「リスクとキャッシュフロー」について ⑪

2013年11月10日日曜日 | ラベル: |

 11月4日(月)親しい研究仲間の方が、矢来能楽堂でお能「葵上」のシテ六条御息所を務められましたので、見に行って来ました。

〇矢来能楽堂の舞台です。

 
 事前に資料を頂いていたので、見所・内容など理解出来て大変感銘しました。私は10年ほど前からオペラの団体の東京二期会の監事をしていてオペラを屡々見ていますのでオペラに比較すると、お能は余分なものを極力捨てた抽象性を強く感じました。それでいて十分迫力のある舞台に感動しました。
 私は「大鼓」の澄んだ音が大好きで、当日も心が洗われる思いがしました。
7.キャッシュフロー検討の事例 事例①

 事例①はある製薬会社について、有価証券報告書の記述に基きキャッシュフローの状況の検討をしたものです。

1)金融基調

○20年3月期                 (単位百万円)
 (固定負債≼11,093≻+自己資本≼76,951≻) ―  固定資産≼46,834≻
  =88,044 ― 46,834 = 41,210
○21年3月期                 (単位百万円)
 (固定負債≼8,420≻+自己資本≼76,344≻) ―  固定資産≼40,708≻
  =84,764- 40,708 = 44,056
○ 22年3月期                (単位百万円)
 (固定負債≼9,007≻+自己資本≼80,370≻) ―  固定資産≼44,101≻
  =89,377- 44,101 = 45,276
 最近3期の連結貸借対照表では金融基調はプラスであり、しかもプラスの金額は逐年拡大しています。このことはキャッシュフローの安定上大変好ましい傾向です。

2)業 績
 最近3期の連結損益計算書を見ると、安定した高収益を挙げていて、この点もキャッシュフローの安定上大変好ましいことです。

○連結損益計算書                          (単位百万円)
  平成 19 年度実績 平成 20 年度実績    平成 21 年度実績
(19.4.1 - 20.3.31) ( 20.4.1 - 21.3..31) ( 21.4.1-22.3.31 ) 前年度比
 売上高  59,450 63,072 62,932 △   140 
売上総利益
(同上率)
 32,072
(53.9%)
34,158
(54.2%)
33,937(5 3.9 %- ) △   221
 (△0.3 % )
販売費・一般管理費
 (同上率)
 25,610
(43.1%)
26,610
(42.2%)
 27,475
(43.7 % )
    865
(1.5 % )
 営業利益
 (同上率)
  6,461
(10.9%)
  7,547
(12.0%)
  6,461
  ( 10.3%)
 △1,086
(△1.7 % )
 経常利益
 (同上率)
  6,860
(11.5%)
  8,041
(12.7%)
  6,786
(10.8%)
 △1,255
 (△1.9%)
特別利益
特別損失
    18
     -
      -
    354
    206
      -  
   206
•  354    
税引前当期純利益又は純損失
 (同上率)
  6,879

(11.6%)
  7,686

(12.2%)
  6,993
 
(11.1 % )
 △ 693 
 
(△1.1%)
 
平均 月商  4,954 5,256 5,244 △   12

3)連結キャッシュフロー

○連結キャッシュフロー計算書の要約              (単位 百万円)
 項     目 (19.4.1 - 20.3.31) ( 20.4.1 - 21.3..31) ( 21.4.1 -22.3.31 )
営業活動によるキャッシュフロー ①
(内 税金等調整前当期純利益)
 7,346
(6,879)
6,370
(7,686)
9,225
(6,993)
投資活動によるキャッシュフロー ② △1,070 △3,565 △3,648
•  - ② (フリーキャッシュフロー)  6,276  2,805  5,577
財務活動によるキャッシュフロー △2,149 △2,300 △1,318
現金及び現金同等物の増減額 △  286    292  4,001

 最近3期の連結キャッシュフロー計算書の要約を見ると、好業績に支えられて毎期営業活動によるキャッシュフローは大幅なプラス、フリーキャッシュフローもプラスで現金及び現金同等物も茲許大幅に増えていて好ましい傾向です。またこうしたキャッシュフローの改善の結果22年3月末で長短借入金が0になったことは画期的な事態です。

 リスク発生時に備え企業は少なくとも月商の1ヶ月分くらいは手元資金を保有しておくことが望ましいと考えますが、期末現預金・及び現金同等物残高は、22年3月期は3.7ヶ月でありリスク発生時の対応には十分な自己資金を保有していると考えます。

○ 期末現預金・及び現金同等物残高推移           (単位 百万円)
 項     目 (19.4.1 - 20.3.31) ( 20.4.1 - 21.3..31) ( 21.4.1 -22.3.31 )
期末現預金 ①
(同上 平均月商比)
 11,234
( 2.3 ヶ月 )
 14,687
( 2.8 ヶ月)
 11,028
 ( 2.1 ヶ月)
有価証券残高 ②
預入期間が 3 ヶ月を越える定期 ③
  3,999
△    80
   798
△   40
  8,499△    80
•    +  ②  +  ③
(同上 平均月商比)
15,153
(3.1ケ月)
 15,446
 (2.9ヶ月)
 19,447
 ( 3. 7ヶ月)

○借入金残高推移                       (単位 百万円)
   項     目 20.3.31  末 21.3.31 末 22.3.31 末
  短期借入金 30     0     0
1 年以内に返済予定の長期借入金   1,162    70     0
  長期借入金     59   182     0
    計   1,251   252     0

4)キャッシュフローの状況に対する意見
 この会社は金融基調・業績・連結キャッシュフロー計算書・期末現預金・及び現金同等物保有状況等総て好ましい状況にあり、優等生ですが、強いて言えば、下記の2点を再考すべきだと思います。

1) 借入金額以上の現・預金残高を持つ実質無借金の企業と、借入金の無い無借金企業との差異は、銀行員の視点からは、借入金が無くなるとメインバンクの融資担当者が無くなると共に、企業の財務データが銀行のデーターベースに入らなくなり、緊急時の咄嗟の融資交渉がやり難くなる恐れがあるかどうかと言うことにあると私は思います。
 例えば、武田薬品工業は平成22年3月期末現預金残高は266,538百万円で、売上高1、465,965百万円の2.2ヶ月分の現・預金を保有していましたが、短期借入金を3,285百万円を残していました。その意味は上記のことだと私は思います。この事例の企業は無借金に踏み切ったわけですが、私は借入金を残して置いた方が良かったのではないかと思います。

2)この会社の生産拠点は小田原1ヶ所だけなので、東海地震等発生時の資金需要と対策について、前記の金融機関との借入関係の維持、地震保険、特に地震に起因する事業中断に対する利益保険の付保は充分なのかなどを検討をすべきだと思います。

 次回も事例について考えます。