「リスクとキャッシュフロー」について ⑨

2013年10月20日日曜日 | ラベル: |

学士会のご斡旋で、10月16日(水)東京オペラシティコンサートホールにウラディミール・ミーニン指揮の「国立モスクワ合唱団」を聞きに行きました。当日朝は台風26号が関東地方の近くを通過したためJRの電車が動かず、漸く動き始めた電車を乗り継いで何とか開演15分前に会場に駆け込みました。2割くらいの方は、前半終了後の休憩時間に入場されていました。


 〇指揮者ウラディミール・ミーニンです。(プログラムの写真より)

  
 〇国立モスクワ合唱団です。(プログラムの写真より)

  


 プログラムには「ミーニンは輝かしい個性を持つソリストたちによる優秀なアンサンブルとしての合唱を具象化した。」と書いてあります。東京二期会の合唱団でもそう思いますが、「ソリストとしても十分通用する人たちのアンサンブル」の合唱だからこそ人々の心を打つのだと痛感しました。その上に優れた指揮者の存在です。
 私の旧制中学生時代の1940年代後半、兄が通学していた旧制高校の音楽会では「ステンカ・ラージン」や「ヴォルガの舟曵き歌」などが歌われていました。
1950年代に「うたごえ運動」や「歌声喫茶」で歌われていた懐かしいロシア民謡の数々「カチューシャ」「ともしび」「トロイカ」等が私の青春時代を思い出させてくれました。聴衆には白髪の方が多く、きっと同じ思いの方々だろうと感じました。そのことを抜きにしても、素晴らしい合唱で万雷の拍手でした。
6月10日のブログ、「アンネ=ゾフィー・ムターさんのサイン」でも書きましたが、この歳になっても美しい音楽に感動出来るのは、誠に幸せなことだと思います。
「リスクとキャッシュフロー」に戻ります。

6.キャッシュフロー検討の基礎
(5)3種類のキャッシュフロー計算書 ②
   ①有価証券報告書のルールに準じたキャッシュフロー計算書 
                             (単位 百万円)


   項    目
 金   額
期初現・預金         200
自己資本の増加額
受取債権増
棚卸資産増
短期貸付金増
雑流動資産増
雑流動負債減
支払債務増
        78
△      343  
△      226
△      125
△       77
△        2
        323  
営業活動によるキャッシュフロー △      372
固定資産増
 投融資減
△      206
         54      
投資活動によるキャッシュフロー △      152
 短期借入金増
長期借入金増
        431
        285        
財務活動によるキャッシュフロー         716
総合資金収支         192


 「営業活動によるキャッシュフローの不足は372百万円、投資活動によるキャッシュフローの不足は152万円、合計524百万円のキャッシュフローのキャッシュフローの不足を長短借入金716百万円で補い、結局総合資金収支は192百万円のプラスになった。」という説明でこの企業のキャッシュフローの問題点が鮮明に浮かび上がるでしょうか。この表では、どこに問題があるのかが分かりにくいと思います。
 繰り返しになって恐縮ですが、9月20日のブログの記述を再度引用致します。



○資金運用表     (○○ /○ -○○ /○)                  (単位百万円)
資 金 需 要       資 金 調 達
項   目   金  額   項   目 金   額
 
 



現預金 増
受取債権増
(受取手形増
(売掛金増
棚卸資産増 )
短期貸付金増
雑流動資産増
雑流動負債減
   192
   343
   122)
   221)
   226
   125
    77
     2
支払債務増
(支払手形増)
(買掛金増)
短期借入金増
 
 
 
( 長期から流用 )
    323
   ( 115) 
   ( 208)
    431
 
 
 
   (211 )
   計    965     計     754
長期
資金
固定資産増
 
( 短期へ流用 )
   206
 
(  211)
投 融資減
長期借入金増
資本 増
     54
    285
     78
   計    206    計 417
  合   計  1,171   合  計 1,171

