今回から、再び「財務診断モデル」に戻ります。
4月10日のブログで「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」第1版の財務診断モデル(基本コース)のご紹介をしましたが、第2版で改定されている部分がありますので、重ねてご紹介致します。
(◊ ◊ ◊ ◊ ◊)で囲まれている部分は、「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」第2版の【参考】財務診断モデル(基本コース)の記述です。下線は筆者がつけました。
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【参考】財務診断モデル(基本コース)
BCPサイクルの一環として、災害に遭遇した場合の貴方の会社の財務状況(復旧費用総額、キャッシュフローなど)を整理しておきます。
実際の災害時には、被災状況を反映した再検討を行い、復旧資金の調達計画の立案や融資に関する金融機関との相談の際に役立てて下さい。
なお、以降のページでは、財務診断を進めるための手順を示していますが、同様の手順に従った計算作業がエクセルファイル上で行えるようになっています。ダウンロードページから、エクセルファイルの「財務診断モデル基本コース」をダウンロードして、その中の指示に従って作業を行って下さい。計算が自動的に行われて、BCPに綴じるべき帳票が簡単に作成できます。
更に詳しく検討をしたい時は、中級コースを参照して下さい。また、地震以外あるいは、複数工場、複数事業で中核事業を継続する等のケースは、上級コースを参照して下さい。
参考.1 復旧費用の算定
あなたの会社の建物が、例えば震度6強の地震によって全壊するか半壊するかした場合、あなたの事業を再開するために、お金がどのくらい掛かるでしょうか。大体の金額で構いませんので、下の表を埋めて下さい。
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【解説】
災害に遭遇した場合の財務状況(キャッシュフロー、復旧費用額など)を予測・検討する場合、色々なケースが予想されますが、先ず最も重大な結果が生ずる地震のケースについて製造業、卸・小売業、建設業の3業種を検討しています。これ以外の業種についてはこの記述を参考にして検討することになります。
「参考.1 復旧費用の算定」の項の最初の部分に「お金がどのくらい掛かるでしょうか。大体の金額で構いませんので、下の表を埋めて下さい。」と書かれています。4月10日のブログにも書きましたが、キャッシュフローに関する知識のあまり無いコンサルタントの方々などからは、中小企業が「事業を再開するために、お金がどのくらい掛かるか。」を算定定するのは無理だと言う声が聞かれます。しかし中小企業の経営者で、地震等の大災害発生後、自社の事業を再開するのにどのくらいのお金が必要だろうかと考えない人はいないと私は思います。「見当もつかない」「ヤマカンで50百万円くらいかな」などです。それが「大体の金額で構いませんので、下の表を埋めて下さい。」と言う意味なのです。
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復旧費用とは、災害時にあなたの会社の資産(建物や機械)が損壊し「資産の損害」が生じたとき、立て直す費用と、災害の結果あなたの会社の事業がストップし、その間「事業中断による損害」により発生する費用の二つを言います。
「事業中断による損害」に備えて、経験上月商の1ヶ月分くらいの現金・預金を持っていることをお薦めします。
緊急時に備え、平時から「月商の1ヶ月分くらいの資金」を用意しておくのは、流動性リスクに対する経験則です。緊急事態発生直後は、工場や事務所の整備、事業再開への対策等で資金の手当てを考える暇はありません。また当面事業がストップすることを覚悟しなければなりません。そのために最低1ヶ月くらいの出費を賄えるだけの資金を持っていることが必要となります。厳密には月商の1ヶ月分とは言えませんが、不測の出費なども考えて月商の1ヶ月分としました。
例えば、ソニーの2004年3月期ア二ュアルレポートでは、「ソニーは流動性確保のために、グループ全体で、年度における平均月次売上高および予想される最大月次借入債務返済額の合計の100%以上に相当する流動性を維持することを基本方針としています。」と書かれています。
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【解説】
私は中小企業BCP普及セミナーで「地震等の大災害発生後自社の事業を再開するのにどのくらいのお金が掛かるか。」を考えて、どうしてもお金の面で事業の再開が無理だと思われる場合は、「地震等の大災害発生後自社の事業を整理するにはどうしたら良いか」例えば取引金融機関からの借入金に対する保証債務の履行・従業員を解雇する費用などを検討しておくのもBCPだと申し上げていました。事業を継続出来るかの最後のキーポイントはお金ですから、ヤマカンででも考えておくべきです。
「事業中断による損害」に備えて、経験上月商の1ヶ月分くらいの現金・預金を持っていることをお薦めします。と言う記述の意味は、お金を借りてでも事業を継続したいと思う経営者は、事前には自分で考えつく対策は成るべく請じておく。そして、地震発生後、とりあえず1ヶ月くらいは過ごせる資金を経営者の個人資産などででも用意しておいて、地震発生後1ヶ月くらいの間に再建計画を考え、資金は政府の「災害復旧融資制度」に頼るというのが、現実的な中企業のBCPではないかと私は考えています。
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表 参考.1-1 復旧費用の算定(製造業) (単位:千円)
損害の程度 | 復旧期間 | 復旧費用 | 備 考 | |
建 物 | 全 壊 |
日
|
||
半 壊 |
日
|
|||
機 械 | 建物全壊 |
日
|
||
建物半壊 |
日
|
|||
棚卸 資産 |
全 損 |
日
|
||
半 損 |
日
|
|||
器具・工具 等 | ||||
資産関係計 | ( A ) | |||
事業中断損失 | ( B ) | |||
復旧費用計 | ( A )+( B )=( C ) |
表 参考.1-2 復旧費用の算定(卸・小売業) (単位:千円)
損害の程度 | 復旧期間 | 復旧費用 | 備 考 | |
建 物 | 全 壊 |
日
|
||
半 壊 |
日
|
|||
商 品 | 建物全壊 |
日
|
||
建物半壊 |
日
|
|||
器具・備品 | ||||
資産関係計 | ( A ) | |||
事業中断損失 | ( B ) | |||
復旧費用計 | ( A )+( B )=( C ) |
表 参考.1-3 復旧費用の算定(建設業) (単位:千円)
損害の程度 | 復旧期間 | 復旧費用 | 備 考 | |
会社建物 | 全 壊 |
日
|
||
半 壊 |
日
|
|||
建設機械 運搬具 |
全 壊 1 |
日
|
||
半 壊 2 |
日
|
|||
建設現場 |
全 壊 1 |
日
|
||
半 壊 2 |
日
|
|||
器具・工具 等 | ||||
資産関係計 | ( A ) | |||
事業中断損失 | ( B ) | |||
復旧費用計 | ( A )+( B )=( C ) |
建設業の場合の復旧費用の算定は事業の規模・形態によって異なり、一律に計算することは難しいと考えますが、標準的なパターンを示します。
注1) 建設機械・運搬具についてはリースのケースが多く、その場合の損害はリース
会社に転嫁されます。
注2) 建設現場については「民間連合協定」約款に基づき工事請負契約を締結してい
れば、「不可抗力による損害」については善良な管理者としての注意をしていたと認められれば、損害は施主の負担になります。
貴方の会社が持ち込んでいる諸機材などは貴方の会社の損失になりますから、注意して算定しましょう。
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表の解説は、次回以降に致します。