東京電力の現状と将来の見通し⑨ 〜 総合特別事業計画の変更 〜

2012年5月20日日曜日 | ラベル: |

東京電力4月27日付けの「総合特別事業計画の変更」は、5月9日に認定されました。
5月14日には平成24年3月期決算短信が公表されました。先ず、「総合特別事業計画の変更」についての感想を書きます。

素敵な京都の5月の新緑  その3-4です。


HP 「京都の四季」より   平安神宮
 

HP 「京都の四季」より   平安神宮

○総合特別事業計画の変更
 東京電力が4月27日、内閣府及び経済産業省資源エネルギー庁に提出した「総合特別事業計画の変更」は5月9日に認定されました。
 東京電力は「総合特別事業計画に基づき、原子力損害の被害に遭われた方々の目線に立った親身・親切な賠償を実現するとともに、着実な廃止措置の実施、電力の安定供給の確保、抜本的な経営の合理化を進めてまいります。」と言っています。
 総合特別事業計画は107ページに及ぶ膨大なものです。以下は私の感想です。

Ⅰ.実質国有化
 私は、今回の「総合特別事業計画の変更」の最大のポイントは、東京電力の「実質国有化」だと思います。
 米倉経団連会長は「国有化とはとんでもない。勘違いしている」「国有化して、きちんとした経営になった企業を見たことがない」と反対で、経団連は東京電力の経営者・社外取締役の人選に協力しなかったと報じられています。一方経済同友会の副代表幹事経験者3氏が社外取締役候補になっておられます。例え意見は異っても、経団連には政府に協力してわが国の将来を支えるという気概は無かったのかと非常に残念に思います。経済同友会は志をお持ちです。心から敬意を表します。
 報告書には、『2012年6月の株主総会後、 原子力損害賠償支援機構は、東電発行に係る株式(払込金額総額1兆円)の引受けを行う。機構出資時において、議決権付種類株式により、総議決権の2分の1超の議決権を取得する(「一時的公的管理」)とともに、追加的に議決権を取得できる転換権付無議決権種類株式を引き受けることにより、潜在的には総議決権の3分の2超の議決権を確保する。』また、『本年6月の定時株主総会において、取締役及び監査役の全員が退任し、一部を除き、再任しない。役員退職慰労金の支給の対象となる者(退任後未支給の者を含む)については、その受取を辞退する。』と書かれています。
 私は現状こうする他再生の道は無いと思います。

Ⅱ.コスト削減
 東京電力の営業費用のコスト構造は、大別すると、ⅰ)資材・役務調達費用(12.5%)、ⅱ)買電・燃料調達費用(45.6%)、ⅲ)人件費(9.0%)、ⅳ)その他経費(附帯事業営業費用含む)(19.2%)、ⅴ)設備投資関連費用(13.7%)です。(報告書記載・2010年度実績)。
報告書は、「10年間で3兆3,650億円を超えるコスト削減」を行うとし、その内容について多くのページを割いて詳細に記述しています。然し、後述しますが、肝心な部分は曖昧な記述のままです。

○コスト削減 (損益・キャッシュフローの改善策)
①各種費用の削減
ⅰ)資材・役務調達に係る費用(10年間の削減額:6,641億円)
ⅱ)買電・燃料調達に係る費用(10年間の削減額:1,986億円)
ⅲ)人件費(10年間の削減額:12,758億円)
ⅳ)その他経費(10年間の削減額:9,687億円21)
 (主な内容)
  【研究費】(10年間の削減額:2,146億円)
  【普及開発関係費】(10年間の削減額:2,160億円)
ⅴ)設備投資に関連する費用(10年間の削減額:2,578億円27)

②設備投資計画の見直し 設備投資  2011年  6975億円  2012年 7552億円

③資産売却
資産売却については、緊急特別事業計画に基づいて定めたアクションプランに基づき、づき、着実な売却を実施。
不動産売却はグループ全体で2,826億円、有価証券の売却 2011 年度から グループ
全体で 3,301億円、子会社売却 2011年度の売却額(年度内キャッシュインベース)
は470億円計6,5987億円。売却対象26社の子会社・関連会社の売却2012年度においては、金額ベースで433億円。

 これらについては、徹底的に実行されるべきです。
 然し、これで東京電力の将来が見通せる訳ではありません。ここが今回の「総合特別事業計画の変更」の内容の最大の問題点だと思います。

○業績・キャッシュフローの見通し
  「総合特別事業計画の変更」99ページ~101ページに今後10年間の損益・キャッシュフローの見通しが記述されています。然し、

① 電気料金の値上げを前提としていること。どの程度認められるかは現状不明です。
② 2013年4月以降柏崎刈羽原子力発電所の各号機が順次稼働すると見込んでいること。
現状見通しは不明です。
③ 原子力発電所事故の賠償業務全体では、社員約3,300人を含む13,100人規模の体制を取っているが、その費用についての言及は一切ありません。
④ 廃炉費用については、原子力事故の発生以来、2011年12月末までの間に、現時点で合理
的な見積りが可能な範囲で、ステップ2完了までに要した費用として2,256億円、中長期ロードマップ対応費用として4,878億円、廃止措置費用として1,867億円、計9,002億円を計上済みであが、「現段階では、各(廃炉)工程の具体的な費用の積上げによる総額の見積りは困難である。」とされていて、業績・キャシュフローの見通しには含まれていない部分が大きいと考えられます。
⑤ 要賠償額の見通しについては、一過性及び資産性の損害分として約2.4兆円となっている。(ただし、委員会報告において、この金額はマクロ指標等を用いた推計であって、会計上合理的に見積もられる「要賠償額」とは性質の異なるものとされている。)
 中間指針や、東電の賠償基準に示されている損害項目の中には、依然として今回の事故との相当因果関係のある範囲がまだ明確にならないなど、現時点では合理的な見積りが難しく、当該算定の対象となっていないものもある。
 これらの損害項目に関する更なる状況把握の進展をはじめ、被害者の方々との合意等によって個別具体的な損害賠償額が明らかになるなど、現時点では合理的に見積もれない損害賠償額が明らかになるなどの状況変化が生じた場合には、迅速な損害賠償に万が一にも支障が生じることのないよう、引き続き、必要に応じて特別事業計画の要賠償額の見通しについて変更申請を行うこととする。
と記述されていて、要賠償額の見通しは判然としていません。
⑥ 除染費用について全く記載がなく、2012年3月期の実績の記載もありません。

等の問題点があり、業績・キャッシュフローの見通しを検討することは、能力不足な私には到底出来ません。
 これだけの大きな問題を抱えている企業の報告書が、こんなことで良いのかと思います。恐らく東京電力・原子力損害賠償支援機構・経済産業省の聡明な当事者達は良く々々判っていて、然し当面はこんな報告書を出して問題を先送りするしかないと考えているものと拝察します。メインバンクの優秀な担当者も同じことを考えているのでしょう。
 5月10日(木)の日本経済新聞「経済教室」で八田達夫氏の「破綻前国有化は前途多難」の中の「破綻を回避して資本注入を際限なく続けるのではなく、早い段階で国が事故費用を負担することにして、東電を破綻させたうえで国有化し、再建すべきだ。」と言うご意見は誠に傾聴に値します。
 現政権の下ではそういった決断がなされる可能性は限りなく小さく、先延ばし策で事態が推移して行くものと思われます。嘆かわしいことです。