第1章-2 「付加価値の付け方」は、リスクと内部統制を事業目標に結びつけプロセス、どういうアプローチをするのか等について説明しています。
ミシガンは琵琶湖を周遊する陽気な外輪船です。クリスマス・ディナークルーズなど素的だと思います。
○ミシガン
○外輪
○ミシガンから大津市を望む
~ Implementing Turnbull A Boardroom Briefing ~
以下は、記述の抜粋です。
○第1章 なぜターンブルか 2.付加価値のつけ方
2-1 リスクと内部統制を事業目標に結びつける
リスクマネジメントと内部統制は、企業がその明確な目標を達成する能力と密接に結びついている。
大切なことは、マネジャーたちが〝負のリスクのみ(only downside risk)〞の考え方から脱却することである。〝リスクは起きてしまった悪いこと(bad things happening)〞だけでなく、〝起こっていない良いこと(good things not happening)ということもある。企業は統制だけに集中するのではなく、リスクと統制に力を入れることによって、チャンスを得るのである。
優れたリスクマネジメントは組織全体を業績の向上に向けて改めて方向付けするという可能性を持っている。
もし、業務担当の管理職が最初懐疑的であったら、次のことに集中するのが非常に有効である。
- リスクマネジメントと経営監査だけでなく、会社の主要事業目標を達成するのに役立つようなリスクと報償の枠組みを実行すること。
- 既存のシステムを利用し、事業目標、重要な成功要因、簡潔な報告と主要実行・リスク指標の、確立、再評価と認識を助けるような継続的なプロセスを導入すること。
- 会社が前提としなければならない外部及び内部の変化の増加。変化が大きくなればリスクマネジメントの必要性も高まる。
どうやったらターンブルが実行できるか。
より良いリスクマネジメントを通じて目標の達成に注力する。
- 主要な内部・外部の変化を確認し、明確な目標を再検討し、合意する。
- 重要な成功要因を特定する。
- リスクを確認し、優先順位をつける。
- どのリスクが重要かを決める。
- コントロール戦略とリスクマネジメント方針に合意する。
- 業務(accountability)について合意する。
- 意見交換をし、リスクに対する意識を高める。
- 行動を変え、優れたリスクマネジメントと内部統制の基本に集中する。
- 早期警告メカニズム。
- 内部統制の重要なポイントのモニタリング。
- 保証の根拠(sources of assurance)
- 簡潔明瞭な報告。
- 定期的および、年度末報告前のリスクと統制の見直し。
- 改善のステップ
- 役員会は何を達成したかを決定しなければならない。明確な企業目標を立てる時.過去や現在ではなく未来に向かって表明することが大切である。役員会は、持っている目標がこの先少なくとも2〜3年の間に直面する可能性のある挑戦に見合ったものかどうか、自問してみるべきである。
リスクの研究作業(risk workshop)の〝伝統的な〞やり方が、リスクマネジメントよりも、リスクの確認に重点を置き過ぎていることについての懸念がある。あまりに多くのリスクが認識されると、重要なリスクを特定し、マネジメントすることは非常に難しくなる。
ターンブルガイダンスは、重要なリスクを主眼に置いている。上級管理職が会社目標の達成にダメージを与える可能性があるものとして特定したリスクである。
そういうリスクを認知したら、次のようなことがらについて全社的に意見交換するのが望ましい。
- 会社の目標とそれにかかわる重要なリスクについての意識
- 会社のリスクマネジメント方針
- 採用されたコントロール戦略が効果的であるかどうか、そして戦略を実行するには何をすることが必要か。
- 優れたリスクマネジメントおよび内部統制の基本
- 会社がその事業目標を達成する力に影響を及ぼすような重要なリスクを最小限にするための改善の方法
- 行動を変えること
要するに、〝トップダウン〞のアプローチと、全社的な意見交換と、優れたリスクマネジメントおよび内部統制に力点が置かれているのである。
- もし膨大なリスクを認知していたらどうするか役員会は〝リスクの認知のしすぎ〞という状態を避ける必要がある。なぜならこれは重要なリスクに十分な注意が行き渡るのを妨害するからである。もし大量のリスクが今までに確認されていたならば、事業目標、および新たな目標が必要となるような重要な分野との関連性に基づいて有効に分析する。リスクマネジメントは、企業目標が予測していない出来事によって危うくなる可能性を低減するのに必須である。会社が成し遂げようとしていることは全て、リスク・エクスポージャーによって影響されるのであり、それらは先を見越してマネジメントすべきである。
ターンブルは内部統制に関する効果の再評価および株主への報告は、グループ全体の観点から行うのが望ましいと期待する。従って、グループ全体にとって重要なリスクのマネジメントが優先して行われるよう注意すべきである。また〝トップダウン〞と〝ボトムアップ〞っという二つのやり方が、それぞれ別々に行われることのないよう留意する。
部門(divisions)や子会社(subsidiaries)があるところでは、それらの役員会には、グループ全体にとって重要なリスクを優先するだけでなく、それぞれの部門や子会社にとって重要なリスクにも取り組むという〝ミドル・ダウン・プロセス〞をもって、本社の役員会による〝トップ・ダウン・プロセス〞に従うチャンスがある。これはグループの重要な目標を各部や子会社はもちろん、すべてのスタッフに,彼らに特有の分野に焦点を合わせて、確実に教え込むことになる。
ジョイントベンチャーや提携係においては、グループのリスクマネジメントおよび内部統制を彼等にまで広げるには、実務上の障害があるかも知れない。このような状況でターンブルは、実質的なジョイントベンチャーや提携係がグループの一部として扱われていないところでは、情報開示を期待する。
(所見)
我が国における従来のリスクマネジメントの解説書は、オペレーショナル・リスク中心の〝負のリスクのみ(only downside risk)〞のリスクマネジメントの解説書が殆どです。
内部統制と結びついた組織全体を業績の向上に向けて改めて方向付けするというERM(Enterprize Risk Mnagement)については言葉では唱えられていますが、具体的な実行方法については各企業の自主性に任せられているのが実情だと思います。
企画部中心のERMと、現場の〝負のリスクのみ(only downside risk)〞のオペレーショナル・リスクのマネジメントとの乖離を心配する方もいます。
今回の記述は、如何にリスクマネジメントと内部統制を事業目標に結びつけるかについて具体的に実務に即して説明されています。
私は、アメリカのCOSOレポートやCOSO2レポート(Enterprize Risk Management - Integrated Framework)の記述よりも、「ターンブルの実行 取締役会への説明(Implementing Turnbull A Boardroom Briefing)」の記述の方がはるかに判り易いと思います。
例えば
- 膨大なリスクの認知は重要なリスクに十分な注意が行き渡るのを妨害する
- それぞれの部門や子会社にとって重要なリスクにも取り組むという〝ミドル・ダウン・プロセス〞
など、各社のリスクマネジメント担当者が均しく悩んでいることに対する、有益なアドバイスが多々含まれていると思います。
わが国のリスクマネジメントの関係者は、アメリカ一辺倒でなく、イギリスの文献にも目を向けるべきだと私は思うのですが。