なお、セミナーの資料は、GRCジャパン㈱のHPにアップしてありますのでご覧下さい。
GRCジャパン http://www.grc-j.com/
○秋の箱根 千石原 すすき
○同上 コスモス
○「防災・危機管理に取り組む企業が評価される仕組みを構築するために」
昨日のセミナーで私に与えられたテーマは、下記の3点でした。
Ⅰ.防災に取組む企業に保険料を下げることは可能か
Ⅱ.融資条件にBCPを取入れることは可能か
Ⅲ.品質管理が普及した理由とBCPが普及しない理由
Ⅰ,Ⅱについては,既に日本政策投資銀行(DJB)で制度化されています。
同行のHPを見ますと、「企業経営とその評価は財務的な指標を中心に行われており、一般の金融取引においては、企業の防災・減災や事業継続(=非財務情報)への取り組みを十分に評価できていない。 DBJでは、防災・減災や事業継続への取り組みを行っている先進的な企業や、今後取り組みを推進していくことを考えている企業に対し、金融技術を活かした支援を行っていきたい。」として、「BCM格付融資制度」が記載されています。
これはDBJが開発した独自の評価システムにより防災及び事業継続対策への取り組みの優れた企業を評価・選定し、その評価に応じて融資条件を設定するというものです。
これまでの実績や経験に加え、東日本大震災等を踏まえた個別企業への緊急ヒアリングも行い、得られた教訓や事業継続の要諦を踏まえ、評価システムの内容を大幅に見直し、予防だけに留まらず、危機事案発生後の戦略・体制等を含めた企業の事業継続性(=組織レジリエンス)を総合的に評価する内容となっています。
○BCPコンサルティングサービス
「自然災害対応のみならずシステムダウンや新型インフルエンザ等の危機対応のためのBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の策定を民間企業や自治体に対して行う。リスク対応分野における日本政策投資銀行の持つノウハウと日本経済研究所の経験を活かし、お客さまの事業の特色を踏まえ、かつ確実に利用できるBCPを作成する。」と書いてあります。
更に株式会社損害保険ジャパンと提携し、同社の子会社のNKSJリスクマネジメント㈱が有償で、①BCPの策定・見直し支援、BCM体制構築支援②BS25999-2事業継続マネジメントシステム取得支援③2012年度発行予定の事業継続に係る国際標準ISOの取得支援 のサービスを提供 します。
○震災時復旧資金特約付融資
「DBJ BCM格付」融資による“地震発生前”の事業継続の為の各種支援に加え、震災時復旧資金特約付融資により“地震発生直後”の復旧資金の提供を行い、お客様の事業継続推進・高度化支援をはかり、 予め定められた条件を満たす大規模な地震が発生した場合、一定金額の復旧資金が支払われます。
本特約の設定により、企業は、大規模震災発生時における復旧資金の確保、財務の健全性の維持および震災からの速やかな復旧を支援することとなります。
本特約を通じて、企業のみならず、企業が属するサプライチェーン全体への地震の影響を防ぐ効果も期待されます。
○企業費用・利益総合保険割引制度と被災設備修復サービス
DBJは株式会社損害保険ジャパンと提携、同社が下記サービスを提供させます。
- 企業費用・利益総合保険割引制度
損保ジャパンは、「DBJ BCM格付」取得企業の災害時のリスクをより正確に評価できると判断し、平成24年1月1日以降を始期とする保険契約に対して、「企業費用・利益総合保険 割引制度」の適用可能割引を行います。 「DBJ防災格付」に加えて、損保ジャパン独自の審査も行い、最大で20%の割引を適用を可能とします。 - 被災設備修復サービス
火災、水災などで汚染した建物・機械設備の煙・すす等による災害汚染の調査、汚染除去(※)を行います。
従来は新品に交換する以外に方法がなかった被災設備を被災前の機能・状態に修復することで、事業の 早期復旧を支援します。
「一般の金融機関・保険会社で防災に取組む企業に保険料を下げることは可能か」については、私は悲観的です。