 資金運用状況の説明は下記のようになります。
1) 金融基調の動向
 先ず最初に、長期資金から短期資金にお金が流れているか、短期資金から長期資金にお金が流れているかをみると、長期資金から短期資金に211百万円流用された形になっています。従って、この期間は、長期資金についてのキャッシュフローの不安定要因は生じていないと判断出来ます。
2)短期資金について 
 現・預金の増減は資金運用の結果なので除外して検討を行います。現・預金の増加192百万円を除くと、短期資金需要は773百万円になります。即ち、受取債権の増加343百万円(内訳・受取手形増122百万円・売掛金増221百万円)、棚卸資産の増加226百万円、短期貸付金の増加125百万円、雑流動負債の増加77百万円、雑流動負債の減少2百万円で合計773百万円の資金需要があった訳です。
 これに対して、支払債務増323百万円(内訳支払手形増115百万円・買掛金増208百万円)の資金調達が出来たものの、なお短期資金は450百万円不足し、短期借入金を431百万円増やし、その上長期資金から流れて来た資金211百万円のうちの19百万を不足分に充当しています。残額の192百万円は手元現・預金の増加になりました。
3)長期資金について
 固定資産増206百万円の資金需要に対し、投融資減54百万円、資本増78百万円計132百万円の資金調達では74百万円不足し、長期借入金285百万円を借りています。
長期資金調達の余りは短期資金に流れ、大半は現預金の増加になりました。


 上記の結果下記のことが浮かび上がって来ます。
1)この期間は、長期資金についてのキャッシュフローの不安定要因は生じていない。
2)別途損益計算書を見ると、売上高が前期比244百万円増加している。この場合、受取債権増343百万円、棚卸資産増226百万円計567百万円の資金需要は過大ではないか。短期貸付金125百万円の増加の内容の検討も必要。
3)長期資金の不足74百万円に対し、何故285万円もの長期資金を借り入れたのか。


 最も重要な問題点は、短期資金で、「売上を増加させるのに無理をしているのではないか、従来の売上回収条件・仕入条件との対比などが必要」、また「244百万円の売上増に対し棚卸資産が226百万円増加しているのは過大な在庫の増加ではないか。デッドストックは生じていないか。」などの検討を要します。
 ここで、再度前掲の ①有価証券報告書のルールに準じたキャッシュフロー計算書と、その説明を読んで頂きたいと思います。 
私は有価証券報告書のキャッシュフロー計算書の考え方が間違っていると思っている訳ではありません。ただ中小企業などのキャッシュフローの検討には、旧住友銀行の考え方も役に立つのではないかということを主張したいと思うだけです。
 下記のキャッシュフロー検討表(Ⅰ) は自己資本の増加額を外に出したものです。その結果営業活動によるキャッシュフローの不足金額が強調されていますが、まだ問題点を明確に認識出来る形にはなっていません。

 
○キャッシュフロー検討表 (Ⅰ)           (単位 百万円)
   項    目
    金   額
期初現・預金
       200
自己資本の増加額
        78
受取債権増
棚卸資産増
短期貸付金増
雑流動資産増
雑流動負債減
支払債務増
△      343  
△      226
△      125
△       77
△        2
        323  
営業活動によるキャッシュフロー
△      450
固定資産増
 投融資減
△      206
        54
投資活動によるキャッシュフロー
△      152
 短期借入金増
長期借入金増
       431
       285          
財務活動によるキャッシュフロー
       716
総合資金  収支
       192
現・預金 増
       192
期末   現預金
       392

 キャッシュフロー検討表(Ⅱ)は旧住友銀行の考え方に基づいて、資金運用表を縦に並べ変えたものです。
 9月20日のブログに書きましたが「現・預金の増減は資金運用表の理論上は資産の増加であり資金需要ですが、キャッシュフローの実際ではその期間の資金運用の結果です。最終的に長期・短期資金の資金調達・資金需要の過不足の結果で現・預金が増減します。」と言うことで、現・預金残高の増減は資金需要・調達から外し、最初と最後に預金残高を表示しています。
この表の検討・説明は次回に致します。  

 ○キャッシュフロー検討表 (Ⅱ)           (単位 百万円)
   項    目
    金   額
期初現・預金残高
        200
 
受取債権増
棚卸資産増
短期貸付金増
雑流動資産増
雑流動負債減
支払債務増
△       343  
△      226
△       125
△        77
△         2
        323  
営業活動によるキャッシュフロー
△      450
 短期借入金増
        431
 短期資金収支
△       19
 
資本増
固定資産増
 投融資減
        78
△      206
        54
投資活動によるキャッシュフロー
△       74
長期借入金増
       285
長期資金収支
       211       

