東京電力の現状と将来の見通し②

2011年10月20日木曜日 | ラベル: |

 10月10日以降「東京電力に関する経営・財務調査委員会の報告書」(以下報告書と言います)を一生懸命読みました。
 【経営・財務調査の目的は、「国民負担の最小化」であるが、それは短期的な問題のみではなく、「損害賠償」に関わる問題が長くて時間のかかる問題であることを踏まえて長期的な視点が必要である。】と言うことなので、短期的な見通しに関しては報告書にはあまり書かれていません。
 報告書によれば、東京電力における平成22年度の経費の構成は、買電・燃料調達が42.1%、資財・役務調達が26.6%、人件費は8.5%、その他22.8%となっています。
 燃料費は長期契約が多く減額は困難とされています。
 人件費はウエイトが低いので削減しても大きな金額にはなりません。今年度は管理職給与25%減、一般職給与20%減、賞与は50%減となっています。役員報酬については、経営責任を明確化する観点から、代表取締役は4 月支給分について50%、5 月以降支給分については100%、常務取締役は4 月支給分については50%、5 月支給分以降については60%、執行役員は4 月支給分から40%返上の減額措置を行っています。また、退職金制度・健康保険料負担・財形利子補給・持株奨励金などについても報告書で触れられています。人員削減にいては方向性は妥当だとされていますが、当面福島原子力発電所の原子力損害賠償体制確立に社員約3,000 名を含む6,500 名規模、年内にはグループ社員約3,700 名を含む約9,000 名規模の体制とする方向で検討しているので人員削減の実施は先になると思われます。
 報告書では調達改革・資材役務コストの検討について種々改善策が述べられています。
 当面の経費削減については、東京電力の合理化計画では5,034億円の削減を見込んでいますが、過年度対比の削減額では無く、今年度予算対比の削減額に過ぎず、本来の合理化努力の結果とは言えないとして、この部分は1,867億円の削減に過ぎないとされ、経営・財務調査委員会は更に吟味して、2,918億円の削減と査定しています。
 報告書では、保有不動産については900件2,472億円売却可能。有価証券は3年間で315件3,301億円(東電計画は2,700億円〈売却益は現状出ていません。〉)売却可能。事業・関係会社は46社1,201億円売却可能としています。売却可能額合計8,473億円は後で触れるキャッシュフローの改善には役立ちますが、損益にはあまり影響しないと思われます。
 原子炉の廃炉費用については、平成23 年3 月期において災害損失引当金4,250 億円及び資産除去債務1,867 億円を計上、平成24 年3 月期第1四半期に廃炉費用 693 億円を追加計上しています。報告書は更に4,700 億円*1(推定値を含む概算金額)を追加計上させる必要があるとしこれを含めた総計1 兆1,510 億円が、現時点で見積もられた1 号機から4 号機の廃炉費用だとしています。
 報告書は、「廃炉費用が数兆円規模に達するとの各種報道がなされているが、これらの金額には他者への損害賠償に関する費用が含まれるケース、あるいはマクロ経済的観点からの推計であるようなケースも存在し、財務諸表に計上される負債の測定に使用するには目的適合性を欠いている。」と記述しています。

なお、5 号機及び6 号機の今後の取り扱いは未定で、廃炉の意思決定は行われていませんが、5 号機及び6 号機に関する資産の減損及び関連損失の引当 1,646億円、加工中等核燃料に係る評価損 87億円合計 1,733億円の計上が必要だとしています。
 *1:①原子炉処理の残余期間において、追加費用が発生する可能性がある。900億円
    ②(中期的課題に係る費用)3.800億円
    (ⅰ)多量の汚染水処理
    (ⅱ)損傷した原子炉建屋の修復等
    (ⅲ)原子炉建屋内の除染
    (ⅳ)原子炉内核燃料の取出しに関する研究開発費
      東電は、平成24 年から32 年までの9 年間の研究開発費用を事
      業計画に計上することを想定している。
    (ⅴ)使用済燃料プール内の核燃料の取出し
    (ⅵ)原子炉内核燃料の取出し費用(合理化効果の見直し)

 報告書では、年間2,918億円の経費削減と第2四半期以降更に4,700 億円+1,733億円の損害に対する引当を計上すべきとしていますが、今期の損益がどうなるかについての記述はありません。報告書の中身から今期の業績の予測をすることは無理だと思われます。

 報告書には、「東電は、①電力の安定供給のため、被災設備の復旧や新規電源の確保などに取り組んでいるものの、化石燃料の占める割合の増加等による燃料費の高騰により追加で1兆円程度の資金が必要となること、②本年度、社債・借入金の7,500 億円の償還・返済が予定されており、資金面で早晩立ち行かなくなり、損害賠償に影響を与えるおそれがあることから、「原子力損害の賠償に関する法律」(以下「原賠法」という。)第16 条に基づく国の支援の枠組みの策定を要請した。」と記載されています。
 また、東京電力の平成23年度第1四半期報告書にも、「原子力損害賠償支援機構法(以下「機構法」という)」が平成23年8月3日に成立し、機構法では、新設される原子力損害賠償支援機構(以下「機構」という)が、原子力損害の賠償の迅速かつ適切な実施等のため、当社に対し必要な資金の援助を行うこととされている。また、電気の安定供給の維持等を考慮し、当社は機構に対し収支の状況に照らし設定される特別な負担金を支払うこととされている。当社は徹底した経営合理化による費用削減や資金確保に取り組み、この法律に基づく支援を受けて賠償責任を果たしていく予定である。しかし、機構の具体的な運用等については今後の検討に委ねられている。」と記述されています。
 
 機構法第69条は「2 原子力事業者が第四十五条第一項の認定を受けたときは、その特別資金援助(第四十一条第一項第一号*2に掲げる措置に限る。)による収益の額については、機構から交付を受けた資金の額を当該交付を受けた日の属する事業年度の所得の金額又は連結事業年度の連結所得の金額の計算上、益金の額に算入する。」と規定しています。
 10月18日の日本経済新聞4面には「国債を原資とした資金援助を受けた場合、会計上は交付金として特別利益に計上出来る」と報じられていますから、福島第一原子力発電所の事故等に関する原子力損害の賠償は、当面の東京電力の業績・キャッシュフローには影響を与えないことになるものと思われます。然し、前回も書きましたように、事業の損益の悪化に加え、原子力損害の賠償に関する事務処理費用・福島第一原子力発電所の事故処理・廃炉費用等を考えれば、今期の東京電力の損益の見通しは極めて厳しいと思います。

*2:第四十一条 原子力事業者は、賠償法第三条の規定により当該原子力事業者が損害を賠償する責めに任ずべき額(以下この条及び第四十三条第一項において「要賠償額」という。)が賠償措置額を超えると見込まれる場合には、機構が、原子力損害の賠償の迅速かつ適切な実施及び電気の安定供給その他の原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営の確保に資するため、次に掲げる措置(以下「資金援助」という。)を行うことを、機構に申し込むことができる。
一、当該原子力事業者に対し、要賠償額から賠償措置額を控除した額を限度として、損害賠償の履行に充てるための資金を交付すること(以下「資金交付」という。)。


次回は「福島第一原子力発電所の事故等に関する原子力損害の賠償」に関して考えて見たいと思います。