電機大手の業績について想う ② 「会社の寿命”盛者必衰の理”」

2012年9月2日日曜日 | ラベル: |

 2月1日の記事でコダックの破綻と富士フィルムの発展を対比し、2月10日の記事で電機大手の業績についてパナソニックとソニーの再生を心から願うと書きました。
 28年前、昭和59年(1984年)に刊行された日経ビジネス編「会社の寿命”盛者必衰の理”」を読み返しますと、結局「会社の寿命を握るのは経営者」だという結論は今も昔も変らないということを痛感します。

○甲子園からさらに西へ、明石海峡大橋です。




○会社の寿命”盛者必衰の理”
 1984年(昭和59年)に出版された日経ビジネス編「会社の寿命”盛者必衰の理”」は当時大変話題になりました。百年間の上位百社のランキングを作成した結果、『企業が繁栄を維持出来る期間、すなわち「会社の寿命」は、平均わずか三十年に過ぎない。』という本です。





 同書によれば、会社の生き残り条件 5ヶ条は下記です。
  1.  時代を見抜く指導力。先を見通したリーダーの鋭い決断。
  2.  社風一新,沈滞を破る。
  3.  危険を冒して活力を出す。
  4.  大樹に寄りかからない。
  5.  ムダ金使いの勇気を。
さらに、強力なリーダーシップが不可欠だと言っています。
最終章の標題は『壽命を握るのは経営者』です。 
 私は、都市銀行勤務中、主として本店における企業分析・審査や、支店おける貸出業務に従事しました。多くの企業との取引に関わりましたが、支店における貸出の稟議・本店における貸出の決栽あたっては、常に取引先の将来の見通しを考慮して判断を行って来ました。銀行勤務約30年の私の結論は、「企業の盛衰は経営者による。経営者に最も必要な資質は環境の変化に対する適応能力である。」ということです。
昨年9月1日の記事で、「企業分析・経営分析に関しては昔から沢山の参考書があり、分析項目・内容・順序が詳細に述べられています。参考書の記述の順番に、数多くの項目を分析をして終章まで行っても、結論は出せません。それは、各項目の分析結果に軽重がついていないため、どこの部分は良い、どこの部分は問題だとはなっても、結局全体としてどうなのかの判断が出来ないからです。」と書きました。
今回の東日本大震災におけるBCPに関し、或る大手家電メーカーの方から、実践の結果をお聞きする機会がありました。その方は我が社は十分な対応が出来たと誇らしげに仰っていました。しかし、その後の同社の業況は悪化の一途です。
 リスクマネジメントやBCPの実践において、平成15年6月経済産業省のレポート「リスク新時代の内部統制」で言っている『事業活動の遂行に関連するリスク(オペレーショナルリスク)』に関しては十分に実践していても、『事業機会に関連するリスク(経営上の戦略的意思決定における不確実性)』の対応が不十分であれば、結局企業経営は上手く行きません。両者のリスクはともにバランスが取れた管理が必要です。
 パナソニック・ソニー・シャープなどの家電メーカーは、従来からの家電の分野に拘って抜本的な体質改善が行われないまま、主力製品のテレビの極端な不振に直撃され、大幅に業績が悪化したと考えます。『経営上の戦略的意思決定』に関しては全く経営者の責任であると思います。 
8月20日の二本経済新聞電子版の記事、「よみがえるか日本の電機 いでよ信念の経営者 稲盛和夫氏に聞く 中途半端な決断、病巣に」の記事の中で、稲盛氏は
「バブルで大きな痛手を被ったものだから石橋を叩いても渡りたくない、危険、リスクを冒したくないという方向へ日本全体の経営者が向いている。苦労知らずで意思決定が中途半端なトップばかり。それが今日の日本企業が抱える問題だと思う
と言っておられます。
「今の日本の家電業界に強力なリーダーの姿は見えるか。」の質問に対しては、
「残念だが、皆無だ。個別の企業の話をするのは何だが、例えばソニーでゲーム事業をゼロから立ち上げた久多良木健さん(元ソニー副社長)。異端だったかもしれないが、優れたリーダーの資質を備えていたのではないか。大事なのは技術や現場のわかる経営者。昔はIHIや東芝など技術系で武骨なやんちゃな人がトップになっていたが、今は文系で物わかりの良い人が偉くなる」
 「リーダーとは自分の仕事について壮大なビジョンが描ける人。ビジョンを描けて実行しようと思えばそれは信念にかわる。矢が降ろうとやりが降ろうと何があろうと信念を貫き通す。命さえも落とす覚悟で臨める強い意志をもつ。いわば頑固者。自分のビジョンを開陳し、賛成を得られなくても、そうですね、とやめるのではなく、むしろ勝手にしますとやり遂げる決意のある人。人間性に問題がなければ社員はそのトップについてくる」
 「どの会社でもトップから末端の社員の考え方を変えれば再生できる。要するに過去の成功体験などに固執せずこれまでの考え方を破壊できる企業であれば十分に再生可能だ。もちろん、痛みや苦痛も伴う。日航もその成功例だと思っている」
同記事の最後の『《記者の目》 勝ち組企業はトップダウン』では、
 『日本のデジタル産業界には「強力なトップが不在だ」と稲盛氏は嘆く。世界的なベンチャー企業を育て、通信業界の再編を仕掛け、日本航空を再建した現代のカリスマ経営者。その目には現在の経営者たちは「いずれも苦労知らずの決断力に乏しいエリート」にしか映らないのだろう。
今の世界のデジタル業界で勝ち組は、いずれも強力なリーダーを擁したトップダウン型企業だ。デジタル業界のトレンドは常に激しく変貌していく。経営には「スピードと集中」が求められる。ソニーは、米アップルにインターネットを活用した音楽配信事業で先手を打たれ、パナソニックとシャープは薄型テレビの世界競争で、韓国のサムスン電子の物量に圧倒された。デジタル業界の再生には、命懸けで改革に挑む豪腕トップが必要とされているのだろう。(聞き手は佐々木聖)』
と書かれています。
 私ごときが偉そうなことは言えませんが、豪腕なトップが育たない今日のわが国の企業風土は、将来に禍根を残すと思います。
 私は、パナソニックはじめ我が国の家電メーカーが良き経営者を得て再生することを心から願っています。