東日本大震災について思う ① 想定外と言うこと

2011年5月1日日曜日 | ラベル: |

 TVでコメンテーターが津波の専門家に「今後は20M—30Mの防潮堤を作らなければなりませんネ。」と質問をしたら、彼は「それは財政的に恐らく不可能だから、想定以上の地震と大津波が発生した場合如何に早く安全なところに逃げるか、或いは住居を高台にするか、などが対策となる。」と言っていたのが印象的でした。
 研究仲間が、2007年7月24日に福島県共産党委員会が東京電力株式会社に出した申し入れを教えてくれました。HPを見ますと、申し入れの第4項で「福島原発はチリ級津波が発生した際には機器冷却海水の取水が出来なくなることが、すでに明らかになっている。これは原子炉が停止されても炉心に蓄積された核分裂生成物質による崩壊熱を除去する必要があり、この機器冷却系が働かなければ、最悪の場合、冷却材喪失による苛酷事故に至る危険がある。と指摘し、そのため私たちは、その対策を講じるように求めてきたが、東電はこれを拒否してきた。」と記述されています。それが現実となってしまいました。
 企業は一定レベルのリスクを「想定」して対策を行います。例えば、地震対策の際に、関東大震災クラスを一つのメルクマールにしたり、古文書を紐解いて、過去の最大クラスの津波を想定します。そして、「想定外」のことについては、全く対応がなされません。想定していないことへ対応すると、それは、サラリーマン的には矛盾することになります。
 本来は想定以上のリスク発生については「自己保有する」という考えであるべきですが、そういった先進的な企業はごく一部で、一般的には、「想定外」のことは「起こらない」と整理していると思われます。「起こらない」ことに対しては、もちろん対策などは打ちません。
東京電力は、自社が想定していた以上の今回のような大きな地震・津波のリスク発生に対して備えていなかった責任はどうなるのか。 これは大変難しい問題です。
M9クラスの地震は世界では既に起こっており、貞観地震のことも語られている等、今回の事態は全く予想も出来なかったことでは無いものと考えます。
「原子力損害の賠償に関する法律」第三条の免責条項*1が適用されるためには、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」*2 の「施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波」として一応予想されるM9クラスまでの地震・津波対策を講じて置く必要があったのかということになります。東京電力はそこまで考えていなかったと思います。それでは原子力安全委員会、原子力安全・保安院の役目は何だったのでしょうか。
一般には、企業の体力に応じた想定リスクのレベルを定め、企業の想定以上のリスク発生時にはどうするかを企業倒産も視野に入れて考えておくことが現実的だと私は思います。個別企業のリスク管理の場合は企業の命運と従業員の命にはかかわりますが、世の中への影響は少ないと思います。しかし、国とか地方自治体、あるいは原子力発電など「想定外のことが起こってはいけない」場合、「想定リスクのレベル」について、それで良かったのかが今回シビアに問われていると考えます。

*1「原子力損害の賠償に関する法律」の規定
第二章 原子力損害賠償責任(無過失責任、責任の集中等)
第三条 、「原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。」

*2 平成18年9月19日・原子力安全委員会決定の「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」の最後、
8.地震随伴事象に対する考慮
施設は、地震随伴事象について、次に示す事項を十分考慮したうえで設計されなければならない。
(1) 略
(2) 施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定 することが適切な津波によっても、施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと。