昨年12月16日(日)には、京都で素敵な初冬の1日を過ごしました。
○母校の時計台は60年経っても変わりません。
○最初の1年間は黄檗山万福寺のある京阪宇治線「黄檗」で下車、宇治分校に通っていました。(今は研究所ばかりです。)
○宇冶分校は、戦争中の火薬廠の跡で、土塁に囲まれた低い建物で授業が行われていました。
○ターンブルの実行ー取締役会への説明 ~ Implementing Turnbull A Boardroom Briefing ~
http://www.icaew.com/~/media/Files/Technical/Research-and-academics/publications-and-projects/corporate-governance%20publications/implementing-turnbull.pdf
以下は、記述の抜粋です。
○第1章 なぜターンブルか
4.リスク
4-1 対処する重要なリスクの種類
○当時(1999年)Deloitte & Touche の調査の結果です。
通常どういう種類のリスクが最も懸念されるか。
①主要なプロジェクトのマネジメントの失敗
②戦略の失敗
③改革の失敗
④風評・ブランドマネジメント
⑤従業員の意欲の欠如と能力の低さ
最も重要なリスクは、多くの場合業務上或いは戦略上のものである。
どうやってリスクを確認するか。
① 自社のサービスと製品を理解する。
② 市場がどこにあるか。
③ 事業プロセスにおけるリスクを考える。
④ 状況が変わった時、人がどう行動するか考える。
⑤ 各部門のメネジメント・チーム(local management team)の質を考慮する。
⑥ 変化する外部環境を考慮する。
4-2 どの分野でどのくらいのリスクを取ることができるか。
役員はどのリスクが〝重要〞であるかを正式に検討する必要がある。出来事の性質,範囲そしてタイミングなどリスクの重要性を判断するのは役員会である。
リスク・リターンの関係、そして会社のエクスポージャーは外部の環境だけでなく、マネジャーたちの行動によっても決まる。
○リスク・マトリックス
経営 (Business )
|
事業その他
(Operational & others ) |
誤った事業戦略 | 戦略目標と連携していない事業プロセス |
価格 / マーケットシェアへの競争圧力 | 主要な変更計画の失敗 |
一般経済の問題 | 企業家精神の喪失 |
地域経済の問題 | 原材料の在庫切れ |
政治的リスク | 技術不足 |
技術の立ち遅れ | 物的損害 ( 火災・爆発など) |
代替財 | 無形財産の創造・開発の失敗 |
不利な政策 | 無形財産の喪失 |
衰退している業界 | 機密の漏洩 |
買収(乗っ取り)の的 | 物的財産の喪失 |
追加資金の調達不能 | 事業が継続できなくなること |
先ずい買収( Bad acquisition ) | 継承問題 |
遅すぎる改革 | 2000 年問題 |
○リスク・マトリックス
財務 (Financial ) | |
流動性リスク | その他の規制および法令違反 |
市場リスク | 追徴税 |
ゴーイング・コンサーン ( 企業の継続性 ) の問題 | 健康と安全のリスク |
取引過多 | 環境問題 |
信用リスク | キーパーソンの喪失 |
金利リスク | コスト削減ができない |
為替リスク | 主要な顧客やサプライヤーに頼りすぎる |
高い資本コスト | 新製品・新サービスの失敗 |
財政リスク( Treasury risk ) | お粗末なサービス |
財務資源の誤用 | 顧客満足の失敗 |
事業が影響されるような不正の発生 | 品質の問題 |
会計システムの故障 | 秩序の欠如 |
記録されていない責任 | 主要プロジェクトの失敗 |
信頼できない会計記録 | 大切な契約を落とす |
ハッカーによる情報システムへの侵入・攻撃 | インターネットを十分に活用できない |
不完全あるいは誤った情報に基づく決断 | 外部に委託した業務が完遂されない |
情報過多と分析不足 | 業界の行動 |
投資家に対する約束が十分果たせないこと | 大きな技術が関わるプロジェクトの失敗 |
コンプライアンス (Compliance ) | 従業員の意欲もしくは効率の欠如 |
上場規則違反 | 変革が実効できない |
金融規制違反 | 非効率 / 効果のない文書化 |
会社法違反 | 発展途上国における従業員搾取から来る問題 |
訴訟リスク | その他事業上の誠実さに関わる問題 |
競争に関する法律違反 | その他の風評に関わる問題 |
付加価値税( VAT) の問題 | 事業機会の逸失 |
財務その他の部門では、事業・財務・業務、そしてコンプライアンス(法令順守)のリスクを分類するのは難しい。いくつかのリスクは二つ以上の項目に入るかもしれない。
一般的なマトリックスからただ単にリスクを選び出してくることは避ける。リスクはその会社の業界及び環境に特有のものである必要がある。会社の目標達成を支える重要な成功要因に関連づけることが極めて有効である。
○有用な質問。
・変化は直面しているリスク,取ることを選んだリスクにどう影響を与えているか。(変化は事業に取って最大のリスク領域である。)
・マスコミに報道されたくないものは何か
・近年、自社あるいはライバル社に起きた問題は何か
・事業がとりわけ影響を受けやすい詐欺の種類と誠実さの問題は何か。
・事業がさらされている、主要な規制・法令上のリスクは何か。
(所見)
コーポレート・ガバナンス体制構築のため、内部統制に支えられたリスクマネジメント、さらにはERMの実践については各部門に跨がる問題です。企業では経営企画部,総務部,経理部,監査部,法務部,リスク管理部等多くの部門が関係します。更に関係者の間で、現状とあるべき姿についての共通認識が醸成され難い状態にあると思われますから、企業において何れの部門が中心となって推進するにしても,経営者の明確な考えとそれに基ずく指示が無ければ推進は到底不可能だと思います。
我が国企業のリスクマネジメントの実践において、担当部門の技術的な事項が優先し、「経営的視点」が欠如している点が、最も大きな根本的な問題だと私は思います。
「Implementing Turnbull」の記述は、取締役会(役員会)は如何に対処すべきかと言う視点で一貫しています。
細かい点を記述した、リスクマネジメントの解説書は沢山ありますが、「経営的視点」からの解説書として「Implementing Turnbull」がもっともっと読まれたらと思います。
私は、銀行員時代、企業調査部門・支店貸付係・審査部門・支店長時代を通して、企業経営者に求められる、最も大切な能力は「変化に対する対応能力」だと確信していました。
今回ご紹介した記述のなかで、
・変化は直面しているリスク,取ることを選んだリスクにどう影響を与えているか。(変化
は事業に取って最大のリスク領域である。)
には、我が意を得たり思いが致します。
パナソニック・シャープの惨状は、経営者の変化に対する対応能力の不足が根本原因だと痛感します。