東日本大震災について思う ⑤ JR東日本(東日本旅客鉄道株式会社)の場合

2011年7月10日日曜日 | ラベル: |

 7月6日(水)経済産業研究所のBBLセミナー*1でJR東日本(東日本旅客鉄道株式会社)代表取締役副社長・総合企画本部長 冨田哲郎様の「東日本大震災への対応と今後の課題」と言うお話をお聞きしました。以下はその内容です。
 先ず、過去の地震の際の新幹線の状況を振り返り、東日本大震災におけるJR東日本の対応をご紹介致します。

  • 阪神淡路大震災と山陽新幹線
     阪神淡路大震災は、1995年(平成7年)1月17日午前5時46分に起こりました。山陽新幹線の高架橋は倒壊しましたが、未だ新幹線は動いていなかったので、大惨事は免かれました。運休期間は83日でした。
  • 新潟県中越地震と上越新幹線
     新潟県中越地震は2004年(平成16年)10月23日午後5時56分に起こりました。上越新幹線では、新潟行き とき325号が長岡駅への停車のため、時速約200kmに減速して走行中でした。早期地震検知警報システムによる非常ブレーキが作動し、8両が脱線したものの、軌道を大きく逸脱せず、逸脱した車両も上下線の間にある豪雪地帯特有の排雪溝にはまり込んだまま滑走したおかげで、横転や転覆、高架橋からの転落を免れ、脱線地点から約 1.6 Km新潟寄り、長岡駅の東京寄り約 5 km の地点で停車しました。対向列車がなかったことなどの幸運も重なり、死者・負傷者は1人も出ませんでした。運休期間は66日でした。
  • 東日本大震災と東北新幹線
     3月11日午後2時46分東日本大震災発生時、東北新幹線では上下27本の列車が運行中でした。*2特に仙台エリアを時速270Kmで走行中の2本の列車が地震による強い振動を受けました。海岸地震計(太平洋岸9ヶ所設置・設置図参照)がP波(初期微動)を検知し、最初の揺れが到達する9-10秒前に電力がシャットダウンし、非常ブレーキが作動しました。非常ブレーキが作動した70秒後に最大の揺れが到達。その時までにこれらの列車は時速100Kmまで減速していたものと考えられ、乗客・車両ともに無事でした。

 過去の地震の教訓に基づき、JR東日本では新幹線の高架橋15,400本、新幹線橋脚2,340基の耐震補強対策は2007年までに完成していましたので、高架橋・橋脚は大丈夫でした。しかし、平成13年度までの強化を目標に行いつつあった架線の柱が折れたりして、架線の断線が470ヶ所に及びました。因みに折れた柱は1本も列車には倒れ掛らず、幸運でした。JR東日本初代会長山下勇氏は、「幸運のダムに水を貯めておきなさい。」といつも言っておられた由で、「事前対策+幸運に恵まれ今回の大震災で新幹線では1人の死者・負傷者もなかった。」という言葉が大変印象的でした。

 阪神淡路大震災・新潟県中越地震と、災害ごとの教訓を生かして、事故の発生を防止したことは高く評価されるべき事態だと思います。また、今回の運休期間は50日です。

 問題は来るべき首都圏直下型地震では、P波とS波の時間差が小さいので如何に対処するかだということでした。
  • 在来線の復興について
     在来線の被害については省略しますが、太平洋沿岸の七線区の復興をどうするかについて、今後居住地が海から離れた高台に移転し、職住が分離するのであれば鉄道の線路の位置も変える必要があるかも知れない。町づくりと一体の復旧・復興を考えることが必要である。また従来型の鉄道で良いのか、富山市で運行されているLRT*2のような交通機関も検討に値する。と言う示唆に富んだお話でした。
  • 3.11当日の首都圏における対応について
     JR東日本は3月11日、早期に当日の運行中止を発表し、そのこと自体も論議を呼んだのですが、更に駅を閉鎖し、駅構内からお客様を締め出したことが大変非難されました。この点についてJR東日本の災害時のマニュアルに反して、東京駅・横浜駅・八王子駅の駅長さんは、日ごろからの地元との連繋の中で駅構内を開放したそうです。この点について、現場への権限委譲と、現場力を再考すべきだと思ったと言っておられました。
 なお、世界の高速鉄道の動向、これからの鉄道産業の方向性などに関し、非常に興味深いお話がありましたが、割愛致します。

*1 BBLセミナー (RIETI 独立行政法人 産業経済研究所HPより)http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/index.html
米国の大学や研究機関では、先生、学生たちの間でBrown Bag Lunch Meetingというものが頻繁に行われています。(自分の昼食を茶色の紙袋に入れて集まるところから、この名前がついたそうです。)
BBL(Brown Bag Lunch Seminar Series)とは、ワシントンのマサチューセッツアべニューにあるシンクタンクで日夜繰り広げられているような政策論争の場を日本にも移植し、policy market を作りたいという思いで、当研究所が企画しているブレインストーミングセッションです。
国内外の識者を招き、様々な政策について、政策実務者、アカデミア、産業界、ジャーナリスト、外交官らとのディスカッションを行っています。会場スペースの制約もあり、現状では非公開としておりますが、これまでに行われたセミナーの概要や配付資料、今後の開催予定等は、こちらでご覧頂けます。


*2 LRT ライトレール(Light rail(軽量軌道)とは、北米の都市内および近郊で運行されるある種の軽量な旅客鉄鉄道を指すために、米国の機関によって作られた言葉・概念である。ライトレール交通:Light rail transit (LRT) とも呼ばれる。輸送力を持つ欧米の都市間路線等の本格的な鉄道(ヘビー・レール、Heavy Rail)と区別・対比した考え方である。(ウィキペディア)


●JR東日本(東日本旅客鉄道株式会社)代表取締役副社長・総合企画本部長 冨田哲郎様の「東日本大震災への対応と今後の課題」BBLセミナー資料 (引用は許可済)
プレゼンテーション資料
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/11070601_p.pdf
配布資料:1
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/11070601_h1.pdf
配布資料:2
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/11070601_h2.pdf