みずほ銀行の「システム障害特別調査委員会」報告書

2012年4月20日金曜日 | ラベル: |

4月10日のブログで「わが国の決済システム、金融機関が、今回の大震災にあたり安定的に金融・決済機能を発揮し続け、国民生活や経済活動を下支えする役割をしっかりと果たしたことは高く評価されるべきことだと思います。ただその最中、東日本大震災直後の3月14日(月)夜から発生したみずほ銀行の大規模なシステム障害は誠に遺憾な出来事であったと痛感します。」 と書きました。今回はみずほ銀行の「システム障害特別調査委員会」報告書をご紹介申し上げます。

素敵な京都の櫻 その3です。

HP 「京都の四季」より  祇園 白川

 祇園・白川の畔に「かにかくに 祇園は恋し寝(ぬ)るときも 枕の下を水の流るる」の歌碑が建てられている吉井勇先生も60年前大学入学当時はまだご存命でした。

祇園 新橋 「かにかくに」の歌碑
ブログ 京都検定を目指す京都案内(2010.10.6)より

○みずほ銀行の「システム障害特別調査委員会」報告書
 日本銀行決済機構局の「東日本大震災におけるわが国決済システム・金融機関の対応」には、「3月14 日(月)夜、一部大手行でシステム障害が発生し、その後、日をおって決済不能件数・金額が拡大した。当該行が設置した第三者委員会の調査報告書によると、同行において、15 日(火)指定日分から23 日(水)の指定日分までの合計約120 万件の為替電文が未送信となった。また、16 日(水)指定日分から18 日(金)指定日分まで合計約101 万件の受信為替電文が未処理となった。当該障害は、今回の地震や津波に直接起因するものではないが、義援金が一部口座に大量に集中し、その後の対処ミスとあいまって障害を大規模にしたと報告されている。」と記述されています。今回はみずほ銀行のシステム障害を詳しくご報告致します。

 以下は、みずほ銀行の「システム障害特別調査委員会」報告書の抜粋です。
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第1 調査の概要
1. 委員会設置の経緯
株式会社みずほ銀行(以下「MHBK」という。)は、2011年3月14日夜から24日にかけて大規模なシステム障害(以下「本障害」という。)を起こし、その間、給与振込等の為替送信が遅延し、ATMが利用停止になるなど、顧客らの経済活動に多大な影響を与えた。
 MHBKは、本障害に対し、原因究明と再発防止策の策定を実施することとしたが、本障害が顧客や社会に与えた影響の大きさに鑑み、外部の識者・専門家から構成される第三者委員会を設置し、中立・公正な立場から原因究明と再発防止策の妥当性評価及び提言を受け、システム障害の再発防止と信頼回復に努めることとした。その結果、MHBKと利害関係を有しない法律専門家及びシステム専門家に委員就任を依頼し、4月11日にシステム障害特別調査委員会(以下「本委員会」という。)を設置した。(後略)

第2 調査の方法・範囲   (略)

第3 本調査の結果判明した事実
1. 本障害の概要
(1) 本障害の概要について
 本件の調査対象である本障害は、2011年(以下、個別に明記しない限り、日時の表記については2011年を指す。)3月11日(金)に発生した東日本大震災に伴い、特定の義援金口座に対して振込入金処理が集中したことに起因して、14日(月)勘定系システムの夜間バッチの処理件数がリミット値を超えたため異常終了したことに端を発するものである。
 MHBKは、上記の夜間バッチの異常終了に対してシステム復旧処理を実施したものの、当該処理に多くの時間を要したため、実施されるべき一連の夜間バッチが15日(火)の営業店開始時刻までに終了しない状況が濃厚になった。そのため、MHBKは、夜間バッチを中断するとともに営業店端末の開局処理を実施し、一旦中断した夜間バッチの影響により業務提供が不能となる取引の抑止オペレーションを実行した。
 しかし、これらの作業には時間を要したため、15日(火)の営業店業務の取引開始は遅延した。更に、営業店端末の開局処理に必要なバッチの日替り処理(以下「DJS切替」という。)により、通常自動化されているシステム運行が手動に切り替わったために、当日中に中断した夜間バッチを終了できず、終了後に予定していた為替の送信ができなかった。
 また、16日(水)朝、14日(月)分の夜間バッチが終了し、15日(火)分の夜間バッチを開始したが、14日(月)の義援金口座とは別の口座において、14日(月)と同様の振込入金処理の集中が発生し、16日(水)早朝に再び夜間バッチが異常終了した。この後、前日同様に取引抑止オペレーションを実行する必要があったことに加え、ATMの障害への対応が生じたため、16日(水)の営業店業務の取引開始も遅延した。以後、夜間バッチの未処理が蓄積するとともに、手動によるシステム運用に起因する人為的ミスも多発し影響範囲が拡大していった。
 システムリソースの確保及び未送信為替の増加を防ぐために、三連休を含む18日(金)から22日(火)の期間、ATMやダイレクト・チャネルの利用制限を実施し、滞留している夜間バッチを実行した。しかし、その後も処理時間の不足による未処理や、人為的ミスによる未処理が続いた。更に、本障害を起因として一部取引明細の提供不可等、顧客に影響を与える事象が副次的に多数発生した。

(2) 本障害の発生事象による分類
 本障害を発生事象ごとに分類すれば、①為替処理の遅延、②営業店業務の取引開始遅延及び取引停止、③ATMの利用停止及び利用制限、④ダイレクト・チャネルの利用制限及び⑤その他顧客に影響を与えた事象に分類される。

2. システムの概況   
 現行の勘定系システムは、旧株式会社第一勧業銀行(以下「DKB」という。)において1988年に稼動開始したシステムをベースとし、2002年の経営統合時に旧株式会社富士銀行(以下「FBK」という。)のシステムと併せて稼動させ、それらをリレーコンピュータによる暫定的なシステムで繋いだ上、2004年7月から12月にかけて、旧FBKシステムのデータを旧DKBシステムに移行し、一本化されたものである。(後略)
(1) 現行MHBKシステムの概要 ― (5) 本障害に関連する各種規程(略)
(6) 緊急時の体制
 MHBKの緊急時体制は、取締役会が定めた「事業継続管理の基本方針」(以下「基本方針」という。)に基づき、頭取が事業継続管理を統括し、「緊急事態が発生した場合には、各担当役員からの報告に基づき、頭取の判断により、頭取自身を本部長とする「緊急対策本部」または、頭取が指名する者を長とする「非常対策PT」を設置し、情報収集や対応方針の決定、対策の指示等を行うこととされている。(後略)

