推理小説とリスクマネジメント

2011年9月1日木曜日 | ラベル: |

 私は推理小説を読むのが大好きです。一回だけ行ったロンドンで、1995年(平成7年)11月1日(水)早朝、宿泊先のモントカームホテルから、シャーロックホームズが住んでいた(ことになっている)「Baker Street 221b」へジョギングし、プレートを見て感激して帰って来ました。
 アーサー・コナンドイル、エドガー・アラン・ポー、アガサ・クリスティー、エラリー・クイーン等々,高校時代から、特に大学時代に推理小説を乱読しました。色々な手掛かり・情報を基に名探偵が真相を暴き出すについては、論理力に加え、構成力・イマジネーションが不可欠です。リスクマネジメントで将来のリスクを見極めるについても同様の能力が必要だと私は思います。
 また、ハードボイルドも読みました。レイモンド・チャンドラーの「プレイバック」の中の探偵、フィリップ・マーロウの有名な台詞「しっかりしていなかったら生きていられない。やさしくなれなかったら生きている資格がない。(清水俊二訳)」は、私が企業を分析・判断する際の基本的な心構えでした。即ち、判断は厳しく、しかし対象企業に対しては暖かい見方をすると言うことです。
If I wasn’t hard
I wouldn’t be alive
If I couldn’t ever be gentle
I wouldn’t deserve to be alive
 私は中小企業のキャッシュフロー対策を専門にしていますが、京橋の旧全国信用金庫連合会の建物の前に、城南信用金庫理事長であった故小原鐡五郎氏の銅像があります。1983年(昭和58年)に上梓された「私の体験的経営論 貸すも親切貸さぬも親切」の中で
「もともと庶民金融は担保が十分あるから貸そう、利息も元金も取りはぐれが無さそうだから貸そうというものではないはずである。その人が手掛けている仕事が上手くいくかいかないか。どうすれば上手く行くかを相手の身になって親切に考えてお金を貸すようにしなければ本当の金融にはならない。どうもまずいと思った時には、どんないい担保があっても〈おやめになったらどうです〉と説得する。リスクは当然ある。借り手が一生懸命やっても、景気やめぐり合わせでどうしようもない貸倒れも出てくる。貸倒れはないに越したことはないが、安全・安全といって自分が損しないことばかり考えていたのでは、本当の生きた中小企業金融はできない。(50-51ページ)」
と書かれています。マーロウの台詞と気持ちが相通ずるところがあります。中小企業のリスクマネジメント、BCPのサポートに際して、企業の体力からどうしても十分な対策が出来ない場合は、万一の際は倒産の可能性もあると考えるなども大切なことだと思います。
 私は若いころ都市銀行の事業調査部門に属して、取引先企業の分析をしていました。企業分析・経営分析に関しては昔から沢山の参考書があり、分析項目・内容・順序が詳細に述べられています。新米の調査部員が参考書の記述の順番に、数多くの項目を分析をして終章まで行っても、一向に結論が出せません。それは、各項目の分析結果に軽重がついていないため、どこの部分は良い、どこの部分は問題だとはなっても、結局全体としてどうなのかの判断が出来ないからです。
 企業を分析する場合、恰も探偵が色々な手掛かり・情報を基に真相に辿りつくのと同じような論理力(思考能力)・構成力・イマジネーションが必要です。さらに論理的な推論を加えることも必要となります。例えば「この企業は営業力に問題があるのではないかと推論し、その見地で各項目を分析し、問題の無い項目は無視する、問題のある各項目は営業力強化の視点からさらに深く検討して問題点をあぶり出す」と結論が見えて来ます。
 リスクマネジメントの実践に際し、色々なリスク事象から、将来起こるであろうリスクを想定し、評価する場合、その内容はリスクマネジメントの担当者によって大きく変わって来ます。リスクマネジメントの参考書にはこう言ったことは書いてありません。
 私はリスクマネジャーとしての能力の重要な部分は、企業に取って最も重要なリスクは何かを想定し、それを評価し、対策を講じるについて、本格推理小説における名探偵と同じような論理力・構成力・イマジネーションだと考えます。単独のリスクでもそうですが、幾つかのリスクが絡み合って大きなリスクになるような場合は特にこうした能力が必要です。
 ではどうやって名探偵のような能力を身に付けるのか。若いころの都市銀行の事業調査部門では、1対1の徒弟制度で身に付けさせていました。前にも書きましたように、参考書にはこの部分は何も書いてありませんから、先ず、先輩の傍で先輩が企業分析の作業をするのを見る。大体理解出来たら次に自分が企業の分析作業をするのを先輩に見て貰う。こうした過程を繰り返すことによって徐々にスキルが身に付いて来ます。この場合、自分で考えられない、自分では判断が出来ないタイプの人にはスキルが身に付きません。そういう人は部署を代って貰うしかありません。
 さらに、自分の考えを持つことと、頑固とは異なります。例えば「この企業は営業力に問題があるのではないか」と推論し分析しているうちに、実は技術力が問題なのではないかと思われたら、自分の考え・判断を弾力的に訂正することも必要です。ここも非常に難しく、デリケートな部分です。
推理小説を読むのが大好きな人が,良きリスクマネジャーになれると言っているわけではありません。推理小説を読み、名探偵のような思考能力を身に付けることは、リスクマネジメントの実践にプラスになると言っているだけです。
 BCP(事業継続計画)の策定においても、参考書の記載の順番通りに計画を策定したらうまく行くわけではありません。将来起こるかもしれない色々なリスクに対し、事前に色々な対策を考えておく訓練がいざと言う場合に必ず役に立ちます。事業継続計画を作っても、固定した計画に依存したままでは、計画外の事態が発生した場合に対応出来ません。
 名探偵、企業の分析、リスクマネジメントの実践、事業継続計画の策定・遂行には、何れも共通の能力 =論理力、構成力・イマジネーション= が必要だと私は思います。しかもそれは、持って生まれた天性とその後の訓練とが両々相俟つて始めて可能になる能力だと私は思います。

