東京電力の現状と将来の見通し⑤ 〜 キヤッシュフロー 〜

2011年11月20日日曜日 | ラベル: |

○計画停電の損害賠償

 「病院4団体が東京電力に計画停電の損害賠償を請求することを検討している」と産経新聞が報じています
 これがきっかけになって、計画停電の損害賠償請求が頻発すれば東京電力には新たな負担が生じます。これを政府が面倒をみる根拠はありません。6月1日の記事 「東日本大震災について思う④ 企業の損害はどうなるのか」を読み返してみて下さい。

○電力会社のキャシュフロー

平成17年(2005年)ころ、ある電力会社の知人から依頼されてその電力会社のキャッシュフローについて私見を申し述べました。当時各電力会社は、設備投資を抑制し減価償却額以内の投資を行っていて、その余剰資金と利益を外部負債の返済に充てていました。従ってキャッシュフローは安定していたのですが、私は下記のような意見を申し上げました。
 「会社が利益を挙げている上に、減価償却費を下回る固定資産取得支出が、キヤッシュフローを安定させている根本的な理由です。分析の結果では、財務活動の中身が問題となります。
  1. 御社は「銀行借入や社債による調達に問題が起こる恐れは無い」というお考えだと思います。現実にはそうでしょうが、万一問題が起こって資金調達に齟齬を来たすとどうなるかということを考えておく必要があると思います。
  2. 17年3月期末の御社(単体)の現・預金312億円は、御社の月商1、111億円の0.3ヶ月分です。コミットメントラインの状況は分かりませんが、これだけを見ればかなりの低水準です。※1
    ※1 事故に備え、平時から「月商の1ヶ月分くらいの資金」を用意しておくのは、CFO(最高財務責任者)の流動性リスクに対する経験則です。
     
  3. 資金調達は10年ものの社債・期限一括返済の長期借入ですが、これで良いのか。償還・返済期限到来時期の平準化(金利の絡みもあり難しい問題ですが)を考えるべきではないかと思います。
  4. キヤッシュフロー計算書を3期間拝見致しますと、社債増減、長期借入金増減、短期借入金増減、コマーシャルペーパー増減の傾向がバラバラです。中長期の調達(返済)方針が無く、行き当たりバッタリに資金調達をされている感があります。(恐らく財務部門には怒られるでしょう)
    社債・銀行借入に不安がないという状況では、そんなことを考えなくてもキヤッシュフローは大丈夫だと皆が思っておられるからだと考えます。
 彼は、私の意見を財務部門に話をしたそうですが、財務部門からは「わが社は銀行からお金を借りて呉れと頼まれている状況にある。そんなことは考慮する必要はない」と一笑に付されたようです。これは東京電力を分析した結果ではありません。しかし東京電力も殆ど同じ状態であったと思います。
 今、東京電力、関西電力、九州電力などの資金繰り悪化の状況が新聞紙上で報道されています。
 9月1日に、『将来起こるかもしれない色々なリスクに対し、事前に色々な対策を考えておく訓練がいざと言う場合に必ず役に立ちます。』と書きました。平成17年(2005年)ころには、一笑に付されていた電力会社の資金調達リスクが現実になっています。
 リスクファイナンスの重要性が改めて認識される事態です。電力会社に限らず多くの企業で、リスク発生時のキャッシュフロー対策は現状十分上手くいっているとは思えません。

○東京電力のキヤッシュフロー

○キヤッシュフロー実績 ①
                                         (単位 百万円)
科  目
平成 19 年度実績 平成 20 年度実績 平成 21 年度実績
現金及び現金同等物の期首残高
113,926
125,147
258,714
 
営業活動によるキャッシュ・フロー
509,890
599,144
988,271
投資活動によるキヤッシュフロー
△ 686,284
△ 655,375
△ 599,263
事業のキヤシュフロー
△ 176,394
△ 56,231
389,008
財務活動によるキヤッシュフロー
188,237
194,419
△ 495,091
当期総合キヤッシュフロー
11,843
138,188
△ 106,083
 
