「リスクとキャッシュフロー」について⑫

2013年11月20日水曜日 | ラベル: |

 旧住友銀行の後輩から、千葉県立蓮沼海浜公園で行われる「ミニトレインフェスタin さんむ」に来ませんかと誘われて11月9日(土)に行って来ました。ここには2.1Kmの日本で一番長いミニトレイン用のレールが敷設されています。
 私は鉄道が大好きで、就職の際当時の「日本国有鉄道」を受験する準備をしていました。しかし最初に決まった会社に就職するというルールがあり、住友銀行に入りました。 80歳になっても若い時の気持ちのままです。
 ミニ蒸気機関車のオーナーに「どこの国の製品ですか。」とお聞きしましたとろ「私が作りました。」と言われ驚嘆しました。ペットボトルの水を補給し、石炭と炭を炉に投入しながら2.1Kmを走っておられました。当日ミニ蒸気機関車がもう一台ありました。
 楽しい1日を過ごすことが出来ました。

〇自家製ミニ蒸気機関車です。


〇発車オーライ


〇もう一台のミニ蒸気機関車です。


7.キャッシュフロー検討の事例 事例②

 事例②はある電力会社です。
 8年ほど前、私はある電力会社の企画部のリスクマネジメント担当の複数の方と大学の先生とで小規模な研究会を行っていました。その研究会でキャッシュフローについての意見を求められましたので、有価証券報告書の記述に基きキャッシュフローの状況の検討を致しました。下記はその時のデータです。
 平成16年3月末と平成17年3月末のバランスシートを比較して、資金需要項目と資金調達項目に分け、それを長期資金と短期資金に分けた表 ➞ 「資金運用表」は下記です。

○資金運用表(単体)                     (単位億円)
  資 金 需 要       資 金 調 達
項   目   金   額   項   目  金   額
 



核燃料他資産増
その他固定資産増
長期借入金減
 
      167
      179
     1327
電気事業固定資産減
(固定資産減
(固定資産仮勘定増
 社債増
 その他固定負債増
 自己資本増 
【 短期に流用 
  926    1
1360)       ―434)
  238
  382
  674
  547 】
   計      1673     計  2220
 
 
短期
資金
現・預金増
その他流動資産増
短期借入金減
その他流動負債減
 
       29
       24
      600
      525
 
【 長期から流用547 】
1年以内返済の長期借入金増
未払費用増
未払税金増
諸引当金増
  442
   88
   75
   26
   計      1178    計   631
   合   計      2851   合  計  2851

(評価)
 長期資金面では、核燃料他の資産増346億円と長期借入金減1327億円計1673億円の資金需要に対して、電気事業固定資産減926億円、社債増238億円、その他固定負債増382億円に加え自己資本増674億円、計2220億円で賄い、547億円を短期資金に流用した形になっています。
 短期資金面では、その他流動資産増24億円、短期借入金減600億円、その他流動負債減525億円計1178億円の資金需要に対して、調達は1年以内の長期借入金の増加442億円、未払費用・税金増163億円、諸引当金増26億円計631億円に止まり、不足は長期資金の流用で賄い、残額は現・預金増29億円となっています。
 今期資金需要の太宗は長・短借入金の返済1,927億円です。減価償却金額を下回る設備投資(固定資産減となって表れている)による資金余剰と利益で長・短借入金を毎期減少させています。誠に好ましい資金運用状況です。連結ベースでもこの傾向は変わっていない筈です。

2.キヤッシュフロー計算書の分析

○キヤッッシュフロー計算書                    (単位 億円)
    科  目 15年3月期 16年3月期 17年3月期
営業活動によるキヤッシュフロー ①
(内減価償却費)
4596
(2764)
  3868
(2607)
  4192
(2402)
投資活動によるキヤッシュフロー ②
(内固定資産の取得による支出 )
2444
(2667)
  1998
 (2118)
 1935
(2063)
フリー キヤッシュフロー  ①―②    2152   1870 2257
財務活動によるキヤッシュフロー
(内 社債増減)
(長期借入金増減)
(短期借入金増減)
(コマーシャルペーパー増減)
 △2228
( △171)
( △857) 
( △697)
( △240) 
 △1981
(△1569)
( △726)
(  300)
(  250)
△1935
(  210)
( △871)
( △609)
( △580)
現金及び現金同等物の増減額    △76   △111    322

