新聞に、「政府は東京電力福島第1原子力発電所事故の損害賠償(補償)について、東京電力の補償を支援する枠組みを正式に決めた。」と報じられています。
政府は明確にしていませんが、今報道されている支援策は損害賠償の責任と賠償の事務処理の負担が東京電力にのみにあることを前提に、資金援助や資本の注入のスキームを考えているように見えます。
「今回の地震・津波は〈異常に巨大な天災地変〉では無い。従って東京電力に賠償責任がある」と言う場合、東京電力は巨大な賠償責任を到底負担できないと思います。そこで「原子力損害の賠償に関する法律」第十六条により「政府は原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を国会の議決により政府に属させられた権限の範囲内で行なう」ことになるのだと思われます。
4月23日付けの産経新聞の社説「許されぬ政府の責任逃れ」は「問題は大震災が原子力損害賠償法に基ずく免責適用の対象に当たるかどうかについて、明確な判断と説明を欠いていることだ」と主張していますが、同感です。
今後、電力各社は原子力発電事業の運営にあたり、自然災害のリスクをどう想定するのか、免責条項が適用されるためには、何処までの対策を講じておかなければならないかがはっきりしないという大きなリスクを負うことになり、場合によっては、今回のように会社の根底を揺るがすことになります。この結果原子力発電所の地震・津波対策は充実するでしょうが、発電コストの上昇は避けられません。今後の原子力発電所の新設の問題にも関わる等我が国のエネルギー対策の根幹に関わる問題だと思います。
リスク発生後、企業はキャッシュフローが破綻すれば倒産します。今回の場合、仮に政府が、キャッシュフローの支援策を確立しても、熊本・水俣病でのチッソの場合以上に悪化するであろう財務体質の改善は容易なことではありません。長期的に悪化する財務体質の中で、電力の供給責任を維持し、金融機関の融資・社債権者の保護を図り、国民負担の最小化を図るなど数多くの難題の処理が待っています。
東京電力のケースは、リスクの発生によるキャシュフロー・財務体質の悪化、企業の将来に関して極めてシビアな問題を我々に投げかけています。すべての企業に取って他人事ではありません。
東京電力については、今回のことを契機に事故発生に至る経過の検証の後、原子力発電事業のリスク対応について、国の責任分担をも含めどうあるべきかの議論が行われるべきだと思います。
■ なお、リスク対策Comと言う雑誌5月25日号の私の寄稿をご参照下さい。
東日本大震災について思う ② 今回の地震・津波は「原子力損害の賠償に関する法律」の第三条 但し書きに言う、「異常に巨大な天災地変」では無いのか
2011年5月15日日曜日 | ラベル: 東日本大震災 |
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