6月20日(水)には東京電力㈱の「福島原子力事故調査委員会」による「福島原子力事故調査報告書」が公表されました。
概要版44ページ、概要版別添26ページ、正誤表1ページ、本編373ページ、別紙①11ページ、別紙②155ページ、添付資料567ページ、平成23 年12 月2 日の中間報告書からの主な変更点について54ページ,正誤表27ページ合計1,258ページの極めて膨大な報告書です。私は主に概要版を読んでこの感想を書きました。
今回は九州の唐津市の景色です。佐賀県の北部にあり、風光明媚、唐津焼も有名です。
唐津市の西隣りが、九州電力・玄海原子力発電所のある玄海町です。
○唐津(舞鶴)城です。藩主小笠原氏の居城でした。
天守閣からの大パノラマが素敵です。
○虹の松原
全長5km、幅1kmにわたって続く松は、約100万本と言われています。
三保の松原、気比の松原とともに日本三大松原の一つに数えられ、国の特別名勝に指定されています。有明海は干潟なので、佐賀市からは唐津に海水浴に行きます。
○東京電力㈱の「福島原子力事故調査報告書」概要版の抜粋
*アンダーラインは筆者
1.本報告書の目的
福島第一原子力発電所(以下,「福島第一」)の事故について,これまでに明らかとなった事実や解析結果等に基づき原因を究明し,原子力発電所の安全性向上に寄与するため,必要な対策を提案すること。
このため,同様の事態を再び招かぬよう,現に生起した事象を設備や運用の改善につなげていくことが重要であるとの観点から,炉心損傷の未然防止に関する課題を中心に検討した。
2.福島原子力事故の概要
平成23年3月11日,福島第一では,1 号機~3号機は運転中,4号機~6号機は定期検査のため停止中,福島第二原子力発電所(以下,「福島第二」)では1号機~4号機が運転中。14時46分に発生した東北地方太平洋沖地震を受けて,運転中の原子炉は全て自動停止した。
福島第一では,全ての外部電源が失われたが,非常用ディーゼル発電機(以下,「非常用D/G」)が起動し,原子炉の安全維持に必要な電源が確保された。
その後,史上稀に見る大きな津波により,福島第一では,多くの電源盤が被水・浸水するとともに,6号機を除いて非常用D/Gが停止し,全交流電源を喪失,交流電源を用いる全ての冷却機能が失われた。1号機~3号機では直流電源喪失により交流電源を用いない炉心冷却機能も順次停止した。(後略)
3.東北地方太平洋沖地震の概況と地震・津波への備え
(5) 津波への備え
① 津波高さの評価
当初,小名浜港で観測された既往最大の潮位として,昭和35年のチリ地震津波による潮位(O.P.+3.122m)を設計条件とした。国の審査においても,この潮位により「安全性は十分確保し得るものと認める」として原子炉設置許可を取得している。設置許可申請書に記載されているこの津波高さについては,現状でも変更されていない。
当社は津波評価技術に基づく津波評価を行うとともに,必要な対策を実施し,平成14年3月に国へ報告し確認を受けた。
その後も,確立された最新の知見に基づき*津波の高さを評価してきた。
② 地震本部の見解,貞観津波に対する当社の取り扱い決定経緯
当社は,津波高さについては,土木学会の「津波評価技術」に基づき評価することで一貫しているが,津波に関する知見・学説等が出された場合は,試算も含め,自主的に検討・調査等を実施。その一環として,津波評価に必要な波源モデル等の知見が定まっていない中,以下の2つの仮定に基づく試算や津波堆積物調査を実施。
平成14年に国の調査研究機関である地震調査研究推進本部(以下,地震本部)が「三陸沖から房総沖の海溝沿いのどこでもM8.2前後の地震が発生する可能性がある」との見解(以下,「地震本部の見解」)を公表。
- 当社は,平成20年に,耐震バックチェックにおいて,地震本部の見解をどのように扱うか社内で検討するための参考として,試し計算を実施(福島県沖の海溝沿いの津波評価をするために必要な波源モデルが定まっておらず,三陸沖など他の地域に設定されていた波源モデルを仮に借用して計算したに過ぎない)。 この概要について,当時の武藤原子力・立地本部副本部長,吉田原子力設備管理部長は以下のように判断・決定(平成20年7月)。後日武黒原子力・立地本部長に報告。
- 津波評価技術による評価は保守性を有し,発電所の安全性は担保。
- 地震本部の見解には具体的な波源モデルもなく,即座に津波高への影響が定まるものではない。
