グローバル目線の欠如がもたらす日本経済の偏り

2014年11月23日日曜日 | ラベル: |

 俳優の高倉健さんがお亡くなりになりました。私は昭和43年(1968年)10月から約3年間銀座の松屋デパートの前にあった旧住友銀行銀座支店の貸付係長でした。嘗て高倉健さんが所属しておられた東映㈱は銀座支店の大事なお得意様でした。そのころは高倉健さん主演、藤純子さんも出演されていた「日本侠客伝」「昭和残侠伝」シリーズの全盛期で、高倉健さんは旧住友銀行銀座支店の業績にも大いに寄与して頂きました。11月19日の夕方私は白いバラを持って、銀座の東映本社(丸の内TOEI)に設えられた献花台に赴き、昔を偲んで拝んで来ました。

〇丸の内TOEIの献花台(毎日新聞ニュースより)

 私は鉄道趣味なので、高倉健さん主演の映画では「鉄道員(ポッポヤ)」が一番好きです。

〇パンフレットより。

 高倉健さんに献花した後、駿河台に行き明治大学グローバル・ビジネス研究科の特別招聘教授中島厚志経済産業研究所理事長による講義(一般公開、)「グローバル目線の欠如がもたらす日本経済の偏り」をお聞きしてきました。
 2月20日のブログでもご紹介致しましたが、経済産業省の経済産業研究所はBBLセミナーを開催し、そのデータはHPにアップされています。
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/

 中島厚志経済産業研究所理事長は旧日本興業銀行のご出身で、調査部長をされた方です。私は昭和35年に旧住友銀行の東京調査部の企業調査部門に転勤し、重電・家電・弱電(通信機)部門を担当しました。当時基幹産業の分野に関しては、日本興業銀行の「調査月報」の記事はは必読の資料で、日本興業銀行の調査部は大変権威ある存在でした。

「グローバル目線の欠如がもたらす日本経済の偏り」の中島厚志経済産業研究所理事長のご講義は、
①2000年から2010年の我が国の実質経済成長率0.7%は世界182ヶ国中173位。
②歴史上ない人口減少の可能性。
③財政赤字は過去最悪。
④我が国は輸出入と対内直接投資残高のGDP比率は世界最小クラスで、世界経済との関係
が世界で最も薄い国の一つ。
⑤企業が高度人材を活用しない。
⑥我が国の企業縮み志向が強く、貯蓄超過幅が大きく、米独企業ほど投資をしていない。
⑦我が国経済はアップダウンが激しく、安定した経済成長ができていない、
結論として、「グローバル経済の中で主要先進国の経済動向と経済マインドの理解(グローバル目線)が不可欠」だということでした。

あと、ご自身のご体験に基ずくフランスのお話がありました。
①哲学教育で自らの論理的思考で判断出来る人間を育てる。
 物事を鵜呑みにするのではなく、その是非を自ら判断出来る人間を行育成する。
②少子化対策。(今回は触れません)

【 所感 】
 「グローバル経済の中で主要先進国の経済動向と経済マインドの理解(グローバル目線)が不可欠」に関して、
 私は旧住友銀行で幾つかの支店長を経て、最後に研修の責任者になりました。当時主な海外支店のあった欧米の海外現地職員の研修のため、欧米の銀行のjob descriptipn を読むと、企業理念・組織の在り方の違いがあまりにも大きく、言語の壁と共に、研修の難しさを痛感しました。
 11月4日(火)京都の住友資料館にお伺いし、末岡副館長様にお会いしました。その際「現在三井住友銀行には非常に多くの国籍の社員がいます。彼らは住友グループの(三井グループも同様です)歴史や経営思想に興味を示し、その知識と理解が彼らの三井住友銀行に対する一体感の育成にに有益だと実感致します。」というお話をお聞きし大変感銘しました。現在の三井住友銀行の海外社員研修の主体ははアジア地域かと思います。日本人はアジア地域に対して上から目線の癖があるように感じます。そうした偏見を捨てて、フェアな態度で我が国の歴史や実情を理解して貰うことも大事なのだと思いました。 
 〇住友資料館  http://www.shiryokan.jp/

 フランスにおいて、「哲学教育で自らの論理的思考で判断出来る人間を育てる。物事を鵜呑みにするのではなく、その是非を自ら判断出来る人間を行育成する。」に関して、
 私は京都大学で民法のゼミに所属し、指導教授の林良平先生から「論理的思考の重要性」と「個人の価値観の重要性」を徹底的に教育されました。当時の多くの企業の方針は「企業の方針に忠実な良き社員を養成する」というもので、個人の価値観・考えとか、個人固有の能力はあまり重視されませんでした。このことは、今もあまり変わっていないのではないかと思います。私は、旧住友銀行勤務中、最後まで自分の価値観と会社の方針との狭間で悩み続けていました。私は勤務期間中、忠実な旧住友銀行員であるべく努力しましたが限界がありました。

