ターンブルの実行―取締役会への説明 ① 第一章 ~ Implementing Turnbull  A Boardroom Briefing ~

2012年11月20日火曜日 | ラベル: |

 今回は「ターンブルの実行 取締役会への説明(Implementing Turnbull A Boardroom Briefing)」を読んでみたいと思います。これは日本語訳が未だありません。以前研究仲間の方が試訳をして下さいましたので、それを参考に辿って行きたいと思います。

 江戸時代の芸術家、本阿弥光悦が元和元年(1615)徳川家康からこの地を賜り、光悦一族をはじめ様々な工芸の職人が移り住んだ芸術家の集落の跡が、光悦の死後光悦寺になりました。洛北 鷹峰の光悦寺の紅葉です。

 鷹峰です。

 竹を斜めに組んだ垣根は「光悦垣」と呼ばれます。

 本阿弥光悦のお墓です。

○ターンブルの実行ー取締役会への説明 ~ Implementing Turnbull  A Boardroom Briefing ~

http://www.icaew.com/~/media/Files/Technical/Research-and-academics/publications-and-projects/corporate-governance%20publications/implementing-turnbull.pdf
 
 私は、アメリカの文献は実務の観点から書かれているせいか理論構成が希薄なように思います。ドイツの文献はうっとりするほど緻密な理論構成になっています。イギリスは丁度その中間で、実務の観点と理論が渾然一体となっていて、誠に参考になります。今議論している、イギリスのコーポレート・ガバナンス論の展開において,内部統制によって支えられるリスクマネジメントが求められることとなるプロセスを理解するのに、「ターンブルの実行―取締役会への説明」の記述を辿っていくと、なるほどこう言うことなのかと理解出来ます。国によって適用方法は若干異っても、根本思想の理解が重要だと思い、何回かに分けてご紹介致します。
 「ターンブルの実行―取締役会への説明」は、未だ日本語訳が出版されていません。私の研究仲間が試訳をして下さいましたので、それを参考にして辿って行きます。但し、若し護訳等があれば責任は私にあります。

 
1. Why Turnbull? 
 第1章は「なぜターンブルか」です。」以下は内容の抄訳です。
1-1 利点と効果
「このガイダンスは内部統制(Internal Controll)の体制を作りその効果を評価するためのリスクに基礎を置いたアプローチについて述べている。それはロンドンの証券市場での目的だけのものではなく、リスクを効果的に管理し、企業が事業活動の目標を達成するためのプロセスに内部統制を組み込むための健全な経営感覚を作り上げるものである。
 もしこれを貴方の事業の発展と言う可能性にリンクさせず、単なるチェック式の練習問題にしてしまえば、官僚主義とコスト体質と言う結果になるかもしれない。しかし、ターンブルを貴方の事業と財務成績を向上させるパワフルなメカニズムとして利用することに興味があるなら読み進んで欲しい。
・効果的なリスクマネジメントと内部統制によって得られる利点とは何か。
 役員は会社の長期的な方向付けに関わっている。”リスク”と言うのは会社が認識したゴールが、目指し望んでいたものと全く異っていることを意味すると言うことができる。従ってリスクは会社がどのように機能するかに大きな影響を与え得るので、全ての役員にとって最も重要な関心事であるべきだ。
 リスクに基礎を置いたアプローチは市場の変動に対し企業をより柔軟に適応力あるものにし、発展を続ける事業環境の中で、変リ続ける顧客のニーズを満足させることを可能にする。
 企業はライバルより先に新い環境に適応することにで、早く行動した者として有利な立場を手にし、中期的に競争力のある強みに繋がって行く。企業に対する外部の認識は、その企業が直面しているリスクの水準と、そのリスクの管理の仕方に影響される。効果的なリスクマネジメントと内部統制は、変化に対応し、事業目標の達成において全社の全ての人間を巻き込むため長期的な株価は勿論、将来の格付けと資金調達力を引き上げるために利用できる。
  
 従って、リスクマネジメントと内部統制に正しく焦点をあてることは、企業に相当な恩恵をもたらす。
 ターンブルガイダンスは、ロンドン証券市場における上場規則の情報開示条件にリンクしている。従ってターンブルガイダンスの順守を怠ると、マスコミ、株主、機関投資家の関心を引くような、恥ずかしい情報開示を年次報告書でなければならない。
 然し、最も大きなマイナスは、本当は機会の逸失と言う形でやって来る。その機会というものは他の会社はしっかりと掴んでいるもので、ターンブルガイダンスを企業の事業目標の達成に利用すると言うことであり、起きて欲しくない出来事の可能性を減らすと言うことである。」

1-2 リスクマネジメントとターンブルガイダンスは中小上場企業にも関係があるか。
 答えは間違いなくイエス。議論の余地はある。中小企業がさらされるリスクのレベルは徐々に上がっている。市場の資金を獲得し維持するには、他の何よりも、投資家に対して効果的なリスクマネジメントと内部統制を行っていることを示すかどうかに掛っている。
 中小企業は大きな変化の戦略を実行しようとする場合大企業より優位である。
  • 中小企業は若くて柔軟であり、カルチャーへの適応力がある。また良く勉強し、熱心であり、大企業にありがちな官僚主義に邪魔されないで、最小の混乱で必要な変化を遂げることができる。
  • リスクマネジメントを早く採用することは中小企業にとって会社が大きくなった時や予期しない出来事に見舞われた時の移行コストを節約できると言うことを意味する。
    またリスクマネジメント文化は、企業が成長するに従ってやることすべてに深く浸透する。
○中小企業ならではの特徴。
  • 役員会の高度な結束
  • 役員同士の頻繁なミーテイング
  • 小規模で深くコミットしたチーム
  • 事業活動が深く理解され、集中的に行われ、数が少ない
  • 生き残りに関わるリスクが厳しくコントロールされている
  • 現金の管理に重点が置かれている。
  • リスクを取る文化
(所見)
 第1章では、ロンドン証券市場の上場企業に対して、リスクを効果的に管理し、企業が事業活動の目標を達成するためのプロセスに内部統制を組み込むことの、重要性とメリットを極めて明白且つ率直に叙述されていることに改めて感銘します。
 細部は次章以下に譲りますが、「リスクマネジメントと内部統制は、変化に対応し、事業目標の達成において全社の全ての人間を巻き込むため長期的な株価は勿論、将来の格付けと資金調達力を引き上げるために利用できる。」書いてあります。
 10月20日のブログ「防災・危機管理に取り組む企業が評価される仕組みを構築するために」で「一般の金融機関において融資条件にBCPを取入れることは可能か、について、私は悲観的です。」と書きました。1999年9月に公表された「ターンブルの実行ー取締役会への説明」の記述と対比する時、我が国におけるリスクマネジメントや内部統制、BCPを実行している企業に対する金融機関や世間の評価が不十分である現状は誠に遅れていると言わざるを得ません。