「江戸城の天守閣を再建する」

2014年7月20日日曜日 | ラベル: |

 明暦3年1月18日(1657年3月2日)から1月20日(3月4日)にかけて、当時の江戸の大半を焼失するに至った大火災である明暦の大火により、江戸の街の大半が焼き尽くされ、江戸人口50万人のうち10万人以上の生命が奪われました。この未曾有の大災害に陣頭指揮で対処したのが、3代将軍家光の異母弟で、4代将軍家綱の後見役となった会津藩主保科正之でした。  
 保科正之は、被災者の早急な救済と民生安定、長期的展望に基づいた江戸市街の災害復興を最優先の課題と考え、江戸城天守は、江戸幕府の権威と権力の象徴と考えられていましたが、今はその再建のために、国の財産を費やす時節ではないと判断し、先に延ばすことを決定しました。この保科正之の英断が、それ以降200年にわたる江戸期の社会の平和と安定の礎(いしずえ)となり、元禄、文化・文政の江戸文化が花開くこととなりました。(「江戸城天守を再建する会」のHPより)


  (千代田区観光協会 HPより)
 今、皇居北の丸公園には東西約41m、南北約45m、高さ11mの天守閣跡の石積みが残っています。
 九段南の親しいお菓子屋さん「ゴンドラ」のご主人細内進さんから「江戸城の天守閣を再建する話があります。」とお聞きしたのは数年前のことでした。
 「江戸城天守を再建する会」のHPには下記の設立主意書」が掲載されています。
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 『近年、世界各国、各都市は観光立国と魅力ある国づくりに向けて熾烈な競争を繰り広げているが、その中にあって東京は国際都市として未だ確固たる地歩を築いているとは言い難い。その要因の一つは、日本の首都でありながら日本らしさを体現する、傑出した歴史的、文化的遺産が存在しない点にある。
 かっての都・江戸は世界で最も魅力的なまちの一つと謳われていた。もしここに、明暦の大火により失われた天守閣を始め、江戸城の遺構が再建されれば、それは世界に伍して発展する国際観光、交流都市東京の形成に寄与するだけでなく、21世紀における日本再生の新しいシンボルにもなり得る、と確信する。
 このような観点から、私たちは再建を具体化するための各種の調査、研究を進めると共に、広く世論を喚起するための様々な活動を展開すべく、特定非営利活動法人「江戸城再建を目指す会」を立ち上げる。 平成17年10月1日 江戸城再建を目指す会  理事長 小竹直隆』
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 平成25年7月に「「江戸城再建を目指す会」は「江戸城天守を再建する会」に名称変更し
ました。平成25年9月7日、2020年オリンピック・パラリンピックの東京開催が決定しました。
 細内さんから初めてこの話をお聞きした時は、私は夢物語だと思っていました。一昨日7月18日にゴンドラをお訪ねして、細内さんに「その後どうなりましたか。」とお聞きしました。
 細内さんに『7月5日の日経電子版に、<江戸城の再建費用350億円 「木造」観光立国の夢> と言う記事が掲載されています。 』と教えて頂きました。以下はその記事のご紹介です。
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 東京五輪に合わせて、江戸城の天守閣を再建しよう――。こんな計画を市民団体が中心になって進めている。高層ビルに囲まれた皇居の森に天守閣がそびえ立つ。計画には賛否もあるし課題も多いが、この構想は日本人自身もあまり気付いていない「眠れる資源」が存在していることを教えてくれる。
 構想を進めているのは、認定NPO法人「江戸城天守を再建する会」(東京・千代田)。会長は江戸城を築いた武将、太田道灌の18代子孫にあたる太田資暁氏だ。
 1657年の明暦の大火(振り袖火事)で炎上した天守閣を、現存する「建地割図」(城の断面図)を基に再現しようと活動している。台座を含めて高さ59メートルの5層構造。高さは姫路城(兵庫県姫路市)の2倍、体積では3倍で、木造建築として国内最大級となる