現金及び現金同等物の期末残高
125,147
258,714
153,117
同上 月商比
0.3 ヶ月
0.5 ヶ月
0.4 ヶ月

 東京電力も平成18年度までは、投資活動によるキヤッシュフローの金額は営業活動によるキャッシュ・フローの金額を下回り、キャッシュフローは安定していました。
 柏崎刈羽原子力発電所の災害発生後の平成19年度・20年度は、投資活動によるキヤッシュフローのマイナス金額が営業活動によるキャッシュ・フローのプラス金額を上回り、これを財務活動で補っていて、以前のような安定したキャッシュフローの状況にはなっていません。平成21年度に漸く平成18年度以前の安定したキャッシュフローの状態に戻った翌年に東日本大震災が起こりました。
 期末現・預残高は、19年度は末月商の0.3ヶ月・20年度末は0.5ヶ月・21年度末は0.4ヶ月です。コミットメントラインの状況は分かりませんが、これだけを見ればかなりの低水準です。キャッシュフローに不安を感じていなかった証拠です。以前に書きましたが、雪印乳業の事故発生直前期の期末現預残高は月商の0.3ヶ月でした。

○ キヤッシュフロー実績 ②    (単位 百万円)
科  目
平成 22年度実績
現金及び現金同等物の期首残高
153,117
 
 
営業活動によるキャッシュ・フロー
988,710
投資活動によるキヤッシュフロー
△ 791,957
事業のキヤシュフロー
196,753
財務活動によるキヤッシュフロー
1,539,579
当期総合キヤッシュフロー
1,736332
 
 
現金及び現金同等物の期末残高
2,248,290
同上 月商比
5.0  ヶ月

 平成22年度も期全体としては投資活動によるキヤッシュフローの金額は営業活動によるキャッシュ・フローの金額を下回っていて、事業のキャッシュフローは安定した形になっていました。
 しかし、3月11日の東日本大震災発生後僅か12日目の3月23日に「三井住友銀行など3メガバンクと中央三井信託銀行など4信託銀行に2兆円規模(月商の5カ月分)の緊急融資を申し込み、(雪印の場合は6月27日事故発生の3週間後に300億円〈月商の0.6カ月分〉を貸し出すと報道)、融資が実行された結果現金及び現金同等物の期末残高は、2,248,290百万円・月商の5.0ヶ月分と大幅に増加しました。この時期に巨額の融資を申し込んだ理由は外部からは窺い知れませんが、多分将来の業績、キャッシュフローについて重大な局面に至ると予測されたからだろうと推測します。
 東京電力の平成22年度期末現在、1年以内に期限が到来する固定負債は 7,748億円、平成23年度の社債償還予定額は7,479億円、計15,226億円と開示されています。社債の発行が出来ず、銀行からの資金調達が行われなければ、財務活動によるキヤッシュフローは今期中に15,226億円悪化することになります。

 ○ キヤッシュフロー実績 ③                    (単位 百万円)
科  目
平成 23 年度
第2四半期実績
平成 22 年度
第2四半期実績
前年同期比
増  減
現金及び現金同等物の期首残高
2,206,323
153,117
2,053,206
 
 
 
 
営業活動によるキャッシュ・フロー
△ 106,367
479,461
△ 585,828
投資活動によるキヤッシュフロー
△ 237,132
△ 443,437
△ 206,305
事業のキヤシュフロー
△ 343,499
36,024
△ 379,523
財務活動によるキヤッシュフロー
△ 376,164
43,274
△ 419,438
当期総合キヤッシュフロー
△ 719,663
79,298
△ 798,961
 
 
 
 
現金及び現金同等物の期末残高
1,487,627
230,809
1,256,818
同上 月商比
3.6  ヶ月
0. 5 ヶ月
2.1 ケ月

 即平成23年度上期、業績の悪化を主因に営業活動によるキャッシュフローは106,367百万円のマイナスで前年同期比585,828百万円の悪化です。投資活動は前年同期比206,305百万円減少しています。事業活動全体としては、6ヶ月で343,499百万円のマイナスです。さらに、社債償還319,960百万円を主因に財務活動によるキヤッシュフローのマイナスは376,164百万円で、全体としては6ヶ月で719,663百万円の資金が不足し、虎の子の現・預金は僅か6ヶ月で約7,200億円減少しました。
 ここで注目すべきことは、事業活動によるキャッシュフローの悪化額より、財務活動によるキャッシュフローの悪化額の方が大きいということです。キャッシュフロー計算書をみると長短借入金は49,837百万円の減少です。金融機関は期中に返済後の貸出しかなりに応じています。社債の償還がキャッシュフローの悪化に大きく影響しています。   
 世間では東京電力が債務超過になるかどうかが問題になっていますが、企業存続の条件は資金繰りです。東京電力が金融機関から借入を受けられる状態を今後とも維持出来るかどうかが課題だと思います。
 次回は、「東京電力に関する経営・財務調査委員会の報告書」や「緊急特別事業計画」などを参考にして、今後のキャッシュフローの見通しを考えたいと思います。

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東京電力の現状と将来の見通し ④ 〜 平成23年度第2四半期決算 〜