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東日本大震災について思う ⑥ 〜中小企業白書による東日本大震災の分析〜

2011年8月20日土曜日 | ラベル: |

 経済産業研究所のBBLセミナーで、中小企業庁 事業環境部 調査室長: 星野光明氏の「2011年版中小企業白書・-震災からの復興と成長制約の克服」のお話をお聞きしました。中小企業白書は例年なら4月下旬に公表されるのですが、今年は東日本大震災の分析を加えたため、7月1日に公表されました。
 「中小企業の業況は総じて持ち直しの動きが見られたが、東日本大震災の影響により大幅に悪化している。」と言うのが冒頭の結論です。
 以下星野光明氏のお話に沿って分析内容をご紹介致します。

1. 資金繰り
 資金繰りについては、「資金繰りは、リーマン・ショック前の水準以上に回復していたが、震災が発生した2011年3月に、大幅に悪化した。」とされています。震災関連倒産件数を見れば下記の通りです。
東日本大震災
(3月11 日発生)
阪神淡路大震災
(1 月17日発生)

備  考
件 数
件 数
 3   月  8 件 (1 件) 1  月 1 件(1 件)



1995 年合計
144 件(78件)
 4   月  25件 (3 件) 1  月13件(3 件)
 5   月  64件 (8 件)   3  月 21件(10件)
 4  月 27件(14件)
 5  月 14 件(8 件)
 6  月 12件(7件)

* ( )内は直接被害による倒産件数  6月7日現在
○東日本大震災 破産準備中等の実質破綻も40件発生(3~5月)。

 東日本大震災の場合、阪神淡路大震災に比べ倒産件数が大きく上回っています。

2.東日本大震災の中小企業への影響
 東日本大震災では、地震、津波、原子力発電所事故、電力供給制約等の様々な事象が生じ、これらが複合的に関連して中小企業に広範かつ甚大な影響が生じました。このほか、サプライチェーンを通じた影響や消費マインドの低下による影響が全国的に拡大しました。
 商工会が把握している会員企業の被災状況によると、建屋・家屋の被害は、沿岸部で全壊が約5割である一方、内陸部で一部損壊が約8割と、津波の影響を受けた沿岸部でより大きな被害が発生しています。
 津波の影響を受けた地域には約7万5千社、地震の影響を受けた地域には約74万社、原子力発電所事故の避難区域等には約7千5百社。東京電力管内都県には約145万社の企業が存在しています。(最後に添付の資料参照)

3.津波の影響 
 津波により影響を受けた地域は、生活面、経済面双方から見て、小規模な都市雇用圏*1であるものが多く、これらの地域では、漁業及び漁業から派生する食品加工業等が主要産業となっていましたが、津波により、工場、店舗、港湾等の産業基盤や地域のコミュニティの基本的機能が壊滅的な被害を受けました。
*1都市雇用圏とは、おおむね①人口集中地区の人口が1万人以上で、②周辺市町村から中心市町村への通勤率(通勤者数/就業者数)が10%以上の圏域であり、単一の市町村を超えて形成される通勤圏を表す。このような都市雇用圏は我が国全体で251ある。
○1995年の神戸都市圏の人口は、221.9万人。(第5位)

