中小企業庁のレポート「中小企業が緊急事態を生き抜くために」

2012年3月20日火曜日 | ラベル: |

素敵な京都の梅 その4-5です。

HP 「京都の四季」より  京都御所
HP 「京都の四季」より  祇園 白川
 「福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)」の報告書は自宅近くの港南台の書店には入荷しませんでした。発売日11日の数日後丸善丸の内本店で聞いたら、即日完売の由でした。17日(土)の再版分を丸善で予約し、17日に漸く入手しました。今鋭意読んでいます。畑村洋太郎先生・柳田邦男氏らの「東京電力福島第1原発事故調査・検証委員会・中間報告書」と比較して4月1日くらいに感想をご報告したいと思っています。

 少し古いのですが昨年6月に中小企業庁が、中小企業の事業継続計画(BCP)=災害対応事例からみるポイント=「中小企業が緊急事態を生き抜くために*1」を刊行しました。


  「中小企業が緊急事態を生き抜くために」の冒頭「1.はじめに」には、「事業継続計画の善し悪しは、災害などが発生した際に事業継続のために効果があったか否かの結果に尽きるのであって、いかに立派な文書であろうと、手法がどれほど精緻であろうと結果として事業の継続に役に立たなければ意味がない。むしろ実際に役立つ事業継続計画は、各社固有の状況を踏まえて経営者自らの経営判断がシンプルに示されたものであろう。その答えは、災害による事業の障害に直面し、その困難を乗り越えて現在に至っている企業が被災時にとった実際の対処のなかにこそ見出せるはずである。」と記述されています。
 この小冊子は、新潟県中越地震、能登半島地震、新潟県中越沖地震で被災した中小企業経営者に「被災時の危機に対していかにして事業を継続することができたのか」という点について、東日本大震災が起こる以前から行っていたヒアリングの結果をまとめたものです。公表された事例は22社、事例の内容は具体的で非常に参考になります。
 同書の「2.災害対応事例にみる事業継続計画のポイント」の「結びに」には、「体制や対策は決めたところで、どのような地震が来るかは全くわからないので、実際にはあってないようなものだ。」という経営者の言葉を紹介しています。
 「結びに」の最後の部分で、『この経営者の言葉は、実体がよくわからないために中小企業者の過大な期待を集めることが多い「BCP」というものの核心を見事に突いている。一見、事業継続計画の必要性や重要性を否定するもののように見えるかもしれないがそうではない。災害が想定したとおりに発生するはずがないし、計画に定めた対処によって常に期待したとおりの効果が得られるというのも机上の空論である。被災した際の現実の対処は、実際のところ経営者と従業員の反射神経と応用力と決断によるところが大きい。危機的状況において反射神経や応用力を発揮し、的確な決断を下すためには、危機への対処の方策についてあらかじめ検討を重ね、日頃から継続的に対応を訓練しておくことが必要なのである。言い換えれば、事業継続計画は平時において検討し訓練すべきものであって、いざ事に当たっては文書上の計画を単になぞるのではなく、状況に応じて対処することが必要なのである。 事業継続計画はそれぞれの企業の経営者が自ら考えなければ意味がないし、従業員がその内容を理解していなければ役には立たないのである。企業が災害を克服するために最も重要なのは、事業の継続に対する経営者と従業員の強い思いではないかと思われる。』といっています。至言だと思います。
 東京都の「中小企業BCP策定支援事業」を受託しておられるニュートン・コンサルティングの副島社長も「BCPが機能するかと言われても、総てのシナリオを網羅して予言することは出来ないからこの通りには機能しないと答えるしかない。ではなぜBCPをやるのか。それは一つの被災想定に沿って行動計画の一例を作って一緒に体験して見る。そのことによって別の形の災害が起こっても対応出来る能力を高める。目的はBCPを作ることではない。*2」と同じ意味のことを申しておられます。
 二つとも、BCP(事業継続計画)を策定することだけに力点を置き、マニュアルに依存しがちなわが国企業の動向に対する警告だと思います。
  BCPに関する参考書は沢山あります。参考書を読むことも大事ですが、参考書の通りに計画を作ったからといって、いざという時に上手く行く訳ではありません。中小企業の場合、人的資源・経営資源などから対応可能なリスクのレベルは限定されます。「中小企業は身の丈にあった事業継続対策を」と言われています。現状自社で対策を講じられるリスクのレベルをクールに自覚し、現状では対策を講じられていない「想定外」のリスクに対しては、もし起こったら自社はどうなるかを、倒産の可能性を含めて考えて置くべきだと思います。そして、毎年努力を続けて、「想定リスク」のレベルを少しづつ向上させて行くことが大切だと思います。