3. 本障害発生以前のシステム障害及び対応状況 (略)

4. 本障害の発生事実
(1) 発生事象と復旧措置
ア 為替処理の遅延
3月15日(火)から24日(木)にかけて、大規模な為替処理の遅延が発生した。(後略)
(2) 発生事象への事後措置 (略)
(3) 本障害に対する経営の関わり(略)

第4 発生原因の分析
1. 原因分析の概要
 本調査の結果判明した事実により、各種障害を引起こした原因を検討すると、システム障害発生前及び発生後間もない時期の担当者による基本的な過誤(例えば、リミット値の認識不十分、システム全体の理解不足、これらによる回復作業時間見積りの誤りやDJS切替等の判断の誤り等)によるところが大きいものと認められる。しかしながら、更に、このような基本的過誤をもたらし障害の影響を拡大させた原因を検討すると、システム機能上の不備、未然防止に至らなかったシステムリスク管理態勢上の不備、復旧対応における緊急時態勢の不備、人材の育成・配置の遺漏並びに経営管理及び監査の不備等が指摘され、再発防止策を検討する上では、このような基本的過誤をもたらした原因を明らかにすることが必要である。(後略)

2. システム機能
 MHBKの勘定系システムは1988年に稼動を開始したものであるが、その後、情報環境は大きく変化し、例えば、ATMは、当時においては稼動時間が限定されていたものの、現在では24時間の利用が可能となり、インターネット・モバイルを始めとした取引チャネルが多様化し、情報量が増大したばかりか短期集中的な処理を求められるようになっており、そのためにシステム復旧に充てられる時間的な余裕は減少しつつある。したがって、このような状況の変化に応じシステムにおいても柔軟に対応すべきであったといえ、これをまとめると以下のようなことがいえる。
(1) 大量取引が集中した場合のシステム処理単位
 A社の義援金口座aに係る夜間バッチの異常終了は、当該口座の明細を退避する処理によって発生したものであるが、この処理は、本来リミット値の範囲内で明細を区切って実施すべきであるにもかかわらず、当該口座の全明細を一括で実施しているために、大量データを処理しようとした際にリミット値を超過し異常終了した
 また、B社の義援金口座bに係る夜間バッチの異常終了は、大量明細がある場合に後続の夜間バッチにデータを振り分ける処理において発生したものであるが、データの振り分け処理についても、本来リミット値の範囲内で実施すべきであるのに、当該口座の全明細を一括で実施しているため、上記と同様に、リミット値を超過し異常終了した
 取扱うデータ量が著しく増加した現時点では、大量取引の集中に対して柔軟に対応できるように、システム機能においてリミット値を踏まえた処理の分割を図るべきところ、あらかじめそのような措置を講じなかった
(2) 夜間バッチが長期化した際のシステム運用機能
 STEPSは、日中のオンラインと夜間のバッチとが交互に行われることが予定され、夜間バッチにおいては、TARGETで自動運行されているが、夜間バッチの突き抜けの場合には、営業店端末の開局時間を延期しない限り、夜間バッチを中断してDJS切替を実施する手順となっていた。しかし、DJS切替を行うと、残りの夜間バッチが手動となり、その処理に膨大な手数を要することとなるばかりか、為替データの作成・送信が夜間バッチの後に一括して行われることにより為替送信も遅延する仕組みとなっていた。
したがって、担当者がこのようなSTEPS、TARGETの基本的な仕組みを理解し、夜間バッチ突き抜けの場合のリスクが大きいことを認識していれば、あらかじめ、DJS切替を実施した場合においても、処理未了分の夜間バッチを自動運行できる機能を備えるといった対策を講ずることが可能であった
 上記の対策も、復旧処理の過程で初めて検討し3月19日から順次実施されているが、当初から実施されていれば、システム障害は短期間に収束することができたといえよう
3. 未然防止に向けたシステムリスク管理
 システム障害は、夜間バッチで実行された1処理においてリミット値を超過したことを起因として発生したものである。当該リミット値はシステム稼動時から設定の見直しはなされておらず、定期的な点検項目にも入っていなかったため、担当者において、夜間バッチにおける当該リミット値が存在することの認識すら不十分であった。このようなことを防止するためにシステムリスク評価が行われ、また、ビジネスの環境変化に応じた点検項目の見直しが必要であったが、定期的システムリスク評価及び新商品・サービス導入時のシステムリスク評価の点検項目の見直しが不十分であったために、システム障害の発生を未然に防ぐことができなかった。(後略)
4. 復旧対応における緊急時態勢
 障害が発生した場合、早期に復旧するためには適切な緊急時態勢が整備されなければならない。緊急時態勢については、事業継続管理関連規程として事前に準備されていたにもかかわらず、本障害を早期に復旧することができなかった原因は、緊急時における態勢が実効性を伴っていなかったこと、システムコンティンジェンシープランとして想定すべき事象が不足していたこと、復旧対応の手順書が実効性を伴っていないことが指摘される。また、それらの不備を検知できなかった原因としては、チェックプロセス及び訓練が、実効性を検証する役割を果たせなかったことが挙げられる。(中略)
 このように復旧対応への取組みが形骸化することとなった背景には、2002年の大規模障害の再発防止策において、新規開発システムに対する品質向上策や、障害の未然防止策に重点が置かれていた事情や、STEPSは長年安定稼動していたという事実、更に再発防止策により障害発生件数が減少傾向にあったという事実による油断から、復旧対応に取り組む意識が希薄になっていたものと思われる。(後略)
5. 経営管理及び組織管理の問題
(1) 人材の計画育成及び適所配置
 本障害の原因として、ある事象の勘定系システム全体への影響を分析する能力を有し、あるいは多重障害の復旧見通しが立てられる実務人材が不足していたことが指摘される。たとえば、IT・システム統括部において、夜間バッチや為替について、MHIRから提示される対応策を十分に理解できず、更に、MHIRからなされる報告も、発生した事象に関する断片的な情報にとどまり適切な障害対応の判断には不足していたにもかかわらず、そのまま受け入れる判断しかできなかったのである。また、一連の障害を通じて、システム全体を俯瞰でき、かつ、多重障害の陣頭指揮を執り得るマネジメントの人材も不足していたといえよう
 その上、MHBK、MHIR、MHOS合同でのシステム障害を想定した実地訓練がこれまで実施されていなかったことからも明らかなとおり、訓練を通じて人材を育成する視点が希薄だったと考えられる。(中略)
 人材の不足の背景には、2002年に大規模障害が発生して以降の品質向上への取組みの結果、勘定系システムにおいて障害件数が減少し、本障害の引金となった夜間バッチで開局が遅延するような多重障害が過去に発生していなかったために、MHBKのIT・システム統括部、MHIRにおいて現実の障害に対応する経験を積む機会が減少したこと、また、既存の勘定系システムの設計全体を見直す取組みを次期システム構築時に実施する方針であることMHIRにおけるシステム開発がグループ外部へ再委託されることが主流となっていること、更に、開発及び運用の自動化の推進が進められたために、システム部門の人材が自らシステム開発やシステム運用の実務を学習する機会を減少させたこと等が挙げられる。加えて、経験豊富な職員の退職が進んでいく一方で、勘定系システムのシステム要件と業務要件に精通した人材が重点的に大規模プロジェクトに投入された事情もあずかっていたといえよう。 (中略)
(2) 監査の実効性
監査部門においては、STEPSに対するシステム監査の不十分さ、グループとしての監査体制の不備、外部監査の活用の遺漏が指摘される。 (後略)
(3) その他
 MHBKにおいては、システム機能の整備、復旧対応の管理態勢、人材育成及び監査の各分野で、前記のとおりの不備が認められるが、その背景には、ビジネス環境の変化やシステム利用の多様化等に対応しきれていない事情があることがうかがわれる。このように、ビジネス環境の変化が現行システムに及ぼす影響を組織として常に掌握し、システムの改善、監査の充実等において時宜に応じた対策を講じ、人材の育成や確保の点でも十分な措置を施すべきであったといえよう
 振りかえって、2002年4月の大規模障害における再発防止策についてみると、本障害の発生原因とは直接の関連はないが、このような大規模障害を教訓として、コンピュータシステムの安定した稼動に組織として留意すれば、今回のシステム障害は防止することが出来たはずであることも指摘しておかなければならない