 再建に慎重な意見のなかには、皇居を見下ろすことへの懸念が多い。だが、皇居側の窓はもともと上向きにしか作られていなかったそうだ。気になるのは、やはりコスト。再建には長さ5メートルで35センチ角のヒノキが1000本必要となる。高級なヒノキを使えば、当然コンクリートより割高になるはず。伝統建築に詳しい広島大の三浦正幸教授に聞くと、意外な答えが返ってきた。
 戦後、1960~70年代の城郭再建ラッシュでは、名古屋城や熊本城など30余りの天守閣をすべて鉄筋コンクリートで作った。高度成長期のさなかで文化財を復元するという意識は低く、もともと存在しなかった天守閣を“復元”したものもある。なにより戦火の記憶が生々しかったため、「燃えない」という理由を優先した。(中略)
 その裏側で起きたのが木材の値下がりだ。国産材は需要減に輸入材の流入が加わり、ヒノキの素材価格は80年の1立方メートルあたり7万6400円のピークから2013年には1万9700円まで74%も下落した。鉄筋に使う異形棒鋼が足元1トン6万5千~7万円で80年とほぼ同水準なのと対照的だ。日本の山には、100年以上前に植えられて二酸化炭素(CO2)も吸わなくなったヒノキが眠ったままになっている。三浦教授によれば、天守閣の建築には高級ヒノキを使う必要もないため、もはや木造も鉄筋コンクリート造並みの費用だという。
 「木材の復権」はじわりと進んでいる。50年を経てコンクリートが耐用年数を超え、天守閣も住宅も、建て替え需要がこれから本格化する。全国の官公庁庁舎などは木造での再建が増えているし、天守閣も名古屋城など全国で木造への切り替えが議論されている。
鉄筋造は火事でも燃え残るというが、内部の鉄筋が熱で損傷すれば建て替えが必要になる。問題は燃え崩れるかどうかではなく、火熱に耐える「耐火時間」だが、木造も決して劣っていない。耐震性も同様で、再建した江戸城はシミュレーションでは震度7まで耐える。耐用年数は1500年と、コンクリートの50~80年に比べて格段に長い。こうした日本古来の木造技術を受け継ぐ宮大工の存続・育成も、江戸城再建計画の狙いの一つだ。
 日本都市計画学会が試算した江戸城天守閣の建設費用はざっと350億円。ちなみに東京スカイツリー建設では、PR費用を含めた総事業費が約650億円(周辺の商業施設部分を除く)だった。「再建する会」は個人や法人の寄付金を活用する考えだが、決して小さな金額ではない。では、再建が日本経済にもたらす効果はあるのだろうか。
 今も皇居の北桔橋門近くに残る天守台。その付近を歩いてみると、意外なほど多くの外国人観光客が訪れていることに気づく。東京メトロ東西線の竹橋駅から徒歩5分。巨石を積み重ねた台の上部にはベンチが置かれているだけ。すぐ隣の大手町で働くサラリーマンでも足を延ばす人は少ないが、「江戸」を感じたい外国人には特別な魅力があるのかもしれない。
 「外から日本を見た経験があるから、この計画は必要だと思ったんです」。天守台で待ち合わせた老舗洋菓子店のオーナーシェフ、細内進さん(74)は、再建する会に参加した理由をこう語った。記憶に鮮明に残っているのは、20代にスイスやフランスで修業した際の体験だ。日本の文化を伝えようと現地の人に見せた絵はがきは、法隆寺や清水寺と関西の史跡ばかり。相手が持つ日本のイメージはゲイシャやフジヤマのままだった。「首都である東京に日本文化を伝えるシンボルが必要だ」と痛感した。
 東京タワーやスカイツリーはあっても、東京にはかつて世界が憧れた江戸時代の文化を伝えるランドマークがない。同じように史跡を失った海外の国には、「首都アイデンティティーの確立」を掲げてベルリン王宮を再建中のドイツや、ワルシャワの旧市街を再現して世界遺産に登録されたポーランドのような取り組みがある。
 「工業立国、農業立国、貿易立国などとやかましく叫んで、多くの金を費やした」、「観光立国こそ、わが国がもっとも適しているものに、その基礎を置いている」。経営の神様、故松下幸之助氏が雑誌『文芸春秋』に論文「観光立国の弁」を載せたのは1954年のことだ。(中略)
