先ずは恒例、5月の京都です。東山三条から大津に向かって東へ、都ホテルの隣が蹴上浄水場です。つつじの名所で毎年5月初めに一般公開され、京都市が一望出来ます。
素敵な京都のつつじ その1-2です。
HP 「京都の四季」より 蹴上淨水場 |
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マイケル・ウッドフォード著 「解任」
同書の帯に、マイケル・ウッドフォード氏は、「1981年オリンパスの英国代理店に入社、1990年同社社長、2005年オリンパス・メディカル・システムズの欧州法人社長を経て、2008年オリンパス・ヨーロッパ・ホールディング社長兼オリンパス執行役員、2011年4月オリンパス・グループ社長、同年10月にはCEOに昇格。そのわずか2週間後、過去の不正の責任を追及したため解任された。」と書いてあります。
マイケル・ウッドフォード氏の経歴はオリンパスにおける叩き上げで、他社からのスカウトでは無い点が大きな特徴だと言えます。 解任に至る経緯とその後の経緯は広く報道されています。
「FACTA」と言う会員制のビジネス誌2011年8月号の「オリンパスが過去の巨額の損失を粉飾していた。」と言う告発記事を知ったウッドフォード社長が、菊川会長他の辞任を求め、逆に2011年10月14日に解任されました。
同書によれば、
当初日本のメディアの多くは、会社発表に従い「文化の相違」による解任と報じました。然し、ウッドフォード社長が提供した資料に基き「フィナンシャル・タイムズ」がかなり詳しく事件の内容を報じ「たんなる二文化の衝突ではない問題」とし、その後「ウォール・ストリート・ジャーナル」「ニューヨーク・タイムズ」などが後を追った結果、日本のメディアも取り上げるようになりました。と記述されています。
10月30日には、野田首相がフィナンシャル・タイムズのインタヴューで「市場経済国としての日本の評価をおとしめる恐れがある。」とのコメントを発表し、11月1日には、第三者委員会が正式立ち上がり、ついに11月8日オリンパスは不正の存在を認めた。
○日本のメディアの報道姿勢
「FACTA」誌の報道に日本のメディアは追随せず、ウッドフォード社長の解任後の「フィナンシャル・タイムズ」「ウォール・ストリート・ジャーナル」「ニューヨーク・タイムズ」などの報道によって日本のメディアも取り上げるようになり、国内で漸く問題が拡大した点が注目されます。
日本のメディアは従来から、企業に致命的な打撃を与えるようなことについては殆ど報導しません。これは株主を始め多くのステークホルダーに大きな影響を与えるから慎重になるのだと思います。
例えば、雪印乳業の事故発生の翌月中旬に主力銀行が金融支援を発表した際に、日本のメディアはキャシュフローの危機だとは一言も言わず、海外のメディアの言及もなかったので株価は急落しませんでした。
東日本大震災後の東京電力の状況について、日本のメディアは業績・キャッシュフローの危機について報道せず、「フィナンシャル・タイムズ」が先ず懸念を表明し、次いで「ウォール・ストリート・ジャーナル」などが報道したため、日本のメディアも追随して、東京電力の株価は急落しました。
今回のオリンパスの問題は、日本企業のコーポレート・ガバナンスの信頼を根底から揺るがす事態であり、こうした日本のメディアの報道姿勢が果たして良かったのかが問われていると思います。
○取締役の在り方
ウッドフォード氏は、オリンパスの取締役の在り方について「彼等は会社と株主の利益を守る義務があり、もし不正が露呈すれば法的責任を問われる。菊川会長に個人的忠誠を尽くすのが仕事では無い。」と厳しく断罪しています。
私は法的には誠に尤もだと思いますが、当時のオリンパスの取締役がウッドフォード氏の意見の通りに行動するには失職の覚悟が必要だったと思います。特に従業員から昇格したオリンパスの取締役方に何処までウッドフォード氏が求める自覚と覚悟があったかは疑問です。
わが国では自分の考えを持たないサラリーマンが多く、会社において自己の信念を貫くことに対する社内外の評価の無さなどの社会環境があります。私はこのことは決して良いことだとは思いません。社内取締役の方々が,眞に取締役としての機能を果たすためには、わが国の企業組織・社会の評価が変らなければ上手く行かないと思います。わが国の企業組織・社会の根本問題です。
今、訴訟で法的責任を追及されているオリンパスの元取締役の方々は、法的には責任は免れませんが、中には心中察するに余りあるお気の毒な方もおられることと個人的には深い同情の念を禁じ得ません。
○第三者委員会報告書
ウッドフォード氏は「12月6日、オリンパスの第三者委員会は調査報告を発表しました。私は第三者委員会をいくらか見くびっていたことを認めなければなりません・実に見識の高い報告でした。」と言っています。
1月10日の記事でも書きましたように「企業風土はワンマン体制で社内で異論を述べられない雰囲気、経営者の透明性やガバナンスに対する意識・コンプライアンス意識の欠如、社外取締役の機能不全、監査役会の形骸化等、起こるべくして起こったこと。」だとすれば、これを機会に是非徹底的に会社が改革されることを期待します。
○三井住友銀行のこと
私としては、古巣の三井住友銀行がメインバンクとしての機能と責任を果たしているのかは非常に気になるところです。 同書の192ページに、
のちに「FACTA」は次のように報じました。と書かれています。
英ジャイラス買収の際に、オリンパスからの融資要請に対し、三井住友銀行の審査部がいったんは「買収金額が高すぎる。」などと難色を示し、融資すべきでないと「ノ―」の判定を下していたという。これに他のメガバンクも追随、ジャイラス買収が危ぶまれた時期があった。が、菊川社長(当時)と親しい三井住友銀行幹部がこれを覆し、融資にゴーサインを出したため、他行も右へならえとなった。(後略)
私は旧住友銀行のOBとして、これが事実であったとは到底信じられません。銀行退職後25年を経過し、後輩に確認するすべもありませんが、私は、「銀行が貸出金債権保全のため貸出先の実態把握に務め、管理を行うことは最早過去の遺物になっているのでは無い」と言うことを信じたいと思っています。
○「ボールドネス・イン・ビジネス・アワード」受賞
ウッドフォード氏は2012年3月20日「フィナンシャル・タイムズ」が選ぶ「ボールドネス・イン・ビジネス・アワード」「今年の人」を受賞しました。「ボールドネス」とは勇気や大胆を意味します。
しかも『ウッドフォード氏をイギリスの全国紙四紙が、「今年の人」または「今年のビジネスパーソン」に選び、四紙がすべて同じ人物を選んだのは史上初のことだ。』と同書に書いてあります。
一人のイギリス人が日本の企業の不正の是正に挑戦したことが、英国でこれほどの大きな反響を巻き起こしたという事実を無視できないと思います。
オリンパスの事件が、日本企業の組織の後進性・ガバナンスの弱体などをイギリス人に強く印象付けたとすれば誠に遺憾なことです。
○わが国の企業は外国人社長を受け入れられる企業になれるのか
同書を読むと、ウッドフォード氏の意見は尤もですが、彼はオリンパス社長就任後、役員以下社員の把握が十分ではなかったように思われます。当時の菊川会長がウッドフォード氏を対外的なお飾りの存在にしていたのかも知れませんが。
日産自動車のカルロス・ゴ―ン社長を除き、ソニーも日本板硝子も外国人社長が定着しないように見えます。わが国の企業組織の特殊性かもと思います。わが国の企業が外国人社長を受け入れられる企業になるためにはどうすべきか良く々々考えてみるべきだと思います。