QC(品質管理)とリスクマネジメント② 〜 リスクマネジメントの実務における経営的視点の欠如 〜

2012年7月20日金曜日 | ラベル: |

私は1961年に生産性本部の中小企業コンサルタント指導者養成講座に1年間参加し,石川馨教授の「SQC(統計的品質管理)」の講義を受講しました。その経験から、1年前の7月1日の記事で「QC(品質管理)とリスクマネジメント」について書きました。
 「QC(品質管理)とリスクマネジメント」、特に「リスクマネジメントの実務における経営的視点の欠如」について「QC(品質管理)の普及のプロセス」と比較して再度考えてみたいと思います。

 2009年に中小企業庁のBCP普及セミナーで高知市へ出張しました。
○早春の桂浜です。

 
○桂浜の小高い丘の上には阪本龍馬の銅像がそそり立っています。



○QC(品質管理)とリスクマネジメント 
          〜リスクマネジメントの実務における経営的視点の欠如〜

 東日本大震災の東京電力福島原子力発電所における事故、みずほ銀行のシステム障害に関する報告書を読みますと、「原子力の災害対応に当たる関係機関や関係者、原子力発電所の管理・運営に当たる人々の間で、全体像を俯瞰する視点が希薄であったことは否めない」と書かれています。また、みずほ銀行のシステム障害特別調査委員会の報告書でも「一連の障害を通じて、システム全体を俯瞰でき、かつ、多重障害の陣頭指揮を執り得るマネジメントの人材も不足していた」ことが指摘しされています。何れのケースでも「事故や災害発生時に企業全体を見ている人がいなかった」ということだと思います。「木を見て森を見ず」といいますが、部分・部分の対応ばかりに追われて、企業全体としていかに対応するかが疎かになっていたと指摘されています。
 私は、リスクマネジメント・BCMの実務において、企業全体を見るという視点が欠如しているのではないかと思います。私はこれを「経営的視点の欠如」と言いたいのです。
 経営者は、リスクマネジメントの技術的な部分は担当部門が保有するとしても、経営に重大な影響を及ぼすリスクをトータルに認識し評価出来るかが問題です。さらに、ERMの土台をなす、「従来型のリスクマネジメント」が確実に実行されていることを認識・評価出来ていなければなりません。
 経営者に危機意識があれば経営者自らがリーダーシップを取って対処することになる筈です。後述する戦後の,品質管理導入時の精神に立ち帰ることが必要です。当時はQCは経営の問題であるという自覚がありました。
 また、リスクマネジメントでは、中心となって推進する団体、リーダーがありません。QC導入時には,財団法人日本科学技術連盟(会長は初代経済団体連合会会長石川一郎氏)が中心になって推進されました。今は企業はバラバラにリスクマネジメントを推進し、コンサルタントの業務は個々のリスク対応の技術的部分が中心で、経営問題としての対応は少ないように思われます。
 学問の世界で見ても,コーポレート・ガバナンス論,監査論(外部、内部、監査役),リスクマネジメント論など専門分野が多岐に亙るので,内部統制,リスクマネジメントを企業に導入するについて指導的な役割を果す経営学者の存在も見つかりません。      
 
 昨年7月1日の記事でも触れていますが、財団法人日本科学技術連盟創立50年史の記述によれば、「我が国が第二次世界大戦に敗北した翌年の1946年11月に,連合郡最高司令部(GHQ)の担当者が統計的品質管理の導入を勧告した。」とされています。
 QC(品質管理)導入の中心人物だった東京大学石川馨教授らは、当初からわが国に適したQC手法の確立という思想を持っておられました。品質管理の普及活動は経営層・管理層・現場の3本立てで行われ、現場のQCサークル活動は“カイゼン”の名のもとに海外でも取り入れられました。
 統計的品質管理の本質を経営者が理解するのは容易でした。なぜならば、品質管理は主として製造部門の問題であって,理論は単純であり,製造担当役員を頂点とする製造部門が推進すればよく、縦割りの日本企業においては,きわめてやり易いことであったと思います。
 しかし、QC普及の当事者の自覚と努力により、生産部門の管理手法であった統計的品質管理は,我が国で独自の発展を遂げ,経営管理手法としての総合的品質管理(Total Quality control :TQC) へと発展して行き、その後のわが国の経済発展に大きく寄与しました。
 前記石川馨教授の弟さんである石川六郎氏が1978年2月に鹿島建設の社長に就任された際、「大企業病がはびこっている社内の精神作興を計るためにTQCを導入した。」と日本経済新聞の私の履歴書に書いておられます。
 管理手法は、経営の根幹をなすものであって、個々のテクニックの問題では無いと言うことを、QC導入当時の学者や経営者はしっかりと認識しておられたのだと思います。



 昭和29年に書かれ、昭和39年に改定された、石川馨先生の「新編 品質管理入門」の前書きには、「QCは学問や勉強では無く実行するのみである。(中略)本書に書かれていることを実行して、企業の体質改善をしていただきたい。」と書かれています。 
 第1章新しい品質管理とは 1.1品質管理とは の書き出しは
「あなたの会社の製品についての責任は、経営者にある。」です。
 さらに、 1.1.1品質管理の定義 
 「新しい品質管理とは、経営に関する1つの新しい考え方,見方である。
新しい品質管理とは、もっとも経済的に、もっとも役に立つ、しかも買手が満足して買ってくれる品質の製品を開発し,設計し、生産し、販売し、サービスすることである。この目的を達成するために(中略)会社全体として総てが協力して、各部門が同じように努力しやすい組織を作り上げ、標準化を行い、これを確実に実行していくことが必要である。」
 と記述されています。

 私は約25年間リスクマネジメントに関ってきて痛感することは、中小企業のみならず、大企業でも(なおさら)リスクマネジメントの実行に当たり、技術論が先行し、経営的視点(全体像を俯瞰する視点とも言えます)が不足していることです。これは現在多くの経営者にリスクマネジメントの本質に対する理解が不足している結果であり、官庁・大企業の人事政策が、高度の専門家を官庁・大企業内で育成するシステムになっていないことが原因です。わが国企業のリスクマネジメントの在り方を根本的に再検討すべきだと思います。
 更に、東日本大震災の教訓についてBCPの実務家と議論をした際、わが国のような企業組織の場合は、事故・災害発生後速やかに会社の状況を把握し、経営判断の基礎になるデータを作成するソフトがあればという議論になりました。まだ世の中には無いと思いますし、ソフトを作成するのは容易ではありませんが、東日本大震災に対する企業の対応に関する報告書の指摘に対し、規模が大きく、連鎖の複雑な大企業の場合には各社固有の状況を踏まえて経営者自らの経営判断をするのに役立つデータが直ちに提供出来るかが問題です。 企業が被災時にとる実際の対処について、或いは平素PDCAサイクルを回すについて、わが国企業の現実を直視した実務の体制を考えるべきではないでしょうか。
 リスク対策COM.7.25号にも本稿と同じく「リスクマネジメントの実践における経営的視点の欠如」について書いています。もうすぐ発売されますのでご興味があったら読んで下さい。

○参考文献:一橋大学 佐々木聡教授 『戦後日本のマネジメント手法の導入』
        『一橋ビジネス レビュー』(東洋経済新報社)2002年秋号
        :財団法人日本科学技術連盟 「創立50年史」
        http://www.juse.or.jp/about/pdf/history/history_60.pdf