「中小企業の業況は総じて持ち直しの動きが見られたが、東日本大震災の影響により大幅に悪化している。」と言うのが冒頭の結論です。
以下星野光明氏のお話に沿って分析内容をご紹介致します。
1. 資金繰り
資金繰りについては、「資金繰りは、リーマン・ショック前の水準以上に回復していたが、震災が発生した2011年3月に、大幅に悪化した。」とされています。震災関連倒産件数を見れば下記の通りです。
東日本大震災 (3月11 日発生) | 阪神淡路大震災 (1 月17日発生) | 備 考 | ||
月 | 件 数* | 月 | 件 数 | |
3 月 | 8 件 (1 件)* | 1 月 | 1 件(1 件) | 1995 年合計 144 件(78件) |
4 月 | 25件 (3 件) | 1 月 | 13件(3 件) | |
5 月 | 64件 (8 件) * | 3 月 | 21件(10件) | |
- | - | 4 月 | 27件(14件) | |
- | - | 5 月 | 14 件(8 件) | |
- | - | 6 月 | 12件(7件) |
* ( )内は直接被害による倒産件数 6月7日現在
○東日本大震災 破産準備中等の実質破綻も40件発生(3~5月)。
東日本大震災の場合、阪神淡路大震災に比べ倒産件数が大きく上回っています。
2.東日本大震災の中小企業への影響
東日本大震災では、地震、津波、原子力発電所事故、電力供給制約等の様々な事象が生じ、これらが複合的に関連して中小企業に広範かつ甚大な影響が生じました。このほか、サプライチェーンを通じた影響や消費マインドの低下による影響が全国的に拡大しました。
商工会が把握している会員企業の被災状況によると、建屋・家屋の被害は、沿岸部で全壊が約5割である一方、内陸部で一部損壊が約8割と、津波の影響を受けた沿岸部でより大きな被害が発生しています。
津波の影響を受けた地域には約7万5千社、地震の影響を受けた地域には約74万社、原子力発電所事故の避難区域等には約7千5百社。東京電力管内都県には約145万社の企業が存在しています。(最後に添付の資料参照)
3.津波の影響
津波により影響を受けた地域は、生活面、経済面双方から見て、小規模な都市雇用圏*1であるものが多く、これらの地域では、漁業及び漁業から派生する食品加工業等が主要産業となっていましたが、津波により、工場、店舗、港湾等の産業基盤や地域のコミュニティの基本的機能が壊滅的な被害を受けました。
*1都市雇用圏とは、おおむね①人口集中地区の人口が1万人以上で、②周辺市町村から中心市町村への通勤率(通勤者数/就業者数)が10%以上の圏域であり、単一の市町村を超えて形成される通勤圏を表す。このような都市雇用圏は我が国全体で251ある。
○1995年の神戸都市圏の人口は、221.9万人。(第5位)
4.地震の影響
津波の影響は受けていないが、地震により影響を受けた地域でも
①建物の損壊・液状化
②設備の保守・点検が専門家の不足で受けられないこと
③物流の停滞により原材料の調達や商品の配送が行えないこと
などにより、中小企業や商店街の事業活動に大きな影響が生じました。
【政府の支援策 】
このような状況を受けて政府は、金融支援、雇用支援の大幅な拡充を実施するとともに、事業を再開したいという要望があることから、仮設店舗、仮設工場等の整備、地域経済の核となる企業グループ支援等を進めています。
(独)中小企業基盤整備機構は、地域コミュニティにとって不可欠な機能を提供しています。例えば地域の中心的な商店街等支援等です。
5.原子力発電所事故の影響
原子力発電所事故の避難区域等では、農林漁業で約12%、建設業で約15%、製造業で約21%、電気・ガス・熱供給・水道業で約2%が働いており、全国、福島県と比較すると、これらの業種で就業する者の割合が高い傾向にあります。
また、原子力発電所事故の避難区域等では、化学部品、輸送機械部品、電子機器部品等の特定の分野において高いシェアを有する企業が存在し、当該企業の事業活動の継続が困難となり、自動車やエレクトロニクス等のサプライチェーン全体に影響が波及したとも考えられます。
避難区域等の企業は事業の継続が著しく困難となっており、先行きの見通しも立たない状況にあります。
避難区域等の周辺で生産された商品では、取引の停滞や取りやめが発生。国内外を問わず、旅館ホテル等でも、風評被害が広がり、また取引先から製品の安全性の検査、確認が求められています。
【政府の支援策】