  10万人以上の犠牲者を出した明暦の大火の後、4代将軍家綱の補佐役として復興を指揮した会津藩主の保科正之は、「今は町家の復旧に力を入れるべきだ」と江戸城天守閣の再建を諦める英断を下した。それから約360年。成長戦略として観光立国を目指すなか、木造技術という日本文化の広告塔として江戸城天守閣の再建計画が必要かどうか。固定観念を捨てて考える時期が来ているのかもしれない。                
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【 所見 】
 九段「ゴンドラ」は昭和8年(私が生まれた年です)創業の洋菓子の老舗で、細内進さんは2代目、デパート等には一切出店せず、3代目と一緒に美味しいお菓子を作り続けておられます。パウンド・ケーキが特に有名です。他方、地元の町内会長として「首都直下地震対策」のセミナーを開催されるなど私の本業とも関係が深い方です。
http://patisserie-gondola.com/index.html
 私は今までに大阪城、名古屋城など鉄筋コンクリートのお城や、姫路城、犬山城など本来のお城などを見て来ましたが、「東京には東京タワーやスカイツリーはあっても、江戸時代の文化を伝えるランドマークがない。」のは誠に残念なことです。オリンピックを再度開催することでもあり、観光立国を目指すなか、木造技術という日本文化の広告塔として江戸城天守閣の再建計画は時宜を得たものだと痛感します。
 私は、その場で「NPO江戸城再建」の個人賛助会員の申し込みをしました。この記事を読んで賛成してくださる方は、どうか t-masaki@c3-net.ne.jpにメールしてください。後記の申込書をお送り申し上げます。
 

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「リスクとキャッシュフロー」について ㉜

2014年7月10日木曜日 | ラベル: |

〇首都直下地震と中小企業BCP
 『国土交通省首都直下地震対策計画第1版]』は、首都直下地震は我が国の存亡に関わる事態であると言っています。個々の中小企業が首都直下地震に備えた完全なBCPを策定することは不可能に近いと思います。首都直下地震に備えて、東京に所在する中小企業のBCPはどうあるべきでしょうか。
   「中小企業BCP策定運用指針第2版」「BCP取組状況チェックリスト」の物的資源
(モノ)には、先ず、
・あなたの会社のビルや工場は地震や風水害に耐えることができますか? そして、ビル内や工場内にある設備は地震や風水害から保護されますか?
あなたの会社周辺の地震や風水害の被害に関する危険性を把握していますか?
と言う質問があります。
 平成26年4月の『国土交通省首都直下地震対策計画第1版]』によれば、首都直下地震で想定されている揺れは、「震源の直上で震度6強、その周辺のやや広域の範囲で震度6弱、地盤の悪いところで一部震度7が発生する。」とされています。
 そして、平成25年に公表された「東京都 あなたのまちの地域危険度 地震に関する地域危険度測定調査(第7回)」では、都内の市街化区域の5,133町丁目について、建物倒壊危険度・火災危険度・総合危険度が町・丁目ごとに5段階のランクで示されています。
 例えば、私が昔勤務していた「江東区亀戸5丁目」は建物倒壊危険度・火災危険度・総合危険度全て危険度5です。更に、『国土交通省首都直下地震対策計画第1版]』では、「墨田区や江東等の海抜ゼロメートル地帯において、排水機場の機能不全等により大規模な浸水被害が発生。また、地震の強い揺れに伴う堤防や水門等の沈下・損壊に伴い洪水・高潮により浸水被害が発生するおそれがあり、さらに、満潮時や異常潮位発生時には浸水域が拡大・深刻化することになる。」と予測されていますから、中小企業としては手の打ちようが無い地区だと思います。
 これに比べ私が最後に勤務していた「千代田区九段南3丁目」は建物倒壊危険度・火災危険度・総合危険度全て危険度1です。首都直下地震が発生した場合、亀戸5丁目に所在する企業は、先ず倒壊するか、仮に倒壊を免れても火災で焼失するのではないかと想定されます。
チェックリスト、次の
・あなたの会社の工場が操業できなくなる、仕入先からの原材料の納品がストップする等の場合に備えて、代替で生産や調達する手段を準備していますか?