 会社が利益を挙げている上に、減価償却費を下回る固定資産取得が、キヤッシュフローを好転させている根本的な理由です。

 ここで、財務活動の内容を検討して見ます。
 当時の電力会社は、基本的には銀行借入・社債による調達に問題が起こる恐れは無いと考えていたと思いますが、万一何か問題が起こって調達に齟齬を来たすような事態が生じたらどうなるという点についての当時の私の意見は下記です。

① 17年3月期末の(単体)の現預金312億円は、会社の月商1、111億円の0.3ヶ月分です。コミットメントラインの状況は分かりませんので、これだけを見ればかなりの低水準です。
※事故に備え、平時から「月商の1ヶ月分くらいの資金」を用意しておくのは、CFO(最高財務責任者)の流動性リスクに対する経験則です。 
 例えば、ソニーの2004年3月期ア二ュアルレポートの記述です。     
「ソニーは流動性確保のために、グループ全体で、年度における平均月次売上高および予想される最大月次借入債務返済額の合計の100%以上に相当する流動性を維持することを基本方針としています。」
② この会社は10年ものの社債・期限一括返済の長期資金借り入れで資金調達をしていました。これらの返済期限の平準化を考えなくても良いのかと言う問題があります。
③ キヤッシュフロー計算書を3期見ますと、社債増減、長期借入金増減、短期借入金増減、コマーシャルペーパー増減がバラバラです。基本的な資金調達(返済)方針が無く行き当たりバッタリなのではないかと言う感があります。
④ 根本は、社債・銀行借入に不安がないという状況では、こんなことを考えなくてもキヤッシュフローはご安泰だと皆が思っている結果だと考えられますが、それで良いのでしょうか。

 研究仲間の企画部の方が財務部門に私の意見を伝えて下さいました。財務部門からは「当社は銀行から借りてくれ、借りてくれと言われている。そんなことは考慮する必要は無い。」ということだったとお聞きしています。
 6年後の平成23年度、平成24年度、この会社は千億円単位の赤字となっています。「営業活動によるキャシュフロー + 投資活動によるキャッシュフロー」も千億円単位のマイナスになり、長期借入金は1兆円以上増加しています。東京電力の場合「想定外」ということが問題になりました。この電力会社の場合もキャッシュフローの状況は一変しました。
 どんなに安定したキャッシュフローの状況に見えていても、こういったことが起こると考えているべきだと痛感します。

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「リスクとキャッシュフロー」について ⑪

2013年11月10日日曜日 | ラベル: |

 11月4日(月)親しい研究仲間の方が、矢来能楽堂でお能「葵上」のシテ六条御息所を務められましたので、見に行って来ました。

〇矢来能楽堂の舞台です。

 
 事前に資料を頂いていたので、見所・内容など理解出来て大変感銘しました。私は10年ほど前からオペラの団体の東京二期会の監事をしていてオペラを屡々見ていますのでオペラに比較すると、お能は余分なものを極力捨てた抽象性を強く感じました。それでいて十分迫力のある舞台に感動しました。
 私は「大鼓」の澄んだ音が大好きで、当日も心が洗われる思いがしました。
7.キャッシュフロー検討の事例 事例①

 事例①はある製薬会社について、有価証券報告書の記述に基きキャッシュフローの状況の検討をしたものです。

1)金融基調

○20年3月期                 (単位百万円)
 (固定負債≼11,093≻+自己資本≼76,951≻) ―  固定資産≼46,834≻
  =88,044 ― 46,834 = 41,210
○21年3月期                 (単位百万円)
 (固定負債≼8,420≻+自己資本≼76,344≻) ―  固定資産≼40,708≻
  =84,764- 40,708 = 44,056
○ 22年3月期                (単位百万円)
 (固定負債≼9,007≻+自己資本≼80,370≻) ―  固定資産≼44,101≻
  =89,377- 44,101 = 45,276
 最近3期の連結貸借対照表では金融基調はプラスであり、しかもプラスの金額は逐年拡大しています。このことはキャッシュフローの安定上大変好ましい傾向です。