第5 再発防止策の提言
1. MHBKの再発防止策
 MHBKは、今回のシステム障害を踏まえ、4月28日に「システム障害等に関する発生原因分析、改善・対応策」を策定した(以下「再発防止策」という。)。
 MHBKは、その中で今回のシステム障害の原因について、①今回の障害は、「特定口座への取引集中がセンター集中記帳途上での異常終了を招くこと」及び「その結果として様々な業務に影響を及ぼすリスクがあること」について、認識が十分ではなかったことが背景にあるとした上で、②今回の障害を発生・拡大させた原因は、上記認識の不十分さに起因して、「特定口座に取引が集中した場合に発生するセンター集中記帳の異常終了を未然防止する取組が不十分であったこと」及び「センター集中記帳の途上で異常終了した後の事後対応が不適切であったこと」に大別されるとしている。(後略)

2. 再発防止策に対する評価
MHBKの再発防止策は、今回のシステム障害の原因についてシステムリスクについての認識が不十分であったことを率直に認めた上で、今回と同様のシステム障害の再発防止策のみならず、システムリスク一般についての管理態勢等についても考慮した内容となっており、基本的に妥当なものとして評価できる

3. 再発防止策に対する提言
(1) システム機能
 システムコンティンジェンシープランやビジネスコンティンジェンシープランの再点検においては、認識したリスクで十分であるか否かについて検討する必要があるが、その際には今回のシステム障害で明らかになったもの以外にも、システム設計上・システム運用設計上のリスクが現状のシステムに存在しないか、改めて確認・分析し、コンティンジェンシープランのリスクシナリオとして盛り込む必要がある。
(2) 未然防止に向けた管理態勢
ア システムリスクCSAの実効性の向上
システムリスクCSAとしてシステムごとにチェックリストによる年1回のリスク評価が行われているが、リスク評価の実効性を高めるためには、チェック項目のレベルアップを図ることのほかに、チェック作業自体の精度向上も必要と考える。
チェック項目のレベルアップには、金融機関で参照されている一般的な基準を参照するだけではなく、内外の環境変化を踏まえた多面的なリスク評価を継続的に行う必要があり、それには商品所管部・事務部門・システム部門といった銀行内部の視点だけではなく、銀行外部の視点も積極的に活用することを推奨したい。
 更に、チェック作業の精度向上についてはシステム所管部の責任の下行われているチェックで満足せず、複数の視点で網羅的な確認を図るために、確認結果の妥当性を複数部署間でクロスチェックしたり、ベンダーや有識者も含めたレビューを実施することとし、システムリスク管理部署においてはチェックの形式的な確認にとどまらず、実地の検証も検討することが必要である。
(3) 早期復旧に向けた管理態勢
ア 緊急時態勢の見直しに向けた提言
緊急時態勢の見直しにおいては、各組織の役割を再整理すること、各組織の責任の所在や範囲を明確にすること、現場レベルの指揮命令系統を確立することに加え、MHBK、MHIR、MHOSそれぞれの経営陣を含めた統合的な指揮命令系統を確立することが重要である。(後略)
(4) 経営管理及び組織管理
ア 人材の育成
MHBK及びMHIRにおいて、計画的な人材育成を図り、双方で定期的に訓練を実施し、疑似体験により多重障害に対応するスキルを養成し、また、グループ全体で長期にわたって維持及び安定運用が求められる既存システムに対するノウハウを計画的に承継する取組みを深めるべきである。(後略)
4. 将来への提言
 今回のシステム障害によりMHBKのシステムに対する顧客の信頼は損なわれた。メガバンクのコンピュータシステムは、経済的インフラであり、これが損なわれることによる顧客等ステークホルダーへの影響は大きい。MHBKはもとよりみずほグループ全体が、全力を挙げてその維持と信頼回復に努めるべきである。幸いにして今回の調査を通じて、MHBK関係者の信頼回復にかける決意を感ずることができた。しかし、一度損なわれた信頼を回復することは容易なことではない。本委員会は、このような観点から最後に次の2点を指摘し、将来への提言としたい。
第一は、再発防止策の継続的な実行である。
2002年の大規模障害において、みずほグループは再発防止策を策定し2004年には一応所期の目的を達したと評価されている。しかし今回再びシステム障害を起こすに至った。今回のシステム障害は、2002年の障害とは場面が異なるものではあるが、当時のシステム障害を教訓としシステムの安定した稼動に組織として留意すれば、今回のシステム障害は防止することができたはずである。改善策は、実行して初めて意味があり、かつ長期にわたり実行が継続されねばならない。信頼回復の決意を失うことなく、改善策の長期にわたる継続的な実行こそが強く望まれる。
第二は、システム統合の早期実現である。
現在MHBKとMHCBとは同一グループであるが、統合以前からの別々のシステムを運用している。しかし、このことによるデメリットは明らかで、長期的な経費削減の点からもシステムのレベルアップの点からもグループ全体のシステムの統一が望まれる。現に、2010年5月に公表された「みずほの変革プログラム」によれば、IT・システムのグループ一元化の推進を明らかにしているのであるから、今回のシステムトラブルを機会として、十分な準備の上で文字通りの早期実現に努めるべきであり、このことが顧客の信頼回復の早道であろう。
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【 所 感 】
 みずほ銀行の「システム障害特別調査委員会」報告書は余り世間で話題になっていません。今回本報告書を読んで痛感することは、「東京電力福島第1原発事故調査・検証委員会・中間報告書」や「福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)」の報告書で指摘されている問題点との類似です。即ち、事故の発生が「想定外」あったということ、更に事故発生後の対応にミスがあり、事故の規模が拡大したと言う点です
 「想定外」に関しては電力・金融など国民生活や経済活動を支える重要なインフラを支える企業が、予め想定していなかったリスクの発生に対して如何に対応するかがシビアに問われています。
 事故発生後の対応については、経営者および社員のリスクマネジメントやBCP危機管理に関する教育や訓練の不足、人材の育成の不十分がどの報告書でも指摘されています。わが国企業の組織・人事政策のありかたがこの原因の一つだと思います。
 東日本大震災では、広域の壊滅的災害および複合災害における国や大企業の危機管理のあり方が問われている訳です。
 私は約25年間リスクマネジメントに関って来て痛感することは、中小企業のみならず、大企業でも(なおさら)リスクマネジメントの実行に当たり、技術論が先行し、経営的視点が不足していることです。これは現在多くの経営者にリスクマネジメントの本質に対する理解が不足している結果だと思います。