と言う質問に対しては、
『国土交通省首都直下地震対策計画第1版]』では、「首都圏の交通・物流システムが発災直後から長期間に渡り機能不全に陥る」と予測しています。更に「輸送ルートの被災等によりサプライチェーンが寸断され、企業の生産活動が低下。その影響が長期化した場合には、生産機能の国外移転等が進み、我が国の国際競争力が低下し、(中略)企業活動が停滞しその影響が全国へ波及する」と予想しています。こういった状況下で中小企業が「代替で生産や調達する手段を準備」することは至難の技です。まして小規模企業が対策を樹立することは無理だと私は思います。
 もっと安全な場所に引越せば良いのかも知れませんが、そんなことが出来る中小企業があるでしょうか。中小企業は先ず、『国土交通省首都直下地震対策計画第1版]』の被害予測と、「東京都 あなたのまちの地域危険度 地震に関する地域危険度測定調査(第7回)」の危険度の判定を見て、ご自分の企業の立地条件を把握すべきです。
 「中小企業BCP策定運用指針第2版」「BCP取組状況チェックリスト」のチェック項目はまだまだ続きますが、その第一歩でシビアな判断を下さなければならない場合が生じます。
 東京都所在の企業に限らず、こういった判断は基礎的な重要項目ですが、自力でこういった判断が出来る中小企業がどのくらいあるでしょうか。BCPのコンサルタントに依頼すれば、必ずこの作業はするでしょうが、一般の中小企業にはこういった知識は普及していないと思います。 国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」
http://www1.gsi.go.jp/geowww/disapotal/index.html
の存在を知っている中企業も未だ少ないと思います。
 それでは、亀戸5丁目に所在する中小企業はどうすれば良いのか。「中小企業BCP策定運用指針第2版」の基本方針の項目①人命(従業員・顧客)の安全を守る。②店を開け営業を続ける(自社の経営を維持する)。③供給責任を果たし、顧客からの信用を守る。④従業員の雇用を守る。⑤地域経済の活力を守る。の中で出来ることからやるとすれば。発災時に①人命(従業員)の安全を守る。ことくらいしか出来ないでしょう。あとは自力でできる限りの対策を講じておく。しかし火災等で努力が水泡に帰することを予測しておくべきです。
 幸いに命を失わないで済んだら、周囲の情勢を見極めつつ,再建する方策を考えるしかありません。その際最も問題になるのは,再建に至るまでのキャッシュフローです。
お金が全てではありませんが、お金が回らなくなったら倒産します。
 平成17年に「中小企業BCP策定運用指針第1版」の策定作業が始まった際、中小企業庁は、4月1日のブログに書きましたように、
『現行の中小企業災害対策は、災害発生後の対策については既に相当メニューが充実している。中小企業庁及び関係機関は、大規模災害が発生するたびに所要の対策(特別相談窓口、災害復旧貸付、小規模企業共済災害時貸付、セーフティネット保証、激甚災害指定措置、災害復旧高度化融資等)を講じて、被災地の中小企業の早期復旧復興を支援しており、これらは大きな実績を上げているが、事前対策については手つかずの状態にある。中小企業庁としては、現行の中小企業災害対策の空白部部分である事前対策を確立することにより中小企業災害対策を完成させることが「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」を新たに作成する目的である。』と明確に考えておられました。
 今回首都直下地震発災時に、地区によっては、中小企業が完全なBCPを策定することが困難な事態が生ずると思われます。その場合は原点に戻り、災害発生後の対策(主力は「災害復旧貸付」制度)を生かして被災地の中小企業の早期復旧復興を図るべきだと私は確信します。
