BCMSにおける企業トップのリーダーシップのあり方

2014年12月7日日曜日 | ラベル: |

 最初にアップした原稿を若干訂正致しました。再度アップ致します。申し訳ありませんでした。

 12月3日にある学会の、ISO 22301(JIS22301)*の内容を検討するWGで、私ともう一人の方が担当で、ISO22301の「5.リーダーシップ及びコミットメント」に関する部分の議論をしました。
 *地震や火災、金融危機、新型インフルエンザの感染爆発<パンデミック>など、危機に際しさまざまな企業や組織が、対策を立案し効率的かつ効果的に対応するための事業継続マネジメントシステム<BCMS>の国際規格
 ISO22301の「5.1 リーダーシップ及びコミットメント」では、先ず
「トップマネジメントにある者,及びその他の関連する管理層の役割を担う者は,BCMSに関してリーダーシップを実証しなければならない。」とされています。
 このISO22301で想定しているマネジメントスタイルは、欧米、特に米英豪型のものであり、その観点からは当然の内容ですが、わが国の企業に持ち込む場合、これを実行することは容易なことでは無いと思われます。

私どもは、
『日本の経営者は、ボトムアップ型の組織の頂点にいて部下の補佐によって職務を遂行するケースが多いため、日本の経営者が本規格で想定しているマネジメントスタイルを実行するためには、日本の組織を前提とした補完的なサポート策を加味したやり方を考えるべきではないか。
更には、ISO22301の認証を受ける場合、既存の経営環境・経営者の状況や組織運営とISO22301の要求するレベルとの狭間で深刻な問題が発生するのではないか。』
という問題提起をしたのですが、WGの実務家のメンバーの多くの方々からは、このことに対する深刻な問題意識は殆ど感じられませんでした。


「5.2 経営者のコミットメント」では、
「トップマネジメントは,次に示す事項によって,BCMS に関するリーダーシップ及びコミットメントを実証しなければならない。」とされています。
詳しくは、
  • BCMS の方針及び目的を確立し,それらが組織の戦略的な方向性と両立することを確実にする。
  • 組織の事業プロセスへのBCMS の要求事項の統合を確実にする。
  • BCMS に必要な資源が利用可能であることを確実にする。
  • 有効な事業継続マネジメント及びBCMS の要求事項への適合の重要性を伝達する。
  • BCMS がその意図した成果を達成することを確実にする。
  • BCMS の有効性に寄与するよう指示を与え,支援する。
  • 継続的改善を促進する。
  • その他の関連する管理層がその責任の領域においてリーダーシップ及びコミットメントを実証するよう,管理層の役割を支援する。
トップマネジメントは,BCMS の確立,導入,運用,監視,レビュー,維持及び改善へのコミットメントの証拠を次の事項によって示さなければならない。
  • 事業継続方針を策定する。
  • BCMS の目的及び計画が策定されることを確実にする。
  • 事業継続マネジメントのための役割,責任及び力量を決定する。
  • BCMS の実施及び維持に責任を負うために適切な権限及び力量を備える1 名以上の者を,BCMS の責任者に任命する。
トップマネジメントは,関連する役割に対して,責任及び権限を割り当て,組織内に伝達することを次に示す事項によって確実にしなければならない。
  • リスク許容基準及びリスクの許容可能レベルを定める。
  • 演習及び試験の実施に積極的に関与する。
  • BCMS の内部監査の実施を確実にする。
  • BCMS のマネジメントレビューを実施する。
  • 継続的改善へのコミットメントを明確に示す。」
と記述されています。

この節では、
  • BCMS に関するリーダーシップ及びコミットメントを実証するためにやるべき内容を示し、トップマネジメントがリーダーシップを発揮するとともにBCMSに関し参画する具体的な中身及びその方法を明確にすることに狙いがあります。
  • BCMSの方針及び目的を明確にし、それを組織内の拘束的条件とすること及びそれが組織の戦略的な、進んできた方向に合致するものであることを明確に示し、それに則って業務が行われるようにすることはトップマネジメントの責務であるとしています。
  • BCMSが要求する内容が確実に事業実施の1部として行われるようにすることはトップマネジメントの責務であると明定しています。
  • 人材、資金等の組織の資源がBCMSにおいて必要とする量だけ確保できるようにすることはトップマネジメントの責務であるとしています。
  • 組織内において、十分役に立つ事業継続マネジメント及びBCMSであるためには、それらの求める条件に適合することが必要であることを関係者に伝達し認識させることはトップマネジメントの役割の一つであるとして指摘しています。
  • BCMSによって果たそうとした目的が間違いなく達成されるようにすることはトップマネジメントの責務であるとしています。
  • BCMSの活動が効果的なものとなるように指示、支援することはトップマネジメントの責務であることを明確にしてます。
  • BCMSの改善が継続的に行われるようにする役割をトップマネジメントが担っていることを明確にしています。
  • 管理層がその各々の所掌に応じてBCMをしっかりと行うように支援することがマネジメントの責務であることを明らかにしています。
  • トップマネジメントは,BCMS の確立,導入,運用,監視,レビュー,維持及び改善を行う必要があり、その具体的なやり方としては、以下のことを行うことによって、自らの責任において事業継続マネジメントを行っていることを証拠立てる必要があるとしています。
事業継続方針を策定するにあたっては、
  • BCMS の目的及び計画がその責任のある者によって作成されること確実にする
  • 事業継続マネジメント実施における組織内の者の役割,責任を決めるとともにその力量を評価し明確化しておく。
  • それを実行するにふさわしい能力を持ったBCMSの責任者を少なくとも一名任命する。
さらに、トップマネジメントは BCMS関連する業務に従事する者および部局に,責任及び権限を割り当て,その旨を組織内に伝達するが、それは、具体的には、以下のような内容のことを行うことによって、それが実効性のあるものと必要があるとしています。
  • リスク許容基準及びリスクの許容可能レベルの決定
  • 演習及び試験の実施に積極的関与
  • BCMS の内部監査の確実な実施
  • BCMS のマネジメントレビューの実施」