*1中小企業庁➡経営サポート➡経営安定支援➡広報冊子➡「中小企業が緊急事態を生き抜くために」の順番でダウンロード出来ます。
 http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/download/BCPSaigaiJirei.pdf
*2 スタッフアドバイザー 2011 9月号

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吉野太郎著「事業会社のためのリスク管理・ERMの実務ガイド」

2012年3月10日土曜日 | ラベル: |

素敵な京都の梅 その2・3です。

HP 「京都の四季」より  北野天満宮

HP 「京都の四季」より  北野天満宮
○吉野太郎氏について
 吉野太郎氏については、本ブログの読者はご存知の方が多いと思います。
 私は古くからご交誼を頂いています。私の主宰する日本ナレッジ・マネジメント学会リスクマネジメント研究部会では、平成17年6月「東京ガスのリスクマネジメント」、平成18年6月「使えるERM(全社的リスクマネジメント)導入チェックポイント集~一目でわかるERMと内部統制の基本的要素の具体例〜」、平成19年8月「ERMの現状」、と3回に亙り有益なお話を頂戴しています。
 「事業会社のためのリスク管理・ERM実務ガイド」の著者紹介によれば、吉野さんは1982年に慶応大学経済学部をご卒業、同年東京ガス㈱ご入社。営業統括部・川崎支店・監査部・IR部(リスク管理グループ)を経て,2011年から総合企画部経営管理グループ。2003年からERM(全社的リスクマネジメント)の導入と運用をご担当、その後内部統制報告制度(金融商品取引法)および内部統制整備に関する基本方針(会社法)もご担当。現在ERMの運用・危機管理体制・BCPおよびそれらについての有価証券報告書等での情報開示等をご担当です。

日本価値創造ERM学会副会長 http://www.javcerm.org/
CIA(公認内部監査人)、CCSA(内部統制評価指導士)、CFE(公認不正検査士)

○リスクマネジメントを巡る変化について
 私は1987年1月に初めて東京海上さんからリスクマネジメントを教えて頂いてから25年経ちます。25年前は部門別の個別のリスク管理の時代でした。1992年にアメリカでCOSOレポートが公表され、従来型のリスクマネジメントとは別の、不正な財務報告リスクの防止を主眼とする内部統制と結びついたリスク管理の手法が導入されて来ました。さらに2001年のエンロンの破綻・2002年のワールドコムの倒産の結果、2002年8月にアメリカでサーベンス・オックスリー法(SOX法)が成立しました。2004年9月には COSO2報告書「Enterprise Risk Management Framework」が公表されERMの時代になりました。
 我が国でも、2006年5月に会社法*、6月にSOX法に4年遅れてJ-SOX法と言われる金融商品取引法が施行されました。
 会社法362条の規定は下記です。
4 取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定  
を(する場合には、自らこれを決定しなければならず)取  
締役に委任することができない。
六 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保
するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するた
めに必要なものとして法務省令*1で定める体制の整備
5 大会社である取締役会設置会社においては、取締役会は   
(必ず)前項第六号に掲げる事項を決定しなければならない。

*1;法務省令*1で定める体制
(会社法施行規則)第100条
法第362条第4項第六号に規定する法務省令で定める体制は次の体制とする。
二 損失の危険の管理に関する規程その他の体制
四 使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保 
するための体制
五 当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制

 会社法、金融取引法と内部統制の関係については、COSOの内部統制要件のうち、①業務の有効性と効率性は新会社法で、②財務報告の信頼性は金融商品取引法で、③関連法規の遵守は新会社法で規制されることになったと理解されています。
 この時期、日本では従来型のリスクマネジメントも十分浸透していない企業が多く、そこへ内部統制・不正な財務報告防止等の要求・ERMが入って来たので、企業内でリスク管理体制に混乱を来たす恐れがありました。またコーポレート・ガバナンスの議論とも十分結びついていませんでした。
 2005年8月25日の「商事法務」 No.1740の記事、スクランブル 「新会社法と内部統制基準」はこの時期の状況について、
①「内部統制」の概念について社会的な合意が不十分であるにもかかわらず制度化・義務化が強行されようとしているのではないか。
法務省、金融庁、経済産業省の間でその概念について実質的な調整が行われているのか不透明である。
②会社法と内部統制基準との整理が十分行われているのか。
と警鐘をならしていました。

○ 吉野太郎著「事業会社のためのリスク管理・ERMの実務ガイド」 について 
 吉野さんは、リスクマネジメント(彼はリスク管理と言っておられます)の変動の時代にずっとリスク管理の実務に従事されていました。そのご経験に基いた「リスク管理・ERMの実務ガイド」は、わが国のリスク管理・ERMの実務家に取って大変有益で、時宜に適した書物であると思います。











