「リスクとキャッシュフロー」について ㉖

2014年9月10日水曜日 | ラベル: |

  11.「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」の「財務診断モデル」 ⑫

引き続き「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」の「財務診断モデル」「参考.4 直接原価方式による損益計算書の作成・計算手順」をご説明致します。

 下記は、「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」の「財務診断モデル」「参考.4 直接原価方式による損益計算書の作成・計算手順」 「参考.3 緊急事態発生後のキャッシュフローの算定」の記述の続きです。

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表 参考.3-1 災害発生直後1ヶ月目のキャッシュフロー検討表(例)
  上旬
(緊急事態発生)
中旬  下旬  
 計
  稼働率    0% N 1% N2%
営業
 
収入
前月分の影響      〇〇〇
今月分        0    0   0     0
営業収入計      〇〇〇
 
営業
 
支出
変動費 前月分の影響        △ 1 △ 1
 今月分        △ 2 △ 2
固定費 前月分の影響       ✫ 1 ✫ 1
今月分     ✫ 2 ✫ 2
  営業支出計       ▲▲▲
   復旧 費用       0    0   0    0
   資金 収支       ✳✳✳


表 参考.3-2 キャッシュフロー対策
                              (単位:千円)
 科  目   上旬 中旬 下旬   計
現金・預金取り崩し        
新規借入 1        
 損害保険金 2        
 会社資産売却 3        
 経営者から支援         
 総合資金収支        


 緊急事態発生直後1ヶ月目は、前月の影響がありますから、細かく予想することが必要です。緊急事態発生が、上旬か、中旬か、下旬かによってもキャッシュフローは大きく変ります。
注1)新規借入、注2)損害保険金の支払い、注3)会社の資産売却の3項目については、
資金になるまでには時間がかかりますから、緊急事態発生直後の時期は手元に現・預金がないと大変です。
 段階的に稼動率がアップすると予想される場合は、手作業で稼働率を補正して下さい。
さらに、災害発生後1年間あるいは2年間のキャッシュフローを考えておく必要があります。災害復旧資金を借入れた場合、2年据置き後3年目から返済が始まりますから、復旧にあたり貴方の会社の収益体質の改善(返済原資の増加)を図ることが大事になります。
 災害後あなたの会社の、稼働率をどう推移させるのかも考えて下さい。また、何ヶ月目にどのくらい資金がピークで不足するのかを予想しましょう。
資金不足の対策(新規借入・資産売却・経営者から支援)を何時、どうするかも、考えておいて下さい。 

〇災害発生後1年間のキャッシュフロー検討表
                                      (単位:千円)
   科  目
(稼働率)
1ケ月目
(0%)
2ケ月目
(3 0%)
3ケ月目
(60%)
4ケ月目
( 100% )
5ケ月目
( 100% )
6ケ月目
( 100% )
資金
 
収支
営業収入            
営業
 
支出
固定費            
変動費            
小 計            
事業資金収支            
  復旧費用            
月次 資金収支 ( B 0 ) ( B 30 ) ( B 60 ) ( B 100 ) ( B 100 ) ( B 100 )
累計 資金収支            


〇キャッシュフロー対策
  1ケ月目 2 ケ月目 3 ケ月目 4 ケ月目 5 ケ月目 6 ケ月目
現金・預金取崩し            
 新規借入            
 損害保険金            
 会社資産売却            
経営者から支援            
 総合資金収支            




                                            (単位:千円)
 科  目
稼働率 100% 以上
7 ケ月目
(  %)
8 ケ月目
(   %)
9 ケ月目
(  %)
10 ケ月目
(   % )
11 ケ月目
(   % )
12 ケ月目
(   % )
資金
 
収支
営業収入            
営業
 
支出
固定費            
変動費            
小 計            
事業資金収支            
  復旧費用            
月次 資金収支            
累計 資金収支            



〇キャッシュフロー対策
  7 ケ月目 8 ケ月目 9 ケ月目 10 ケ月目 11 ケ月目 12 ケ月目
現金・預金取崩し            
 新規借入            
 損害保険金            
 会社資産売却            
経営者から支援            
 総合資金収支            



