「リスクとキャッシュフロー」について ⑦

2013年9月20日金曜日 | ラベル: |

6.キャッシュフロー検討の基礎
(3) 資金運用表
 ① 貸借対照表の比較と資金運用表の作成

   下記のような表を作成し、各勘定科目の金額の増減額を計算します。 

○比較貸借対照表                     (単位 百万円)
  科    目
/   期
/    期
 増 減 額
流動
 
資産
現金・預金
     
売掛金
     
┅ ┅ ┅
     
┅ ┅ ┅
     
流動資産 計
     
固定資産
有形固定資産
     
┅ ┅ ┅
     
┅ ┅ ┅
     
固定資産 計
     
  合  計      
流動
 
負債
買掛金
     
┅ ┅ ┅
     
短期借入金
     
┅ ┅ ┅
     
流動負債 計
     
固定負債
 長期借入金
     
┅ ┅ ┅
     
┅ ┅ ┅
     
固定負債  計
     


 
資本金
     
利益剰余金
     
資本  計
     
  合  計
     

 上記の表で、流動資産の増減金額、固定資産の増減金額、流動負債の増減金額、固定負債の増減金額、資本の増減金額を計算し、先に記述した「資金需要」と「資金調達」の基準に従って、短期資金と長期資金に分けて、資金運用表に書き入れます。

② 資金運用表 の二つのケース
 資金運用表が出来たら、最初に、長期資金から短期資金にお金が流れているか「ケース1」、短期資金から長期資金にお金が流れているか「ケース2」をみます。

○資金運用表  【ケース1】    ④ ≻ ③ の場合 
  (○○ /○ -○○ /○)          (単位百万円)
資 金 需 要
      資 金 調 達
項   目
  金  額
  項   目
金   額
 



 
流動資産増
流動負債減
 
 
 
 
 
 
 
 
 
流動資産減
流動負債増
 
( 長期から流用 )
 
 
 
 
(④ ― ③)
 
   計
• 
    計
•   
 
 
長期
資金
 
固定資産増
固定負債減
資本 減
 
( 短期へ流用 )
 
 
 
 
 
(④ ― ③)
 
固定資産減
固定負債増
資本 増
 
 
 
 
 
 
 
 
   計
•   
   計
•   
  合   計
 
  合  計
 

 長期資金の調達④が長期資金の需要③を上回っている場合は、長期資金調達で余ったお金は短期資金に流れます。短期資金の調達不足(②≼①)があれば先ず不足分に充当され、残りは現・預金の増加になります。短期資金の調達も十分な場合(②≻①)は、長期・短期資金の調達余剰分は総て現・預金増になります。前回貸借対照表のバランス  「金融基調」 で述べましたが、キャッシュフロー安定の原則からみて望ましい形です。


○資金運用表  【ケース2】    ④ ≼ ③ の場合 
  (○○ /○ -○○ /○)          (単位百万円)
資 金 需 要
      資 金 調 達
項   目
  金  額
  項   目
金   額
 



 
流動資産増
流動負債減
 
( 長期へ流用 )
 
 
 
 
 
(③- ④)
 
流動資産減
流動負債増
 
 
 
 
 
 
 
 
   計
• 
    計
•   
 
 
長期
資金
 
固定資産増
固定負債減
資本 減
 
 
 
 
 
 
 
 
 
固定資産減
固定負債増
資本 増
 
( 短期から流用 )
 
 
 
 
 
(③- ④)
   計
•   
   計
•   
  合   計
 
  合  計
 

 長期資金の調達が不足している場合です。長期資金の調達不足分を短期資金で賄うことはキャッシュフロー安定の見地からは好ましいことではありません。ただ、前回6-(1)述べましたが、今までの経営の結果、「固定資産≼(資本+固定負債)」となっている企業の場合は直ちにキャッシュフローに問題が生じないことも有り得ます。
 何れにしても、毎期「ケース1」の傾向であることがキャッシュフロー安定の見地からは望ましいと言えます。

③ 現・預金の増減は資金運用の結果である。
 現・預金の増減は資金運用表の理論上は資産の増加であり資金需要ですが、キャッシュフローの実際ではその期間の資金運用の結果です。最終的に長期・短期資金の資金調達・資金需要の過不足の結果で現・預金が増減します。
 後述する「間接法によるキャッシュフロー計算書」では現・預金の増減はその期間のキャッシュフローの結果として示されますが、資金運用表では、形の上では、現・預金の増減は短期資金の資金需要の項目に入ります。ここのところを良く理解しておいて下さい。

