調査・審査・融資部門に属していましたが、優れた経営者の最も重要な資質は「変化に対する適応力」だと確信していました。「言うは易く行うは難し」ですが。

 昨年7月1日のブログ「QC(品質管理)とリスクマネジメント 〜戦後のアメリカ流マネジメント手法の導入を振りかえる〜」で、「QCは生産部門という単一の部門に対する管理手法であったため,経営者の理解も得易く,縦割色の強い我が国企業において他部門との調整をあまり必要としないで導入が可能であった。さらにQCはTQC(総合的品質管理Total Quality Control )に進化し、製造業を中心とするわが国の経済的発展に大きく貢献した。⏌と書きました。「先進国の製造メーカーに追いつき追い越す。安価で良質の製品を大量に生産して世界に輸出する」ため「品質管理」がわが国の経済的発展の基礎になった時代は終ったのだと思います。
 私が外資系出版社の手伝いをしていた平成15年(2003年)ころに、わが国にQCを導入したアメリカのデミング博士の自叙伝を翻訳出版しようと思って、QCの普及の中心だった日本科学技術連盟にご相談をした際、日本科学技術連盟は、「現在日本において生産部門の地位は当時に比し低下しています。デミング賞も国内で無く、東南アジアの会社の受賞が増えています。恐らくその本は日本ではあまり売れないでしょう」と言う意見で、出版を断念しました。私は若いころのQCに対する日本中の熱気を思い出して隔世の感を覚えました。 

 茲許、トヨタの生産台数が世界第4位になる、パナソニックの2012年3月期の連結最終赤字(米国会計基準)が3000億円前後(前期は740億円の黒字)に達する見通しなどと報じられています。日本の企業では生産部門以外のマネジメント手法の進歩はあまりなかったのだと改めて痛感します。
 「本業再強化の戦略」の中核事業(Core Business)の定義にある「企業の成長ミッション(持続的な売上、利益の創出)達成のために不可欠な、商品、スキル、顧客、チャネル、地理的要因の組み合わせについて、トヨタはGM・フォルクスワーゲン・日産ルノーなどに、パナソニックは韓国のサムスン・LG電子などに劣後したのではないかと考えます。私は昭和35年(1970年)から数年間銀行の調査部門で家庭電器業界を担当しましたので、爾来ずっと家電業界の動向をフォローして来た積りですが、嘗てアメリカのメーカーに勝ったテレビ製造事業が韓国のメーカーに負けていることは大変なショックです。わが国の製造業は今後どうなるのでしょうか。
 しかし、コダックの破綻に対し、富士フィルムグループの発展は大変喜ばしいことです。最近の富士フィルムグループのデータを見ますと、昭和43年(1968年)当時の富士写真フィルムの事業の売り上げは。現在グループ全体の14.7%になっているようです。社名から2006年に「写真」と言う字が消えましたが、今や「フィルム」の文字も会社の事業内容には合致していないのではないかと思うくらい事業の内容の変化・体質改善がなされていると思います。
 英国エコノミスト誌 2012年1月14日号は、「驚いたことに、コダックが変化に抵抗する紋切り型の日本企業のように行動し、富士フィルムが柔軟な米国企業のように行動した。」そして「それは2000年6月に社長に就任した古森重隆氏の功績である。」と記述しています。
 前に優れた経営者の最も重要な資質は「変化に対する適応力」だと書きました。「良き経営者を得て、変化に対して適応している」会社が発展を続けているのことを改めて認識しました。わが国の製造業の中にもこうした企業が存在することは誠に喜ばしく心強い限りです。

 リスクマネジメントが「金銭的損害の最小化」から、総ての事業リスクに対するリスクマネジメントの手法を適用するERM(全社的リスクマネジメント Enterprise Risk Management)に進化し、リスクマネジメントの目的は「企業価値の増大」に変わりました。さらにBCP(事業継続計画 Business Continuity Plan)が導入されて「企業の継続的発展」が目標になりました。私はBCPはリスクマネジメントの究極のゴールだと考えます。

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