2011年11月10日木曜日 | ラベル: |

東京電力の第2四半期決算が11月4日に公表されました。
 
✩平成23年度第2四半期損益計算書 (連結)   (単位百万円)
 
平成 23 年度
平成 22 年度
前年同期
増  減
(23.4.1 - 23.9.30)
(22.4.1 - 22.9.30)
 売上高
2,502,752
2,710,744
△ 207,992
営業利益
 (同上率)
△  60,600
(△ 2.4 %)
235,808
( 8.7 %)
△ 296,408
(△ 11.1% )
経常利益又は経常損失
(同上率)
△ 105,748
(△ 4.2  %)
201,381
( 7.5 %)
△ 307,129
(△ 11.7 %) 
引当金増
466
1,752
△ 1,286
特別利益
(原子力損害賠償支援機構交付金)
(有価証券売却益)
568,179
 
( 543,638 )
( 24,541 )
 
568,179
 
( 543,638 )
 ( 24,541 )
特別損失
( 災害特別損失 )
(資産除去債務会計基準適用に伴う適用額)
(原子力損害賠償費)
1,075,936 
(185,028)
 
  -
( 890,978 )
57,189
 -

( 57,189 )
   -
10,198747
( 185,028 )
 
(△ 57,189 )
( 890,978 )
当期純利益又は純損失
 (同上率)
 △ 627,299
(△ 25.1 %)
92,288
( 3.4 %)
△ 719,587
(△ 28.5 %)
 月  商
417,125
451,791
 △ 34,666

売上は2,07,992百万円減(7.7%減)の2,502,752百万円です。人件費、修繕費は減少したものの、燃料費の増加を主因に営業利益、経常利益とも大幅な赤字になりました。特別損失は災害特別損失185,028百万円、原子力損害賠償費890,978百万円、計1,075,936百万円を計上し、原子力損害賠償支援機構交付金543,638百万円*1、有価証券売却益24,541百万円を差し引いても当期純損失は613,971百万円の巨額になりました。

*1 東京電力は10月28日付けで原子力損害賠償支援機構法第41条第1項の規定に基づく資金援助の申請を行い、同時に機構と共同して主務大臣に対して特別事業計画の認定を申請し、11月4日に特別事業計画が主務大臣の認定を受けたと公表しています。
 第24半期には9月30日に原子力損害賠償支援機構に要賠償額の見通し額663,638百万円の支援を要請し、補償金受入れ額1200億円を控除した543,638百万円を未収原子力損害賠償支援機構交付金として計上しています。

 その後今期の要賠償見通し額を1兆109億8百万円と算定、補償金受入れ額1200億円を差し引いた8,909億8百万円の資金の交付が11月4日確定したと公表しました。
今後損害賠償支払額は増加するかも知れませんが、確定したところでは今期は1兆109億8百万円の賠償金が支払われることになります。事務処理は可能なのか。金額はこれで十分なのか。

 中間決算の結果、平成23年9月末の自己資本は期初比638,949百万円減少し、963,529百万円になりました。世間では債務超過になるかどうかが問題になっています。後にまた述べますが企業存続の条件は資金繰りです。東証上場廃止基準では連結で1年以上債務超過状態が継続すれば上場廃止です。債務超過になっても企業は存続します。

 平成24年3月期の業績の予想も発表されました。それに基いて、一部推測を加え、下期の業績見通しを逆算して見ました。
 東京電力は11月1日のプレスリリースで、今冬の需給見通しについて「今冬は安定供給を確保できる見通しですが、電源の計画外停止や急激な気温の変化による需要増加の可能性もあることから、お客さまにおかれましては、無理のない範囲での節電へのご協力をお願いいたします。」と言っています。下期は前年同期比101,504百万円(3.6%)の売上増の計画です。東北電力、関西電力、九州電力などで供給不安が論じられている中で東京電力だけが売上を増やせるのでしょうか。
 一方事業の損益は益々悪化する予想です。下期経常損失は294,252百万円とされています。原子力損害賠償支援機構交付金347,270百万円の追加計上で下期は27,299百万円の利益を計上する見込みですが、それでも通期で6,000億円の損失となります。
 売上未達の可能性、原子力損害の賠償に関する事務処理費用の増加・福島第一原子力発電所の事故処理費用などを考えれば、損益の見通しは依然暗澹たるものがあります。果たして下期この計画通りに行くのか。