総合資金  収支
        192
 
現・預金の増減額
        192
期末現預金 残高
        392

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「リスクとキャッシュフロー」について ⑧

2013年10月10日木曜日 | ラベル: |

 9月23日に窪島 誠一郎 様にお手紙を差し上げました。その中で、
「私はご縁があってオペラの団体〈東京二期会〉の監事を致しておりますが、戦争の悲惨さ・無念さは、絵の世界でも音楽の世界でも同じだと思っておりました。私は九州の佐賀で育ちましたので、お話に出ました佐賀県鳥栖の小学校で上野音楽学校卒の方が、特攻出撃の前にベートーベンの「月光」を弾いたという話は良く存じておりました。窪島様がご講演でこのことに触れられたことに感慨一入でございます。なお、仰っていました、音楽関係の学生さんのご本、インターネットで検索出来ませんでしたので改めてお教え頂けたら幸甚でございます。」と書きました
 窪島誠一郎様からのご返事で、「〈戦争〉についての思いは小生も同感です。」と仰って頂いた上、ご著書「夜の歌」を頂戴しました。
 ○「夜の歌」の表紙です。 2013年1月・白水社。

   
 この本は、浜松の老舗旅館(今は無いそうです)「松月」の末っ子として生まれ、東洋音楽学校へ進学し、昭和20年5月15日中国で30歳で戦病死した作曲家尾崎宗吉氏の物語です。
 「あの戦争下、美術と音楽、それぞれ異なる〈自己表現〉に打ち込んだ若者たちだけが共有した〈哀しみ〉〈歓び〉を確かめてみたい。その短い生の輝きのありかたをつきとめてみたい。」
 「あの大戦は万余の命を奪っただけでなく、その命が生み出すであろう数知れぬ「創造」の命を奪った。この世に生み出されたであろう数々の名作の、名画の、名曲の命を╍╍╍╍╍。」と窪島誠一郎氏は書いておられます。
 2011年11月12日夜、無言館で尾崎幸吉氏の遺曲「夜の歌」他のコンサートが開かれました。「その夜〈無言館〉に尾崎宗吉の音楽がバトンタッチされた記念すべき演奏会だったといえるだろう。」と記述されています。
 CD「夜の歌」を注文することにしました。

「リスクとキャッシュフロー」に戻ります。

6.キャッシュフロー検討の基礎
(4)キャッシュフロー計算書
 国際会計基準の一元化の流れの1つとして「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」の導入に伴い、上場企業では2000年3月期からキャッシュフロー計算書の作成が義務づけられました。
 下記は「キャッシュフロー計算書」の一例です。
 資本の増加額+減価償却費+流動資産・負債の増減額を考慮した結果が、「営業活動によるキャッシュフロー」になります。表の中程に表示されています。これは「フリー・キャッシュフロー」とも言われます。
 「フリー・キャッシュフロー」が企業価値を決するとされています。企業活動の結果、手元にいくらキャッシュが残るかが企業の価値だというわけです。「フリー・キャッシュフロー」を原資として、株主への配当や、将来の発展のための投資が行われます。
 これは、一面の真理であり、正しい考えだとは思います。然し、上場していない中小企業の場合は、こうした「キャッシュフロー計算書」を作成するのは困難です。また、上場企業の場合とは異なった考えを取っても良いのではないかと私は考えます。
 伝統的な旧住友銀行の考え、「固定資産を流動負債で賄っている場合(金融基調 マイナス)の場合は、短期資金繰りは不安定だと判断すうrす。」という思想は「キャッシュフロー計算書」には入っていません。
 私は、資金運用表を縦に並べ替えて、簡易な「キャッシュフロー計算書」を作成すれば中小企業のキャッシュフローの検討には十分役立つと考えます。私はこれを「キャッシュフロー検討表」と称しています。次項でご説明致します。

  〇キャッシュフロー計算書の例        (単位 百万円)
 
区     分
 
金    額
 
Ⅰ営業活動によるキャッシュフロー
 資本の増加額
減価償却費              
  
売上債権の増減額       (増加△) 
棚卸資産の増減額       (増加△) 
前鍍金の増減額        (増加△) 
前鍍費用の増減額       (増加△) 
未収入金の増減額       (増加△) 
その他流資の増減額      (増加△) 
仕入債務の増減額       (減少△) 
固定資産購入支払手形の増減額 (減少△) 
未払金の増減         (減少△) 
未払費用の増減額       (増加△) 
預り金の増減額        (増加△) 
貸倒引当金の増減額      (減少△) 
賞与引当金の増減額      (減少△) 
返品調整引当金の増減額    (減少△) 
売上値引引当金の増減額    (減少△) 
売上割戻引当金の増減額    (減少△) 
役員退職引当金の増減額    (減少△) 
従業員退職引当金の増減額   (減少△) 
年金費用引当金の増減額    (減少△) 
未払法人税の増減額      (減少△) 
未払事業税の増減額     (減少△)
未払消費税の増減額     (減少△)
 