2)業 績
 最近3期の連結損益計算書を見ると、安定した高収益を挙げていて、この点もキャッシュフローの安定上大変好ましいことです。

○連結損益計算書                          (単位百万円)
  平成 19 年度実績 平成 20 年度実績    平成 21 年度実績
(19.4.1 - 20.3.31) ( 20.4.1 - 21.3..31) ( 21.4.1-22.3.31 ) 前年度比
 売上高  59,450 63,072 62,932 △   140 
売上総利益
(同上率)
 32,072
(53.9%)
34,158
(54.2%)
33,937(5 3.9 %- ) △   221
 (△0.3 % )
販売費・一般管理費
 (同上率)
 25,610
(43.1%)
26,610
(42.2%)
 27,475
(43.7 % )
    865
(1.5 % )
 営業利益
 (同上率)
  6,461
(10.9%)
  7,547
(12.0%)
  6,461
  ( 10.3%)
 △1,086
(△1.7 % )
 経常利益
 (同上率)
  6,860
(11.5%)
  8,041
(12.7%)
  6,786
(10.8%)
 △1,255
 (△1.9%)
特別利益
特別損失
    18
     -
      -
    354
    206
      -  
   206
•  354    
税引前当期純利益又は純損失
 (同上率)
  6,879

(11.6%)
  7,686

(12.2%)
  6,993
 
(11.1 % )
 △ 693 
 
(△1.1%)
 
平均 月商  4,954 5,256 5,244 △   12

3)連結キャッシュフロー

○連結キャッシュフロー計算書の要約              (単位 百万円)
 項     目 (19.4.1 - 20.3.31) ( 20.4.1 - 21.3..31) ( 21.4.1 -22.3.31 )
営業活動によるキャッシュフロー ①
(内 税金等調整前当期純利益)
 7,346
(6,879)
6,370
(7,686)
9,225
(6,993)
投資活動によるキャッシュフロー ② △1,070 △3,565 △3,648
•  - ② (フリーキャッシュフロー)  6,276  2,805  5,577
財務活動によるキャッシュフロー △2,149 △2,300 △1,318
現金及び現金同等物の増減額 △  286    292  4,001

 最近3期の連結キャッシュフロー計算書の要約を見ると、好業績に支えられて毎期営業活動によるキャッシュフローは大幅なプラス、フリーキャッシュフローもプラスで現金及び現金同等物も茲許大幅に増えていて好ましい傾向です。またこうしたキャッシュフローの改善の結果22年3月末で長短借入金が0になったことは画期的な事態です。

 リスク発生時に備え企業は少なくとも月商の1ヶ月分くらいは手元資金を保有しておくことが望ましいと考えますが、期末現預金・及び現金同等物残高は、22年3月期は3.7ヶ月でありリスク発生時の対応には十分な自己資金を保有していると考えます。

○ 期末現預金・及び現金同等物残高推移           (単位 百万円)
 項     目 (19.4.1 - 20.3.31) ( 20.4.1 - 21.3..31) ( 21.4.1 -22.3.31 )
期末現預金 ①
(同上 平均月商比)
 11,234
( 2.3 ヶ月 )
 14,687
( 2.8 ヶ月)
 11,028
 ( 2.1 ヶ月)
有価証券残高 ②
預入期間が 3 ヶ月を越える定期 ③
  3,999
△    80
   798
△   40
  8,499△    80
•    +  ②  +  ③
(同上 平均月商比)
15,153
(3.1ケ月)
 15,446
 (2.9ヶ月)
 19,447
 ( 3. 7ヶ月)

○借入金残高推移                       (単位 百万円)
   項     目 20.3.31  末 21.3.31 末 22.3.31 末
  短期借入金 30     0     0
1 年以内に返済予定の長期借入金   1,162    70     0
  長期借入金     59   182     0
    計   1,251   252     0

4)キャッシュフローの状況に対する意見
 この会社は金融基調・業績・連結キャッシュフロー計算書・期末現預金・及び現金同等物保有状況等総て好ましい状況にあり、優等生ですが、強いて言えば、下記の2点を再考すべきだと思います。

1) 借入金額以上の現・預金残高を持つ実質無借金の企業と、借入金の無い無借金企業との差異は、銀行員の視点からは、借入金が無くなるとメインバンクの融資担当者が無くなると共に、企業の財務データが銀行のデーターベースに入らなくなり、緊急時の咄嗟の融資交渉がやり難くなる恐れがあるかどうかと言うことにあると私は思います。
 例えば、武田薬品工業は平成22年3月期末現預金残高は266,538百万円で、売上高1、465,965百万円の2.2ヶ月分の現・預金を保有していましたが、短期借入金を3,285百万円を残していました。その意味は上記のことだと私は思います。この事例の企業は無借金に踏み切ったわけですが、私は借入金を残して置いた方が良かったのではないかと思います。

