6月30日の「大賀典雄様を悼む」の記事で、「私はオペラの団体『東京二期会』の監事をしています」と書きました。
オペラとリスクマネジメントですが、上演中のリスクは避けられません。例えば、上野の東京文化会館はお客様が2,500人入ります。二期会が1演目4回公演を行うと10,000人のお客様が来場されます。事務局に聞くと、公演ごとにかなりの確率で急病人が発生するそうです。上演中に如何にスムーズに急病人を座席から救急車に運ぶか。
爆破予告があったらどう対処するか(幸い二期会ではありませんが、他の都市の施設では例があります)。地震が発生したらどうするか。等々です。
上記の標識は誘導灯といいますが、ご存知だと思います。オペラ上演中(映画上映中、演劇上演中も同じですが)場内の誘導灯が消えることにお気づきでしょうか。
誘導灯は消防法施行令第26条で「誘導灯及び誘導標識の基準」に適合する誘導灯を常時規定の明るさで点灯していなければならないのに、何故上演中に誘導灯を消せるのか。
劇場、映画館等の防火対象物で、通常の使用形態で暗さが要求される部分の誘導灯は、消防庁の通知により、一定の場合に誘導灯を消灯することが出来ます。
○誘導灯を消灯することができる場所
防火対象物又はその部分のうち、次の1 又は2 に該当する場所(以下「対象場所」という。)であること。
1. 特に暗さが必要とされる場所通常予想される使用状態において、映像等による視覚効果、演出効果上、特に暗さが必要とされる次に掲げる場所であって、各々の場所に応じ、特に暗さが必要とされる使用状態にあるものであること。
(1) 略
(2) 劇場、映画館、プラネタリウム等の用に供される部分など一定時間継続して暗さが必要とされる場所
当該部分における消灯は、映画館における上映時間中、劇場における上演中など当該部分が特に暗さが必要とされる状態で使用されている時間内に限り行うことができる。
法律上は、演出効果上特に暗さが必要とされると表現されていますが、オペラを上演する側としては、「舞台は時間・空間が異なった世界なので、上演中に誘導灯が点灯していると、現実の空間が場内に残ってしまうので消す必要がある。」と言う理屈になります。
上野の東京文化会館などは、「公立文化施設」と総称されます。社団法人全国公立文化施設協会から「公立文化施設の危機管理╱リスクマネジメントガイドブック」が公表されています。
http://www.zenkoubun.jp/riskmanagement/index.html
私は二期会の監事になった後に、ご縁があって第1次の「公立文化施設の危機管理ガイドブック」の策定に関与しました。策定の過程で痛感したことは、わが国における警察と消防の組織の違いです。
戦前、内務省は警察・地方行政など内政全般を管轄する強大な権力を持った中央官庁で、国内の治安の維持も担当していました(悪名高い治安維持法も内務省のマターでした)。敗戦後占領軍の指示で内務省は陸・海軍とともに解体されました。(私事で恐縮ですが、私の父は内務省の官吏だったので戦後公職追放になり職を失いました。)
敗戦前、警察の組織は中央は内務省警保局、地方は知事によって管理運営されていました。戦後国家地方警察と市町村自治体警察の二本立ての制度となり、その後、昭和29年に警察法が全面的に改正されて、警察運営の単位が都道府県警察に一元化され、警察庁(長は警察庁長官)は、広域組織犯罪に対処するための警察の態勢、犯罪鑑識、犯罪統計等警察庁の所管業務について都道府県警察を指揮監督しています。
一方、消防は全国807本部、職員約16万人、団員約90万人を擁し、 市町村により運営されています。消防庁は自治体消防への直接的な指揮権はなく、助言や指導に止まっています。消防と警察の組織上の大きな違いです。
問題は、大規模な事故・災害発生時に警察・消防が一体となって広域に対処する必要が生じた場合、組織・権限の異なる二つの組織が協力して、十分に対応出来るかと言うことです。
現状上手く行っていないと言う訳ではありませんが、消防は広域な事故・災害発生時に組織的に動けるだろうかと言う疑問が残ります。消防庁に広域な事故・災害発生時の指揮権を与えなくていいのか。消防の組織も警察に準じて改変すべきではないかということを痛感しました。
例えば、日本海沿岸の地方で大規模なテロが発生したような場合、警察は全国的規模で対応出来ますが、救助を担当する地方の消防がそのような事態に十分に対応出来るのか。戦後60年以上を経過しても問題は未解決のままです。消防の組織について国家のリスクマネジメントの見地から再検討が必要だと私は思います。
今回はオペラから消防の組織へと議論が飛躍してしましました。