 2月29日発行になったので、早速買い求め目下鋭意読んでいます。
 吉野さんは「はじめに」で下記のように述べておられます。
「リスク管理やERMの理論について書かれた書物は多い。またリスクの計測や定量管理の手法、もしくは危機管理・コンプライアンスなど特定分野のリスク管理の手法について書かれた書物も数多い。しかし金融機関以外の事業会社で取り扱う多様なリスクを全体として管理する実務手法を紹介する書物は少ない」
「事業会社のリスクは業種や事業環境によって様々である。その対応策も多岐にわたる。そのため体系化もしくは汎用化することが難しい。筆者はその手法を体系化することにより、事業会社のリスク管理手法を向上させることが必要なのではないかと考え続けてきた。」
私は25年間リスクマネジメントに関ってきて、リスクマネジメントの解説書は部分的な技術論が多く(もちろんこれも大事なことだと思います。)、また経営的視点が欠けている場合が多いので、企業でリスク管理の実務に従事される方が参考にされる場合に限界があるのではないかと思っていました。吉野さんのご意見は将に我が意を得たりです。
 第Ⅰ部 基本編 第1章 リスク管理・ERMの役割 では、先に私が心配した「従来型のリスクマネジメントも十分浸透していない企業に、内部統制・不正な財務報告防止等の要求・ERMが入って来て、企業内でリスク管理体制に混乱を来たす恐れ」に対して、実務のご経験からのクリアーな整理がなされています。例えば下記の表です。
○企業にリスク管理を要請する法律の表  P.4
○内部統制、ERM、本書のリスク管理・ERMの要素の比較表 P.13
○リスクに関する3つの定義の違いの比較表 P.19
事業会社・金融機関・COSO
○リスク管理とERMの相違点の表 P.25
  1. リスク管理の主体から見た(部門、個人単位VS企業全体)リスク管理とERMの相違点
  2. リスクに対する認識の面から見た(個別、部分的VS全社横断的)リスク管理とERMの相違点
  3. リスク管理の時間軸から見た(単発、短期VS継続、中長期)リスク管理とERMの相違点
  4. 対象となるリスクの範囲から見た(狭い焦点VS広い焦点)リスク管理とERMの相違点
  5. 経営環境の面から見た(平時VS変革期)リスク管理とERMの相違点
第2章ERMと各種経営管理フレームワークとの関係
1.コーポレートガバナンスにおけるリスク管理とERMの位置づけ
2.従来から主管部門が定められ相応の管理が行われているリスクもERMの対象
3.実務におけるERMと内部統制の相違点と共通点
の記述は実務のご経験に基づくだけに迫力と説得力があります。さらに、(参考)の、「わが国における5種類の内部統制(会社法・金融商品取引法・COSO・企業会計審議会・不祥事防止)とその相違点」 に関する整理は私にははじめての議論で、非常に勉強になりました。
 第Ⅱ部 フレームワーク編、第Ⅲ部 実践編は、もはや私ごとき実務の門外漢が云々する部分ではありませんが、例えば、第Ⅲ部 実践編第9章 4.ERM実施体制構築の経験と教訓の中の p.214 「事務局担当者は少なくとも4年は異動しない人がよい」については、外から企業のリスクメネジメントご担当の方とお付き合いしている者に取っても全く至言だと思います。大企業の人事ローテーションと専門性の問題は事務系ではまだ充分解決されていない企業が多いと思います。
 大変雑駁なご紹介でしたが、リスクマネジメント、ERM、BCP等の実務に従事されている方々に取って,さらにはこれらを研究されている方々に取っても大変有益な書物だとご推薦申し上げます。

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東京電力の現状と将来の見通し⑧ 〜 改定特別事業計画 〜

2012年3月1日木曜日 | ラベル: |

素敵な京都の梅 その1です。

HP 「京都の四季より」 山科 勧修寺 臥龍梅 (老木だが2月からの早咲き)















○「福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)」の報告書
 2月28日、財団法人「日本再建イニシャティブ」の「福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)」の報告書が公表されました。残念ながらまだ全文を読むことが出来ません。
 HPには『「国民の視点からの検証」という報告書の性質上、広く皆さまにお読み頂きたく思っておりますので、なるべくお求めやすい価格での出版や、ウェブでの公開など、様々な方法を現在検討中です。追って、本ウェブサイトで詳しい情報をご案内致します。』と書いてあります。全文を読むことが出来たら感想を報告致します。
 一点だけ、HPに『東京電力には勝俣恒久会長、清水正孝前社長ら経営陣トップや吉田昌郎前所長ら現場責任者へのインタビューを正式に申し入れたが、協力は得られなかった。そのため、元社長や元原子力担当副社長ら元経営幹部、非公式な社内関係者へのインタビューを通して可能な限りの情報を集めた。』と記述されています。自社の損害賠償責任に対する顧慮だと思いますが、東京電力のこうした対応は全く如何なものかと思います。
 