- 原子力発電所の津波評価は,津波評価技術に従って実施していることなどから,大きな地震は起きないとされてきた福島県沖の日本海溝沿いを含む太平洋側津波地震の扱いを土木学会に検討依頼し,明確にルール化した上で対応。それまでは現行ルールである津波評価技術に従って評価。
- 平成20年10月,産業技術総合研究所(当時)佐竹氏から貞観津波に関する投稿準備中の論文の提供を受け,未確定ながら示されていた波源モデル案を用いた試し計算を実施。
- その後,吉田部長は,貞観津波の正確な情報を得ることを主たる目的に,福島県沿岸の津波堆積物調査を決定するとともに,地震本部の見解と同様に貞観津波も土木学会へ審議を依頼することとし,後日武藤副本部長,武黒本部長に報告。
- 平成21年6月に土木学会へ審議を依頼。
- 津波堆積物調査の結果,福島県南部では津波堆積物を確認できず。調査結果と試し計算に使用した波源モデル案で整合しない点があることが判明したことから,貞観津波の波源確定のためには,さらなる調査・研究が必要と考えた。
16.事故原因と対策
<事故原因>
- 今回の福島第一1号機~3号機が炉心損傷事故に至った直接的な原因は,1号機では津波襲来によって早い段階で全ての冷却手段を失ったことであり,2,3号機では津波による瓦礫の散乱や1号機の水素爆発により作業環境が悪化したため,高圧炉心注水から安定的に冷却を継続する低圧炉心注水に移行できず,最終的に全ての冷却手段を失ってしまったことである。
- すなわち,これまでの原子力発電所における事故への備えは,今般の津波による設備の機能喪失に対応できないものであった。津波の想定高さについては,その時々の最新知見を踏まえて対策を施す努力をしてきた。この津波の高さ想定では,自然現象である津波の不確かさを考慮していたものの,想定した津波高さを上回る津波の発生までは発想することができず,事故の発生そのものを防ぐことができなかった。このように津波想定については結果的に甘さがあったと言わざるを得ず,津波に対する備えが不十分であったことが今回の事故の根本的な原因である。
今回の津波のような事例に対するためには,基本的な考え方として想定を超える事象が発生することを考慮した上で,以下の考えに沿って対策を講じる。
① 津波に対して遡上を未然に防止する対策を講じる。
② さらに,津波の遡上があったとしても,建屋内に侵入することを防止する。
③ 万一,建屋内に津波が侵入したとしても,機器の故障と違って,津波の影響範囲は甚大で多くの機器に影響を与える可能性があることから,その影響範囲を限定するために,建屋内の水密化や機器の設置位置の見直し等を実施する。
④ 上記①~③の徹底した対策の実施により津波によるプラントへの影響は,最小限にとどめることが出来ると考えられるが,それさえも期待せず,津波により発電所のほとんど全ての設備機能を失った場合を前提としても,原子炉への注水や冷却のための備えを発電所の本設設備とは別置きで配備することで事故の収束を図る。
以上の考え方に従い,設計想定として,蓋然性のある脅威に対して徹底した設備設計で対抗することを基本とするとともに,今般の事故のようにほぼ全ての設備の機能が喪失する場合についても対抗策を備えておく。
すなわち,『今回の事故原因となった津波事象を含む外的事象に対して,事象の規模を想定し,徹底した対応をすることで事故の発生を未然に防止することを基本とするが,さらに発電所の設備がほぼ全て機能を喪失するという事態までを前提とした事故収束の対応力を検討すること』が安全思想面からの対策として必要不可欠と考える。
(所感)
『本報告書の目的は、福島第一原子力発電所(以下,「福島第一」)の事故について、これまでに明らかとなった事実や解析結果等に基づき原因を究明し,原子力発電所の安全性向上に寄与するため,必要な対策を提案すること。』とされています。
東京電力㈱は福島第一原子力発電所を運転していた事業者です。福島第一原子力発電所(以下,「福島第一」)の事故について原因を究明した場合、これだけの大きな事故を起こしたのですから、痛烈な反省が述べられていて然るべきだと思って報告書を読みましたが、淡々とした記述ばかりで、全くそのような記述はありません。
「地震発生後、福島第一では,全ての外部電源が失われたが,非常用ディーゼル発電機いて(以下,「非常用D/G」)が起動し,原子炉の安全維持に必要な電源が確保された。
