今回の東日本大震災による、企業の損害についても同様で、金融支援が限度だと思います。これについては、3月13日の中小企業庁「2011年東北地方太平洋沖地震等による災害の激甚災害の指定及び被災中小企業者対策について」で詳細に述べられています。
一方、福島第一原子力発電所の事故による損害については、個人への仮払金支払いや、農業・漁業の損害補償は当然のことと議論されていますが、企業への損害賠償についての議論はまだあまり進んでいません。*1このためと思いますが、5月23日に福島県と経済産業省は6月1日より、移転を余儀なくされる中小企業等向けに原子力災害に伴う「特定地域中小企業特別資金」の特別貸付を始めます。これは無担保・無利子で最高3000万円を期間20年以内で融資する前例のない救済融資制度です。
*1 5月28日(土)の日本経済新聞に漸く中小企業向け損害賠償の仮払いの枠組みの政府方針(1社250万円上限)が報道されました。
他方、計画停電によって蒙った企業の損害をどうするのかと言う議論は全くありません。自発的に停電に協力したわけでは無く、計画停電のために事業が出来なくなった損害を補償して呉れと言う声はあまり聞こえて来ません。
計画停電による損害の責任を東京電電力が負わないのは、「電力供給約款」の下記の条項が根拠だと思われます。
40 供給の中止または使用の制限もしくは中止
(1)当社は,次の場合には,供給時間中に電気の供給を中止し,またはお客さまに電気の使用を制限し,もしくは中止していただくことがあります。イ、ロ、ハ(略)
ニ、非常変災の場合
42 損害賠償の免責
(1)40(供給の中止または使用の制限もしくは中止)(1)によって電気の供給を中止し,または電気の使用を制限し,もしくは中止した場合で,それが当社の責めとならない理由によるものであるときには,当社は,お客さまの受けた損害について賠償の責めを負いません。
福島第一原子力発電所の事故による損害については、政府は明言していませんが「今回の地震・津波は原子力損害の賠償に関する法律第3条但し書きに言う〈異常に巨大な天災地変〉では無い」として東京電力に損害賠償責任があるようです。
一方、計画停電についは今回の地震・津波は「電力供給約款」42 損害賠償の免責の根拠である東京電力の責めとならない場合、「非常変災」になるのでしょうか。「電力供給約款」は民間同士の契約ですから、政府の見解は関係なく、司法の場で争われ結論が出ることになります。日本人は訴訟を好みませんから大事には至らないかも知れませんが、もし損害賠償訴訟が頻発し、原子力発電所の事故の損害は東京電力に責任があり、計画停電による損害については東京電力に責任が無いのはおかしいとの主張が司法の場で容れられたら、政府の東京電力救済のスキームに影響するかも知れません。
私は法律の専門家ではありませんので個人的な意見ですが、今回の地震・津波は「原子力損害の賠償に関する法律第3条但し書きに言う異常に巨大な天災地変である。しかし東京電力の対応が事前・事後とも問題があったため、全面的な免責にはならない」・「計画停電に関しては、東京電電力に責任を負わせるような特段の事情はなかった。」ということが穏当な解釈になるのではないかと思うのですが。
まして、中部電力が計画停電を実施したら、その根拠は菅首相の要請であり、「非常変災」ではありませんから要請は免責の根拠にはならないと思います。東北電力以外の電力会社が計画停電をしたらもっと根拠がありません。合意の上節電して貰うべきかと思います。
日本人・日本の企業の人の良さに頼っていて良いのでしょうか。日本には外国の会社もあります。
■ 5月25日の原稿の最後に「リスク対策Comと言う雑誌5月25日号の私の寄稿をご参照下さい。」と書きました。一般の書店には置いてありませんが、東京では、三省堂書店神保町本店5Fレジの前「東日本大震災関係書籍」」売り場でバックナンバーを含め入手出来ます。