引き続き「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」の「財務診断モデル」「参考.4 直接原価方式による損益計算書の作成・計算手順」をご説明いたします。
前回は、8月10日の記述の下記の表に至る過程を詳しくご説明致しました。
○ 直接原価計算方式による損益計算書
(単位百万円)
科 目 | 1 年 間 | 1 ヶ 月 |
売上高 | 5、923 | 494 |
変動費 | 4,421 | 368 |
固定費 | 1,233 | 103 |
内減価償却費・諸引当 ( 現金ベース固定費 ) |
108 (1,128) |
9 (94) |
営業利益 | 269 | 23 |
この企業では、事故や災害により売上がゼロになっても出ていく費用が、年間1,233百万円、減価償却費を除く現金ベースでは1、128百万円と計算されます。つまり売上がゼロになっても毎月平均94百万円のお金が出ていくことになるわけです。
なお、損益計算書上の営業外損益・特別損益は考慮外となっている点ご留意下さい。
下記は、「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」の「財務診断モデル」「参考.4 直接原価方式による損益計算書の作成・計算手順」 「参考.3 緊急事態発生後のキャッシュフローの算定」の記述です。
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表 参考.3-1 災害発生直後1ヶ月目のキャッシュフロー検討表(例)
(単位:千円)
上旬 (緊急事態発生) |
中旬 | 下旬 | 計 |
||||
稼働率 | 0% | N 1% | N2% | ||||
営業 収入 |
前月分の影響 | 〇〇〇 | |||||
今月分 | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
営業収入計 | 〇〇〇 | ||||||
営業 支出 |
変動費 | 前月分の影響 | △ 1 △ 1 | ||||
今月分 | △ 2 △ 2 | ||||||
固定費 | 前月分の影響 | ✫ 1 ✫ 1 | |||||
今月分 | ✫ 2 ✫ 2 | ||||||
営業支出計 | ▲▲▲ | ||||||
復旧 費用 | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
資金 収支 | ✳✳✳ |
表 参考.3-2 キャッシュフロー対策
(単位:千円)
科 目 | 上旬 | 中旬 | 下旬 | 計 |
現金・預金取り崩し | ||||
新規借入 1 | ||||
損害保険金 2 | ||||
会社資産売却 3 | ||||
経営者から支援 | ||||
総合資金収支 |
緊急事態発生直後1ヶ月目は、前月の影響がありますから、細かく予想することが必要です。緊急事態発生が、上旬か、中旬か、下旬かによってもキャッシュフローは大きく変ります。
注1)新規借入、注2)損害保険金の支払い、注3)会社の資産売却の3項目については、資金になるまでには時間がかかりますから、緊急事態発生直後の時期は手元に現・預金がないと大変です。
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企業は通常、経費の支払いを下旬に行います。給料は10日とか25日に支払い、原材料費の決済は翌月が多いと思います。売上は通常、翌月くらいに入金になります。従って緊急事態の発生が上旬か中旬か下旬かによって、緊急事態発生月のキャッシュフローは大きく異って来ます。またこのことは緊急事態発生の翌月のキャッシュフローにも影響を与えます。
従って企業は可能ならば自社の営業収入の状況、諸経費支払いの状況を前提に、緊急事態の発生が上旬か中旬か下旬かによって、自社のキャッシュフローがどう変動するかを試算出来ていれば有益だとは思います。後記の表で試算出来ます。
然し、緊急事態の発生時のキャッシュフローの変動を精密に行う意味はあまりないと私は思います。緊急事態が発生した場合、先ず1ヶ月を耐え抜くにはキャッシュがいくらぐらい必要か。500万円くらいか、あるいは1000万円、5000万円、1億円要るかくらいのレベルの目安が必要だと思うからです。
従って、キャッシュフローへの影響が最も大きくなる上旬に緊急事態が発生した場合に備えておけば、それよりも影響が少ない中旬・下旬の場合も十分対応出来るという考えで、「財務診断モデル」「参考.4 直接原価方式による損益計算書の作成・計算手順」では上旬に緊急事態が発生した場合だけを例示しています。
○災害発生直後1ヶ月目のキャッシュフロー検討表(例2)
(単位:千円)
上旬 | 中旬 (緊急事態発生) |
下旬 | 計 | ||||