その後,史上稀に見る大きな津波により,福島第一ででは、(中略)全交流電源を喪失,交流電源を用いる全ての冷却機能が失われた。1号機~3号機では直流電源喪失により交流電源を用いない炉心冷却機能も順次停止した。(後略)」と記述されています。ここも本当にそうだったのか議論がある点だと思います。
津波への備えについては、国の審査・確認を得て行っていたこと。国の調査研究機関である地震調査研究推進本部(以下,地震本部)の意見を参考にしていた。貞観津波に対する対策等も終始土木学会の「津波評価技術」に基づき評価することで一貫していたと述べられています。更に『今回の地震は,地震本部の見解に基づく地震でも,貞観地震でもなく,より広範囲を震源域とする巨大な地震であったことが判明している。』と記述しています。
2011年12月26日に公表された畑村洋太郎氏・柳田邦男氏等の「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」の中間報告書には、
『何かを計画、立案、実行するとき、想定なしにこれらを行うことはできない。したがって、想定すること自体は必ずやらなければならない。しかし、それと同時に、想定以外のことがあり得ることを認識すべきである。たとえどんなに発生の確率が低い事象であっても、「あり得ることは起こる。」と考えるべきである。発生確率が低いからといって、無視していいわけではない。起こり得ることを考えず、現実にそれが起こったときに、確率が低かったから仕方がないと考えるのは適切な対応ではない。確率が低い場合でも、もし起きたら取り返しのつかない事態が起きる場合には、そのような事態にならない対応を考えるべきである。今回の事故は、我々に対して、「想定外」の事柄にどのように対応すべきかについて重要な教訓を示している。』と記述されています。
これだけの事態が発生した後なのに、畑村洋太郎氏・柳田邦男氏等の報告書の指摘の最も重要な部分についての東京電力の反省は全く見られません。
16.事故原因と対策 <事故原因> において、『想定した津波高さを上回る津波の発生までは発想することができず,事故の発生そのものを防ぐことができなかった。このように津波想定については結果的に甘さがあったと言わざるを得ず,津波に対する備えが不え十分であったことが今回の事故の根本的な原因である。』とまるで人ごとのように記述されています。『津波想定については結果的に甘さがあった』ことの東京電力としての反省が全くありません。<対策の考え方>においても、起こった結果の対策であって、東京電力㈱が今回の津波発生前に立てていた津波対策に関する問題点の反省は全くなされていません。 事故を起こした当事者の報告書では無く、まるで第三者からみた報告書のようです。
今回のような厳しい状況を想定しておくことは、原子力発男電事業を行う東京電力も含む関係者の責務であったはずです。もし損害賠償責任のことを考えているのならば、こう言うことで自社の責任が軽くなるとでも思っているのでしょうか。
本報告書は、これ以外にも事故の詳細・災害時の対応態勢・事故想定に対する甘さ・情報伝達・情報共有・情報公開等々にも大きなページを割いています。然し、『あくまで国・或いは学会の方針に従ってやってきたことで、「想定外」のことが起こったのだから仕方がない。』と言うスタンスは変わっていません。これでは如何に分厚い報告書でも、その内容が今後の教訓になる筈がありません。
たまたま、29日の朝日新聞19面、原子力委員会近藤駿介委員長のインタビュー記事で「事実は何よりも雄弁です。専門家として、とことん突き詰められなかったことを深く反省しています。(中略)日本の過酷事故対策はお詰めが甘かった。悪い時にはさらに悪いことが起こると考えるのが、事故対応を考える人間の基本。それが現場でどこまで貫徹されていたのか。」と近藤委員長は言っておられます。
本報告書を読むと、東京電力は実際に原子力発電事業を行っている者としての責任感が不足していたのではないかと私は思います。もし徹底した安全策をとることが私企業としての限界を越えると言うのであれば、原子力発電事業の「国策民営」を返上すべきであったのかも知れません。
本報告書は東京電力旧体制下の最後の主張だと思います。トップは交替しましたが、このままでは東京電力の前途は真っ暗だと思います。