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日本銀行決済機構局 「東日本大震災におけるわが国決済システム・金融機関の対応」について

2012年4月10日火曜日 | ラベル: |

昨年7月10日に「東日本大震災におけるJR東日本の対応」をご紹介致しました。
BCPが上手くいった事例ですが、わが国では上手く行ったことはあまり報道されません。
 日本銀行決済機構局の「東日本大震災におけるわが国決済システム・金融機関の対応」もBCPが上手くいった事例のレポートですが、あまり世間では注目されていません。
昨年6月のレポートで少し古いのですが、是非皆様にも知って頂きたいと思いご紹介申し上げます。
 今回も先ずは、「京都の四季」の写真です。
    素敵な京都の櫻 その2です。


HP 「京都の四季」より  哲学の道
   60年前の1952年4月、大学に入学したころの哲学の道は鄙びた趣で春でも人通りが多くなく、思索をするには恰好の場所だと思いました。今は綺麗に整備され、毎日大変な賑わいのようです。
 哲学の道から少し上の、浄土宗法然院にある谷崎潤一郎夫妻のお墓の目印は、旧墓地の山沿いの小高いところにある枝垂れ桜です。京都の風物を愛した潤一郎氏が生前買い求めたもので、こよなく愛していた平安神宮の枝垂れ桜と同じ桜だそうです。「細雪」上巻・十九に平安神宮のお花見の記述があります。


法然院 谷崎潤一郎夫妻の墓  ブログ 京都検定を目指す京都案内(2011.4.13)より

「東日本大震災におけるわが国決済システム・金融機関の対応」

 日本銀行決済機構局の平成23年6月24日のレポート、「東日本大震災におけるわが国決済システム・金融機関の対応」の「1.はじめに」には下記のように書かれています。
「東日本大震災は、わが国決済システムや金融機関にも大きな直接的な被害と間接的な影響をもたらした。それにもかかわらず、日本銀行を含め、わが国決済システム、金融機関は、震災発生後も全体として安定的に業務を継続し、金融インフラとしての正常な機能を維持してきた。これには、とくに被災地に所在する金融機関が店舗の復旧と業務の再開に尽力し、預金者や企業のニーズに懸命に応えてきたことが大きい。また、わが国決済システムと金融機関が日頃から業務継続体制の整備に地道に取り組んできたことも寄与している。

 金融は、電力、水道、ガス、通信、鉄道、道路などと並ぶライフラインの一つであり、国民生活や経済活動を支える重要なインフラである。仮に決済システムや金融機関が十分な機能を提供できなくなるような場合には、預金の受払いや資金の決済に支障が生じ、国民の不安を増幅しかねない。決済システム、金融機関、あるいは金融・資本市場は、国民経済を支える金融インフラとして、緊急事態にあっても極力通常どおりの金融・決済機能が維持されるよう、日頃から業務継続体制の強化に尽力していくことが重要である。

本稿は、今回の震災において、日本銀行を含め、わが国決済システムや金融機関がどのような初期対応をとり、どのように金融・決済機能を維持したかを解説するものである。本稿は、主として決済にかかる金融機能維持の面に焦点を当て、決済システムや金融機関の対応を記録することに主眼を置く。あわせて、業務継続体制に関する今後の課題についても言及する。」
以下は、同レポートの抜粋です。

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1. 東日本大震災の発生 (略)

2.日本銀行の震災対応

(1) 災害対策本部の設置
 日本銀行は、3 月11 日(金)地震発生の約15 分後となる午後3 時、総裁を本部長とする災害対策本部を設置した。(後略)

