「リスクとキャッシュフロー」について ㉜

2014年7月10日木曜日 | ラベル: |

〇首都直下地震と中小企業BCP
 『国土交通省首都直下地震対策計画第1版]』は、首都直下地震は我が国の存亡に関わる事態であると言っています。個々の中小企業が首都直下地震に備えた完全なBCPを策定することは不可能に近いと思います。首都直下地震に備えて、東京に所在する中小企業のBCPはどうあるべきでしょうか。
   「中小企業BCP策定運用指針第2版」「BCP取組状況チェックリスト」の物的資源
(モノ)には、先ず、
・あなたの会社のビルや工場は地震や風水害に耐えることができますか? そして、ビル内や工場内にある設備は地震や風水害から保護されますか?
あなたの会社周辺の地震や風水害の被害に関する危険性を把握していますか?
と言う質問があります。
 平成26年4月の『国土交通省首都直下地震対策計画第1版]』によれば、首都直下地震で想定されている揺れは、「震源の直上で震度6強、その周辺のやや広域の範囲で震度6弱、地盤の悪いところで一部震度7が発生する。」とされています。
 そして、平成25年に公表された「東京都 あなたのまちの地域危険度 地震に関する地域危険度測定調査(第7回)」では、都内の市街化区域の5,133町丁目について、建物倒壊危険度・火災危険度・総合危険度が町・丁目ごとに5段階のランクで示されています。
 例えば、私が昔勤務していた「江東区亀戸5丁目」は建物倒壊危険度・火災危険度・総合危険度全て危険度5です。更に、『国土交通省首都直下地震対策計画第1版]』では、「墨田区や江東等の海抜ゼロメートル地帯において、排水機場の機能不全等により大規模な浸水被害が発生。また、地震の強い揺れに伴う堤防や水門等の沈下・損壊に伴い洪水・高潮により浸水被害が発生するおそれがあり、さらに、満潮時や異常潮位発生時には浸水域が拡大・深刻化することになる。」と予測されていますから、中小企業としては手の打ちようが無い地区だと思います。
 これに比べ私が最後に勤務していた「千代田区九段南3丁目」は建物倒壊危険度・火災危険度・総合危険度全て危険度1です。首都直下地震が発生した場合、亀戸5丁目に所在する企業は、先ず倒壊するか、仮に倒壊を免れても火災で焼失するのではないかと想定されます。
チェックリスト、次の
・あなたの会社の工場が操業できなくなる、仕入先からの原材料の納品がストップする等の場合に備えて、代替で生産や調達する手段を準備していますか?
と言う質問に対しては、
『国土交通省首都直下地震対策計画第1版]』では、「首都圏の交通・物流システムが発災直後から長期間に渡り機能不全に陥る」と予測しています。更に「輸送ルートの被災等によりサプライチェーンが寸断され、企業の生産活動が低下。その影響が長期化した場合には、生産機能の国外移転等が進み、我が国の国際競争力が低下し、(中略)企業活動が停滞しその影響が全国へ波及する」と予想しています。こういった状況下で中小企業が「代替で生産や調達する手段を準備」することは至難の技です。まして小規模企業が対策を樹立することは無理だと私は思います。
 もっと安全な場所に引越せば良いのかも知れませんが、そんなことが出来る中小企業があるでしょうか。中小企業は先ず、『国土交通省首都直下地震対策計画第1版]』の被害予測と、「東京都 あなたのまちの地域危険度 地震に関する地域危険度測定調査(第7回)」の危険度の判定を見て、ご自分の企業の立地条件を把握すべきです。
 「中小企業BCP策定運用指針第2版」「BCP取組状況チェックリスト」のチェック項目はまだまだ続きますが、その第一歩でシビアな判断を下さなければならない場合が生じます。
 東京都所在の企業に限らず、こういった判断は基礎的な重要項目ですが、自力でこういった判断が出来る中小企業がどのくらいあるでしょうか。BCPのコンサルタントに依頼すれば、必ずこの作業はするでしょうが、一般の中小企業にはこういった知識は普及していないと思います。 国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」
http://www1.gsi.go.jp/geowww/disapotal/index.html
の存在を知っている中企業も未だ少ないと思います。
 それでは、亀戸5丁目に所在する中小企業はどうすれば良いのか。「中小企業BCP策定運用指針第2版」の基本方針の項目①人命(従業員・顧客)の安全を守る。②店を開け営業を続ける(自社の経営を維持する)。③供給責任を果たし、顧客からの信用を守る。④従業員の雇用を守る。⑤地域経済の活力を守る。の中で出来ることからやるとすれば。発災時に①人命(従業員)の安全を守る。ことくらいしか出来ないでしょう。あとは自力でできる限りの対策を講じておく。しかし火災等で努力が水泡に帰することを予測しておくべきです。
 幸いに命を失わないで済んだら、周囲の情勢を見極めつつ,再建する方策を考えるしかありません。その際最も問題になるのは,再建に至るまでのキャッシュフローです。
お金が全てではありませんが、お金が回らなくなったら倒産します。
 平成17年に「中小企業BCP策定運用指針第1版」の策定作業が始まった際、中小企業庁は、4月1日のブログに書きましたように、
『現行の中小企業災害対策は、災害発生後の対策については既に相当メニューが充実している。中小企業庁及び関係機関は、大規模災害が発生するたびに所要の対策(特別相談窓口、災害復旧貸付、小規模企業共済災害時貸付、セーフティネット保証、激甚災害指定措置、災害復旧高度化融資等)を講じて、被災地の中小企業の早期復旧復興を支援しており、これらは大きな実績を上げているが、事前対策については手つかずの状態にある。中小企業庁としては、現行の中小企業災害対策の空白部部分である事前対策を確立することにより中小企業災害対策を完成させることが「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」を新たに作成する目的である。』と明確に考えておられました。
 今回首都直下地震発災時に、地区によっては、中小企業が完全なBCPを策定することが困難な事態が生ずると思われます。その場合は原点に戻り、災害発生後の対策(主力は「災害復旧貸付」制度)を生かして被災地の中小企業の早期復旧復興を図るべきだと私は確信します。
 何回も書いていますが、小規模企業がどこまでのBCPを作成するかについて、私は必ずしも各項目を全部検討出来なくても、可能な限りで充分意味があると考えています。
 小規模企業の場合は、コンサルタントや金融機関などに相談する機会は先ず無いので、ご自分で考えて、実行出来ることは事前にやっておく。然し完全な対策は出来ませんから、「災害発生直後は、事業はストップしますが、最低1ヶ月くらいの出費を賄えるだけの資金を持っていて、災害発生後1ヶ月くらいの間に事業の継続やその後のキャッシュフロー対策を講ずる。」と言うのが「小規模企業の首都直下地震対策」だと思います。
 民間金融機関が取引先、特に融資先に対し「BCP(含むキャッシュフロー対策)」のサポートを行えば、金融機関の資産の太宗をなす貸出金債権が地震等のリスクで毀損することを防止することが出来ますから、恰も製造業において工場の耐震化工事を行うのと同じことです。従って中小企業をお得意様とする信用金庫などが中心になって中小企業、特に小規模企業を中心にBCPのサポートをすることが肝要だと私は思います。
-東南海地震についても同様です。これについては項を改めて書きます。