各月ごとの稼働率(0%、30%、60%、N%)に基づき、キャッシュフローを予測する場合は、下記の表で数字を記入して下さい。


〇稼働率0%の場合のキャッシュフロー
  科     目   稼働率  100%  稼働率0%の場合
  営 業 収 入  
営 業
 
支 出
 変動費    変動費 × 0    
 固定費    
 小 計    
 月次資金収支額    ( B )    ( B 0 )



〇稼働率30%の場合のキャッシュフロー
  科     目   稼働率  100%  稼働率30%の場合
  営 業 収 入    
営 業
 
支 出
 変動費     変動費 × 0.3
 固定費    
 小 計    
 月次資金収支額    ( B )    ( B 30 )




〇稼働率60%の場合のキャッシュフロー
  科     目   稼働率  100%  稼働率 60 %の場合
  営 業 収 入    
営 業
 
支 出
 変動費     変動費 × 0. 6
 固定費    
 小 計    
 月次資金収支額    ( B )    ( B 60 )



〇稼働率N%の場合のキャッシュフロー
  科     目   稼働率  100%  稼働率 N %の場合
  営 業 収 入    
営 業
 
支 出
 変動費     変動費 × 0. N
 固定費    
 小 計    
 月次資金収支額    ( B )    ( B N )



復旧後の稼働については、復旧後の条件で改めて、損計算の内訳(変動費・固定費)を計算し直す必要があります。


〇復旧後のキャッシュフロー                  (単位 千円)
     直接原價計算 月簡キャッシュフロー
  営業  収入    
営業
 
支出
変動費    
固定費
(内減価償却費)
   
  小 計    
  営業 利益       ―
 キャッシュフロー     ―  



○災害復旧後の損益計算予想または実績で直接原価計算をやり直しましょう。
災害復旧資金を借入れた場合には、2年据置き後3年目から返済が始まりますから、復旧にあたり貴方の会社の収益体質の改善(返済原資の増加)を図ることが大事になります。


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 「財務診断モデル」「参考.4 直接原価方式による損益計算書の作成・計算手順」 「参考.3 緊急事態発生後のキャッシュフローの算定」の記述を読んで下さってい
る方は殆どいないのではないかと私は思います。
 前回、「緊急事態の発生時のキャッシュフローの変動を精密に行う意味はあまりないと私は思います。」と書きました。然しキャッシュフローがどうなるかはおおまかにでも事前に検討しておくべきです。
7月1日にご紹介した『国土交通省首都直下地震対策計画 [第1版](中央防災会議首都直下地震対策検討ワーキンググループ)』によれば、例えば、「首都圏の交通・物流システムが発災直後から長期間に渡り機能不全に陥る」「輸送ルートの被災等によりサプライチェーンが寸断され、企業の生産活動が低下。その影響が長期化した場合には、生産機能の国外移転等が進み、我が国の国際競争力が低下。」と記述されています。「首都圏の交通・物流システムが発災直後から長期間に渡り機能不全に陥る」のは一体何ヶ月になりそうかなど事前に想定出来るわけがありません。さすれば、地震発生後に状況を見て判断し、自社の工場は大丈夫だったとしても、サプライチェーンが寸断され、原材料の供給がストップする、あるいは製品が出来てもお得意先へ送ることが出来ない等々、自社での対応を超える部分について十分考慮して、操業出来ない、売上が立たない期間はどのくらいになりそうか。その結果のキャッシュフローはおおまかにどうなるのかの検討が出来るように是非事前に考えておく必要があります。
 お金が全てではありませんが、首都直下地震発生後1ケ月くいの間にかねてから検討していたデータと現実の状態を勘案して、キャッシュフーの見通しをたて、中小企業庁の「災害復旧貸付」制度を利用してキャッシュフロー対策を講じ、生き延びることが必要です。BCPの色々な準備や対策が外的要因で有効に機能しない「首都直下地震」のようなケースでは、キャッシュフロー対策が当面の最重要課題になると私は考えます。