撮影・高橋義久様 |
バラの栽培は面倒でしょうと良く言われます。剪定や薬の散布、水やり、肥料やりなどが面倒だと思ったら趣味にはなりません。開花までのプロセスが楽しいのです。
西欧の園芸・バラの栽培と日本の園芸の異なる点ですが、例えば盆栽や、サツキ(皐月)、菊などは栽培法の本には書ききれない微妙な技術が要求されます。バラの栽培は、本当は微妙な技術が要求されているのかも知れませんが、本に書いてある通りのプロセスをキチンと守れば、綺麗な花が咲いて呉れます。
また、欧米のバラの花の写真は大体満開です。日本のバラの花の写真は7分咲きか8分咲きくらいです。これは欧米人と日本人の美的感覚の差異だと思われます。生け花とフラワー・アレンジメントの感覚の相違とも言えます。
私が言いたいことは、欧米から輸入されたものが、日本人の感覚の相違によって異なったものになることがあると言うことです。園芸の微妙な技術・花の美しさに対する相違と同じようなことが、リスクマネジメントの世界にもあるように思われます。
アメリカではリスクマネジメントは保険を買う企業の側が始めたものなのに、日本では、主に損害保険会社が損害保険を売る際のサービスとして使われたという面がかなりあります。その結果、敢えて生意気を申し上げれば、日本ではリスクマネジメントに経営的視点が不足しているように思えます。
ピーター・バーンスタイン著の「リスク」(日本経済新聞社・1998年)の原題は「AGAINST THE GODS」(神々への反逆)です。バーンスタインは、「昔は、未来は神々の思し召しによるもので、人々はどうすることもできないものであった。リスクマネジメントは、ギリシャ神話に出てくるプロメテウスが神に挑戦し、火を求めて暗闇に明りをもたらもたらしたように、未来という存在を敵から機会へと変えていった」と言っています。彼は主として証券投資におけるビジネスリスクについて論じているのですが、企業のリスクマネジメントやBCP(事業継続計画)についても同じことが言えます。
ところが、日本人には「運を天に任せる。」と言う思想が根底に流れています。自然には逆らえない、自然災害は神の思し召しで、運命は甘受すべきものなのです。これが、リスク対策を考える積極性を失わせていると思います。BCP(事業継続計画)について、自分の企業だけが生き残って良いのかと言う考えをする人さえいます。
リスクマネジメントが我が国に定着しない根源的な要因は、こうした日本人のリスク感性に依るところが大きいのではないかと思います。
最初に申上げたプロセスの大切さと、日本人の感覚の相違によって異なったものになっていないかと言う視点で、リスクマネジメントのあれこれにについて、これから皆様とご一緒に考えていきたいと思います。