2)この会社の生産拠点は小田原1ヶ所だけなので、東海地震等発生時の資金需要と対策について、前記の金融機関との借入関係の維持、地震保険、特に地震に起因する事業中断に対する利益保険の付保は充分なのかなどを検討をすべきだと思います。

 次回も事例について考えます。

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「リスクとキャッシュフロー」について ⑩

2013年11月1日金曜日 | ラベル: |

6.キャッシュフロー検討の基礎
(5)3種類のキャッシュフロー計算書 ③
 アメリカ流のキャッシュフロー計算書の思想は、自己資本・各種引当金等の増減額に短期資産・負債の増減額(短期資金収支)を加えたものがフリーキャッシュフロー〓企業価値の源泉で、そこから株主への配当や将来の発展のための投資をすると言うことだと思います。
 私は有価証券報告書のキャッシュフロー計算書の考え方が間違っていると思っている訳ではありませんが、自己資本の蓄積が乏しく、収益も上がらない企業が多い我が国の中小企業は資金の不足を金融機関からの借り入れに頼るケースが多くあります。その場合のキャッシュフローの検討に当たっては、少し違った考えの旧住友銀行流の検討手法も役に立つと私は思います。

〇旧住友銀行本店(大阪市)


下記キャッシュフロー検討表 (Ⅱ) をご説明致します。

 ○キャッシュフロー検討表 (Ⅱ)        (単位 百万円)
   項    目
    金   額
期初現・預金残高
        200
 
受取債権増
棚卸資産増
短期貸付金増
雑流動資産増
雑流動負債減
支払債務増
△       343  
△       226
△       125
△        77
△         2
        323  
営業活動によるキャッシュフロー
△      450
 短期借入金増
        431
 短期資金収支
△       19
 
資本増
固定資産増
 投融資減
        78
△      206
        54
投資活動によるキャッシュフロー
△       74
長期借入金増
       285
長期資金収支
       211       

総合資金  収支
        192
 
現・預金の増減額
        192
期末現預金 残高
        392


① 短期資金収支
 短期の資産・負債の増減額だけを独立させて計算すると(短期資金収支)営業活動によるキャッシュフローは450百万円のマイナスです。
 売上を増やすと売掛金の増加や在庫の積み増しのためある程度の資金が必要になります。この場合の資金需要の妥当性の検証については、「売上増加率と受取債権増や棚卸資産増加率がほぼ等しければ(回収条件の改善は常に必要ですが)止むを得ないか」などと考えることになります。
 このケースでは、別途損益計算書を見ると、売上高が前期比244百万円増加しているのに対し、受取債権増343百万円、棚卸資産増226百万円計567百万円の増加です。売上増加額の2倍以上の資金需要は過大ではないか。と言うことが先ず問題点として浮上します。
 「売上を増加させるのに無理をしているのではないか」と考えれば、従来の売上回収条件との対比が必要になります。また「244百万円の売上増に対し棚卸資産が226百万円増加しているのは過大ではないか。デッドストックは生じていないか。」などの検討を要します。更に、短期貸付金125百万円の増加の内容の検討も必要です。
 短期借入金を431百万円増やし、結果短期収支の不足分19百万円は長期資金から流れて来た資金から充当しています。長期資金から流れて来た資金の残り192百万円(211百万円ー19百万円)は手元現・預金の増加になっています。
 短期資金の不足ですから短期借入金を増やしているわけですが、返済をどうするか、可能かなどは後ほど検討致します。

② 期資金収支
 固定資産増206百万円の資金需要に対し、資本増78百万円、投融資減54百万円、計132百万円の資金調達では74百万円不足し、長期借入金285百万円を借りています。長期資金調達の余りは短期資金に流れ、大半は現預金の増加になりました。
 ここでは、長期資金の不足74百万円に対し、何故285百万円もの長期資金を借り入れたのかの検討が必要です。例えば近々投資計画があるのか等です。お金を余分に借りられれば良いというものではありません。

③金融基調
 資金は長期から短期に流れていますからこの期間は長期資金についてのキャッシュフローの不安定要因は生じていないと判断されます。
 繰り返しになり誠に恐縮ですが、10月20日(日)の①有価証券報告書のルールに準じたキャッシュフロー計算書と、その説明を再度読んで見て比較して頂きたいと思います。 