④資金運用表の分析・評価
 作成した資金運用表の分析・評価こそが重要です。
〇資金運用表の実例
下記は、私が銀行員の現役時代に担当した、ある衣料品販売会社の資金運用表です。
○資金運用表     (○○ /○ -○○ /○)                (単位百万円)
資 金 需 要
      資 金 調 達
項   目
  金  額
  項   目
金   額
 
 



現預金 増
受取債権増
(受取手形増
(売掛金増
棚卸資産増 )
短期貸付金増
雑流動資産増
雑流動負債減
   192
   343
   122)
   221)
   226
   125
    77
     2
支払債務増
(支払手形増)
(買掛金増)
短期借入金増
 
 
 
( 長期から流用 )
    323
( 115) 
( 208)
    431
 
 
 
(   211 )
   計    965     計     754
長期
資金
固定資産増
 
( 短期へ流用 )
   206
 
(  211)
投 融資減
長期借入金増
資本 増
     54
    285
     78
   計
   206
   計
417
  合   計
 1,171
  合  計
1,171


〇資金運用表の説明
 上記の資金運用状況の説明は下記のようになります。
1) 金融基調の動向
 先ず最初に、長期資金から短期資金にお金が流れているか、短期資金から長期資金にお金が流れているかをみると、長期資金から短期資金に211百万円流用された形になっています。従って、この期間は、長期資金についてのキャッシュフローの不安定要因は生じていないと判断出来ます。
2)短期資金について
 ③で述べたように、現・預金の増減は資金運用の結果なので除外して検討を行います。現・預金の増加192百万円を除くと、短期資金需要は773百万円になります。 
 即ち、受取債権の増加343百万円(内訳・受取手形増122百万円・売掛金増221百万円)、棚卸資産の増加226百万円、短期貸付金の増加125百万円、雑流動負債の増加77百万円、雑流動負債の減少2百万円で合計773百万円の資金需要があった訳です。
 これに対して、支払債務増323百万円(内訳支払手形増115百万円・買掛金増208百万円)の資金調達が出来たものの、なお短期資金は450百万円不足し、短期借入金を431百万円増やし、その上長期資金から流れて来た資金211百万円のうちの19百万を不足分に充当しています。残額の192百万円は手元現・預金の増加になりました。
3)長期資金について
 固定資産増206百万円の資金需要に対し、投融資減54百万円、資本増78百万円計132百万円の資金調達では74百万円不足し、長期借入金285百万円を借りています。
 長期資金調達の余りは短期資金に流れ、大半は現預金の増加になりました。
4)業績について
 この会社は、衣料品の販売で今期は年間3、255百万円の売上を挙げ、今期売上は前年比244百万円増(伸び率8%)となっています。利益率は横ばいです。
 今回は省略しますが、資金の源泉となる業績の実績・見込みを詳しく検討をすることが必要です。
 この資金運用表をどう評価すれば良いのでしょうか。
1)資金需要・資金調達内容の評価
 売上高が前期比244百万円増加しているこの企業で、受取債権増343百万円、棚卸資産増226百万円計567百万円の資金需要は妥当な金額なのでしょうか。
 支払債務増323百万円の資金調達を差し引いても、売上高が244百万円増加して、受取債権の増加額が343百万円というのは過大なのではないかと見られます。このためには、売上を増加させるのに無理をしていないか、従来の売上回収条件・仕入条件との対比などが必要になります。さらに、棚卸資産が226百万円増加しているのも過大ではないかとみられます。このためには、従来の在庫状況と対比し、伸び率8%の売上増に対し妥当な在庫の増加額なのか、デッドストックは生じていないかなどを検討しなければなりません。
 短期貸付金125百万円の増加は、子会社の設立資金の貸付けだと説明を受けています。子会社の設立の妥当性、短期貸付金として処理して良いかも検討を要します。
 長期資金の不足74百万円に対し、何故この期間に285万円もの長期資金を借り入れたかについては、現在の貸借対照表の状態や子会社を含めた将来の投資計画等により可否を判断しなければなりません。

 キャッシュフローは企業経営の結果であり、キャッシュフローを評価判断することは、最終的には企業経営の現状を判断することになります。
 昭和30年代(1955年~1965年)旧住友銀行では、前述の資金運用表の分析・
評価により企業のキャッシュフローの評価を行っていました。まだキャッシュフロー計算書など言われていなかった時代です。私は当時資金運用表の分析で企業のキャッシュフローの状況は十分に判断・評価出来ていたと確信しています。