「リスクとキャッシュフロー」について⑬

2013年12月1日日曜日 | ラベル: |

7.キャッシュフロー検討の事例 事例③

 今回は、私がご相談を受けた中小企業のキャッシュフロー検討表を3例お示し致します。

 結論から申し上げますと、今中小企業のキャッシュフローに関して、取引金融機関は全くアドバイスをしていないのではないかと、古い銀行員としては思わざるを得ません。

事例③―1  キャッシュフロー検討表         (単位 百万円)
   項    目
18/9– 19/9
19/9 - 20/9
増 減
期初現・預金残高
15
68
  53
受取債権
 減27
減8
△19 
棚卸資産
  減2
増△2
△4
短期貸付金
 減19
増△25
△44
雑流動資産
  減2
増△12
△14
支払債務
減△28
   0
28
未払税金
 増44
減△47
△91
雑流動負債
 減△8
減△30
△22
営業活動によるキャッシュフロー
  58
△108
△166
 短期借入金
減△70  
増14
  84
 短期資金収支
△12
△94
△82
 
資本
 増72
増39
△33
固定資産
 減66
増△50
△116
 投融資
 増△5
減19
24
投資活動によるキャッシュフロー
  133
   8
△125
長期借入金
 減△68
 増41
  109
長期資金収支
  65
 49
△ 16

総合資金  収支
  53
 △45
△98
現・預金の増減額
  53
△ 45
△ 98
期末 現預金
  68
  23
△ 45  

 この会社のキャッシュフローの最大の問題点は、キャッシュフローが安定していないということにあると考えます。18/9– 19/9 間と19/9 - 20/9間を比べますと、殆ど全ての勘定科目で増減が逆転しています。その結果18/9– 19/9 間の営業活動によるキャッシュフローは58百万円のプラスであったのに対し、19/9 - 20/9間の営業活動によるキャッシュフローは108百万円のマイナスと大幅に悪化しています。キャッシュフローの状態が安定していない訳です。その理由については検討を要しますが売上げの増減に応じたなだらかな勘定科目の増減がキャッシュフロー安定の基本です。

 投資活動によるキャッシュフローの状況、長短借入金の増減の状況についても全く同じことが言えます。

 その結果総合資金収支は18/9– 19/9 間プラス53百万円に対し19/9 - 20/9間はマイナス45百万円です。期末現預金残高は15百万円、68百万円、23百万円と大幅に増減しいています。こんな不安定なキャッシュフローの状況を取引金融期間が傍観しているとすれば、怠慢以外の何者でもありません。会社の事業方針がどうなっているか。またキャッシュフローに対する考えかたはどうなっているか等について会社側と篤と協議すべきだと思います。

事例③―2 キャッシュフロー検討表          (単位 百万円)
項   目          19.10 ―2 0.9 20.10 - 21.9  対比増減
期初現・預金      166    290    124
   受取手形 増 △   16 減     3     19   
  材料。貯蔵品増 増 △    5 減     5  10
工事未収入金 減    169 増△    1 △   170
未成工事支出金 減     11 増△    7 △   18
   未収入金 減      3 増△   46 △    49
  短期貸付金 減      1 減     2    1
  工事未払金 増      1 増     4      3
支払手形 減 △   21 増   133  154
未払法人税等 減 △    5 増    13     18
未払費用 減△     7       -      7
営業活動によるキャシュフロー      131     106 △   25
短期借入金        0 増   200       200
短期資金収支      131     306    175
 
自己資本の増加額        4      l7     13
固定資産 減     14 減     6 △     8
投資有価証券 増△    18       -     18
保険積立金 増△     1 増△    2 △    1
長期前払費用 減      1 増△    3 △     4
長期貸付金 減      1 減     2      1
  長期保証金       - 減     8    8
長期資金収支     1      28   27
長期借入金 増   192 増    64 •   128
社債 減△  200 減△   10    190
  長期資金収支  △     8     254   262
 
総合資金収支   124   378  254
現・預金増減額 増   124 増   378    254
期末現預金     290     668    378

 この事例は建設業のケースです。営業活動によるキャッシュフローは各期とも1億円以上のプラスで好ましい形です。ただ内容は工事未収入金の大幅増減・支払手形の大幅増減・未収入金の大幅増減によるもので、それぞれ事由あることとは思いますが、安定した動きではない点が気がかりです。長期資金繰りは毎期僅かの金額の影響しかありません。

 問題は短期借入金・長期借入金・社債の大幅増減です。取引金融機関が貸してくれるからだと思いますが、この会社には借入に対する方針が無いと思われます。借りられたら良いというものではありません。この企業の場合は基本的に借入の必要はなく、社債・借入金の増加は現・預金の増加になっているだけです。手元資金は多い方が好ましいのですが,こんなに増加させる意味は無いと思います。

事例③―3  キャッシュフロー検討表          (単位 百万円)
     〇16/5 ― 19/5
   項    目
    金   額
期初現・預金残高
        288
 
受取債権増
棚卸資産増
雑流動資産増
支払債務増
未払金増
雑流動負債減
△       169            
△        53
△        12
         54
          9 
△        17
営業活動によるキャッシュフロー
△        188
 短期借入金減
△         29
 短期資金収支
△        217
 
資本減
固定資産増
 投融資減
△       231
△        92
         56
投資活動によるキャッシュフロー
△       267
長期借入金増
社債増
        189
        158
長期資金収支
         80       

総合資金  収支
△        137
 
現・預金の増減額
△       137
期末現預金 残高
        151

 この事例は商社です。この会社は18/5期、19/5期と業績が悪化し、キャッシュフロー対策のご相談を受けたので、業績悪化直前の17/5から19/5期に至る3年間のキャッシュフローを検討したものです。売上は17/5期に比べ18/5期19/5期は100百万円ほど増加しているのですが、経費が増大し赤字になっています。
 11月1日の事例でも同じことを書きましたが、100万円程度の売上増加に対し、受取債権増169百万円、棚卸資産増54百万円計223百万円の増加は、売り増加額の2倍に及び明らかに過大です。「売上を増加させるのに無理をしているのではないか」と考えられます。
 営業活動によるキャッシュフローのマイナス188百万円と、赤字231百万円を主因にこの会社のキャッシュフローは大幅に悪化しました。結果長期借入金159百万円、社債158百万円を調達しても足りず、現預金は137百万円減少しました。
 この会社の現預金が多かったこと、取引金融機関が資金を供給して下さったので、破綻に至らなかったわけです。この段階で経理担当者を変え、その後のキャッシュフロー対策のご相談を受け、会社と一緒に苦労しました。この3年間に、取引金融機関からのアドバイスは殆どなかったようです。
 これらの3事例は極端なケースで、キャッシュフローの安定した企業も数多くあるとは思います。しかし、キャッシュフローで苦労されてる中小企業に対し、昔は、取引金融機関は自己の貸出金債権保全のためにも、貸出先に苦言を呈し、キャッシュフローが円滑に推移するよう努めていました。今は企業自体が自社のキャッシュフローについて良く々々自覚していなければならない時代なのだと痛感致します。