 何回も書いていますが、小規模企業がどこまでのBCPを作成するかについて、私は必ずしも各項目を全部検討出来なくても、可能な限りで充分意味があると考えています。
 小規模企業の場合は、コンサルタントや金融機関などに相談する機会は先ず無いので、ご自分で考えて、実行出来ることは事前にやっておく。然し完全な対策は出来ませんから、「災害発生直後は、事業はストップしますが、最低1ヶ月くらいの出費を賄えるだけの資金を持っていて、災害発生後1ヶ月くらいの間に事業の継続やその後のキャッシュフロー対策を講ずる。」と言うのが「小規模企業の首都直下地震対策」だと思います。
 民間金融機関が取引先、特に融資先に対し「BCP(含むキャッシュフロー対策)」のサポートを行えば、金融機関の資産の太宗をなす貸出金債権が地震等のリスクで毀損することを防止することが出来ますから、恰も製造業において工場の耐震化工事を行うのと同じことです。従って中小企業をお得意様とする信用金庫などが中心になって中小企業、特に小規模企業を中心にBCPのサポートをすることが肝要だと私は思います。
-東南海地震についても同様です。これについては項を改めて書きます。

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2014年7月1日火曜日 | ラベル: |

〇『国土交通省首都直下地震対策計画 [第1版](中央防災会議首都直下地震対策検討ワーキンググループ)』について
 平成26年4月1日に『国土交通省首都直下地震対策計画 [第1版]』が公表されています。これは首都直下地震が発生した場合の国家的危機に備えるべく、国土交通省として、広域的見地や現地の現実感を重視しながら、省の総力を挙げて、取り組むべきリアリティのある対策をまとめるものとされています。
 前回」6月20日のブログで
、「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」第2版の「BCP取組状況チェックリスト」の「あなたの会社のビルや工場では地震や風水害に耐えることができますか。そして、ビル内や工場内にある設備は地震や風水害から保護されていますか?」を判断するに際して、平成25年に公表された「東京都 あなたのまちの地域危険度 地震に関する地域危険度測定調査(第7回)」では、都内の市街化区域の5,133町丁目について、各地域における地震に関する危険性を、建物の倒壊及び火災について測定し、建物倒壊危険度・火災危険度・総合危険度が、町・丁目ごとに5段階のランクで示されていますから、これを参考に出来ます。
と書きました。しかし、どのような地震が起こるのかについては言及されていません。
  『国土交通省の「首都直下地震対策計画[第1版]」』では首都直下地震で想定されている揺れは、「震源の直上で震度6強、その周辺のやや広域の範囲で震度6弱、地盤の悪いところで一部震度7が発生する。」とされています。
  東京都所在の企業は、「東京都 あなたのまちの地域危険度 地震に関する地域危険度測定調査(第7回)」と『国土交通省の「首都直下地震対策計画[第1版]」』の記述の双方を見て、ご自分の企業の立ち位置(首都直下地震発生時に置けるご自分の企業の立地条件)をある程度判断することが出来ると私は思います。
 BCPのコンサルタントに依頼すれば、彼らは易々としてこうした作業をすると思いますが、コンサルを依頼出来ない、特に小規模企業の場合は、ご自分で立ち位置を検討しなければなりません、そこで今回は『国土交通省首都直下地震対策計画 [第1版]』の中身(◊ ◊ ◊ ◊で囲まれた部分)をご紹介します。

 ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ ◊ 
第1章 対策計画の位置づけ等
1-1 首都直下地震が発生した場合の国家的危機
○ 我が国の首都及びその周辺地域では、過去、M7クラスの地震や相模トラフ沿いのM8クラスの大規模な地震が発生している。