4.地震の影響
 津波の影響は受けていないが、地震により影響を受けた地域でも

   ①建物の損壊・液状化
   ②設備の保守・点検が専門家の不足で受けられないこと
   ③物流の停滞により原材料の調達や商品の配送が行えないこと

などにより、中小企業や商店街の事業活動に大きな影響が生じました。
【政府の支援策 】
 このような状況を受けて政府は、金融支援、雇用支援の大幅な拡充を実施するとともに、事業を再開したいという要望があることから、仮設店舗、仮設工場等の整備、地域経済の核となる企業グループ支援等を進めています。
 (独)中小企業基盤整備機構は、地域コミュニティにとって不可欠な機能を提供しています。例えば地域の中心的な商店街等支援等です。

5.原子力発電所事故の影響
 原子力発電所事故の避難区域等では、農林漁業で約12%、建設業で約15%、製造業で約21%、電気・ガス・熱供給・水道業で約2%が働いており、全国、福島県と比較すると、これらの業種で就業する者の割合が高い傾向にあります。
 また、原子力発電所事故の避難区域等では、化学部品、輸送機械部品、電子機器部品等の特定の分野において高いシェアを有する企業が存在し、当該企業の事業活動の継続が困難となり、自動車やエレクトロニクス等のサプライチェーン全体に影響が波及したとも考えられます。
避難区域等の企業は事業の継続が著しく困難となっており、先行きの見通しも立たない状況にあります。
 避難区域等の周辺で生産された商品では、取引の停滞や取りやめが発生。国内外を問わず、旅館ホテル等でも、風評被害が広がり、また取引先から製品の安全性の検査、確認が求められています。
【政府の支援策】
 こうした状況を踏まえ、影響を受けた中小企業に対して、特別な金融支援、雇用支援、経営支援、風評被害への対応支援、仮払い補償の実施等を行っています。

6.電力供給制約の影響
 東京電力管内の企業数は、約145万社であり、その大半は中小企業です。
 帝国データバンクのデータでは、管内企業数と、管内企業と直接取引を行う管外企業数を合わせると、全国の約5割を占めます。特に、製造業と卸売業では、管内企業と直接取引を行う管外企業数 が多く、全国的に影響が及ぶ可能性があります
 夏期に向けて、東京電力・東北電力管内において、ピーク期間・時間帯15%の需要抑制を達成するためにも、中小企業は、更なる節電に取り組んでいく必要があります。

7.その他の全国的な影響
○サプライチェーンへの影響
 被災地域における出荷額が大きく、産業に不可欠な品目を供給する企業との取引が困難になることにより、サプライチェーンに影響が及んだケースもありました。
こうした影響の全国的な広がりを受け、特別相談窓口を設置しており、資金繰り、雇用、税制等についての多岐にわたる相談が寄せられています。
○被災地域における出荷金額上位5品目1

 
順  位
 
品目名
出荷額 ( 百億円 )
 
構成比(%)
被災地域
全  国
1
自動車部分品・附属品
67
2,654
2.5
2
その他の電子部品・デバイス・電子回路
33
405
8.1
3
集積回路
31
431
7.1
4
洋紙・機械すき和紙
30
208
14.4
5
 
自動車
( 二輪自動車を含む)
27
969
2.8
     全   品   目
1,165
30,525
3.8

資料:経済産業省「平成20年工業統計表」再編加工
(注)1.被災地域は、青森県、岩手県、宮城県、福島県における災害救助法を適用した市町村(2011年3月24日時点)を集計した。
2.工業統計表の商品分類表の製造品番号に基づいた品目単位での集計値である。

○消費マインドの低下による影響
 震災による消費マインドの低下により、小売業、旅館、ホテル等のサービス業を中心に影響が拡大しました。

【 所 感 】
 断片的には既に報道されている部分もありますが、企業(特に中小企業)について、東日本大震災が与えた影響を包括的・網羅的に分析されていて、大変参考になると思います。

○プレゼンテーション資料
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/11071101.pdf

○中小企業白書 2011年版
http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h23/h23_1/h23_pdf_mokuji.html