✩業績の見通し                                     (単位百万円)
  成 22 年度実績 平成 23 年度
上期実績
平成 23 年度
下期見込み
平成 2 3年度見込み
(22.4.1 - 23.3.31) (23.4.1 - 23.9.30) (23.10.1 - 24.3.31) (23.4.1 - 24.3.31)
売上高
5,368,536
2,502,752
2,812,248
前年同期比
(+ 101,504 )
5,315,000
営業利益
 (同上率)
399,624
(7 .4 %)
 △  60,600
(△ 2.4 %)
△ 244,400
(△ 8.7 %)
△ 305,000
(△ 5.7 %)
経常利益又
は経常損失
(同上率)
 
317.,696
( 5.9 %)
 
 △ 105,748
(△ 4.2  %)
 
 △ 294,252
(△ 10.5 %)
 
△ 400,000
(△ 7.5 %)
引当金増他
13,794
13,794
特別利益
(原子力損害賠償支援機構交付金)
(有価証券売却益)
 
568,179
 
 ( 543,638 )
  ( 24,541 )
347,270
 
( 347,270 )
 ―
915,449
 
( 890,908 )
( 24,541 )
特別損失
( 内災害特別損失 )
(原子力損害賠償費)
1,077,685
(1,020,496)
1,075,936 、
(185,028)
( 890,908 )
25,719
( 25,719 )
1,101,655
(210,747)
( 890,908 )
当期純利益
又は純損失
 (同上率)
 
△ 1,247,348
(△ 23.2 %)

△ 627,299
(△ 25.1 %)
 
27,299
( 1.0 %)
 
△ 600,000
(△ 11.3 %)
  月  商
447,378
417,125
468,708
442,917

 今回から東京電力のキャッシュフローについて考える予定でしたが第2四半期中間報告書と今期業績見通しの検討で紙数が尽きてしまいました。


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東京電力の現状と将来の見通し ③ 〜 福島第一原子力発電所の事故等に関する原子力損害の賠償について 〜

2011年11月1日火曜日 | ラベル: |

 東京電力の「福島第一原子力発電所の事故等に関する原子力損害の賠償」について考えて見たいと思います。
 先ず、根本は下記の規定です。
「原子力損害の賠償に関する法律」(以下原賠法と言う)
第三条  「原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。
 今回の事故の原因となった、東日本大震災とその結果の津波が「異常に巨大な天災地変」だったのかについては、当初東京電力、財界からは「想定外」で「異常に巨大な天災地変」だと言う主張がなされましたが、結局主張は通らず、「損害賠償は第一義的に東京電力の負担」ということになりました。この場合は下記条項が適用されます。 
「原賠法 第十六条」
 政府は、原子力損害が生じた場合において、原子力事業者(外国原子力船に係る原子力事業者を除く。)が第三条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額*1をこえ、かつ、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、原子力事業者に対し、原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行なうものとする。
2 前項の援助は、国会の議決により政府に属させられた権限の範囲内において行なうものとする。
*1 第七条(抜粋) 一事業所当たり1,200億円(以下「賠償措置額」という。)を原子力損害の賠償に充てることができる。

 東京電力は既に国に対して1200億円の請求をしています。然しこの金額では賠償金額には到底足りません。そこで「原賠法」第十六条の規定に基づき国の支援の枠組みの策定を要請し、平成23年8月3日に「原子力損害賠償支援機構法(以下〈機構法〉という)」が成立し、東京電力は原子力の損害賠償にあたり国の支援を受けることになりました。
 他方、「原子力損害賠償紛争審査会」が設立され、4月15日に第1回会合が行われ、10月20日には第15回会合が開催されています。10月20日以降は「原子力損害賠償紛争審査会」の議事録・資料を一生懸命読みました。
 「原子力損害賠償紛争審査会」は8月5日「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」(以下〈中間指針〉と言う)を公表しました。

 中間指針には「平成23年3月11日に発生した東京電力株式会社福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所における事故(以下〈本件事故〉と言う。)は、広範囲にわたる放射性物質の放出をもたらした上、更に深刻な事態を惹起しかねない危険を生じさせた。このため、政府による避難、屋内退避の指示などにより、指示等の対象となった住民だけでも十数万人規模にも上り、あるいは、多くの事業者が、生産及び営業を含めた事業活動の断念を余儀なくされるなど、福島県のみならず周辺の各県も含めた広範囲に影響を及ぼす事態に至った。これら周辺の住民及び事業者らの被害は、その規模、範囲等において未曾有のものである。」と記述されています。
 4月に第一次指針、5月に第二次指針、6月に第二次指針追補が決定・公表されていますが、中間指針には、第一次指針及び第二次指針(追補を含む。以下同じ。)で既に決定・公表した内容にその後の検討事項を加え、賠償すべき損害と認められる一定の範囲の損害類型が示されています。