 
 (6)借入金の返済について
  企業が銀行からお金を借りたら、返さなければなりません。旧住友銀行では借入金の返済原資は「償却前・引当前利益」だとされていました。
 (利益)+(お金が企業の外に出ない減価償却、引当金)の中からお金を返すことが出来ると言うことです。この点は有価証券報告書のキャッシュフロー計算書の考え方とは異なります。
 有価証券報告書のキャッシュフロー計算書の考え方では「営業活動によるキャッシュフロー」の中に「資本の増加額」「 減価償却費」「引当金の増減」が全て算入されています。「営業活動によるキャッシュフロー」で「投資活動によるキャッシュフロー」を賄いきれない場合の借入金はどうやって返済することになるのか。多分次期以降キャッシュフローを改善して返済するということでしょうが、貸出時に返済能力をどうやって判断するのか、私には分かりません。
 まして「営業活動によるキャッシュフロー」がマイナスになった場合の資金不足をどうやって調達するのか。多分アメリカでは、「営業活動によるキャッシュフロー」がマイナスの企業は銀行からは借りないで増資資金などを当てるのかも知れません。
 アメリカの場合はさておき、我が国では戦後大企業を含め、自己資本の蓄積が少ない時期、不足した運転資金の貸出では、「1年以内に期限に一括返済し、一括再貸出」の短期借入金が横行していました。私が現役のころは「ころがし短期借入金」と言われていました。
 企業は先ず長期借入金の約定返済を行います。これは今も変らないと思います。まずここで長期借入金の約定返済額が「償却前・引当前利益」の金額の範囲内かを見ます。
長期借入金の約定返済額が「償却前・引当前利益」の金額を超えると短期のキャッシュフローに悪影響を及ぼします。
 「返済期日が貸借対照表日の翌日から起算して1年以内に到来するものが短期借入金」だと定義されています。「利益も含めた長期資金収支」がマイナスで、長期借入金を増やしているような企業が、短期資金が不足して借りた短期借入金を1年以内に返済することは不可能です。
 以前の「ころがし短期借入金」は現在では認められていません。中小企業は短期資金が不足して短期借入金を借り入れる場合は、1年以内の返済条件を付けて借入れ、これを借り換えることでキャッシュフローを維持している場合が多いと思われます。 「1年以内に期限に一括返済し、一括再貸出」から「1年以内の返済条件付き借入・再貸出」かは形式の違いだけで、実質「ころがし」或いは「自転車操業(止まると倒れる)」であるわけです。
 私は、長期的には企業は自己資本を充実し、收益を改善して、キャッシュフローの自転車操業を脱することが目標になると思いますが、我が国の多くの中小企業は現在の状況を早急に改善することは困難だと思います。
 まず、こうした多くの中小企業のキャッシュフローの「自転車操業」の現状・問題点を中小企業の経営者が正しく認識することが必要だと思います。
 そのために、「キャッシュフロー検討表 (Ⅱ)」の各項目を企業経営者・金融機関双方で常に検討していなければなりません。
 企業の資金繰り(キャッシュフロー)は、企業の損益と勘定科目の金額の変動の結果です。「自転車操業」のキャッシュフローで、最も重要なことは(倒れないこと)、企業業績の維持・安定です。
私が勤務した旧住友銀行では、こういった見地から、時には経営・キャッシュフローなどについて企業に苦言を呈していました。言い過ぎると経営者が怒って取引を他の銀行に移してしまわれたりしますので、難しいことですが、企業のお役にたっていた場合もあったと信じています。
 いま、幾つかの中小企業からキャッシュフローについてのご相談を受けていますが、企業側、金融機関双方に、今回申し述べたような考えはあまり無いように思われます。
 企業の損益計算書や貸借対照表をコンピューターで整理・計算し評価分析をする今の時代は、データの作成と判断に融資担当者の経験・能力の差が影響しないので、大変良いことだと思います。
 コンピューターで整理・計算する場合に、今回申し上げたような「キャッシュフロー検討表 Ⅱ)」も自動的に作成し、ただその読み方は上司や先輩が実例に基づき十分教育する。そして企業の経営者にも現状を良く理解して貰えば、貸出金管理に役立つと私は思います。
 日常そうやっていても、大地震とか大洪水などで事業がストップすれば、またキャシュフローに甚大な影響が生じます。BCP(事業計測計画)における、キャッシュフロー対策〓リスクファイナンスについては後日項を改めてご説明を致します。
 次回からは、いくつかの企業のキャッシュフロー検討の事例を解説致します。

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