 
 56096
  13258 

   △ 516 
  △6986 
    △39 
     55
  2151
   1080
  △4552
  △2884
    516
    979
    637
   △225
   △563
     10
      5
    123
     △2
   6175
     90
   1831
  △9893
  △1091
 営業活動によるキャッシュフロー    56297
 有形固定資産の取得による支出
 無形固定資産の取得による支出
 投資の増加による支出
 自己株式取得による支出
  △29295※
    1898
   △6246
     △21
 投資活動によるキャッシュフロー △33664
短期借入金の純増減額     (減少△) 
転換社債の純増減額      (減少△) 
    △300
      △2
 財務活動によるキャッシュフロー     △302
現・預金の期首残高           ⓐ 139685
市場性のある一時所有価証券の期首残高  ⓑ  117277 
ⓐ + ⓑ
256962
手元資金の増減額       (減少△)     22331
現・預金の期末残高           ⓒ 116184
市場性のある一時所有価証券の期末残高  ⓓ末  163103 
ⓒ + ⓓ
279293

※ (有形固定資産増加額 16、037)
            +(当期減価償却額 13、258)  =29、295
2013年9月20日(金)のブログ、6.キャッシュフロー検討の基礎・(3)資金運用表で例示した、私が銀行員の現役時代に担当した、ある衣料品販売会社の資金運用表を縦に並べ替えたいと思います。

〇資金運用表の実例

  〇資金運用表     (○○ /○ -○○ /○)                (単位百万円)
資 金 需 要       資 金 調 達
項   目   金  額   項   目 金   額
 
 



現預金 増
受取債権増
(受取手形増
(売掛金増
棚卸資産増 )
短期貸付金増
雑流動資産増
雑流動負債減
   192
   343
   122)
   221)
   226
   125
    77
     2
支払債務増
(支払手形増)
(買掛金増)
短期借入金増
 
 
 
( 長期から流用 )
    323
( 115) 
( 208)
    431
 
 
 
(   211 )
   計    965     計     754
長期
資金
固定資産増
 
( 短期へ流用 )
   206
 
(  211)
投 融資減
長期借入金増
資本 増
     54
    285
     78
   計    206    計 417
  合   計  1,171   合  計 1,171

(5)3種類のキャッシュフロー計算書
 下記は、前記の資金運用表の数字を縦に並べ変えた、3種類のキャッシュフロー計算書です。
 一般の「キャッシュフロー計算書」と区別するため、それと異なった並べ方をした「キャッシュフロー計算書を仮に「キャッシュフロー検討表 Ⅰ・Ⅱ」と表示致しました。
今回は長くなりましたので、「3種類のキャッシュフロー計算書」の解説は次回に致します。

  〇キャッシュフロー計算書         (単位 百万円)
   項    目  金   額
期初現・預金         200
自己資本の増加額
受取債権増
棚卸資産増
短期貸付金増
雑流動資産増
雑流動負債減
支払債務増
         78
•   343  
•         226
△        125
△         77
△          2
        323  
営業活動によるキャッシュフロー •         372
固定資産増
 投融資減
△      206
       54      
投資活動によるキャッシュフロー △      152
 短期借入金増
長期借入金増
社    債
      431
        285
          0
財務活動によるキャッシュフロー         716
総合資金  収支         192
現・預金 増
192
期末   現預金
 392

  〇キャッシュフロー検討表 (Ⅰ)     (単位 百万円)
   項    目  金   額
期初現・預金        200
自己資本の増加額         78
受取債権増
棚卸資産増
短期貸付金増
雑流動資産増
雑流動負債減
支払債務増
•   343  
•        226
△       125
△        77
△         2
       323  
営業活動によるキャッシュフロー •        450
固定資産増
 投融資減
△      206
      54
投資活動によるキャッシュフロー △      152
 短期借入金増
長期借入金増
社    債
      431
        285
          0
財務活動によるキャッシュフロー         716
総合資金  収支         192
現・預金 増
192
期末   現預金
 392

