電機大手の業績について想う ③ 「シャープに関する新聞報道」 

2012年9月10日月曜日 | ラベル: |

 シャープに関する新聞報道を読みますと、主力銀行の対応について違和感を覚えます。
外から見た意見ですが、主力銀行は、取引先の業況についてもっと理解しているべきです。人ごとではありません。また無担保の貸出金を有する場合は、貸出金債権の保全のためにも極力企業の再建をサポートすべきだと思います。

○一度だけ行った沖縄の風景です。

 

○メインバンクとは
 メインバンクと言う言葉は、わが国の経済が発展途上で、企業の自己資本の蓄積が少なく、銀行借入依存度が大きかった時代において存在しました。私が嘗て勤務した都市銀行の実務経験から、メインバンクの定義を私なりに致しますと、
  1. 当該企業に対する当該銀行の融資シェアがトップである。
  2. 当該企業と当該銀行の間に信頼関係が成立している
  3. 当該銀行は当該企業の資金調達についての最終責任を持っていると認識している
  4. 当該銀行は、当該企業の経営・業績に関して詳細を承知しようとし、且つ経営に関して意見を申し述べる
  5. 当該企業の経営危機に際しては、当該銀行が救済するとの暗黙の諒解が存在している。(銀行・企業・世間)
と言ったことかと思います。
 私の実務経験からは②当該企業と当該銀行の間に信頼関係が成立している。と言うことが最も重要なことでした。単に数字の上で融資シェアがトップであっても、大企業では企業と銀行の経営者間に、中小企業の場合は企業経営者と支店長の間に信頼関係が成立していなければ、メインバンクではありませんでした。
 企業の自己資本比率が大きくなり、また増資や社債等による資金調達が主になって、銀行借り入れ依存度が低下し、最後には借入金ゼロの企業も出来て、メインバンクの制度は崩壊したように思われます。
 ただ、企業の盛衰は激しいので、経営不振或いは事故・災害発生時のリスクファイナンスの見地からは銀行借入の価値はまだまだあると私は思います。数兆円の年商以上の手元現・預金を有する会社が、僅か数十億円の銀行借入を残しているのは、いざという場合に備えて平素から自社の状況を銀行のトップと融資部門に報告して置くためではないかと私は思っています。

○シャープに関する新聞報道
 9月4日の日本経済新聞1面「金融ニッポン・第2部 原点に帰る」 の記事に、
『銀行の現場力が落ちているのではないか。液晶パネルの雄、シャープの業績悪化に取引銀行が慌ただしく動き出したのは最近のことだ。「最終赤字が300億円から2500億円に拡大する。」みずほコーポレート、三菱UFJ両行は急遽、資産査定部隊を立ち上げた。8月末に決めた1500億円の追加融資では初めて担保も取った。(中略)6月末の残高は3年前の3倍弱4600億円に上るが、経営改善に積極的に関与してこなかった。「シャープほどの優良企業なら大丈夫だと思った。」と銀行幹部は明かす。(中略)バブル崩壊を経て一度遠くなった企業との距離を埋められずにいる。オリンパスの粉飾に主力銀行の三井住友銀行は気づかなかった。(中略)コンピューターに財務データを打ち込み、基準を満たせば機械的に貸し出す仕組みに慣れ(後略)」
と記述されています。
 オリンパスについては、私は監査法人の交替の問題、更には多くの企業が財テクで損失を出しているのにオリンパスだけが損失を出していないと言うことをメインバンクは本当に信じていたのか。もしかすると、今更知っていたと言えないのではないかと疑っています。
 コンピューターに財務データを打ち込み、機械的に貸出す仕組に慣れて、(正確な与信判断を怠っている。)と記述されていることについては、私は、定量的なデータをコンピューターに打ち込んで、正確な分析結果が機械的に表示されるのは効率的であり、手作業の時代に比べ大変良いことだと思います。ただ中小企業取引だけでなく(それにも大いに異存がありますが)大企業取引の与信判断までコンピューターのデータで行い、定性的な部分が抜けているのであれば話になりません。財務諸表の計数の分析は過去の実績の分析ですから、決算後の現在の状態並びに将来の見通しは別途分析検討をしなければ、正確な与信判断は出来ません。         *貸出の可否に関する判断を「与信判断」と言います。
 同紙はさらに企業育成こそ融資の王道。新たな資金需要を掘り起こすには従来以上に銀行員が取引先とともに経営を考える必要があるとも言っています。
 9月7日の朝日新聞9面にも「8月31日付でシャープ本社・亀山工場にメインバンクが担保権を設定」と報じられ,各紙が追随しています。この時期の担保権の設定は、メインバンクはシャープの将来を信用していないことを内外に知らしめることだと思いますので、果たして得策なのでしょうか、古い銀行員としては首を傾げます。格付にあたっても不利ですし、株価も下落します。また鴻海からは益々足元を見られることになると思います。主力銀行は歯を食いしばってでも支援する姿勢を示すのがシャープのためになるのではないかと思いました。
 直近の融資に担保を付けてもエクスキューズにしかならないと思います。過去の無担保融資はシャープが行詰まれば損失になります。昔ならメインバンクとしての支援の姿勢を明確にし、他方会社側と一緒に知恵を絞って事態の打開を図る場面です。その間に融資を躊躇っても全くプラスは無いのではないかと思います。旧日本興業銀行・三菱銀行を含む主力の二行がそのようなことを判っておられないとは到底思えません。
 しかし、朝日新聞には「これ以上の融資には黒字転換するための事業計画が必要」(幹部)との声もある。と報じられています。シャープが如何に対処すべきか銀行は判っておられないのでしょうか。先の日本経済新聞の記事と言い、銀行幹部のこうした言動が報じられるのは全く遺憾です。
 私は、都市銀行勤務中、主として本店における企業分析・審査や、支店おける貸出業務に従事しました。多くの企業との取引に関わりましたが、支店における貸出の稟議・本店における貸出の決栽あたっては、常に取引先の将来の見通しを考慮して判断を行って来ました。銀行勤務約30年の私の結論は、「企業の盛衰は経営者による。経営者に最も必要な資質は環境の変化に対する適応能力である。」ということでした。
 
1984年(昭和59年)に出版された日経ビジネス編「会社の寿命〃盛者必衰の理〞」は当時大変話題になりました。百年間の上位百社のランキングを作成した結果、『企業が繁栄を維持出来る期間、すなわち「会社の寿命」は、平均わずか三十年に過ぎない。』という本です。同書の「会社の生き残り条件5ヶ条」の第3番目は「危険を冒して活力を出す」、この項目の好事例として紹介されちる経営者はシャープの早川徳次氏とオリンパス光学工業の渡辺八太郎氏です。昭和59年現在のシャープ・オリンパス光学工業は評価に値する企業だったと思います。その後の経営者が方向を誤った訳です。「会社の寿命」最終章の標題は「壽命を握るのは経営者」です。

 私は、シャープも、パナソニックやソニーも、我が国の家電メーカーが良き経営者を得て再生することを心から願っています。