こうした状況を踏まえ、影響を受けた中小企業に対して、特別な金融支援、雇用支援、経営支援、風評被害への対応支援、仮払い補償の実施等を行っています。
6.電力供給制約の影響
東京電力管内の企業数は、約145万社であり、その大半は中小企業です。
帝国データバンクのデータでは、管内企業数と、管内企業と直接取引を行う管外企業数を合わせると、全国の約5割を占めます。特に、製造業と卸売業では、管内企業と直接取引を行う管外企業数 が多く、全国的に影響が及ぶ可能性があります
夏期に向けて、東京電力・東北電力管内において、ピーク期間・時間帯15%の需要抑制を達成するためにも、中小企業は、更なる節電に取り組んでいく必要があります。
7.その他の全国的な影響
○サプライチェーンへの影響
被災地域における出荷額が大きく、産業に不可欠な品目を供給する企業との取引が困難になることにより、サプライチェーンに影響が及んだケースもありました。
こうした影響の全国的な広がりを受け、特別相談窓口を設置しており、資金繰り、雇用、税制等についての多岐にわたる相談が寄せられています。
○被災地域における出荷金額上位5品目1
順 位 | 品目名 | 出荷額 ( 百億円 ) | 構成比(%) | ||
被災地域 | 全 国 | ||||
1 | 自動車部分品・附属品 | 67 | 2,654 | 2.5 | |
2 | その他の電子部品・デバイス・電子回路 | 33 | 405 | 8.1 | |
3 | 集積回路 | 31 | 431 | 7.1 | |
4 | 洋紙・機械すき和紙 | 30 | 208 | 14.4 | |
5 | 自動車 ( 二輪自動車を含む) | 27 | 969 | 2.8 | |
全 品 目 | 1,165 | 30,525 | 3.8 |
資料:経済産業省「平成20年工業統計表」再編加工
(注)1.被災地域は、青森県、岩手県、宮城県、福島県における災害救助法を適用した市町村(2011年3月24日時点)を集計した。
2.工業統計表の商品分類表の製造品番号に基づいた品目単位での集計値である。
○消費マインドの低下による影響
震災による消費マインドの低下により、小売業、旅館、ホテル等のサービス業を中心に影響が拡大しました。
【 所 感 】
断片的には既に報道されている部分もありますが、企業(特に中小企業)について、東日本大震災が与えた影響を包括的・網羅的に分析されていて、大変参考になると思います。
○プレゼンテーション資料
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/11071101.pdf
○中小企業白書 2011年版
http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h23/h23_1/h23_pdf_mokuji.html
○参考資料
① 津波被災地域
2009年 企業数 75,098社
2008年 製造品出荷額等 4.4兆円.
2007年商品販売額 7.4兆円
○東日本大震災により、災害救助法を適用した市町村(2011年3月24日時点)のうち、国土地理院が4月18日に公表した「津波による浸水範囲の面積(概略値)について(第5報)」により、津波の浸水を受けた青森県、岩手県、宮城県、福島県の39市町村を集計した。そのうち仙台市については、宮城野区、若林区、太白区を集計した。
②地震被災地域
2009年 企業数 742,462社
2008年 製造品出荷額等 35.6兆円
2007年商品販売額 206.5兆円
○東日本大震災により、災害救助法を適用した市町村(2011年3月24日時点)のうち、国土地理院が4月 18日に公表した「津波による浸水範囲の面積(概略値)について(第5報)」により、津波の浸水を受けた青森県、岩手県、宮城県、福島県の39市町村を除いた市町村及び仙台市青葉区、仙台市泉区を集計した。
③原子力発電所事故の避難区域等
2009年 企業数 7,503社
2008年 製造品出荷額等 0.3兆円
2007年商品販売額 0.3兆円
○原子力発電所事故の避難区域等を含む市町村として、田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村の全域を集計した。
④東京電力管内都県
2009年 企業数 1,454,598社
2008年 製造品出荷額等 111.6兆円
2007年商品販売額 262.9兆円
○茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、静岡県を集計した。