(2) 金融機関に対する現金供給と損傷現金の引換え
① 金融機関に対する現金供給
 日本銀行は、取引先金融機関を通じて、わが国の国民生活と経済活動が必要とする現金(日本銀行券および貨幣)を供給している。大きな災害が生じると当座の生活資金の手当てや先行きに対する不安から、預金者による預金の引出しが増加する傾向がある。金融機関は、こうした預金引出しの動きに備えて日本銀行本支店から多めの現金を入手し、手許現金を確保することになる。
 今回の震災では、被災が広範かつ大規模であったため、日本銀行に対する金融機関からの現金手当ても多額にのぼった。日本銀行は、金融機関と連携しつつ、これに対応した。すなわち、被災直後の12 日(土)、13 日(日)には、青森、仙台、福島の各支店や盛岡事務所(盛岡市保管店)(注1)において、金融機関への現金供給を継続した。また、週明け14 日(月)以降も、被災地金融機関による現金手当ては増加を続けた。東北地方に所在する日本銀行支店・事務所での現金支払いは、被災後1 週間で累計約3,100 億円となり、前年同期の約3 倍の規模に達した。
(注1) 日本銀行は、近隣に日本銀行の本支店がない地域の利便を図るため、一部の金
融機関の店舗(保管店)に銀行券を寄託し受払いを行っている。この寄託銀行券
の受払いには、日本銀行本支店または国内事務所の職員が立ち会っている。
 また、東京に所在する日本銀行本店でも、12 日(土)には、臨時に窓口を開け、硬貨を中心に現金を金融機関に供給した。首都圏では、地震発生当日の11日(金)夜から12 日(土)朝にかけて、帰宅困難となった方々を中心に、コンビニエンスストアや商店で飲食物や日用品が大量に購入された結果、一部に硬貨の不足が懸念されたことに対応したものである。
② 損傷現金の引換え
 日本銀行は、国民が現金を便利に、かつ安心して利用できるよう、水に濡れて汚れたお札や火災で損傷した現金など(損傷現金)を、法令に定める基準に基づき新しい現金に引き換える業務を行っている。あわせて、後述の「金融上の特別措置」に基づき、金融機関に対し、預金者等からの汚れた紙幣の引換え要望に応じるよう要請している。
 今回の震災ではとくに津波の被害が大きかったため、水に浸かった現金の引換え依頼が目立っている。また、火災で損傷した現金の引換え依頼も生じている。こうした損傷現金の引換え依頼は、被災者が遠隔地に避難したこと等を背景に、東北地方だけでなく全国の日本銀行本支店で発生している。
 日本銀行は、こうした損傷現金の引換え依頼に全力で取り組んでいる。すなわち、本支店のみで行っている損傷現金の引換え事務を、支店のない岩手県においても実施できるよう、金融機関の協力を得て、盛岡市内に臨時引換え窓口を設置した。また、被災地に所在する支店の損傷現金引換え事務を円滑に進めるため、本支店から応援要員を派遣して引換え事務に当たっている。
 東北地方に所在する日本銀行支店および盛岡市内の臨時窓口での損傷現金引換え実績は、震災発生後6 月21 日(火)までの間に24.2 億円に達した。この金額は、阪神・淡路大震災後6 か月間における日本銀行神戸支店の引換え実績(約8 億円)をすでに大きく上回るものとなっている。

 (3) 日銀ネットの安定的な運行確保
日本銀行は、日本銀行券を発行するとともに、取引先金融機関に対して当座預金を通じた決済サービスを提供している。こうした当座預金を通じた決済サービスは、日本銀行が運営するコンピュータ・ネットワークシステム(日本銀行金融ネットワークシステム:日銀ネット)上で処理されている。具体的には日本銀行のシステムセンターと、利用先金融機関に設置する日銀ネット端末または金融機関のシステムセンターを通信回線で接続し、オンライン処理している。(中略) 日銀ネットでの1 営業日当たり当座預金決済額は約104 兆円、同国債振替決済・移転登録決済額は約76 兆円(2010 年中)に達している。
 日銀ネットは、わが国決済システムの大もとをなすものであり、万一その運行に支障が生じると、金融機関間の資金決済や国債決済の履行不能を通じて、国民生活と経済活動に多大な悪影響を及ぼすことになる。このため、日本銀行は、日銀ネットにかかる業務継続に関して万全の体制を構築すべく、これまで努力を重ねてきた。今回の地震では、システムセンター所在地でも震度5 弱を記録したが、日銀ネットの運行に支障はなく安定的な稼働が維持された
 (4) 「金融上の特別措置」の要請
 3 月11 日(金)、内閣府特命担当大臣(金融)と日本銀行総裁の連名で、「平成23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震にかかる災害に対する金融上の措置について」(金融上の特別措置)を発出した。
 同措置は、銀行、信用金庫等の金融機関や証券会社等に対し、被災者に対する便宜が図られるよう、金融上の措置を適切に講ずるよう要請するものである。
 具体的には、①預金証書、通帳を紛失した場合でも、預金者であることを確認して払戻しに応ずること、②届出の印鑑のない場合には拇印にて応ずること、③災害時における手形の不渡処分について配慮すること、④汚れた紙幣の引換えに応ずること、⑤有価証券喪失の場合の再発行手続きについての協力をすること、などを金融機関等に要請している(注2)。
 金融機関も、「金融上の特別措置」の要請を受け、後述のとおり、利用者の便宜が図られるよう、これまで様々な対応を講じてきている。
 (注2)3 月13 日(日)には、長野県北部地震の発生を受けて、関東財務局長野財務事務所長と日本銀行松本支店長が、同新潟財務事務所長と同新潟支店長が、それぞれ連名で「金融上の特別措置」を発出した。
(5) 国庫・国債代理店事務の円滑な遂行に向けた措置  (略)

(6) 正確かつ迅速な対外情報発信
 今回の震災では、わが国金融インフラの状況に関し、一時、様々な噂が一部に広がり、海外投資家などを動揺させかねない状況にあった。日本銀行の業務体制に関しても、「システムセンターを大阪に移した」とか、「本部機能の一部を大阪に移管する準備に入った」といった、全く根拠のない噂が一部に聞かれた。東京金融市場に関しても、「証券取引所が閉鎖される」といった、誤った噂が流れた。こうした事実に反する噂は、金融・資本市場を動揺させ、震災によって生じた市場の不安を増幅させかねない。それだけに、これを明確に否定するとともに、正確な情報を国内外に発信することがきわめて重要となった。
日本銀行は、震災発生直後から、金融庁とも連携するなどして、決済システム、金融機関の被災・対応状況に関する情報収集を進めるとともに、日本銀行の業務継続状況や、わが国決済システムや金融機関の対応状況につき、国内外に正確かつ迅速に発信することに努めた。(中略)
 今回の経験では、金融インフラの正常な稼働の可否が、内外の金融市場にとっていかに大きな関心事であるかが改めて浮き彫りとなった。金融インフラの安定的な稼働の継続は国民生活や経済活動を支える前提条件であり、その強化に努めるとともに、正確な情報の対外発信に配慮していくことがきわめて重要である。
3.民間決済システム・金融機関の震災対応

