「リスクとキャッシュフロー」について ㉛

2014年7月1日火曜日 | ラベル: |

〇『国土交通省首都直下地震対策計画 [第1版](中央防災会議首都直下地震対策検討ワーキンググループ)』について
 平成26年4月1日に『国土交通省首都直下地震対策計画 [第1版]』が公表されています。これは首都直下地震が発生した場合の国家的危機に備えるべく、国土交通省として、広域的見地や現地の現実感を重視しながら、省の総力を挙げて、取り組むべきリアリティのある対策をまとめるものとされています。
 前回」6月20日のブログで
、「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」第2版の「BCP取組状況チェックリスト」の「あなたの会社のビルや工場では地震や風水害に耐えることができますか。そして、ビル内や工場内にある設備は地震や風水害から保護されていますか?」を判断するに際して、平成25年に公表された「東京都 あなたのまちの地域危険度 地震に関する地域危険度測定調査(第7回)」では、都内の市街化区域の5,133町丁目について、各地域における地震に関する危険性を、建物の倒壊及び火災について測定し、建物倒壊危険度・火災危険度・総合危険度が、町・丁目ごとに5段階のランクで示されていますから、これを参考に出来ます。
と書きました。しかし、どのような地震が起こるのかについては言及されていません。
  『国土交通省の「首都直下地震対策計画[第1版]」』では首都直下地震で想定されている揺れは、「震源の直上で震度6強、その周辺のやや広域の範囲で震度6弱、地盤の悪いところで一部震度7が発生する。」とされています。
  東京都所在の企業は、「東京都 あなたのまちの地域危険度 地震に関する地域危険度測定調査(第7回)」と『国土交通省の「首都直下地震対策計画[第1版]」』の記述の双方を見て、ご自分の企業の立ち位置(首都直下地震発生時に置けるご自分の企業の立地条件)をある程度判断することが出来ると私は思います。
 BCPのコンサルタントに依頼すれば、彼らは易々としてこうした作業をすると思いますが、コンサルを依頼出来ない、特に小規模企業の場合は、ご自分で立ち位置を検討しなければなりません、そこで今回は『国土交通省首都直下地震対策計画 [第1版]』の中身(◊ ◊ ◊ ◊で囲まれた部分)をご紹介します。

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第1章 対策計画の位置づけ等
1-1 首都直下地震が発生した場合の国家的危機
○ 我が国の首都及びその周辺地域では、過去、M7クラスの地震や相模トラフ沿いのM8クラスの大規模な地震が発生している。
○ 中央防災会議首都直下地震対策検討ワーキンググループは、最新の科学的知見等に基づき、平成25年12月19日に「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)」(以下、「最終報告」という。)を公表した。
○ 我が国の首都圏は、他の地域と比べ人口や建築物、経済活動等が極めて高度に集積
しており、大規模地震の発生により、人的・物的被害や経済被害が甚大なものになると予想される。また、首都圏には、政治中枢や行政中枢、あるいは経済中枢といった首都中枢機能も集積しているため、地震発生時における首都中枢機能の継続性の確保が重要な課題となる。
○ 首都直下地震の発生は、首都圏の多くの国民等の人的な被害の危険性だけでなく、
国全体の経済活動等への影響や海外への波及も懸念されるため、その対策については、我が国の存亡に関わる喫緊の根幹的課題である。
(中略)
1-3 対象とする地震
○ 本計画では、「首都圏の人命を守る」「首都中枢機能を継続させる」「首都圏を復興する」との観点を基本とし、最終報告等を踏まえ、次に挙げる地震を想定し-ながら、対策をとりまとめている。
・地震対策は、当面の脅威として、切迫性が高いとされているM7クラスの地震を対象とする。なお、この地震は、様々なタイプが考えられ、どこで発生するかわからないとされていることから、最終報告で想定されているM7クラス地震全てを念頭に対策を検討する。
・津波対策については、東北地方太平洋沖地震の震源域の南側に震源断層域が位置し同地震に誘発される可能性があるとされている延宝房総沖地震タイプの地震と、当面発生する可能性は低いが百年先頃に発生する可能性が高くなっていると考えられている大正関東地震タイプの地震による津波を対象とする。

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【 解説 】
 「首都直下地震の発生は、我が国の存亡に関わる」と言う認識です。
 「対象とする地震」は「当面の脅威として、切迫性が高いとされているM7クラスの地震を対象とする。」
なお、中央防災会議「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)」で想定されているM7クラス地震全てを念頭に対策を検討されています。
中央防災会議「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)」でも被害想定がなされていますが、『国土交通省の「首都直下地震対策計画[第1版]」』の被害想定には、生々しい具体例が記述されており非常に参考になります。以下はその記述の抜粋です。

