「リスクとキャッシュフロー」について ⑲

2014年2月20日木曜日 | ラベル: |

 2月14日(金)関東地区2度目の大雪の日、経済産業省別館のセミナー室で行われたBBLセミナー*1で、熊本県商工観光労働部観光経済交流局 くまもとブランド推進課 課長 成尾雅貴様の「くまモンにみる熊本県のブランド戦略」というお話をお聞きし、「くまモン」と握手をして来ました。


 くまモン オフィシャルHP https://kumamon-official.jp/ より

 2011年3月の九州新幹線全線開通をきっかけに生まれ、「ゆるキャラグランプリ」を獲得した「くまモン」が、如何にして人気者になれたのかについては『①トップ(知事)の理解と支援、②くまモンの弛まぬ努力③軽快な動き・豊かな表現力④新旧メディアを最大限に活用⑤いつもサプライズを忘れないこと。』だと言われました。
 地方の活性化のため色々な試みがなされ、各地で多くの「ゆるキャラ」が活動していますが、尋常一様のことでは上手くいかないのだと思いました。「くまモン」の事例には大変感銘しました。もうすぐ、BBLセミナーのHPに当日の資料がアップされると思いますので是非ご覧下さい。

*1:BBLセミナー (経済産業研究所のHPより)
 米国の大学や研究機関では、先生、学生たちの間でBrown Bag Lunch Meetingというものが頻繁に行われています。(自分の昼食を茶色の紙袋に入れて集まるところから、この名前がついたそうです。) BBL(Brown Bag Lunch Seminar Series)とは、ワシントンのマサチューセッツアべニューにあるシンクタンクで日夜繰り広げられているような政策論争の場を日本にも移植し、policy marketを作りたいという思いで、当研究所が企画しているブレインストーミングセッションです。
 国内外の識者を招き、様々な政策について、政策実務者、アカデミア、産業界、ジャーナリスト、外交官らとのディスカッションを行っています。会場スペースの制約もあり、現状では非公開としておりますが、これまでに行われたセミナーの概要や配付資料、今後の開催予定等は、こちらでご覧頂けます。
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/


