「リスクとキャッシュフロー」について ㉚

2014年6月20日金曜日 | ラベル: |

 11.「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」の「財務診断モデル」 ⑧
 繰り返しになりますが、中小企業の場合、地震によって自社の建物や機械、棚卸資産がどうなるか、さらにはキャッシュフローがどうなるかを正確に予測することは非常に難しいことです。
 例えば、「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」第2版の「BCP取組状況チェックリスト」には「あなたの会社のビルや工場では地震や風水害に耐えることができますか。そして、ビル内や工場内にある設備は地震や風水害から保護されていますか?」
と記述されています。
 地震については、1996年以降、気象庁の震度は、震度0(無感)から、震度1(微震)、震度2(経震)、震度3(弱震)、震度4(中震)、震度5弱・震度5強(強震)、震度6弱・震度6強(烈震)、震度7(激震)の10段階になっています。( )内は1996年以前の呼称)
 平成26年4月1日に公表された国土交通省の「首都直下地震対策計画[第1版]」
では首都直下地震で想定されている揺れは、「震源の直上で震度6強、その周辺のやや広域の範囲で震度6弱、地盤の悪いところで一部震度7が発生する。」とされています。
 更に、東京都の企業の場合は、平成25年に公表された「東京都 あなたのまちの地域危険度 地震に関する地域危険度測定調査(第7回)」に建物倒壊危険度・火災危険度・総合危険度が、町・丁目ごとに5段階のランクで示されていますから、これを参考に出来ます。
 それでも、下記の表を埋めるについて、ご自分の会社の建物や機械などがどの程度の地震によって全壊するのか、或いは半壊するのかは専門家の診断が無ければ正確には把握出来ません。ですからもし全壊したら、半壊したらという前提で考えてみるしかありません。
 復旧期間についても、地震の規模によっては、地震の直後には中小企業が復旧工事や、機械の発注をすることが殆ど不可能な状態が暫く続くかも知れません。またインフラについては、「首都直下地震対策計画[第1版]」では発災1週間後でも、1都3県で停電率は約5割、断水率は最大約3割で継続する、首都圏の交通・物流システムは発災後長期間に渡り機能不全に陥るとも予測されています。
 どの位の期間事業が出来ないかは、例えば製造業の場合、ご自分の工場の復旧期間と、インフラ(電気・ガス・水道など)の復旧期間の長い方になります。この期間も地震の規模により変動します。卸小売業、建設業の場合も同様の事情になります。
 また、企業の事業活動が中断して売上がなくても、人件費とか家賃とかは(これを固定費と言います。後で詳しくご説明致します。)支出されますので、企業の事業活動が中断している期間にどのくらいの支出が生ずるか、どのくらいの損失になるかも予想しておく必要があります。「復旧費用の算定」の表はそうした考えで作られています。
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表 参考.1-1 復旧費用の算定(製造業)          (単位:千円)
  損害の程度 復旧期間 復旧費用  備 考 
建  物 全 壊      日    
半 壊      日    
機  械 建物全壊      日    
建物半壊      日    
 棚卸 資産
 
全 損      日    
 半 損      日    
器具・工具 等        
資産関係計       ( A )
事業中断損失     ( B )
復旧費用計       ( A )+( B )=( C )

表 参考.1-2 復旧費用の算定(卸・小売業)        (単位:千円)
  損害の程度 復旧期間 復旧費用  備 考 
建  物 全 壊      日    
半 壊      日    
商  品 建物全壊      日    
建物半壊      日    
器具・備品        
資産関係計       ( A )
事業中断損失     ( B )
復旧費用計       ( A )+( B )=( C )

表 参考.1-3 復旧費用の算定(建設業)         (単位:千円)
  損害の程度 復旧期間 復旧費用  備 考 
会社建物 全 壊      日    
半 壊      日    
建設機械
運搬具
全 壊 1      日    
半 壊 2      日    
 建設現場
 
全 壊 1      日    
 半 壊 2      日    
器具・工具 等        
資産関係計       ( A )
事業中断損失     ( B )
復旧費用計       ( A )+( B )=( C )

建設業の場合の復旧費用の算定は事業の規模・形態によって異なり、一律に計算することは難しいと考えますが、標準的なパターンを示します。
注1) 建設機械・運搬具についてはリースのケースが多く、その場合の損害はリース会社に転嫁されます。
注2) 建設現場については「民間連合協定」約款に基づき工事請負契約を締結していれば、「不可抗力による損害」については善良な管理者としての注意をしていたと認められれば、損害は施主の負担になります。
貴方の会社が持ち込んでいる諸機材などは貴方の会社の損失になりますから、注意して算定しましょう。

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【解説】
 「上記の表を埋めるのは難しい。」とばかり言っていては、中小企業のBCPは無理ではないかということに成りかねませんが、度々申し上げていますように、あくまで「お金がどのくらい掛かるでしょうか。大体の金額で構いませんので、表を埋めて下さい。」と言うことなのです。
 また、逆に「ご自分の会社では、地震発生時に用意出来るお金の額は〇千万円くらいだから、事業中断が〇ヶ月以上になるようだったら、資金繰りが破綻する。」と言った判断も出てきます。これに対しては、政府の災害復旧融資制度を勉強しておくべきです。
 とても無理だからと言って、何も対策を講じないよりも、ご自分で考えられることは対策を講じておく、そして、最低1ヶ月くらいの出費を賄えるだけの資金を持っていて、災害発生後1ヶ月くらいの間に事業の継続やその後のキャッシュフロー対策を講ずることが現実的な中小企業のBCPではないかと私は思います。