「リスクとキャッシュフロー」について ㉗

2014年5月20日火曜日 | ラベル: |

 11.「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」の「財務診断モデル」 ⑥
 5月14日(水)に、2月20日のブログでご紹介した経済産業省のBBLセミナーに参加し「2014年版中小企業白書」のご説明を聞いて来ました。
「2014年版中小企業白書」の特色は「小規模事業者に特に焦点を当て、データや分析などで実証的に小規模事業者の実態や課題を明らかにしている。」ことだのご説明でした。
 小規模事業者の状況は下記です。企業数で86.5%、従業員数で25.8%を占めています。 

  企業数 従業員数 売上高
(法人のみ)
  比率(%)   比率
(%)
大企業 1. 万者 0.3 1,397 万人 30.3 764.9 兆円
中小企業 385.3 万者 99.7 3,217 万人 69.7 609.6 兆円
  内小規模
事業者
334.3 万者
 
86.5
 
1,192 万人 25.8    ―
  計 386.4 万者 100.0 4,614 万人 100.0    ―

「2014年版中小企業白書」の詳しい内容は別途ご報告をしたいと思っています。
 ◎損害額と復旧費用の相違
 4月10日のブログの最後で問題を提起した1)東日本大震災における津波に当たるものは首都圏直下型地震では「大火災」だということ、2)小規模企業のBCP、の最後の、3)損害額と復旧費用の相違について今回書きます。
 実は今年の3月に研究仲間の方から「財務診断モデル初級編にある、損害保険の整理という中に、時価(再調達価格-経年減価)と新価(再調達価格)という言葉がありますが、通常は、どちらが多いのでしょうか。また、どちらでもよいのでしょうか。
あるいは、簿価という概念は使わないのでしょうか。」と言うご質問を受けました。下記はそれに対する私の返事です。
 『ある工場の「簿価」」は、「工場を建設するのに掛かった費用ー減価償却額」になります。
保険契約で言う「時価」は「新価(再調達価格・今工場を建設するには幾ら懸かるか)ー経年減価」です。「再調達価格」は建設当時とは変動しています。多くの場合は、建設当時より高くなっているでしょう。
工場が全壊した場合、損益計算書上の損失額は簿價になります。損益計算書上の損失額と、工場を再建する費用とは異ります。キャッシュフロー上は再調達価格の保険金額がなければ、資金は不足します。ですから「新価(再調達価格)」で保険契約をすべきです。ただ保険料が高くなりますので、時価で契約する場合が多いかもと思います。しかしそれではキャッシュフロー対策上は不十分です。
更に言えば、災害発生後工場再建にあたり新しい機械設備に変えたりすれば、新価以上のお金が必要になります。』
これは保険契約に際しての考え方ですが、災害時のキャッシュフローの考え方の根本でもあります。
損益計算上の損失額は古い工場の場合などは極めて少額になります。損害額は『時価、即ち新価(再調達価格・今工場を建設するには幾ら懸かるか) ー 経年減価」』だと思います。然し災害時のキャッシュフロー対策を検討する場合にはこれも使えません。
同じ工場を再建するのなら必要なお金は再調達価格の金額になります。この際建物の構造を変える、新しい機械設備に変えるなどの場合は新たに計算をしなければなりません。
私は銀行系の損害保険代理店に勤務しましたので、このあたりのことを勉強することが出来ましたが、損害保険に詳しくない、BCPやリスクマネジメントの実務家からは前記のようなご質問を頂くことになります。
また、地震保険(地震に対する損害保険)についてもあまりご存知のない方があるように思われます。財務省のHPに「地震保険制度の概要」と言うページがあります。http://www.mof.go.jp/financial_system/earthquake_insurance/jisin.htm
「地震保険の概要」の記述は下記です。
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  • 地震保険は地震・噴火またはこれらによる津波を原因とする火災・損壊・埋没または流失による損害を補償する地震災害専用の保険です。
  • 地震保険の対象は居住用の建物と家財です。
  • 火災保険では、地震を原因とする火災による損害や、地震により延焼・ 拡大した損害は補償されません。
  • 地震保険は、火災保険に付帯する方式での契約となりますので、火災保険への加入が前提となります。地震保険は火災保険とセットでご契約ください。すでに火災保険を契約されている方は、契約期間の中途からでも地震保険に加入できます。
  • 地震保険は、地震等による被災者の生活の安定に寄与することを目的として、民間保険会社が負う地震保険責任の一定額以上の巨額な地震損害を政府が再保険することにより成り立っています。
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 最後の『地震保険は、地震等による被災者の生活の安定に寄与することを目的として、民間保険会社が負う地震保険責任の一定額以上の巨額な地震損害を政府が再保険することにより成り立っています。』『地震保険の対象は居住用の建物と家財です。』
という2点にご注目下さい。
 政府は地震の被災者の生活の安定に寄与することを目的として地震保険制度を設けている訳です。従って対象は『居住用の建物と家財』に限定され、企業の物件はここで言う地震保険の対象にはなりません。
 企業は民間の保険会社が引き受ける地震保険の契約をすることになります。ところが我が国では地震のリスクが大きいため、特に中小企業が地震保険を契約することは困難な場合が多いと考えられます。火災や水害の場合は前記の保険の考えで保険契約が出来ても、肝心の地震に際しての保険契約が出来ない場合にどうしたら良いのか。そのための制度が、政府の『災害復旧貸付制度』なのです。
 例えば、中小企業庁のHPに『東日本大震災復興特別貸付』の記述があります。
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 震災により直接又は間接被害を受けた中小企業者の皆さんなどを対象に、事業の復旧に必要な設備資金、運転資金を長期・低利で融資する新たな制度です。
対象となる方
① 直接被害者
・ 地震・津波等により直接被害を受けた方
→ 市区町村等の罹災証明が必要。 (写しで可)
・ 原発事故に係る警戒区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域(以下「警戒区
域等」)の公示の際に、当該区域内に事業所を有していた方。
→ 納税証明、商業登記簿等の確認書面が必要。 (写しで可)
② 間接被害者
・ 直接被害者(大企業可)の事業活動に相当程度依存している等の要件を満たす方
→ 直接被害者(取引先)の罹災証明(写しで可、事後提出可)又は被害証明書が必要。
(被害証明書を利用する場合、被害証明申請書に必要事項(取引企業の被害状況や
当該企業との取引依存度、売上額等の減少率等)を記載の上、お申し込み先にご提
出ください。)
③ その他の方
・ その他、震災の影響により、業況が悪化している方。
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http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/g_book/h25/download/03jyuten.pdf
 この制度は、地震保険が掛け難い我が国の中小企業のキャッシュフロー対策にとって大変重要な制度です。
 この制度を有効に生かすために、「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」には『財務診断モデル』と言う記述があるのですが、何回も言うように生かされていません。誠に残念なことです。
 避けられない地震災害にあたり、個人に対しては政府が再保険を引き受ける地震保険制度で、中小企業に対しては『災害復旧貸付制度』でお金を貸すのが根本のサポート対策です。
 お金が全てではありませんが、企業が存続する為には最終的にはお金が回るかが重要です。