○参考資料
①  津波被災地域
2009年 企業数       75,098社
2008年 製造品出荷額等  4.4兆円.
2007年商品販売額      7.4兆円
○東日本大震災により、災害救助法を適用した市町村(2011年3月24日時点)のうち、国土地理院が4月18日に公表した「津波による浸水範囲の面積(概略値)について(第5報)」により、津波の浸水を受けた青森県、岩手県、宮城県、福島県の39市町村を集計した。そのうち仙台市については、宮城野区、若林区、太白区を集計した。
②地震被災地域
2009年 企業数       742,462社
2008年 製造品出荷額等 35.6兆円
2007年商品販売額     206.5兆円
○東日本大震災により、災害救助法を適用した市町村(2011年3月24日時点)のうち、国土地理院が4月 18日に公表した「津波による浸水範囲の面積(概略値)について(第5報)」により、津波の浸水を受けた青森県、岩手県、宮城県、福島県の39市町村を除いた市町村及び仙台市青葉区、仙台市泉区を集計した。
③原子力発電所事故の避難区域等
2009年 企業数       7,503社
2008年 製造品出荷額等  0.3兆円
2007年商品販売額      0.3兆円
○原子力発電所事故の避難区域等を含む市町村として、田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村の全域を集計した。
④東京電力管内都県
2009年 企業数        1,454,598社
2008年 製造品出荷額等   111.6兆円
2007年商品販売額       262.9兆円
○茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、静岡県を集計した。


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集合訴訟とリスクマネジメント

2011年8月11日木曜日 | ラベル: |

 今日で満78歳になりました。この年になっても未だブログが書けるのは幸せだと思います。
 7月27日、公益財団法人 損害保険事業総合研究所の損害保険特別講座で、東京大学名誉教授、中央大学法科大学院教授 西村高等法務研究所 所長 落合 誠一先生の「大量消費者被害の解決と集合訴訟』―集合訴訟は問題の真の解決となるか― のお話をお聞きしました。

 消費者庁の「集団的消費者被害救済制度専門調査会」は平成22年10月28日の第1回会合以降審議を重ね、平成23年8月19日 の第15回会合で取纏めを終え、消費者委員会の承認を得る運びとなり、早ければ来年にも、集合訴訟の立法化が実現される状況になっているそうです。

 ○消費者庁 制度 集団的消費者被害救済制度について
  http://www.caa.go.jp/planning/index.html#m01-1
  http://www.caa.go.jp/planning/index.html
  http://www.consumer.go.jp/seisaku/caa/soken/seido/shiryo/index.html
  http://www.consumer.go.jp/seisaku/caa/soken/seido/seido.html

 アメリカにおいて、タバコ・銃などについて大規模な集合訴訟(クラスアクション)が提起されたことは記憶に新しいことです。日本でも身近な問題になるとは思ってもいませんでした。
 私は、本件に関しては全くの素人ですが、方向は「二段階型」になるようです。即ち、

 ① 手続追行主体が対象消費者の範囲を特定して、訴訟を提起。
 ② 一段階目の判決において、対象消費者の範囲を定めた上で、共通争点について確認する判
決を行う。判決の効力は、その後に届出(④)をした者に有利にも不利にも及ぶ。
 ③ 一定の期間までに、対象消費者に届出を促す通知・公告を行う。
 ④ 一定の期間までに届出をする。

 集合訴訟(クラスアクション)の導入は、消費者に取って金額が少額で多数の被害者が生ずるような「集団的消費者被害紛争」解決の切り札だと言われています。弁護士さんに取っては、仕事が増えることになります。しかし企業は大きなリスクを負うことになります。
 落合誠一先生は、「集団訴訟制度の導入は、日本の社会がアメリカ型の訴訟社会へ大きく舵を切ることを意味し、わが国の社会の在り方についての大問題である。従って各層の広範囲な議論を経た、社会的コンセンサスが必要である。」と言う視点から見ると、検討過程が訴訟手続上の技術的な問題だとして法律関係者中心で行われており、一般国民、さらには実際にリスクが発生する企業側にどこまで検討・理解されているか問題だと憂えておられます。
 *例えば、消費者庁の集団的消費者被害救済制度研究会はメンバーは学者・弁護士ばかりで、オブザーバーにパナソニックの法務室長さんがいるだけです。
 「集団的消費者被害紛争」解決の手段は、裁判、ADR(裁判外紛争解決)、行政による解決等さまざまであり、どの手段をより活用すべきか我々自身が決めるべき問題だと落合誠一先生は強く訴えられました。私もその通りだと感銘しましたので、ご紹介申し上げる次第です。