【損害類型】
1)政府による避難等の指示等に係る損害
[損害項目]
1 検査費用(人)、2 避難費用、 3 一時立入費用、 4 帰宅費用、5 生命・身体的損害、6 精神的損害、7 営業損害、8 就労不能等に伴う損害、9 検査費用(物)、10 財物価値の喪失又は減少等
2) 政府による航行危険区域等及び飛行禁止区域の設定に係る損害
[損害項目]
1 営業損害、2 就労不能等に伴う損害、
3)政府等による農林水産物等の出荷制限指示等に係る損害
[損害項目]
1 営業損害、2就労不能等に伴う損害、3 検査費用(物)
4)その他の政府指示等に係る損害について
[損害項目]
1 営業損害、2 就労不能等に伴う損害、3 検査費用(物)
5)いわゆる風評被害
1 一般的基準、2 農林漁業・食品産業の風評被害、3 観光業の風評被害、4 製造業、サービス業等の風評被害、5 輸出に係る風評被害
6)いわゆる間接被害
7) 放射線被曝による損害について
8) その他
1 被害者への各種給付金等と損害賠償金との調整について
2 地方公共団体等の財産的損害等

これらの損害類型の中身を議論すれば、紙数が幾らあっても足りないくらいです。
「原子力損害賠償紛争審査会」の議事録では、論点の整理として、
  1. 本件事故と相当因果関係のある損害、すなわち社会通念上当該事故から当該損害が生じるのが合理的かつ相当であると判断される範囲のものが原子力損害に含まれる。
  2. JCO事故を参考としつつ、本件事故特有の事情を十分考慮する。 
  3. 地震・津波による損害は賠償の対象とはならないが、原子力損害との区別が判然としない場合には、合理的な範囲で、特定の損害が原子力損害に該当するか否か及びその損害額の推認をすることが考えられる。 
  4. 膨大な被害者に対する迅速な救済が求められるため、合理的な範囲で証明の程度の緩和、客観的な統計データ等による合理的な算定方法等により、一定額の賠償を認めることが考えられる。 
  5. 請求金額の一部の前払いなど、東京電力の合理的かつ柔軟な対応が求められる。
対象区域は、
1 避難区域(警戒区域)、屋内退避区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域、特定避難勧奨地点及び一部の地方公共団体が住民に一時避難を要請した区域
としています。
 また中間指針の項目には「自主的避難者の損害」が対象に入っていないので、目下問題になっています。
 詳しくは「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」を読んで下さい。
 被害者と東京電力の間で合意が成立しない場合は、「原子力損害賠償紛争解決センター」が設立されていて公的機関が和解の仲介をします。それでも上手く行かなければ裁判で争うことになります。企業の損害特に風評被害・間接損害等に関して合意は容易ではないと思います。訴訟が多発すれば、東京電力の訴訟対応の人員(含む弁護士)や費用が益々増大します。
 東京電力は当面員約6,500 名規模、年内にはグループ社員約3,700 名を含む約9,000 名規模の体制で対応する計画ですが、前述のように、多数の人を相手に、数多くの損害の処理をするのに、人海戦術だけで上手く処理出来るのか。「交通事故の示談でさえ加害側から『これでどうでしょうか?』と示談を持ってくるのに、東京電力は被害住民が書類を出さないとカネを出さない。」と言う弁護士さんの意見もあります。要求通りに支払いをしなければ被害者は満足しない。また速やかに支払わなければ、東京電力に対する世の中の評価は益々低下します。然し東京電力としては、野放図に支払いをする訳にはいきせん。損害賠償に関する部分の資金繰りもあり、このあたりはは極めて難しいところだと思います。
 「その規模、範囲等において未曾有の規模」の「福島第一原子力発電所の事故等に関する原子力損害の賠償」は、件数、期間、賠償金額、事務処理のボリューム・費用等において想像を絶するものであります。本体の損益の悪化・事業継続が可能かの問題に加え、長期間に亙り東京電力に多大な悪影響を与え続けるものと考えます。
 賠償金について、政府の支援により当面は業績・キャッシュフローに影響がなくても、その後政府に支払う負担金は長期間東京電力の業績・キャッシュフローに悪影響を与えることになります。
 11月上旬には東京電力の2011年度中間報告書が公表され、また国の支援を受けるために10月28日に提出した「特別事業計画」の内容は、主務大臣による認定を受け次第公表されると思われます。11月中には同社の今期損益の見通しについて、更に詳しく考えることが出来るようになると思います。判明次第ご報告致します。
 次回からはキャッシュフローの検討に移りたいと思います。

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