藤井さんは私の属する日本ナレッジ・マネジメント学会リスクマネジメント研究部会のメンバーです。
素敵な京都の5月の新緑 その1-2です。
HP 「京都の四季」より 南禅寺 |
HP 「京都の四季」より 南禅寺 水道橋 |
明治18年に着工した、大津市三保ヶ崎から京都に流れる疏水の赤レンガの水道橋が南禅寺の境内を通っています。不思議に違和感がありません。
○藤井範彰著 「内部監査の課題解決法」
私は都市銀行退職後、1988年から数年製薬会社の経理部長・監査部長・常勤監査役を致しました。当時は内部監査部門の重要性の理解は未だ十分でなく、監査役は閑散役と揶揄されていた時代です。その後内部監査の重要性が認識されるようになり、更にコーポレート・ガバナンス、内部統制、リスク管理と内部監査の関係が重要な問題になりました。藤井さんの著書ではそのあたりについて、実務のご経険から詳細に論じておられ、深く感銘致しました。
○第1章 最近の内部監査事情
2008年4月以降に始まる会計年度から、金融商品取引法の「内部統制に対する経営者の評価」の実務が適用されることになりました。各社は膨大な費用と人員を投入して対応しました。その後内部統制の効率化・簡素化に移行し、代わりに内部監査の充実、例えば非財務領域の内部監査、海外監査、経営監査、不正対応等の展開が行われて来た。厳しい経営環境の中で、今内部監査の価値が問われていると藤井さんは言っておられます。
○内部監査部門の当面の課題は、
① 本来の内部監査に対する経営ニーズへの対応。
経営者層からの内部監査の役割に対する要望に応えなければならない。
② 内部監査部門と内部統制部問との協調と連携が必要。
③ 経済混迷期には、効率性志向、リスク状況の変化に対する対応が必要。
○内部監査の進化の方向は、
① 守備範囲の拡大、地域、部署、プロセスの三方面からの拡大
② コンサル的手法の導入。アシュアランス(保証)とコンサルティングの使い分け、組み合わせ。
③ 経営監査。経営者の片腕として経営を支援する監査。
④ ガバナンス、リスクマネジメントの監査の重視。
第2章 内部監査とガバナンスの関係を見直す
○ガバナンス関連の監査については、
① 経営層と十分な話合いがなされていない。
② 内部監査の重点と経営戦略・方針が連動していない。
③ 内部監査の立場はまだ弱い
⑤ リスク管理部門、本社機能にある他の部署との連繋が不十分。
等の問題点に対する、藤井さんの実務経験に基ずく解決策が縷々述べられています。
内部監査と他のリスク管理機能のタテヨコの関係の整理をするには、
① 内部監査以外のリスク管理機能の把握。
② 内部監査と他のリスク管理機能都の関係をPDCAを使って考える。
③ 全社的リスク管理における内部監査の立ち位置と互いの関わり方を決める。
と言う解決策を提言しておられます。
リスクマネジメントの組織体制・チェックポイントを抑えるべき、或いはリスクマネジメントと内部監査との連繋を最適化をどうするかなど、実務の⑤経験からの詳細な提言は非常に勉強になりました。
第3章内部監査の人材を活性化させる。
企業リスクに照準を合わせた内部監査のための人材育成策の提言です。
第4章 内部監査のインフラを再構築する。と第5章 内部監査の付加価値を向上させるメカニズムについては、本ブログの守備範囲を越えていますので言及致しません。
(所感)
私は金融商品取引法が要求する内部統制は、「不正な財務報告のリスク」を防止するためのリスク管理体制だと思っています。
外部からのリスクの発生そのものを防止することは、内部統制システムをいくら整備しても不可能です。しかし、外部からのリスクが発生した場合に少しでも損失を小さくするための措置、対処(例えば、災害への事前準備、リスク低減のための体制整備など)については、それらも含めて内部統制の問題だとも言えます。また、リスクが現実化してクライシスになった場合に、どのように対処するかという問題も(会社法の損失の危険の管理はこの部分を含む)内部統制の問題かも知れません。経営者としては、内部リスクであるか外部リスクであるかを問わず、それに対応する準備を整え、対処する必要と義務があると言われています。そのことをアシュア(保証)する内部監査の役割は重大です。
このことは、リスクマネジメントの実務上は特に問題を生じないため、新会社法・金融商品取引法と内部統制やリスクマネジメントの関係については、リスクマネジメントの実務においては殆ど議論されていません。
然し乍ら、新会社法・金融商品取引法と内部統制・リスク・リスクマネジメントの関係を理論的に整理することは極めて重要だと思っていました。
藤井さんは内部監査の視点から、この問題について理路整然と整理され、意見を述べておられます。リスクマネジメントの関係者に取っても大変参考になる書物だと思います。