(1) 被災地金融機関・決済システムの対応
① 預金者への対応
 地震と津波の発生によって、東北から関東の太平洋沿岸にある金融機関を中心に、多くの店舗が損壊した。ATM も多数が稼働停止となった。福島第一原子力発電所の事故にかかる避難指示を受けて、閉鎖した店舗もあった。これらの結果、東北6 県および茨城県に本店のある72 金融機関全営業店約2,700 のうち、3 月16 日(水)時点で、11%に相当する約310 ケ店が閉鎖となった
 被災地の金融機関は、みずからも被災者であるという極めて困難な状況にありながらも、震災直後から被災店舗の復旧と業務の再開に懸命に取り組んできた。この結果、上記閉鎖店舗数は、6 月21 日(火)時点で72 か店(全営業店の約3%に相当)まで減少している
 金融機関は、この間も、復旧困難な店舗について近隣に臨時窓口や仮設店舗を設ける、あるいは近隣店舗で業務を代替するなどの措置を講じながら、預金者への対応や融資先からの相談に全力を挙げてきた。たとえば、震災直後の3月12 日(土)、13 日(日)は、休日にもかかわらず、多くの金融機関が営業可能な店舗の窓口を開け、預金者からの相談や預金払戻しに応じた。その後も被災地の金融機関では、預金証書やATM カードの再発行、融資や相続に関する相談など、被災に伴う事務の処理が続いている。
 また、各金融機関では、前述の「金融上の特別措置」の要請も踏まえ、被災した預金者に柔軟な対応を図っている。すなわち、預金証書、通帳を紛失した場合でも預金者であることを確認のうえ払戻しに応じている。また、届出の印鑑がない場合にも、本人を確認のうえ、拇印での払戻しに応じている。さらに、水に浸かったり、火事の被害を受けて損傷した現金が店舗に持ち込まれた場合には、みずから鑑定し引換えを行う、あるいは日本銀行本支店に取り次ぐといった対応を講じている
 被災地における金融・決済機能は、震災の発生にもかかわらず、こうした金融機関の懸命な努力によって維持されてきた。日本銀行も、前述のとおり、金融機関との緊密な連携のもと、金融機関の業務が円滑に行われるよう支援に全力を挙げている。
② 金融機関間の連携・協力
 今回の震災対応にあっては、各地の金融機関が連携・協力して被災者への対応強化を図る動きが目立った。被災地金融機関の一部では、預金の引出し増加に対応するため、手許現金を追加的に手当てする必要が生じた。この場合、金融機関自身が大きな被害を受けていたため、近隣の金融機関が協力して現金を現地金融機関に配送する例がみられた。このほか、緊急時対応として、金融機関が共同して現金輸送車を運行し、現金の配送を行う例もみられた。近隣の金融機関が協力して、被災地金融機関の業務継続に必要な帳票等をリレー搬送する例もあった。
 また、今回、多くの被災者が、地元を離れ遠隔地に避難した。この場合、避難地域に被災者の取引金融機関が存在しないケースも少なくない。こうしたケースに対し、各地の金融機関は協力して「取引金融機関以外での預金の払戻し」の取扱いを行い、被災者の便宜を図った。具体的には、被災者が避難先の金融機関を訪れる場合、①当該金融機関の窓口で預金者本人の確認を行い、②預金口座のある被災地域金融機関と連絡をとったうえで、③一定限度まで当該金融機関が預金者に代理払いを行う仕組みである。
こうした金融機関間の連携・協力は、震災という緊急事態のもとで、わが国全体としての金融・決済機能維持に大きく貢献したものと評価される。
③ 手形交換所の動向 (略)
(2) 被災地を含む全国的な決済システム・金融機関の対応
① 決済システムの動向 (略)
② 一部行のシステム障害発生と全銀システムの決済時間延長
 上記のように、わが国決済システムは、震災の発生にもかかわらず、正常な稼働を続け、安定的に金融・決済機能を発揮し続けた。
 こうしたなかにあって、14 日(月)夜、一部大手行でシステム障害が発生し、その後、日をおって決済不能件数・金額が拡大した。(中略)
 全銀システムと日銀ネットの決済時間延長の措置は、国民生活や経済活動に不可欠な取引の決済を、できる限り多く予定日当日中に完了させることで、通常どおりの金融・決済機能を維持しようとしたものである。
③ 市場レベルBCPの対応 (略)
④ 金融市場取引の急増への対処 (略)
⑤ 被災地における停電、東京電力管下における計画停電等への対応
 東北地方では、震災直後ほぼ全域にわたって停電が発生した。日本銀行の4支店を含め、東北地方に所在する金融機関は自家発電機の稼働により、震災当日11 日(金)の業務を継続した。また、多くの金融機関が、預金者の便宜を図るため、12 日(土)、13 日(日)も自家発電機の稼働により一部の店舗を開き、預金者に対応した。その後13 日(日)夜にかけて、県庁所在地など中核都市の停電は解消に向かい、14 日(月)以降は多くの先が商用電力のもとで業務を行った。
 なお、震災直後は、燃料の供給・流通機能が一時的に低下したため、自家発電機用の燃料の機動的な補充に懸念が生じた金融機関もみられた。そうした金融機関にあっても、近隣所在の金融機関の支援などにより最終的に燃料を確保し、業務の遂行に支障は生じなかった。
 一方、東京電力管下にあっては、3 月14 日(月)から、管内を5 つのエリア に分けて輪番で電力供給を停止する仕組み(計画停電)が実施された。金融機関は、計画停電の対象となった地域に所在するものと、東京23 区内など対象外となるものに分かれた。計画停電の対象となった金融機関の本部やシステムセンター、主要支店等では、停電時間帯に自家発電機を稼働させ、業務を通常どおりに継続した。一方、自家発電機を備えていない支店やATM は、計画停電時間中に営業を停止する先がみられた。また、節電に協力するため、店舗外ATM の休止や稼働時間短縮などを行う動きがみられた。(中略)この結果、金融機関、決済システム全体として、安定的に金融・決済機能を維持した。(後略)
4.まとめ

