「政府の東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」の最終報告書(1) ~ 東京電力の問題点について ~

2012年8月1日水曜日 | ラベル: |

2011年12月26日に公表された畑村洋太郎先生・柳田邦男氏が中心の「政府の東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」中間報告書の最も重要なテーマは「想定外」の問題だと2012年1月20日に書きました。 同報告書の「最終報告書」が7月23日に公表され、私は主として同報告書の「Ⅳ、総括と提言」「委員長所感」を読んで感想を書きました。長くなりますので分けて書きます。

 ロンドンオリンピックが始まりました。私は1995年に1度だけロンドンに出張しました。
 ○ハイドパークの朝です。

 ○私はバラが趣味なので、出張の日程で半日だけあった自由時間に、キュー・ガーデン(Royal Botanic Gardens, Kew)へ行って来ました。大温室です。

○「政府の東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」の最終報告書(1) ~東京電力の問題点について~ 

「Ⅳ、総括と提言」の書き出しの記述です。
『今回の事故は、直接的には地震・津波という自然現象に起因するものであるが、当委員会による調査・検証の結果、今回のような極めて深刻かつ大規模な事故となった背景には、事前の事故防止策・防災対策、事故発生後の発電所における現場対処、発電所外における被害拡大防止策について様々な問題点が複合的に存在したことが明らかになった。例えば、事前の事故防止策・防災対策においては、東京電力や原子力安全・保安院(以下「保安院」という。)等の津波対策・シビアアクシデント対策が不十分であり、大規模な複合災害への備えにも不備があり、格納容器が破損して大量の放射性物質が発電所外に放出されることを想定した防災対策もとられていなかった。東京電力の事故発生後の発電所における現場対処にも不手際が認められ、政府や地方自治体の発電所外における被害拡大防止策にも、モニタリング、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の活用、住民に対する避難指示、被ばくへの対応、国内外への情報提供などの様々な場面において、被災者の立場に立った対応が十分なされないなどの問題点が認められた。加えて、政府の危機管理態勢の問題点も浮かび上がった。』 
我が国の原子炉施設の安全確保のための対策の問題点は、地震・津波等の外的事象によるリスクが重要であるとの指摘があったにもかかわらず、実際の対策に十分反映されなかった。(中略)また原子力発電の安全を確保するためには、単に発生した個別問題への対応にとどまらず、国内外の最新の知見はもとより、国際的な安全規制や核セキュリティ等の動向にも留意しつつ、国内規制を最新・最善のものに改訂する努力を不断に継続する必要がある。』

○東京電力に関する問題点

a 危機対応能力の脆弱性
b 専門職掌別の縦割り組織の問題点
c 過酷な事態を想定した教育・訓練の欠如
d 事故原因究明への熱意の不足
e より高い安全文化の構築が必要

報告書は、東京電力に関する分析の項目で、上記の項目を指摘しています。指摘の内容は報告書をお読み下さい。さらに、
『東京電力の対応を追ってみると、同社には原発プラントに致命的な打撃を与える恐れのある大津波に対する緊迫感と想像力が欠けていたと言わざるを得ない。そして、そのことが深刻な原発事故を生じさせ、また、被害の拡大を防ぐ対策が不十分であったことの重要な背景要因の一つであったと言えるであろう。』
「想定外」問題に対する東京電力の危機感の希薄さに関しては
『そもそも「想定外」という言葉には、大別すると二つの意味がある。一つは、最先端の学術的な知見をもってしても予測できなかった事象が起きた場合であり、もう一つは、制度や建築物を作ったり、自然災害の発生を予測したりする場合に、予想されるあらゆる事態に対応できるようにするには財源等の制約から無理があるため、現実的な判断により発生確率の低い事象については除外するという線引きをしていたところ、線引きした範囲を大きく超える事象が起きたという場合である。今回の大津波の発生は、この10 年余りの地震学の進展と防災行政の経緯を調べてると、後者であったことが分かる
(中略)大きな地震が発生した記録のない領域については対象から外す、というものだった。「発生の可能性に関する十分な知見が得られていない(=科学的な研究が未成熟)」というのが想定外の理由であった。』
と言っています。

○ 東京電力の在り方に関する提言(最終報告Ⅵ1(6)e)では、
東京電力は、原子力発電所の安全性に一義的な責任を負う事業者として、国民に対して重大な社会的責任を負っているが、津波を始め、自然災害によって炉心が重大な損傷を受ける事態に至る事故の対策が不十分であり、福島第一原発が設計基準を超える津波に襲われるリスクについても、結果として十分な対応を講じていなかった。組織的に見ても、危機対応能力に脆弱な面があったこと、事故対応に当たって縦割り組織の問題が見受けられたこと、過酷な事態を想定した教育・訓練が不十分であったこと、事故原因究明への熱意が十分感じられないことなどの多くの問題が認められた。東京電力は、当委員会の指摘を真摯に受け止めて、これらの問題点を解消し、より高いレベルの安全文化を全社的に構築するよう、更に努力すべきである。』
としています。

 私のブログでも屡々書いていますように、今回の福島第一原子力発電所の事故における東京電力の対応には大いに問題があったと思います。然し、畑村洋太郎委員長は、「委員長所感」の中で、
『中間報告及び本最終報告で述べたとおり、個々の事象への対処には不適切なものがあったことは否めないが、他方で、現場作業に当たった関係者の懸命の努力があったことも是非ここに記しておきたい。』
と触れておられます。

(所感)
 私は、リスクマネジメントに携わる者として、また元銀行員としてリスクファイナンスの視点から、今回の福島原子力発電所の事故発生以来、新聞や諸雑誌の記事を読み、テレビの報道を見、4つの事故報告書を読み、事態の推移をフォローして来ました。
 その結果は、折々のブログに書いておりますが、結果としてわが国のトップ企業と評価されていた東京電力の在り方について非常な違和感と疑問を持ちました。
 6月20日(水)に公表された東京電力㈱の「福島原子力事故調査委員会」による「福島原子力事故調査報告書」は、自社の損害賠償責任のことを考えているのかも知れませんがこの期に及んでも事故の原因はあくまでも想定外の津波の結果だとしていて、想定出来なかったことに対する深刻な反省・責任の自覚は皆無です。まるで他人事で、他の3つの報告書の内容と大きく違っています。

 私は、戦争を知っている世代として、戦後我が国で「日本が第2次世界大戦で敗戦に至った経緯の分析と反省」が十分に行われず、その結果が現在のわが国の社会や企業に禍根を残していることを非常に遺憾に思っています。福島第一原子力発電所事故の調査がその轍を踏まないようにしなければなりません。
 畑村洋太郎委員長は、今回の報告書の「委員長所感」の最後を、『我々は、この事故を通じて学んだ事柄を今後の社会運営に生かさなければならない。この事故は自然が人間の考えに欠落があることを教えてくれたものと受け止め、この事故を永遠に忘れることなく、教訓を学び続けなければならない。』という言葉で結んでおられます。全く同感です。

 7月31日に国の資本が東京電力に注入され、東京電力は実質国有化されました。7月30日の日本経済新聞2面「東電再建へ7施策」の報道では、施策の最初が職員の「意識改革」です。これが原点です。米倉経団連会長は「国営では上手く行かない。」と仰せられていますがあのままではこうは行かなかったと思います。新経営陣のガバナンスに期待します。東電の社員の方々は辛いでしょうが、率直に今までの在り方を反省して教訓を活かす努力をして頂きたいと切にお願い申し上げます。