2月3日に提出し、2月13日に主務大臣の認定を受けた改定特別事業計画ついて、主に業績の見通し、キャッシュフローの見通しについて検討しました。
○改定特別事業計画に基づく業績見込みとキャッシュフロー

平成24年2月13日東京電力は、「当社は、平成24年2月3日、原子力損害賠償支援機構法第46条第1項の規定に基づき、原子力損害賠償支援機構と共同で、主務大臣(内閣府機構担当室及び経済産業省資源エネルギー庁)に対し、平成23年11月4日に認定を受けた特別事業計画の変更の認定について申請しておりましたが、本日、同計画について認定をいただきました。」と公表しました。その結果、損害賠償の履行に充てるための資金として、東京電力に対する約6,900億円の資金援助額の増額が決定しました。この限りでは被害者に取っては喜ばしいことです。
 要賠償額の見通しが、約1兆7千億円に増加(+約6,900億円)した中身は
① 精神的損害に係る東京電力の賠償基準の見直し(震災から1年間は減額しない)
                                     :約500億円
② 自主的避難等に係る賠償指針の策定(対象者約150万人)
                                     :約2,100億円
③ 避難指示区域等の見直しを踏まえた算定期間見直し(平成23年内→平成25年3月まで)等                     
                                     :約4,300億円
です。
 前回も書きましたように、折角原子力損害賠償支援機構からの支援が決まっているのですから、12月末現在の未収原子力損害賠償支援機構交付金1兆216億円について東京電力から早期に支払われることを希望します。
 私は、11月10日のブログで、東京電力の第2四半期決算記載のデータから逆算して下期期業績見込み・キャッシュフロー見込みの検討をしました。
 今回の改定特別事業計画では、11月10日のブログの時点の単体の今期業績計画・キャッシュフロー計画は変更されていません。
 今回も11月10日同様、今期計画から第3四半期までの実績を引いた逆算の数字で第4四半期の業績・キャッシュフロー見込みを検討して見ました。

○業績比較 (単体) ―計画の変更なしー
                                                 (単位億円)
  平成 22 年度実績 平成 23年度見込み  
 前期比増減
(22.4.1 - 23.3.31) (23.4.1 - 24.3.31)
売上高 51,463 50,81 8 △ 645
営業利益
 (同上率)
3,567
( 6.9 %)
△ 3,327
(△ 6.4 %)
△ 6,894
(△ 13.3 %)
経常利益又
は経常損失
(同上率)
 
2,711
( 5.3 %)
 
△ 4,122
(△ 8.1 %)
 
△ 6,833
(△ 13.4 %)
引当金増減 62 16   △ 46
特別損益 △ 10,742 △ 1,625 9,117
当期純利益
又は純損失
 (同上率)
 
△ 8,093
(△ 15.7 %)
 
△ 5,763
(△ 11.3 %)
 
2,330
( 4.4% )
 月  商 4,297 4,234 4,171

上記の計画に基づき、第4四半期の業績見込みを逆算しました。

✩業績の見通し (単体)                    (単位億円)
  平成 23 年度
上期実績
平成 23 年度
第3四半期実績
平成 23 年度
第4四半期見込
平成 2 3年度
見込み
(24.4.1 - 24.9.30) (4310.1 -4 3.12.31) (24.1.1 - 24.3.31) (23.4.1 - 24.3.31)
売上高 25,027
(前年同期比
△ 2,080)
12,981
(前年同期比
489)
12,810
(前年同期比
946)
50,818
(前年同期比
 △ 645)
営業利益又は損失
 (同上率)
△  606
( 6.9 %)
△ 838
(△ 6.5 %)
△ 1,883
(△ 14.7 %)
△ 3,327
(△ 10.9 %)
経常利益又
は経常損失
(同上率)
 
△ 1,058
(△ 4.2 %)
 
 △ 1,148
(△  8.8 %)
 
△ 1,917
(△ 15.0 %)
 
△ 4,122
(△ 8.1 %)
特別損益  △ 5,077 1,052 2,400 △ 1,625
当期純利益
又は純損失
 (同上率)
 
△ 6,273
(△ 25.1 %)
 
42
 ( 0.3 %)
 