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2-2 深刻な事態
(1)震度6強以上の激しい揺れによる家屋の倒壊、大規模な火災の発生
・震度度6強以上の激しい揺れにより、東京都では江戸川区、江東区、大田区等、川崎市では川崎区等を中心に約18万棟の木造住宅、老朽ビル・マンション等が全壊。
・また、都心部に広く点在する急傾斜地や国分寺崖線等に沿う宅地造成地でも斜面崩壊や地盤変状により家屋等が倒壊。
・倒壊した家屋、工場、店舗等から出火し、特に世田谷区、杉並区、足立区等、環状6号~環状8号に囲まれたエリアを中心として広い範囲に存在する木造住宅密集市街地で大規模な火災延焼が発生、約41万棟が焼失。
・建物倒壊による死者は最大約1万人、火災による死者は最大約1.6万人と想定され、また倒壊や火災により救助を要する人が約5~7万人発生。
・羽田空港や京浜港等の東京湾臨海エリアでは、国道357号や晴海通り等の幹線道路が液状化による地盤沈下や側方流動により通行不能となったり、鉄道が架線の損傷や軌道変状等により運行不能となるなど、臨海エリアと都心部を結ぶアクセス交通が寸断され孤立する地区が発生。
・被災地の上空では、航空管制が整わない中で、国の防災機関、自治体、医療関係、マスコミ等のヘリが輻輳し、二次災害の危険が高まる他、最も優先される救命救助活動の支障となる。
・相模トラフ沿いの地震等が発生した場合には、神奈川県や千葉県等の太平洋沿岸に最大10mの津波が来襲し、約4千人~約11千人の死者が想定され、特に相模湾沿いの沿岸部で被害が大きい。
(2)多くの利用者が集中する地下街、商業ビル等の都市施設や鉄道、空港、道路等の交通施設で人的被害が拡大し、大量の帰宅困難者や滞留車両が発生
・首都圏の鉄道では、地震発生時に最大で約180万人の利用者が見込まれ、架線の損傷や軌道変状、切土・盛土の被害、橋梁の亀裂・損傷等が発生。
・国内最大の離着陸回数を誇る羽田空港では、発災直後に滑走路が閉鎖され、約45機が着陸不能となる。
・主要駅や新宿、池袋、東京八重洲等の地下街など多くの利用者が集まる閉鎖空間では、天井パネル、壁面、ガラス、吊りモノなどが落下し多数の死傷者が発生、ガス漏れや火災の発生により被害が拡大。
・また、都内の主要駅、地下鉄、羽田空港、地下街等では多くの利用者が滞留する状況となり、停電や火災、情報の遅れによるパニックが発生し、出口を求めて殺到する人々の集団転倒など人的被害がさらに拡大。
・1都3県には約26万台*1のエレベーターが稼働しており、地震の揺れにより多くのエレベーターが停止し、最大で1万7千人の閉じ込めが発生。
*1 2013年3月31日現在、一般社団法人日本エレベーター協会調べ
・公共交通機関が停止した場合、最大で800万人の帰宅困難者が発生、徒歩帰宅者が車道にあふれ渋滞を助長し、緊急車両等の通行の支障となる。
・多くの人が集まる都心部では、携帯電話やインターネット等の情報通信網の寸断やアクセスの集中により、個人による状況把握・情報収集が困難となり、逃げ惑い等の混乱が発生。
・震度6強以上のエリアでは沿道建物や電柱の倒壊、道路施設の損傷、また湾岸エリアでは液状化が発生し、道路交通が寸断。幹線道路上には膨大な数の滞留車両・放置車両が発生し、自衛隊や消防など救命救助活動にあたる緊急車両の移動を阻害し被害が拡大。
(3)最大約720万人の避難者が発生し、避難所、応急物資、医療ケア等が絶対的に不足、避難生活が長期化する
・避難者は発災2週間後に最大約720万人(うち都区部290万人)に及び指定避難所収容可能数を超過する。
・食料、救援物資、また乳幼児、高齢者、女性等の物資ニーズへの対応ができない状況が継続し、食料不足は最大で3,400万食に及ぶ。
・発災1週間後でも、1都3県で停電率は約5割、断水は最大約3割で継続し、冷暖房の利用、飲料水の入手、水洗トイレの利用が困難な状況を強いられる。飲料水については、膨大な需要に対して、不足量は最大1,700万リットルに及ぶ。
・特に都市部の避難所では、避難者の集中やライフラインの被災により、居住スペースの減少、仮設トイレの不足、屎尿処理やごみ収集の遅延、感染症の蔓延など、避難所での保健衛生環境が悪化し、高齢者等を中心に健康を害する人が多数発生。
(4)地震による被災に加え低気圧や台風、余震の継続により浸水や斜面崩壊等の被害が拡大する
・1日に約600隻の船舶が航行する東京湾では、千葉港など東京湾沿岸のコンビナートにおいて、地震の揺れや液状化により火災や油の流出等が発生、航行する船舶や沿岸部で被害が拡大。
・墨田区や江東等の海抜ゼロメートル地帯において、排水機場の機能不全等により大規模な浸水被害が発生。また、地震の強い揺れに伴う堤防や水門等の沈下・損壊に伴い洪水・高潮により浸水被害が発生するおそれがあり、さらに、満潮時や異常潮位発生時には浸水域が拡大・深刻化することになる。
・地震により都心部の急傾斜地や宅地開発が進む国分寺崖線等の崖地沿い等で斜面崩壊が発生、加えて地震後の余震継続や降雨により、斜面崩壊の拡大や新たな斜面崩壊の発生により被害が甚大化。
(5)首都圏の交通・物流システムが発災直後から長期間に渡り機能不全に陥る
・1日約100万台が利用する首都高速道路では、市街地火災の影響による鋼桁の損傷、地盤変異による高架橋の大変形が生じた場合、首都高3号線、4号線や湾岸線等で数ヶ月に渡り通行不能となる。
・全国の外貨取扱貨物量の約3割を占める東京湾各港では、非耐震岸壁での陥没や沈下、荷役機械の損傷等により、多くの埠頭で港湾機能を失う。
・東京湾内では重要港湾の923岸壁のうち250岸壁が被災し、東京湾内では石油等が流出して船舶の入出港が困難となる。
・全国の国内線乗降客数の約3割を占める羽田空港では、液状化により滑走路2本が使用できなくなり、またアクセス交通(鉄道、モノレール、道路)の停止により、空港機能が低下。
・輸送ルートの被災等によりサプライチェーンが寸断され、企業の生産活動が低下。その影響が長期化した場合には、生産機能の国外移転等が進み、我が国の国際競争力が低下。
・中央省庁の庁舎等が被災すると、国家運営機能の低下や政府の災害対応に遅れ等が発生し、被害の拡大や長期化をもたらす。
(6)広域調査の遅れ、資機材・人員の不足等によりインフラの復旧が長期化、企業活動が停滞しその影響が全国へ波及
・深刻な交通渋滞により施設点検や緊急調査が大幅に遅延するとともに、ヘリポートや燃料補給箇所の不足、飛行するヘリの輻輳等により、ヘリによる広域調査に支障が生じる。
・都心部において、様々な施設等の復旧工事の集中・輻輳が発生し、工程調整や人員・資機材・施工ヤード等の不足、地権者との調整などにより復旧工期が大幅に遅延。
・被災等により1日のべ4,000万人の輸送を担う鉄道の運行停止が長期化、発災後1ヶ月経過しても約60%の復旧に止まり、被災地外からの通勤困難等により首都圏の企業活動が停滞。
・また、東海道新幹線の小田原以東、上越新幹線の熊谷以南、東北新幹線の小山以南が不通となり、広域的な移動に支障が生じる。