 我が国の伝統的な大企業では、多分今も世界の状況を見据えた複眼的な思考(グローバル目線)を持った社員の存在・その社員の考えを活かすこと、さらには個人の能力を活かす「高度人材の活用」については、まだまだ多くの課題があるのではないかと愚考致します。それでは我が国の企業の将来は危ういと思います。
 我が国企業の美点も勿論多くあります。中島厚志経済産業研究所理事長のお話をお聞きして、我が国企業の美点は活かしつつ、然しグローバル目線で足らざるところを補っていかなければ、我が国企業の将来、延いては我が国の将来は無いと痛感致しました。

続きを読む »

栗田美術館と劉薇さんの演奏会

2014年11月9日日曜日 | ラベル: |

 顧問をしている会社で、お隣の方から10月25日(土)に、「足利市の栗田美術館で中国の方のバイオリンの演奏会がありますがおいでになりませんか。」と誘われました。
 栗田美術館は、足利市の郊外にあり、伊万里・鍋島を館蔵する世界最大級の陶磁美術館です。私は小・中・高と佐賀で育ちましたので伊万里・鍋島は身近なものでした。栗田美術館の館長様直々のご説明は大変勉強になりました。



〇栗田美術館 本館 (栗田美術館 パンフレットより)


〇重要文化財 鍋島色絵付植木鉢文大皿(栗田美術館 パンフレットより)

 
〇ヨーロッパへ輸出された伊万里の品々(栗田美術館 パンフレットより)

・肥前国(佐賀)における磁器の製造について
 初代佐賀藩の藩主鍋島直茂が1592-1598の文禄・慶長の役に参加したことをきっかけに、朝鮮から多くの陶工が日本へ渡り、通説では「陶工李参平が有田の泉山で磁器の原料になる磁土を発見し、1616年(元和元年)有田で磁器の製造を始めた。」とされていますが異説もあるようです。
 1670年代になると、「濁手」という殆ど青みのない乳白色の素地が作られるようになり、この素地に色絵で文様を書く「柿右衛門様式」が確立し、17世紀末には西欧の王侯貴族達はオランダの商館を通して、大いに日本の磁器を購入しました。
 私はこれらの製品は主に有田地区で生産されたと思うのですが、佐賀県の西北部にある輸出港の名をとって「伊万里」と言われています。
 一方、鍋島藩は1640年ころから、将軍家・諸大名などへの贈答用の高級磁器を製造する藩窯の活動を開始します。この藩窯の製品を「鍋島」と言います。藩窯は技術漏洩防止のため有田や伊万里から離れた山間の大川内にありました。
 大川内藩窯は1871年(明治4年)の廃藩置県によりその歴史を閉じましたが、「鍋島」の技法と伝統は有田・赤絵町の「今泉今右衛門家」によって復興・継承されています。
 私事で恐縮ですが、私の父は戦前内務省という役所の官吏で、私は子供の頃は、父の転勤に伴って各地の県庁所在地を転々としました。
 昭和15年に父は佐賀県知事になりました。当時の今右衛門窯は戦時中は贅沢品ということで技術保存のため細々と職人さんが仕事をされていたようですが、父から貰った今右衛門窯の品物は大変緻密な職人芸のもので、戦後今右衛門窯の関係者の方から「大事になさって下さい」と言われました。朝鮮総督府の局長を最後に、昭和17年に父が退官後は一家は佐賀に住みつきました。そういう関係で、今でも今右衛門窯、柿右衛門窯、唐津の中里様の品々が身近にあります。父は11代今右衛門様と面識があったようです。私は13代今右衛門様と2回お話をする機会がありました。
 今回、今まで断片的に知っていた伊万里・鍋島のことについて栗田館長様直々のご案内で実物を目のあたりにし、系統的に理解することが出来て誠に幸せでした。栗田美術館は、かねてから一度訪れてみたいと思っていましたが、期待していたより遥かに大きな感銘を受けました。足利の地にこのような素晴らしい美術館があることを佐賀の人々はもっともっと知っているべきだと痛感しました。



〇バイオリンの演奏会場
 

〇劉薇(Liu Wei)さん(後援会ニュースより)

 栗田美術館見学の後、美術館のホールで中国の西安音楽学院ご出身の劉薇さんのバイオリンの演奏会をお聞きしました。
 100人ほどの演奏会は大変緊密な環境になります。伴奏のギターとのコラボがこんなにも素晴らしいとは思ってもいませんでした。伴奏をされたギターの小川和隆様はスペインのナルシソ・イェペスに師事されたとの事ですが、私どもの年代にとってイェペスはルネ・クレマン監督の映画「禁じられた遊び」の音楽です。クレマンは「海の牙」「太陽がいっぱい」「パリは燃えているか」など優れた作品を作った映画監督です。
 私の青春時代、キャロル・リード監督の「第三の男」のアントン・カラスのチターの演奏と、ルネ・クレマン監督の「禁じられた遊び」のナルシソ・イェペスのギターの演奏は忘れられない映画音楽です。
 秋の一日、素敵な週末を過ごすことが出来ました。   

続きを読む »