 (1) 全体評価
 金融は、電力、水道、ガス、通信、鉄道、道路などと並ぶライフラインの一つであり、国民生活や経済活動を支える重要なインフラである。仮に決済システム、金融機関が機能不全に陥り、十分な機能を提供できなくなるような場合には、預金の受払いや資金の決済に支障が生じ、国民の不安を増幅しかねない。決済システム、金融機関、あるいは金融・資本市場は、国民経済を支える金融インフラとして、緊急事態にあっても極力通常どおりの金融・決済機能が維持されるよう、日頃から業務継続体制の強化に尽力していくことが重要である。
 わが国決済システム、金融機関は、これまで述べてきたように、東日本大震災にあっても安定的な稼働を続け、円滑な金融サービスの提供継続を実現してきた。(後略)

(2) 今後の課題
(前略)
 第1 に、業務継続体制構築の前提となるストレスシナリオが、今回の震災の経験を踏まえたうえで、潜在的なストレス事象に見合う十分なシナリオとなっているかを改めて点検する必要がある。(後略)
 第2 に、そのうえで、ストレスシナリオに見合った体制の強化を図っていくことが重要である。(後略)
 第3 に、金融機関全体に加えて、将来的には社会インフラ等を担う企業の協力も得ながら、ストリートワイド訓練等を実施・充実させていくことが有効と考えられる。(後略)
 以上のように、わが国決済システム、金融機関は、今回の震災にあっても安定的に金融・決済機能を発揮し続け、国民生活や経済活動を下支えする役割をしっかりと果たしてきた。そのうえで、業務継続体制に関しては、――新しい事象を踏まえた不断の点検・見直しが求められるという事柄の性格もあり、――上述のとおり課題は少なくない。
 日本銀行も、日本銀行券の発行主体であるとともに、日銀ネットを運営する主体として、みずからの業務継続体制の一層の整備に注力していく考えである。
 また、今後とも、日常のモニタリングやオーバーサイト、考査などの場を通じて、民間決済システムや金融機関に対し業務継続体制の整備を促すとともに、その主体的な取組みを積極的に支援していく方針である。
以  上
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【 所 感 】
 今般の東日本大震災に対する政府の対応については多くの問題点が指摘されています。然し、7月10日の記事・JR東日本(東日本旅客鉄道株式会社)の対応、7月20日の記事・東日本大震災に対する中小企業庁の支援策など、有効な対応が行われている部分もありますが、こう言った部分は殆ど報導されません。
 わが国の決済システム、金融機関が、今回の大震災にあたり安定的に金融・決済機能を発揮し続け、国民生活や経済活動を下支えする役割をしっかりと果たしたことは高く評価されるべきことだと思います。日本銀行は平時から金融機関のBCP(事業継続計画)の重要性を強調し、色々なレポートも作り、各金融機関を指導していました。その努力は無駄ではなかった訳です。ただその最中、東日本大震災直後の3月14日(月)夜から発生したみずほ銀行の大規模なシステム障害は誠に遺憾な出来事であったと痛感します。
こうしたわが国金融機関のBCPに対する取り組みのノウハウが、金融機関の取引先企業にもしっかりと伝わることを心から希望します。

○「東日本大震災におけるわが国決済システム・金融機関の対応」
http://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2011/data/ron110624a.pdf

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「福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)」の報告書

2012年4月1日日曜日 | ラベル: |

ブログを始めて丁度1年経ちました。皆様に読んで頂けるのが励みになり、続けています。今年度もどうか宜しくお願い申し上げます。
 「福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)」の報告書を漸く3月17日に入手し、鋭意読みました。畑村洋太郎先生柳田邦男氏らの「東京電力福島第1原発事故調査・検証委員会・中間報告書」と比較して感想をご報告致します。
 先ずは、恒例の「京都の四季」の写真です。
 春爛漫・素敵な京都の櫻 その1です。

HP 「京都の四季」より  平案神宮 枝垂れ櫻
  今年も4月5日(木)、6日(金)、7日(土)、8日(日)の4日間、ライトアップされた平安神宮で催される「紅しだれコンサート」は、私も一度行きましたが、地元の大阪や神戸から来た女性達も「綺麗やわー」と感嘆していた夢のような一夜です。
http://www.kyoto-np.co.jp/kp/kyo_np/info/moyoosi/2012benishidare/

平安神宮 紅しだれコンサートの夜景 京都新聞HPより

 「福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)」の報告書
   
 昨年12月26日に公表された「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」の中間報告書(本編507ページ、資料212ページ)については1月20日の記事に書きました。この報告書の最も重要なテーマは「想定外」の問題だと思います。また、この報告書には「官邸等における事故発生後の対処や措置に関する意思決定の経緯については、中間報告までの時間的制約により、当時の閣僚等の重要な関係者についてヒアリングが未了である。」と記述されています。
 「福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)」報告書も本編403ページ、資料8ページ)の分厚い報告書です。この報告書では、菅直人前首相・海江田万里前経済産業相・枝野幸男経済産業相・斑目春樹原子力安全委員会委員長など政府要人のヒアリングを行っていますが、東京電力の関係者については「東京電力は我々の経営陣に対するインタビューを拒否した*1」と記述されていて非常に対照的です。従って、双方の報告書を読むことによって、全貌が掴めるのかなと思われます。
 「福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)」報告書においても第1部・第2部の「福島原発の事故の経緯と各方面の対応についての広汎な分析」が半分以上を占めています。
*1:P.393

○安全神話
 第3部「安全規制の歴史と構造の分析」に89ページが割かれています。ここの重要なキーワードは「安全神話」です。
 「原発の安全性に対する楽観的な認識に基づいてガバナンス体制が構築され、規制当局や安全規制に責任を持つ電気事業者、さらに原発立地自治体の住民や国民全体が〈安全神話〉を受け入れることで、日本の原子力事業が成り立っており、次第に事故の可能性を議論することすら難しい状況を生み、その結果、事故に対する〈備え〉が不十分となったのではないか。(中略)安全性の問題に正面から向き合うことを避けるような風潮を作っていった。その時に重要な背景となったのが国が原子力政策を推進し、電力会社が原発を商業運転する〈国策民営〉体制であるといえる。国策で導入した原子力であったが、次第に安全性の向上も、一義的には民間企業である電気事業者の責任となっていた。それゆえ、規制当局は電気事業者を監督しつつも、実際の安全性向上の投資は民間事業者の判断に委ねられていった。そのため、安全性向上に対する国の責任の所在があいまいになり、事故への対応が混乱するといった状況がみられた。
 そうしたことが、日本の原子力安全規制ガバナンスに反映され、一方では緻密で膨大なハードウェアの点検を中心とする規制が作られることで、原発の安全性が確保されているという神話が紡ぎだされた。他方そうした規制だけを実施することで、事故を想定した緊急時対応などの準備が不十分な状況が容認されてきた。それが福島第一原発事故に際して、十分な備え、とりわけ〈深層防護〉の第4層にあたるシビアアクシデント(過酷事故)対策の未整備につながったと考えられる。*2
最終章の 『「国策民営」のあいまいさ』 にも下記のように記述されています。
「今回、平時においては民間企業(電力会社)が原子力発電事業を経営するのは問題がないとしても、原発危機においては、政府が最大の責任を持って取り組む以外ないということを如実に示した。東京電力の危機管理能力と意思決定、そしてガバナンスの弱さは、このような企業に原子力発電を行う資格があるのか、という疑問を国民に抱かせる結果となった。
 しかし、その疑問は東京電力に対してのみ向けられるべきではないだろう。国も当事者意識の恐ろしいまでの欠如を露呈させた。*3
*2:P246-247   *3:P.388