 ここで示されていることをトップマネジメントが実施するという考え方は欧米流の経営におけるアプローチの方法で、欧米プロの経営者としての方法論です。日本の経営者はこのようなシステムアプローチをするように教育を受けていません。むしろ、このようなアプローチをするタイプの者は、それぞれの部門の中から選抜して役員になる日本流のシステムの下においては、途中で排除されることが少なくないようにさえ思えます。
 創業者型の経営者、欧米の子会社のトップを経験し、欧米型の経営に同感している経営者を除いて、現状日本の経営者の多くは、ここで要求されていることは実行出来ないと思われますので、当面は次善の策として、部下がサポートをして実行可能となるような対応策を講ずべきだと私は思います。
 『ここに示されているような内容のことをトップマネジメントが実際に行えるようになるためには、基本的素養や考え方の教育をしっかりとされている必要があります。少なくとも、BCMSにおいて行われようとしている内容が、どうして必要なのか、概略どのようにして行うべきものなのか、どのような効果を持ち、どのような弊害やリスクを伴っているかなどを推測できる必要があります。そのような能力は付け焼刃で身に付けようとしても付くものではありません。また、そもそもマネジメントとは何かについてのしっかりとした考え方や哲学が必要で、日本的経営スタイルでは容易ではない要求ではないか。』とWGのメンバーのメンバーに対して問題提起を致しました。
 1950年代、QC導入に際し、推進の中心であった「日本科学技術連盟」のトップは初代経済団体連合会会長石川一郎氏で、また導入の中心人物の一人は石川一郎氏のご令息、石川馨東京大学教授でした。石川教授らは日本の状況を活かしたQCの実行を明確に意識して導入を図られました。
 日本的な経営スタイルの下で、ISO22301(JISQ22301)事業継続マネジメントシステムの「経営者のコミットメント」の要求事項に応えるためには、QC導入時のように、日本経済団体連合会等の経営者団体の関与や日本的な企業組織を前提とした補完策の検討が必要であるという,私どもの問題提起に対して多くのWGメンバーの方々はあまり問題意識の共有をされませんでした。
5.3、5.4については内容のみお示し致します。
5.3 方針
 内容
トップマネジメントは,次の事項を満たす事業継続方針を確立しなければならない。
- 組織の目的に対して適切である。
- 事業継続目的の設定のための枠組みを示す。
- 適用される要求事項を満たすことへのコミットメントを含む。
- BCMS の継続的改善へのコミットメントを含む。
 
BCMS 方針は,次に示す事項を満たさなければならない。
- 文書化した情報として利用可能である。
- 組織内に伝達される。
- 必要に応じて,利害関係者が入手可能である。
- 定期的に及び大きな変更があった場合に,継続的に適切であるかをレビューする。
組織は,事業継続方針に関して文書化した情報を保持しなければならない。
  
5.4 組織の役割,責任及び権限 
 内容
 トップマネジメントは,関連する役割に対して,責任及び権限を割り当て,組織内に伝達することを確実にしなければならない。
トップマネジメントは,次の事項に対して,責任及び権限を割り当てなければならない。
a) BCMS が,この規格の要求事項に適合することを確実にする。
b) BCMS のパフォーマンスをトップマネジメントに報告する。
 
【 所見 】
 日本の企業が、現在の日本的な経営スタイルの下でISO22301事業継続マネジメントシステムの「5 リーダーシップ」の要求事項に応えるためには、非常んい大きな問題があると私は思うのですが、実務に従事する多くの方々はそのような問題意識を持っておられないように見受けられます。
 これは、日本の企業がISO22301事業継続マネジメントシステムの「5.リーダーシップ」の項目の内容を真摯に受け止めていないからではないかと私は考えます。ISO22301をJIS規格にした政府の意図は、日本の企業の経営形態を欧米型に近づけたいと思ったからだと考えますが、多くの日本企業はそう思っていないのではないかと思われます。日本の企業経営形態を、直ちに欧米型するべきかについては、意見は分かれると思います。
 問題は「ISO22301の実践は、日本の経営形態に対し、非常に大きな問題を提起している。ではどうすれば良いのか」という問題について、もっともっと議論すべきだということです。
 この点に関し、翌4日別の研究会で東京ガスの吉野太郎様から 「企業におけるERMの役割とその実施方法に関する考察」というお話をお聞きし、企業のBCMSや危機管理の実状についての具体的なお話をお聞き出来て大変参考になりました。次回にご報告致します。
 


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