9.企業におけるキャッシュフローの悪化と金融機関の役割について ①
 2011年6月10日(金曜日)・2013年7月20日(土曜日)のブログで触れた経済産業省の「リスクファイナンス研究会報告書*2」には、
 『わが国では、メインバンクは、最大の貸出しシェアを占める債権者として、また長期安定的な株主として、企業が災害や事故等により一時的に業績が悪化しても、長期的視野に立ち、事業活動の継続や相応の収益性が見込まれる場合には、(中略)メインバンクは融資先企業のリスクファイナンスをサポートする機能を提供してきたといえる。
 しかし、企業の財務状況、金融環境の変化により、メインバンク制は次第に弱まってきており、企業がデフォルト(倒産)した際にメインバンクが被る損失も相対的に小さくなってきている。このためメインバンクによる企業救済のインセンティブは低下している可能性がある。「いざという時は、メインバンクに資金を手当てしてもらえる」と考えている企業も数多く見られるが、これまで提供されてきたメインバンクによるリスクファイナンス機能は、その提供される度合いや実現性が低下してきている点に留意する必要がある。』と記述されています。
 事故や自然災害は企業のキャッシュフローを悪化させます。私が旧住友銀行に勤務していた時代は、私どもの銀行も融資先企業のリスクファイナンスをサポートしていました。
 私の旧住友銀行における後輩は安宅産業の救済にあたり、アメリカでその業務に従事していました。当時彼はアメリカのバンカー達から「どうして住友銀行はそこまで企業を助けるのか。」と言われたと言っていました。2013年8月1日(木曜日)のブログに書きましたように,CSR(企業の社会的責任)の議論がまだあまり行われていなかった1970年代後半に、『安宅産業の破綻は日本の商社全般に対する国際信用の失墜と、日本の銀行に対する国際的な信用不安を齎し「第二の昭和恐慌」の引き金になるかも知れないから、安宅産業の破綻は日本経済のために絶対に避けなければならない。』と言う考えで、メインバンクとしての公共的使命を果たすべく、多額の負担の下に安宅産業の救済を行った事は評価されるべきことだったと私は今でも思います。
 1978年10月第1次オイルショックの結果、原油価格が高騰し、アメリカにおけるロータリーエンジン車が売れなくなり、マツダが危機に陥った際、マツダが破綻すれば広島地区の経済が破綻するという事態を救済するため、メインバンクの旧住友銀行・サブメインの旧協和銀行などが支援をしました。資金支援・人材派遣に加え、支店長車を全面的にマツダの「ルーチェ」にした時私は亀戸支店長でした。他行の支店長車のトヨタ・クラウンや日産・セドリックなどに比べ,遥かに小さな車に乗っていました。
 1980年代の後半「アサヒビール」の市場占有率が10%を割り「夕日ビール」と揶揄されていたころ、メインバンクの旧住友銀行従業員は、本体の資金支援・人材派遣に加え、支店における接待・会合や自宅での晩酌でも一生懸命「アサヒビール」を飲んでいました。
 現在の、東京電力、オリンパス、シャープ等の経営危機におけるメインバンクの対応と比べて、当時のメインバンクの対応の著しい違いは、「メインバンクの公共的使命に徹し、メインバンの責任と犠牲において企業の救済を主導し」全社を挙げて努力をしいていたと言う点だと思います。
 「リスクファイナンス報告書」の『これまで提供されてきたメインバンクによるリスクファイナンス機能は、その提供される度合いや実現性が低下してきている点に留意する必要がある。』と言うことは、場合によっては取引をしている金融機関に取って「貸倒れリスクの増加に繋がっている部分」もあるのではないかと古い銀行員である私は思います。
*2:経済産業省「リスクファイナンス研究会報告書」
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1009715
 世界銀行のレポートは、リスク発生時の資金繰り対策では、「自己資金+保険+災害復旧融資」のベスト・ミックスが大切であると論じています。
 地震の発生により、金融機関本支店の建物・機械等が毀損され、固定資産関連の損失が発生します。従業員に死傷者も生じ、一部の店部では営業の継続が困難となりますが、更に貸出先顧客の被災により貸出金債権が毀損されます。その結果、貸倒引当金が増加します。
 東日本大震災後の金融機関の損益状況を、東北地区の地方銀行の有価証券報告書で見ますと、平成23年3月期連結で、例えば下記のように報告されています。
・A銀行 災害による損失  50,687百万円 当期純損失 30,458百万円。
「災害による損失」には、貸倒引当金繰入額48,847百万円及び固定資産関連損失1,023百万円(うち災害損失引当金繰入額848百万円、固定資産処分損170百万円)を含む。
・B銀行    その他の特別損失 6,919百万円  当期純利益 1,109百万円。
 東日本大震災による与信費用6,075百万円及び震災関連のその他費用807百万円を含む。
 貸倒引当金繰入額5,100百万円及び固定資産関連費用84百万円を含んでおります。 
・C銀行 貸倒引当金繰入額2,898百万円及び減損損失113百万円を含む。
 当期純損失 4,834百万円
・D銀行  災害による損失  15億円  当期純損失 10億円。
 貸倒引当金繰入額1,457百万円及び固定資産関連損失74百万円。
即ち、貸出先顧客の被災により貸出金債権が毀損された結果の貸倒引当金繰入増が民間金融機関の損益悪化の主因となります。
 民間金融機関が融資先に対し「BCP(含むキャッシュフロー対策)」のサポートを行えば、金融機関の資産の太宗をなす貸出金債権が地震等のリスクで毀損することを防止することが出来ると私は思います。
 企業におけるキャッシュフローの悪化と金融機関の役割について、古い銀行員の感想を次回も書きたいと思います。