災害時の金融支援 ① 経済産業省のリスクファイナンス研究会報告書について

2011年6月14日火曜日 | ラベル: |

 私は、リスクマネジメントやBCP(事業継続計画)におけるキャッシュフロー対策の重要性について、ずっと主張を続けておりますがまだ十分に企業の理解を得られていません。
 平成18年3月に経済産業省から公表された「リスクファイナンス研究会報告書*1には、私の言いたいことが総て書いてあります。
先ず、リスクファイナンスの意義について、下記のように記述されています。
「企業においてリスクメネジメントと言った場合、〈如何にしてリスクの顕在化を未然に防ぐか〉をテーマとした事前防止策に重点が置かれており、事故や災害等が発生した後への備えは必ずしも十分に手当てされていないのが実情である。企業の事業継続計画(BCP)については、漸くその重要性が認識されつつあるものの、リスクが発生し顕在化し経済的損失が発生した場合に備えて、企業が運転資金、事故対策資金、復旧資金等を事前に手当てしておくこと、すなわちリスクファイナンスの重要性については未だ十分に認識されていない。*2」 
 このことは、現在進行しつつある、東京電力の状態を見れば良く々々お判り頂けると思います。そして、企業経営とリスクファィナンスの関係については、
「リスクファイナンスとは、〈企業が行う事業活動に必然的に付随するリスクについて、これらが顕在化した際の企業経営へのネガティブインパクトを緩和・抑止する財務的手法〉である。すなわち、事業活動に対して適切な財務手当てが出来ていない場合には、当該事業活動に係るリスクの顕在化により、財基盤が毀損し、企業にとって収益性が高く望ましい投資が阻害される可能性がある。したがって、企業の持続性や競争力を高める上で、リスクファイナンスを含めた戦略的な企業財務が果たす役割は非常に重要である。(後略)
 企業価値の最大化(持続的かつ安定的な価値創造の実現)には、適切なリスクファイナンスの取り組みが必要不可欠である*3
  次に財務データの定量化を求めています。
「リスクファイナンスの検討にあたっては、自社の財務的な耐力や状況を適切に把握することが必要である。この際手元資金の把握や負債、資金繰り(キャッシュフロー)の状況はもちろん、リスク顕在時の復旧に要する資金量や事業活動が停止する期間とキャッシュフローへの影響や、その際の財務的な耐性等を可能な限り数値化しておくことが望まれる。こうした結果をもとに、リスクに備えるための必要資金量や必要となるタイミング等を勘案しつつリスクファイナンス手法を検討するとが望ましい。
 なお、いざという時に備えて、手元資金の積増しにより対応することも有効なリスクファイナンスではあるが、この場合、資本効率の低下につながる点には留意が必要である。*4
 更に、リスクマネジメント、BCP担当部門と財務部門との結びつきが重要だと言っています。
「多くの企業は、総務部門や管財部門をリスクファイナンス担当部門として位置づけ、保険手当て部分のみを取り出して処理していることが一 般的である。しかしながら、全社的な財務戦略の中で自社のリスクファイナンス」の最適化を検討するためには、こうした部門の知見と企業財務の観点を融合させることが重要である。実際、一部先進企業においては、従来の保険担当部門と財務部門等が連携あるいは一体となって、リスクファイナンスの最適化を図っているケースが見られる。  
#.例えば、火災保険による事故発生時の物損填補や予想外のキャッシュ不足へ対応するためのコミットメントライン、当座貸越契約の締結等、断片的な手当ては行われてきた。しかしながら、本来リスクファイナンスは、自社の財務状況やステークホルダーからの要請、リスクの状況を勘案しつつ、財務戦略の中で効率的効果的な金融・財務手当ての最適化を図ることであり、断片的な手当てのみでは最適化が達成されているとはいえない。*5
 最後に、メインバンク制度が無くなっている現在の企業財務の在り方にも言及しています。
「わが国では、メインバンクは、最大の貸し出しシェアを占める債権者として、また長期安定的な株主として、企業が災害や事故等により一時的に業績が悪化しても、長期的視野に立ち、事業活動の継続や相応の収益性が見込まれる場合には、(中略)メインバンクは融資先企業のリスクファイナンスをサポートする機能を提供してきたといえる。
 しかし、企業の財務状況、金融環境の変化により、メインバンク制は次第に弱まってきており、企業がデフォルト(倒産)した際にメインバンクが被る損失も相対的に小さくなってきている。このためメインバンクによる企業救済のインセンティブは低下している可能性がある。「いざという時は、メインバンクに資金を手当てしてもらえる」と考えている企業も数多く見られるが、これまで提供されてきたメインバンクによるリスクファイナンス機能は、その提供される度合いや実現性が低下してきている点に留意する必要がある。*6
 企業は、リスクマネジメント・BCP(事業継続計画)を策定・運用するに当たって、こうしたリスクファイナンスに関する基本的な問題を意識することが重要です。お時間があったら是非経済産業省のリスクファイナンス研究会報告書をご覧下さい。

 
*1 経済産業省 リスクファイナンス研究会報告書
*2 第1部リスクファイナンスの発展に向けて はじめに P.3
*3 第1部リスクファイナンスの発展に向けて 1.リスクファイナンスの経営・財務上の意義 P.6
*4 同上 P.8
*5 第1部リスクファイナンスの発展に向けて Ⅱ.日本におけるリスクファイナンスの現状と課題 P.15
*6 同上 P.17

 
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