- 保険料については、損害保険会社が自ら企業の策定したBCPを評価し、その結果保険料を下げると言うことは積極的 には行われ難いと思います。
- 民間金融機関が企業の策定したBCPを評価する動きもあまり見受けられません。
- 「BCPコンサルティングサービス」は企業に取って費用が掛かります。特に中小企業に対しての「BCPコンサルティングサービス」は一般的に費用対効果の関係で行われ難いと思います。
保険料の割引以前に、わが国の中小企業に取っての最大の問題は地震保険や地震を原因とする利益保険の付保が困難であると言うことです。
「一般の金融機関において融資条件にBCPを取入れることは可能か」についても、私は悲観的です。
- 企業の策定したBCPに対する汎用の評価システムはまだありません。日本政策投資銀行のように、独自の評価システムを保有している一般の金融機関は皆無と思われます。
又これを策定しようとする動きも見受けられません。 - 融資先に対し、自行又は関係会社で「BCPコンサルティングサービス」を行うことが可能な金融機関は少なく、又大規模に行う能力も不足していると思われる。特に中小企業 への「BCPコンサルティングサービス」は一般的に費用対効果の関係で行われ難いと思います。
後記のように、東日本大震災における各銀行の損失の殆どは貸倒引当金の計上です。
融資先に対する 「BCP(事業継続計画)特に、資金繰り(キャッシュフロー)対策」の推進は、金融機関の資産の太宗をなす貸付金債権が、地震等のリスクで毀損することを防止することになます。それはあたかも製造業において工場の耐震工事を行うのと同じことだと思います。
企業の事業継続は、BCPとキャッシュフロー対策の両輪があってこそ実効性が確保されることを、金融機関も企業の経営者も、改めて認識すべきです。
○東日本大震災における各銀行の損失状況
- A銀行 災害による損失 50,687百万円 当期純損失 30,458百万円。
「災害による損失」には、貸倒引当金繰入額48,847百万円及び固定資産関連損失
1,023百万円(うち災害損失引当金繰入額848百万円、固定資産処分損170百万円 - 銀行 その他の特別損失 6,919百万円 当期純利益 1,109百万円。
東日本大震災による与信費用6,075百万円及び震災関連のその他費用807百万円 - C銀行 災害による損失 5,184百万円 結果 当期純損失 4,955百万円
貸倒引当金繰入額5,100百万円及び固定資産関連費用84百万円 - D銀行 貸倒引当金繰入額2,898百万円及び減損損失113百万円
当期純損失 4,834百万円 - E銀行 災害による損失 15億円 結果 当期純損失 10億円
貸倒引当金繰入額1,457百万円及び固定資産関連損失74百万円
○品質管理が普及した理由とBCPが普及しない理由
昨年7月1日のブログ「QC(品質管理)とリスクマネジメント・戦後のアメリカ流マネ
ジメント手法の導入を振りかえる」を読んで下さい。再度問題点を下記します。
- 危機意識の欠如
QC導入時に比べ、経営者・管理者・社員の危機意識の欠如が根本問題です。QC - 導入にあたり,中心となって推進する強力な団体、リーダーの不在。
- 単独部部門の経営管理手法か、全社的経営管理手法か。
QCは主として製造部門の問題でしたが、BCP・BCMは全社マターであり、縦割りの我が国の企業組織では定着するには問題があります。 - 経営者の関与
経営者自らがリーダーシップを取って全社を挙げてBCP/BCMに真摯に取組むと言う態勢が出来ていない企業がまだまだ存在します。
http://www.juse.or.jp/about/pdf/history/history_50_2.pdf
○一橋大学 佐々木聡教授 『戦後日本のマネジメント手法の導入』
『一橋ビジネス レビュー』(東洋経済新報社)2002年秋号
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