○ 中央防災会議首都直下地震対策検討ワーキンググループは、最新の科学的知見等に基づき、平成25年12月19日に「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)」(以下、「最終報告」という。)を公表した。
○ 我が国の首都圏は、他の地域と比べ人口や建築物、経済活動等が極めて高度に集積
しており、大規模地震の発生により、人的・物的被害や経済被害が甚大なものになると予想される。また、首都圏には、政治中枢や行政中枢、あるいは経済中枢といった首都中枢機能も集積しているため、地震発生時における首都中枢機能の継続性の確保が重要な課題となる。
○ 首都直下地震の発生は、首都圏の多くの国民等の人的な被害の危険性だけでなく、
国全体の経済活動等への影響や海外への波及も懸念されるため、その対策については、我が国の存亡に関わる喫緊の根幹的課題である。
(中略)
1-3 対象とする地震
○ 本計画では、「首都圏の人命を守る」「首都中枢機能を継続させる」「首都圏を復興する」との観点を基本とし、最終報告等を踏まえ、次に挙げる地震を想定し-ながら、対策をとりまとめている。
・地震対策は、当面の脅威として、切迫性が高いとされているM7クラスの地震を対象とする。なお、この地震は、様々なタイプが考えられ、どこで発生するかわからないとされていることから、最終報告で想定されているM7クラス地震全てを念頭に対策を検討する。
・津波対策については、東北地方太平洋沖地震の震源域の南側に震源断層域が位置し同地震に誘発される可能性があるとされている延宝房総沖地震タイプの地震と、当面発生する可能性は低いが百年先頃に発生する可能性が高くなっていると考えられている大正関東地震タイプの地震による津波を対象とする。

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【 解説 】
 「首都直下地震の発生は、我が国の存亡に関わる」と言う認識です。
 「対象とする地震」は「当面の脅威として、切迫性が高いとされているM7クラスの地震を対象とする。」
なお、中央防災会議「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)」で想定されているM7クラス地震全てを念頭に対策を検討されています。
中央防災会議「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)」でも被害想定がなされていますが、『国土交通省の「首都直下地震対策計画[第1版]」』の被害想定には、生々しい具体例が記述されており非常に参考になります。以下はその記述の抜粋です。

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2-2 深刻な事態
(1)震度6強以上の激しい揺れによる家屋の倒壊、大規模な火災の発生
・震度度6強以上の激しい揺れにより、東京都では江戸川区、江東区、大田区等、川崎市では川崎区等を中心に約18万棟の木造住宅、老朽ビル・マンション等が全壊。
・また、都心部に広く点在する急傾斜地や国分寺崖線等に沿う宅地造成地でも斜面崩壊や地盤変状により家屋等が倒壊。
・倒壊した家屋、工場、店舗等から出火し、特に世田谷区、杉並区、足立区等、環状6号~環状8号に囲まれたエリアを中心として広い範囲に存在する木造住宅密集市街地で大規模な火災延焼が発生、約41万棟が焼失。
・建物倒壊による死者は最大約1万人、火災による死者は最大約1.6万人と想定され、また倒壊や火災により救助を要する人が約5~7万人発生。
・羽田空港や京浜港等の東京湾臨海エリアでは、国道357号や晴海通り等の幹線道路が液状化による地盤沈下や側方流動により通行不能となったり、鉄道が架線の損傷や軌道変状等により運行不能となるなど、臨海エリアと都心部を結ぶアクセス交通が寸断され孤立する地区が発生。