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【 解説 】
主な内容をピックアップします。
・震度6強以上の激しい揺れによる家屋の倒壊、大規模な火災の発生
・相模トラフ沿いの地震等が発生した場合には、神奈川県や千葉県等の太平洋沿岸に最大10mの津波が来襲し、約4千人~約11千人の死者が想定される。
・多くの利用者が集中する地下街、商業ビル等の都市施設や鉄道、空港、道路等の交通施設で人的被害が拡大し、大量の帰宅困難者や滞留車両が発生
・最大約720万人の避難者が発生し、避難所、応急物資、医療ケア等が絶対的に不足、避難生活が長期化する
・食料不足は最大で3,400万食に及ぶ。 
・発災1週間後でも、1都3県で停電率は約5割、断水は最大約3割で飲料水については、膨大な需要に対して、不足量は最大1,700万リットルに及ぶ。
・仮設トイレの不足、屎尿処理やごみ収集の遅延、感染症の蔓延など、避難所での保健衛生環境が悪化し、高齢者等を中心に健康を害する人が多数発生。
・首都高3号線、4号線や湾岸線等で数ヶ月に渡り通行不能となる。
・広域調査の遅れ、資機材・人員の不足等によりインフラの復旧が長期化、企業活動が停滞しその影響が全国へ波及
・被災等により1日のべ4,000万人の輸送を担う鉄道の運行停止が長期化発災後1ヶ月経過しても約60%の復旧に止まり、被災地外からの通勤困難等により首都圏の企業活動が停滞。
・東海道新幹線の小田原以東、上越新幹線の熊谷以南、東北新幹線の小山以南が不通と
なり、広域的な移動に支障が生じる。  等々。

将に、我が国の存亡に関わる事態であり、個々の中小企業が首都直下地震に備えたBCPを策定するのは不可能に近いとお思いでしょう。我々が行うべきことは、この想定を踏まえて、東京に所在する中小企業は何をなすべきかです。
次回に私の意見を申し上げます。