稼働率 | 100% | 0% | N2 % | ||||
営業 収入 |
前月分の影響 | 〇〇〇 | |||||
今月分 | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
営業収入計 | 〇〇〇 | ||||||
営業 支出 |
変動費 | 前月分の影響 | △ 1 △ 1 | ||||
今月分 | △ 2 △ 2 | ||||||
固定費 | 前月分の影響 | ✫ 1 ✫ 1 | |||||
今月分 | ✫ 2 ✫ 2 | ||||||
営業支出計 | ▲▲▲ | ||||||
復旧 費用 | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
資金 収支 | ✳✳✳ |
○ 災害発生直後1ヶ月目のキャッシュフロー検討表(例3)
(単位:千円)
上旬 | 中旬 | 下旬 (緊急事態発生) |
計 | ||||
稼働率 | 100% | 100 % | 0% | ||||
営業 収入 |
前月分の影響 | 〇〇〇 | |||||
今月分 | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
営業収入計 | 〇〇〇 | ||||||
営業 支出 |
変動費 | 前月分の影響 | △ 1 △ 1 | ||||
今月分 | △ 2 △ 2 | ||||||
固定費 | 前月分の影響 | ✫ 1 ✫ 1 | |||||
今月分 | ✫ 2 ✫ 2 | ||||||
営業支出計 | ▲▲▲ | ||||||
復旧 費用 | 0 | 0 | 0 | 0 | |||
資金 収支 | ✳✳✳ |
中小企業庁の「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」の「財務診断モデル(キャッシュフロー対策)」参考.3 緊急事態発生後のキャッシュフローの算定」では、
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先に緊急時の復旧資金の調達について検討を行いましたが、緊急事態発生後のキャッシュフローについては、更に細かく検討をしておくべきです。再度、キャッシュフロー対策の考え方を以下に示します。
○災害発生後1ヶ月分の支出を賄える現金・預金を保有していることが望ましいと考えます。不測の出費に備え月商の1ヶ月分くらいの現金・預金を保有していることをお薦めします。現金・預金が不足の場合は、小企業は小規模企業共済制度の災害時貸付制度・日本政策金融公庫の利用をお薦めします。
○ 借入をしてでも事業継続を図る意欲がある場合は財務面の検討結果に多少の問題があっても、検討結果を持って「特別相談窓口」に相談に行くことをお薦めします。日本政策金融公庫・商工組合中央金庫・保証協会(含むセーフティネット保証)が弾力的にご相談に応じるものと思われます。
○災害復旧貸付制度の概要は別記しています。(後略)
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と記述されています。
企業の収益が赤字でなければ、前月の営業業活動の結果の収支は本来償っている筈です。従って、理論的には稼働率が0になった期間は「現金ベースの固定費分」のキャッシュが不足する筈です。さらには、損益計算書上の営業外損益・特別損益は考慮外となっている点や、緊急事態が発生時には思わぬ急な出費が生ずる恐れもあり、月商の1ケ月分くらいのキャッシュを保有していることが望ましいとされているわけです。
「不測の出費に備え月商の1ヶ月分くらいの現金・預金を保有していることをお薦めします。」というのは経験則で理論的根拠はありません。
私が知る限りでは、ソニーの2004年3月期ア二ュアルレポートに,「ソニーは流動性確保のために,グループ全体で年度における平均月次売上高および予想される最大月次借入債務返済額の合計の100%以上に相当する流動性を維持することを基本方針としています.」と書かれていました。残念なことにソニーの業績悪化に伴い、現在の
ア二ュアルレポートにはこの記述はありません。
中小企業がどこまでBCPにおけるキャッシュフロー対策を立てるかについて、私は必ずしも完全な対策が出来なくても、可能な限りの検討で十分意味があると考えます。
中小企業の場合は、コンサルタントや金融機関などに相談する機会はあまり無いと思いますので、ご自分で考えて実行出来ることは事前にやっておく、そして「緊急事態発生直後事業がストップした場合、最低1ヶ月くらいの出費を賄えるだけの資金を持っていて、緊急事態発生後1ヶ月くらいの間に現実を踏まえて事業の継続やその後のキャッシュフロー対策を講ずる。」と言うのが現実的な策だと思います。そのためには月商の1ケ月分くらいの手元資金が無いと対策を講じる暇もありません。
次回も続きを書きます。