東京電力の原子力発電所の事故のその後について

2014年1月10日金曜日 | ラベル: |

 私は2012年7月1日のブログで 東京電力㈱の「福島原子力事故調査報告書」についての所感で、『本報告書は、事故の詳細・災害時の対応態勢・事故想定に対する甘さ・情報伝達・情報共有・情報公開等々に大きなページを割いています。然し、あくまで国・或いは学会の方針に従ってやってきたことで、「想定外」のことが起こったのだから仕方がない。と言うスタンスです。これでは如何に分厚い報告書でも、その内容が今後の教訓になる筈がありません。』と書きました。
 2013年12月10日、リスク対策Com.主催の「危機管理カンファレンファレンス2013」で東京電力の原子力運営管理部・防災安全グループの方の「福島第一原子力発電所事故以降の東京電力における危機管理体制 ~原子力防災組織に現場・本店と連携したインシデント・コマンド・システムの導入~ 」と言うお話をお聞きしました。
 その冒頭「事故対応時の問題点(教訓)」で「想定を超える津波に対する防護が脆弱であった」と言われたことに大変な違和感を覚えました。
 2012年1月20日のブログでご紹介した「政府の東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会の中間報告書」には、『福島第一原発で平成23 年3 月11 日に深刻な原子力災害が発生した直後関係者から、「想定外の事象が起こった。」との発言が相次いだ。「想定外」とは、「このような事象が起こることを考えていなかった。」との意味であろう。しかし、多くの国民はこの言葉を聞いたとき、「考えていなかった。」という意味だけではなく、「想定できないことが起こったのだから仕方がない。自分たちには責任がない。」という意味を持つ発言と受け取り、責任逃れの発言だとの印象を持った。当事者たちは「想定外」というが、このような厳しい状況を想定することが関係者の責務であったはずだと考える。』
 『今回の事故では、例えば非常に大きな津波が来るとか、長時間に及ぶ全交流電源の喪失ということは十分に確率が低いことと考えられ、想定外の事柄と扱われた。そのことを無責任と感じた国民は多いが、大事なことは、なぜ「想定外」ということが起こったかである。
 原子力発電は本質的にエネルギー密度が高く、一たび失敗や事故が起こると、かつて人間が経験したことがないような大災害に発展し得る危険性がある。しかし、そのことを口にすることは難しく、関係者は、人間が制御できない可能性がある技術であることを、国民に明らかにせずに物事を考えようとした。それが端的に表れているのが「原子力は安全である。」という言葉である。一旦原子力は安全であると言ったときから、原子力の危険な部分についてどのような危険があり、事態がどのように進行するか、またそれにどのような対処をすればよいか、などについて考えるのが難しくなる。「想定外」ということが起こった背景に、このような事情があったことは否定できない。
 何かを計画、立案、実行するとき、想定なしにこれらを行うことはできない。したがって、想定すること自体は必ずやらなければならない。しかし、それと同時に、想定以外のことがあり得ることを認識すべきである。たとえどんなに発生の確率が低い事象であっても、「あり得ることは起こる。」と考えるべきである。発生確率が低いからといって、無視していいわけではない。起こり得ることを考えず、現実にそれが起こったときに、確率が低かったから仕方がないと考えるのは適切な対応ではない。確率が低い場合でも、もし起きたら取り返しのつかない事態が起きる場合には、そのような事態にならない対応を考えるべきである。今回の事故は、我々に対して、「想定外」の事柄にどのように対応すべきかについて重要な教訓を示している。』と記述されています。 
 2012年7月10日のブログで、国会の「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」の報告書は、『この事故が「人災」であることはあきらかで、歴代および当時の政府、規制当局、そして事業者である東京電力による、人の命と社会を守るという責任感の欠如があった。』と断定しています。ここがこの報告書の最大のポイントだと思いました。と書きました。
他の報告書でこれだけの批判が行われているのに、未だに冒頭に「想定を超える津波に対する防護が脆弱であった」と述べるのでは、東京電力の本件事故に対する責任感は現在でも無いのではないかと思いました。
更に今回の事故の教訓として、
  • 全ての電源を喪失した場合の、その後の手段(高圧注水・減圧・低圧注水・除熱・燃料プールへの注水。水源確保党が十分に準備されておらず、その場で考えながら対応せざるを得なかった。
  • 炉心損傷後の影響緩和の手段(格納容器損傷防止・水素制御・溶融炉心落下対策・環境への放射性物質の大量放出防止等)が整備されていなかった。
  • 照明や通信手段が限られた他、監視・計測手段を喪失し、プラント状況が把握できなくなった。
  • 大きな余震及び余震に伴う津波の恐れ、瓦礫等の散乱による現場のアクセス性・作業性低下等、著しい作業環境の悪化が事故の対応を困難にしていた。
が挙げられ、その対策の方針として、
  • 津波(かさ上げ。防水等)対策により、既存の安全上重要な設備及び事故時対応で使用を想定している設備の津波に対する防護を向上させる。
  • 深層防護の各層及び機能別に対策を講じ、各層・各機能の対応能力の厚みを向上させる。
  • 全電源喪失・ヒートシンク喪失の長時間継続への対応手段を確保する。
  • 応用性・機動性を高めた柔軟な機能確保策を講じる。
とされていますが、そもそも何故こういう結果になったのかについての、深刻な反省や、分析については何も述べず、人ごとのように今回の事故の結果からの改善策を講ずると言うのでは、今後も真に完全な事故対応策が可能なのか疑問に思われます。
「応用性・機動性を高めた柔軟な機能確保策を講じる。」といっても何故今まで出来ていなかったのか。何故今回は改善が出来るのか等々、これらはお題目に過ぎないのではないか。あと細かい対応策が縷々述べられていますが、根本となる従来の東京電力の組織・運営体制のどこに問題があって、どうしてこういうことになったのか、今後如何に改善するのかの点には全く触れられませんでした。
 私は、警察政策学会・テロ安保部会にも所属しています。この前日1月19日の部会で、「福島第一原子力発電所事故以降の世界各国の原子力発電所のテロ対策」についての話を聞きました。
 福島第一原子力発電所事故の最大の問題は、『世界のテロリストに「原子力発電所施設本体にダメージを与えなくても、送電線、予備発電設備を破壊すれば原子力発電所に大きなダメージを与えることが出来る」と知らしめたことである。』ということでした。従って『各国の原子力発電所の警備体制は大幅に変更せざるを得ず、次々n新しい問題が発生している。』とのことでした。
 東京電力の原子力運営管理部・防災安全グループの方の「福島第一原子力発電所事故以降の東京電力における危機管理体制」のお話の中には「テロ対策」は皆無でした。勿論細かい点は機密事項だとは思いますが、項目の中にも全く無いのは、もしかすると東京電力では危機管理体制の対策項目に「テロ対策」は入っていないのかと心配になりました。
テロは「想定外」ではありません。事故原因の根本的な反省事項に対する言及が無く、テロ対策への言及もない点に私は重ねて大変な違和感を感じました。
 これは、発表者ご本人の問題と言うよりも、東京電力の組織・運営体制が依然変わっていない証拠ではないかと私は思います。
 今、原子力発電所の操業再開が議論されています。経済的な問題も重要ですが、根本の安全対策がこれで良いのかと思いました。皆様はどう思われますか