 原子力発電所の事故発生前は、各電力会社は「私企業だから防災対策に無限に金を掛ける訳にはいかない。」といっていました。「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」の中間報告書は「確率が低い場合でも、もし起きたら取り返しのつかない事態が起きる場合には、そのような事態にならない対応を考えるべきである。今回の事故は、我々に対して、〈想定外〉の事柄にどのように対応すべきかについて重要な教訓を示している。」と記述しています。
 本報告書では「安全性の向上も、一義的には民間企業である電気事業者の責任となっていた。」と指摘しています。
 福島原発の事故発生についての問題点を「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」中間報告書は「想定外」の問題として、本報告書は「〈国策民営〉のあいまいさの結果」と捉えています。人が変れば分析内容も変るものだと思いました。

○グローバル・コンテクスト
 グローバル・コンテクストにも44ページが割かれています。事故の国際的な側面については「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」の中間報告書には記述がなかったと思います。
 ここでの注目点は「福島第一は原発事故では(中略)電源の喪失がもたらす深刻な事態を公知のものとし、原子力発電所におけるセキュリテイの脆弱性を示す結果となってしまった。*4」ということかと思います。例えばテロリストに対して、原子炉本体を攻撃しなくても、周辺の電源を全面的に破壊すれば深刻な事態を引き起こせることを周知させてしまった訳です。
*4:P.337

○福島第一原発事故の教訓
 最終章「福島第一原発事故の教訓」では、「この事故が人災の性格を色濃く帯びている(中略)人災の本質は東京電力の備えにおける組織的怠慢にある*5。」と断じています。
 更に「今回の事故とその後の対応を見る時、東京電力は責任感を著しく欠いていると言わざるを得ない。*6」「しかし、安全規制当局である原子力安全・保安院も、保安院の「規制調査」を任務とする原子力安全委員会も責任は同じである。*6」と述べています。
  「津波の襲来は「想定外」ではなかった。多くの研究がそれを〈想定〉していたのに、東京電力は聞く耳を持たなかった。*7」と叙述されています。
 「原子力安全・保安院は、規制官庁としての理念も能力も人材も乏しかったといわざるをえない。ここは結局のところ、安全規制のプロフェッショナル(専門職)を育てることができなかった*7」「危機は東電の能力の限界はるかに超えていた。今回の原発危機は何よりも安全規制ガバナンスの危機として立ち現われた。*8」「東電本店のガバナンスの深刻な不具合を指摘したうえでなお、現場の〃独走〃は、その判断が結果的に正しかったにせよ、問題を孕んでいることを指摘しておかねばならない。とりわけ、それをあたかも〈現場力〉の表れであるかのように讃える風潮は、危機管理の観点からも問題なしとしない。(中略)最終責任を負うのは上位機関であり、最後は政府であり、所長はその責任を代替することはできない*9
「日本にも科学技術評価機関(機能)を創設し、首相に対する科学技術の助言機能を強化する必要がある。政府の危機管理機能も脆弱だった。最大の問題は、原災本部事務局が機能しなかったことである。その任を負うべき原子力安全保安院は危機対応の備えがなかった。*10」と厳しい意見を述べています。
 *5:P.383  *6:P.384 *7:P.386  *8:P.387  *9;P.392 
 *10:P.394

 先に述べられた「原子力安全・保安院は、結局のところ、安全規制のプロフェッショナル(専門職)を育てることができなかった。*7」理由について報告書は、「スペシャリストよりもゼネラリストを育てることに傾きがちな官庁の人事システムの影響もあり、技術的知見を蓄積する受け皿としての能力に乏しい*11」と指摘しています。
*11:P.251  

 3月10日にご紹介した吉野太郎著「事業会社のためのリスク管理・ERMの実務ガイド」にも、4.ERM実施体制構築の経験と教訓の中の p.214 「事務局担当者は少なくとも4年は異動しない人がよい」との記述があり、私は「大企業の人事ローテーションと専門性の問題は事務系ではまだ充分解決されていない企業が多いと思います。」と書きました。わが国では、官庁も大企業もスペシャリストよりもゼネラリストを育てることに傾きがちな人事システムになっており、これはリスク管理上の大きな問題だと改めて痛感させられます。私はこれも重要な指摘だと思います。

○戦中派の感概
 「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」の中間報告書も、「福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)」の報告書もともに膨大なものなので、十分読んだとはとてもいえませんが、考えさせられる点が多々ありました。
 私は小学校2年生の12月に日米開戦となり、小学校6年生の8月に敗戦になりました。その後、中学生・高校生・大学生・社会人として戦後を経験しました。私の経験では、悲惨な戦争を何故起こしたのか、どうすれば良かったのかについて、戦後徹底的な議論はなされていないと思います。そのため、わが国の色々な組織に関して、敗戦に至るプロセスの教訓を活かした改革は行われていないと考えます。
 わが国における敗戦後の改革の大部分は占領軍の指示によるもので、眞に敗戦の教訓を活かしたものではありません。従って組織内、特に大企業や官庁の中には旧態依然たる体質が根強く残っていると思います。
 今回このように幾つもの報告書が作成され,各々異った視点から議論されることは大変有意義なことです。この事故を徹底的に分析し、その教訓を生かして、わが国の政府・大企業の組織の在り方を根本的に見直すべきだと痛感します。「第二の敗戦」と認識して議論を尽くす必要があると思いますが、当事者・国民の意識はどうでしょうか。


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