・被災地の上空では、航空管制が整わない中で、国の防災機関、自治体、医療関係、マスコミ等のヘリが輻輳し、二次災害の危険が高まる他、最も優先される救命救助活動の支障となる。
・相模トラフ沿いの地震等が発生した場合には、神奈川県や千葉県等の太平洋沿岸に最大10mの津波が来襲し、約4千人~約11千人の死者が想定され、特に相模湾沿いの沿岸部で被害が大きい。
(2)多くの利用者が集中する地下街、商業ビル等の都市施設や鉄道、空港、道路等の交通施設で人的被害が拡大し、大量の帰宅困難者や滞留車両が発生
・首都圏の鉄道では、地震発生時に最大で約180万人の利用者が見込まれ、架線の損傷や軌道変状、切土・盛土の被害、橋梁の亀裂・損傷等が発生。
・国内最大の離着陸回数を誇る羽田空港では、発災直後に滑走路が閉鎖され、約45機が着陸不能となる。
・主要駅や新宿、池袋、東京八重洲等の地下街など多くの利用者が集まる閉鎖空間では、天井パネル、壁面、ガラス、吊りモノなどが落下し多数の死傷者が発生、ガス漏れや火災の発生により被害が拡大。
・また、都内の主要駅、地下鉄、羽田空港、地下街等では多くの利用者が滞留する状況となり、停電や火災、情報の遅れによるパニックが発生し、出口を求めて殺到する人々の集団転倒など人的被害がさらに拡大。
・1都3県には約26万台*1のエレベーターが稼働しており、地震の揺れにより多くのエレベーターが停止し、最大で1万7千人の閉じ込めが発生。
*1 2013年3月31日現在、一般社団法人日本エレベーター協会調べ
・公共交通機関が停止した場合、最大で800万人の帰宅困難者が発生、徒歩帰宅者が車道にあふれ渋滞を助長し、緊急車両等の通行の支障となる。
・多くの人が集まる都心部では、携帯電話やインターネット等の情報通信網の寸断やアクセスの集中により、個人による状況把握・情報収集が困難となり、逃げ惑い等の混乱が発生。
・震度6強以上のエリアでは沿道建物や電柱の倒壊、道路施設の損傷、また湾岸エリアでは液状化が発生し、道路交通が寸断。幹線道路上には膨大な数の滞留車両・放置車両が発生し、自衛隊や消防など救命救助活動にあたる緊急車両の移動を阻害し被害が拡大。
(3)最大約720万人の避難者が発生し、避難所、応急物資、医療ケア等が絶対的に不足、避難生活が長期化する
・避難者は発災2週間後に最大約720万人(うち都区部290万人)に及び指定避難所収容可能数を超過する。
・食料、救援物資、また乳幼児、高齢者、女性等の物資ニーズへの対応ができない状況が継続し、食料不足は最大で3,400万食に及ぶ。
・発災1週間後でも、1都3県で停電率は約5割、断水は最大約3割で継続し、冷暖房の利用、飲料水の入手、水洗トイレの利用が困難な状況を強いられる。飲料水については、膨大な需要に対して、不足量は最大1,700万リットルに及ぶ。
・特に都市部の避難所では、避難者の集中やライフラインの被災により、居住スペースの減少、仮設トイレの不足、屎尿処理やごみ収集の遅延、感染症の蔓延など、避難所での保健衛生環境が悪化し、高齢者等を中心に健康を害する人が多数発生。
(4)地震による被災に加え低気圧や台風、余震の継続により浸水や斜面崩壊等の被害が拡大する
・1日に約600隻の船舶が航行する東京湾では、千葉港など東京湾沿岸のコンビナートにおいて、地震の揺れや液状化により火災や油の流出等が発生、航行する船舶や沿岸部で被害が拡大。
・墨田区や江東等の海抜ゼロメートル地帯において、排水機場の機能不全等により大規模な浸水被害が発生。また、地震の強い揺れに伴う堤防や水門等の沈下・損壊に伴い洪水・高潮により浸水被害が発生するおそれがあり、さらに、満潮時や異常潮位発生時には浸水域が拡大・深刻化することになる。
・地震により都心部の急傾斜地や宅地開発が進む国分寺崖線等の崖地沿い等で斜面崩壊が発生、加えて地震後の余震継続や降雨により、斜面崩壊の拡大や新たな斜面崩壊の発生により被害が甚大化。
