「リスクとキャッシュフロー」について ㉒

2014年4月1日火曜日 | ラベル: |

 このブログを初めて4年目に入ります。読んで下さり、「いいね」といって下さる方に励まされて、続けることが出来ました。厚くお礼を申し上げます。

11.「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」の「財務診断モデル」 ①
 「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」のキャッシュフロー対策の部分は「財務診断モデル」と言う項目に記述されています。
〇「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」第1版 (平成18年) http://www.chusho.meti.go.jp/bcp/contents/level_a/bcpgl_01.html
「財務診断モデル」基本コース
 http://www.chusho.meti.go.jp/bcp/contents/level_a/bcpgl_05a.html

〇「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」第2版(平成24年)では
http://www.chusho.meti.go.jp/bcp/
【参考】財務診断モデル(基本コース) •••••••••••••••••••••••••••••• 参考- 1
財務診断モデル(中級コース) •••••••••••••••••••••••••••••• 参考-14
財務診断モデル(上級コース) •••••••••••••••••••••••••••••• 参考-46
となりました。
 既に何回か触れていますが、中小企業庁の「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」策定作業が平成17年6月に開始された時、既に内閣府の「事業継続ガイドライン」(平成17年8月1日公表)の作業が進行していました。そこで、中小企業向けに重ねて新しいBCPガイドラインを作る必要があるのかと言う議論が生じました。
 中小企業庁は、『政府の中小企業災害対策は、災害発生後の対策は既に相当充実しているが、災害発生前の対策は未だ手つかずの状態である。中小企業庁としては、現行の中小企業災害対策の空白部部分である事前対策を確立することにより中小企業災害対策を完成させることが「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」を新たに作成する目的である。』従って中小企業のために別途BCPの指針を策定する必要があると明確に考えておられ、「政府の中小企業災害対策」→「災害復旧貸付制度」の有効活用のための事前対策の確立が目的なので、「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」には「財務診断モデル」という災害時のキャッシュフロー対策が詳述されています。これが「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」の一つの大きな特徴になっていました。
 第2版の改定では『我が国企業へのBCPの導入を図るためには、99%を占める中小企業への普及促進が必要不可欠であり、そのためには特に太宗を占める小規模事業者への導入を含めた対応が求められています。このため、平成18年に公表した「中小企業BCP策定運用指針(第1版)」を一部見直し、小規模事業者を含めた初心者を念頭に「入門コース」を新たに加えるとともに、業種別の事例を追加する等、分かり易い内容に改訂しました。』とされています。
 第1版の有識者会議委員として「財務診断モデル」の作成に関与した者としては「財務診断モデル」が第2版では本体から参考資料になったことについて、一抹の寂しさを感じます。これは「財務診断モデル」が中小企業に普及しなかった結果だと私は思います。
 BCPにおけるキャシュフロー対策の重要性は何人も否定できないことだと思いますが「中小企業BCP策定運用指針(第1版)」のキャッシュフロー対策が普及しなかった理由については、中小企業BCPのサポートをするコンサルタントの方々にキャッシュフロー対策に関する知識やサポートの経験を有する人が少ないこと、さらには民間金融機関がお得意様のBCPのキャッシュフロー対策のサポートに熱心ではないことが大きな理由だと思います。
 私は、平成18年度以降3年間「中小企業BCP策定運用指針」普及セミナーの講師として、受託の三菱総合研究所とご一緒に北は札幌から南は高知・福岡まで全国で「財務診断モデル」の話をしました。その際、27行の金融機関を訪問して、お得意様のBCPの作成のサポートをお願いしました。結論は仙台や静岡など地震災害が身近な地区の金融機関以外は、「総論においては賛成ですが、そのために人と費用を掛けても収益には寄与しないので。」と消極的でした。
 東日本大震災後の金融機関の損益状況は、例えば仙台の七十七銀行の有価証券報告書を見ますと、平成23年3月期連結で下記のように報告されています。
〇災害による損失  50,687百万円 当期純損失 30,458百万円。
「災害による損失」には、貸倒引当金繰入額48,847百万円及び固定資産関連損失1,023百万円(うち災害損失引当金繰入額848百万円、固定資産処分損170百万円)を含む。
 七十七銀行には、先の「中小企業BCP策定運用指針」普及セミナーの際、平成19年3月にお伺いしました。宮城県は頻繁に地震が発生する地域なので、七十七銀行はBCPに対しては最も理解が深く、またお得意様に対するサポートに最も熱心な銀行の一つでした。それでも490億円と言う多額の貸倒引当金を積むことになりました。しかし、日頃からのBCPのサポートがあるので、実際に貸倒れになる確率は低くなっている筈だと私は信じています。
 「中小企業BCP策定運用指針」策定に関与していた当時、『金融庁の検査マニュアルに「お得意様に対するBCPサポート」の項目を入れたら立ちどころに「中小企業のBCP」は普及すると思う。』と言う意見を述べたところ、ある方から「そんなことをしたら我が国の金融機関の貸出金債権は自然災害に対しウイークであるといことを国として世界に対して認めることになる。我が国金融機関の対外的信用を害することにもなる。」と窘められました。今回の東日本大震災が金融機関に与えた影響は、既に公表されている訳ですからその意見は最早通用しなくなっていると私は思います。
 地震発生時には、貸出先顧客の被災により貸出金債権が毀損される結果の貸倒引当金繰入増が民間金融機関の損益悪化の主因となります。民間金融機関は事業継続体制の策定・整備を行っていますが、これはあくまで民間金融機関自身のことであって、取引先に対するBCP(事業継続計画)の策定支援は現在でもあまり行われていないと思われます。
 私は民間金融機関が取引先、特に融資先に対し「BCP(含むキャッシュフロー対策)」のサポートを行うことにより、金融機関の資産の太宗をなす貸出金債権が地震等のリスクで毀損することを防止することが出来ますから、恰も製造業において工場の耐震化工事を行うのと同じことになると確信します。
 以前、銀行系のコンサルタント会社で広島の自動車メーカーのリスクマネジメント体制確立の支援を行った際、オーストラリア出身のCFOがリスクマネジメントの責任者になると名乗り出られ、結局損害保険担当の総務部門担当役員が責任者になられました。欧米ではリスクマネジメントやBCPの実践にあたって、キャッシュフロー対策は当然の前提になっていてCFOが中心となっているからだと思いました。
 「中小企業BCP策定運用指針」策定当時、『「アメリカのBCPの指針」には「キャッシュフロー対策」なんか入っていない。そんなものを入れるのは可笑しい。』と言われた方もいました。私はアメリカでは「キャッシュフロー対策」は当然の前提になっていてわざわざ書く事ではないことだと思っているのですが,如何でしょうか。
 『企業のリスクマネジメントと金融機関の役割・キャッシュフローに着目した支援が不可欠に(金融財政事情・平成12年)』、『金融機関は損害の財務的処理の重要性を認識すべし(金融財政事情・平成13年)』と主張してから13年経ちましたが、私の意見はなかなか金融機関に普及しません。
 次回から「財務診断モデル」の中身をご説明致します。