468
(  3.7% )
 
△ 5,763
(△ 11.3 %)
  月  商 4,171 4,327 4,298 4,234

 売上高は、上期は前年同期比2,080億円の減収ですが、第3四半期は前年同期比若干(489億円)の増収、第4四半期は逆算すると946億円の増収の計画です。
節電の話題は少なく、現状関西電力・九州電力などに比し供給上の問題はあまり議論されません。
 一方、火力発電の燃料費の高騰のためと言われていますが、営業損失・経常損失は金額・率ともに悪化の一途で、本体の業績悪化は深刻です。東京電力の経営合理化努力は。まだ到底損益の悪化に追いついていません。極めて深刻な事態です。
 第3四半期・第4四半期(見込み)ともに特別損益の関係で純損益の金額はプラスになる計算ですが、原子力損害賠償支援機構交付金と原子力損害賠償費の増減関係が主因で本体の業績とは関係のない理由によるものです。


 ○ キヤッシュフロー見込  (単体)  ―計画の変更なしー
                                         (単位 億円)
科  目  
平成 2 2年度実績
 
平成 2 3年度見込
前年同期比
増  減
現金及び現金同等物の期首残高 5,771 21,344 15,573
       
営業活動によるキャッシュ・フロー 9,234 △ 4,398 △ 13,632
投資活動によるキヤッシュフロー △ 7,487  △ 2,803 4,684
事業のキヤシュフロー 1,747 △ 7,201 △ 8,948
財務活動によるキヤッシュフロー 18,826 △  4,607 △ 23,433
当期総合キヤッシュフロー 20,572 △ 11,808 △ 23,380
       
現金及び現金同等物の期末残高 21,344 9,536 △ 11,808
月 商 比 5.0  ヶ月 2.3  ヶ月 △  2.7 ケ月

 通期でも、極めて大幅なキャッシュフローの悪化の見込みです。

○ キヤッシュフロー見込 (アバウトな試算) 
                                         (単位 億円)
科  目
平成 23 年度連結
第3四半期実績
平成 23 年度
第4四半期見込
平成 2 3年度見込
( 単体 )
期首現金・現同等物残高 21,344 18,518 21,344
営業活動によるキャッシュ・フロー △ 1,770 △ 2,628 △ 4,398
投資活動によるキヤッシュフロー 4298  △ 7,101  △ 2,803
事業のキヤシュフロー 2,528 △ 9,729 △ 7,201
財務活動によるキヤッシュフロー △ 5,354 747 △  4,607
当期総合キヤッシュフロー △ 2,826 △ 8,982 △ 11,808
期末現金・現同等物残高 18,518 9,536 9,536

 東京電力単体の売上は先期で連結の96%なので、単体のキャッシュロー見込みから、私が2月20日に試算したアバウトな第3四半期連結キャッシュフローを引いて第4四半期のキャッシュフローについて極めてアバウトな試算をして見ました。
 平成23年度の経常損益が △4,122億円程度で収まるかは未だわかりません。損益が更に悪化すれば営業活動によるキャッシュフローも悪化します。
 第4四半期の投資活動によるキヤッシュフローは第3四半期の反動のためか、逆算すると△7,101億円と多額のマイナスになりますが、それで良いのか。
 財務活動によるキャッシュフローは逆算すると747億円のプラスになりますが、第4四半期の社債償還金額は東京電力の第3四半期決算補足資料によれば2,780億円です。3,527億円銀行から借入の目途があるのか。
 第4四半期の当期総合キヤッシュフローは、逆算すると8,982億円の大幅な悪化になりますが、業績見込み・各段階のキャッシュフロー見込み、何れにも上記のように疑問点が多々あります。
 平成23年11月4日、東京電力は、「10月28日付で資金援助の申請を行うとともに、同日付で主務大臣(内閣総理大臣、経済産業大臣)に対して、原子力損害賠償支援機構と共同で特別事業計画の認定を申請しておりましたが、本日、同計画について認定をいただきました。」と公表しました。
 その業績・キャッシュフローの見込みはそのままで、その後の実績から逆算していますから、数字の辻褄が合わなくなるのは当然だと思います。勿論内部では再検討をされている筈だとは思いますが、世間に対しては東京電力は業績・キャッシュフローの見通しを変えていません。実際はどうなるのか。多分投資を抑える、借り入れはあまり出来ないのかなと思います。
 東京電力の将来は、直近の業績・キャシュフローの見通しですら公表の資料で検討する限りは極めて不透明です。何時も同じことを書きますが、将来は暗澹たるものがあります。
 これだけの大問題を抱えている企業の開示が、これで良いのでしょうか。

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