(5)首都圏の交通・物流システムが発災直後から長期間に渡り機能不全に陥る
・1日約100万台が利用する首都高速道路では、市街地火災の影響による鋼桁の損傷、地盤変異による高架橋の大変形が生じた場合、首都高3号線、4号線や湾岸線等で数ヶ月に渡り通行不能となる。
・全国の外貨取扱貨物量の約3割を占める東京湾各港では、非耐震岸壁での陥没や沈下、荷役機械の損傷等により、多くの埠頭で港湾機能を失う。
・東京湾内では重要港湾の923岸壁のうち250岸壁が被災し、東京湾内では石油等が流出して船舶の入出港が困難となる。
・全国の国内線乗降客数の約3割を占める羽田空港では、液状化により滑走路2本が使用できなくなり、またアクセス交通(鉄道、モノレール、道路)の停止により、空港機能が低下。
・輸送ルートの被災等によりサプライチェーンが寸断され、企業の生産活動が低下。その影響が長期化した場合には、生産機能の国外移転等が進み、我が国の国際競争力が低下。
・中央省庁の庁舎等が被災すると、国家運営機能の低下や政府の災害対応に遅れ等が発生し、被害の拡大や長期化をもたらす。
(6)広域調査の遅れ、資機材・人員の不足等によりインフラの復旧が長期化、企業活動が停滞しその影響が全国へ波及
・深刻な交通渋滞により施設点検や緊急調査が大幅に遅延するとともに、ヘリポートや燃料補給箇所の不足、飛行するヘリの輻輳等により、ヘリによる広域調査に支障が生じる。
・都心部において、様々な施設等の復旧工事の集中・輻輳が発生し、工程調整や人員・資機材・施工ヤード等の不足、地権者との調整などにより復旧工期が大幅に遅延。
・被災等により1日のべ4,000万人の輸送を担う鉄道の運行停止が長期化、発災後1ヶ月経過しても約60%の復旧に止まり、被災地外からの通勤困難等により首都圏の企業活動が停滞。
・また、東海道新幹線の小田原以東、上越新幹線の熊谷以南、東北新幹線の小山以南が不通となり、広域的な移動に支障が生じる。

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【 解説 】
主な内容をピックアップします。
・震度6強以上の激しい揺れによる家屋の倒壊、大規模な火災の発生
・相模トラフ沿いの地震等が発生した場合には、神奈川県や千葉県等の太平洋沿岸に最大10mの津波が来襲し、約4千人~約11千人の死者が想定される。
・多くの利用者が集中する地下街、商業ビル等の都市施設や鉄道、空港、道路等の交通施設で人的被害が拡大し、大量の帰宅困難者や滞留車両が発生
・最大約720万人の避難者が発生し、避難所、応急物資、医療ケア等が絶対的に不足、避難生活が長期化する
・食料不足は最大で3,400万食に及ぶ。 
・発災1週間後でも、1都3県で停電率は約5割、断水は最大約3割で飲料水については、膨大な需要に対して、不足量は最大1,700万リットルに及ぶ。
・仮設トイレの不足、屎尿処理やごみ収集の遅延、感染症の蔓延など、避難所での保健衛生環境が悪化し、高齢者等を中心に健康を害する人が多数発生。
・首都高3号線、4号線や湾岸線等で数ヶ月に渡り通行不能となる。
・広域調査の遅れ、資機材・人員の不足等によりインフラの復旧が長期化、企業活動が停滞しその影響が全国へ波及
・被災等により1日のべ4,000万人の輸送を担う鉄道の運行停止が長期化発災後1ヶ月経過しても約60%の復旧に止まり、被災地外からの通勤困難等により首都圏の企業活動が停滞。
・東海道新幹線の小田原以東、上越新幹線の熊谷以南、東北新幹線の小山以南が不通と
なり、広域的な移動に支障が生じる。  等々。

将に、我が国の存亡に関わる事態であり、個々の中小企業が首都直下地震に備えたBCPを策定するのは不可能に近いとお思いでしょう。我々が行うべきことは、この想定を踏まえて、東京に所在する中小企業は何をなすべきかです。
次回に私の意見を申し上げます。

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