  〇キャッシュフロー検討表(Ⅱ)    (単位 百万円)
   項    目     金   額
  期初 現預金 残高         200
受取債権増
棚卸資産増
短期貸付金増
雑流動資産増
雑流動負債減
支払債務増
•   343  
•        226
△       125
△        77
△         2
       323  
営業活動によるキャッシュフロー •        450
 短期借入金増       431
短期資金収支 •        19
 
資本 増
固定資産増
 投融資減
       78
•        206
       54
投資活動によるキャッシュフロー △        74
 長期借入金増       285
長期資金収支       211
 
総合資金収支    192
現・預金の増減額       192
期末現預金 残高       392

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「無言館」館主 窪島誠一郎氏のサイン

2013年10月1日火曜日 | ラベル: |

 9月20日(金)の学士会午餐会の講演者は、信州上田市の戦没画学生慰霊美術館「無言館」館主・窪島誠一郎氏でした。私は5年前の平成20年8月に「無言館」に行きました。折悪しく館主はご不在でしたので、館員の方にご著書「無言館ものがたり」をお預けしご署名をお願いし、後日送って頂きました。今回是非お会いしてお礼を申し上げたいと思い、学士会午餐会に出席してご挨拶をすることが出来ました。 

〇窪島誠一郎氏です。著名な作家水上勉氏のお子様です。
「父水上勉」 2013年1月白水社が評判です。
 
〇「父水上勉」の表紙です。

   

〇窪島誠一郎氏に頂いたご署名です。

 

〇「無言館ものがたり」の表紙です。


 
 戦没画学生慰霊美術館館「無言館」は、長野県上田市の郊外、美しい浅間山や千曲川の流れが遠く見わたせる山王山という小さな山の上に立っています。空の上から見ると十字架の形に見える80坪ほどの美術館で平成9年5月に開館しています。ここには太平洋戦争で亡くなった画学生たちの作品や遺品が集められています。
 あの時代に、多くの画学生たちが、学校を卒業してすぐ戦地に赴き、絵を描きたい、立派な絵描きになりたいという希望に燃えながら、果たすことなく戦死したり、戦病死されました。、
 ご講演で窪島様から「無言館」は「単なる反戦・平和」ではないとのお言葉があり、非常に心を打たれました。戦争によって自分の一生が失われ、絵を描く事が出来なくなる無念さ、自分の生きた証を絵に注いだ画学生の方々の思いは、結果としては「反戦・平和」に結びつくのかも知れませんが、そんな短絡的なことでは無いということだと思います。
 私は、昭和19年に「神風特別攻擊隊」のことが初めて公表された時、小学5年生の子供心にも何という痛ましい、むごいことかと思いました。学校から神風特別攻撃隊出撃のニュース映画を見に行った際、出発直前に敬礼しておられる特攻隊員の方々の表情を直視することが出来ませんでした。しかし、当時そのような感想を述べれば、「非国民」と言われましたので、心の中にしまいこんでいました。
 昭和27年京都大学入学当時、京都大学は全国の学生運動の中心でした。「米帝反動勢力打破」の掛け声に対して、単純に同感することが出来ませんでした。こういった様々な感慨が「無言館」で改めて蘇り、戦争が数多くの有為な若者達の将来を奪ったということの重さが改めて痛感されました。
 私はご縁があってオペラの団体「東京二期会」の監事をしていますが、戦争の悲惨さ・無念さは、絵の世界の学生さんでも音楽の世界の学生さんでも同じだったと思います。
 敗戦直前の昭和20年5月、学徒出陣で佐賀県の目達原飛行場(現吉野ケ里町)に来ていた上野音楽学校(現東京芸術大学)出身の2人の特攻隊員の方が、鳥栖国民学校(現鳥栖小学校)を訪れ「出撃前にピアノを弾かせてほしい」と言ってベートーベンのソナタ「月光」を奏でて立ち去ったという話が窪島様のお話に出ましたが、私は佐賀で育ちこの話を良く知っていましたので、感慨一入でした。
 現在、戦後68年を経て「無言館」の絵画やデッサンなどの傷みが激しく、「修復の費用が嵩んでいるので是非お力添えを。」というお話でした。その後、僅かばかりですが「無言館」に寄付金をお送りしました。
 次回からはまた「リスクとキャッシュフロー」に戻ります。

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