○ご興味のある方は、下記の本をお読み下さい。
 「集合訴訟の脅威」〜企業経営・経済成長戦略に与える影響〜 西村高等法務研究所編
平成23年3月 商事法務研究会 2,200円(税別)    ISBN978-4-7857-1852-7

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災害時の金融支援 ④ 東日本大震災に対する㈱日本政策金融公庫の支援策及びその他の機関の支援策

2011年8月1日月曜日 | ラベル: |

 ㈱日本政策金融公庫は国民生活金融公庫、中小企業金融公庫、農林漁業金融公庫、国際協力銀行が担っていた業務を引き継いで、2008年(平成20年)10月1日に設立された政策金融機関です。
 国民民生活事業(旧国民生活金融公庫)部門は、小規模企業者「製造業・その他の業種:従業員20人以下 、商業✳・サービス業:従業員5人以下 (✳商業とは、卸売業、小売業〈飲食店含む〉を指す。)」を取引の対象としています。
 中小企業事業(旧中小企業金融公庫)部門は、一般の中小企業を取引の対象としています。
東日本大震災についての日本政策金融公庫の支援策は、「東日本大震災により被災された皆様への支援体制について」に記載されています。

 前回述べた信用保証協会の保証枠の拡充と、日本政策金融公庫の災害時の融資制度が「政府の災害復旧貸付制度」の二本の柱です。これを活用することが中小企業に取って、最も有効な災害時のキャッシュフロー対策になります。

1) 特別相談窓口の設置及び電話相談の実施(詳細略)
2) 各種融資制度
【国民生活事業】  6000万円 (各融資制度の限度額に上乗せ)
【中小企業事業】  3億円(別枠)

●中小・小規模企業向け融資制度(国民生活事業・中小企業事業)
「東日本大震災復興特別貸付」(平成23年5月23日より取扱い開始)


利用対象者融資限度額融資期間
(据置期間)
融資利率
○直接被害を受けた方
○原発事故に係る警戒区域等*1内に事業所を有する方
【国民生活事業】
6千万円
(各融資制度の限度額に上乗せ)
【中小企業事業】
3億円(別枠)

設備資金20年以内
(5年以内)
運転資金 15年以内
(5年以内)

(1)被害証明書*5等の発行を受けた方
 ○基準利率より0.5%引下げ
 ○融資後3年間について中小企業事業の場合は1億円、国民生活事業の場合は3千万円を上限に基準利率より1.4%引下げ
(2)上記以外の方
 ○基準利率

○間接被害を受けた方
(上記対象者の方と一定以上の取引がある方)

設備資金 15年以(3年以内)
運転資金 15年以(3年以内)
(1)被害証明書*5等の発行を受けた方
 ○基準利率より最大0.5%引下げ*2
 ○融資後3年間について3千万円を上限に基準利率より最大1.4%引下げ
(2)上記以外の方
 ○基準利率
○その他震災の影響により、売上が減少している方など
(風評被害による影響を含む)
セーフティネット貸付(経営環境変化資金)と合わせて
【国民生活事業】
4千8百万円*3
【中小企業事業】
7億2千万円
設備資金 15年以内
(3年以内)
運転資金 8年内
(3年以内)
(1)特に業況が悪化している方など、一定の要件に該当する方
 ○基準利率*4より最大で0.5%引下げ*2
(2)上記以外の方
 ○基準利率*4


*1: 警戒区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域。
*2: 売上高等の減少で0.3%引下げ、雇用の維持・拡大を要件に0.2%引下げ。
*3: 生活衛生セーフティネット貸付(運転資金のみ)の融資限度額は5千7百万円です。
*4: 中小企業事業の場合、信用リスク・融資期間等に応じて所定の利率が適用されます。
    国民生活事業2.25%・中小企業事業1.75%・(貸付期間5年以内の基準利率)  
    国民生活事業 http://www.jfc.go.jp/k/riritsu/index.html#a1
    中小企業事業 http://www.jfc.go.jp/c/jpn/topics/base.html
*5: 被害証明書等: 災害などで被災したことを証明するための書類。災害によって家屋が損壊を受けた場合には市町村が被害の状況を調査して、『罹災証明書』が発行される。塀や家財・車といった家家屋以外の対対象について「被災証明書」が発行される。

○商工組合中央金庫の支援
東日本大震災の影響を受けている中小企業等の皆さまへ
~ 東日本大震災復興特別貸付の概要 ~ を公表しています。
http://www.shokochukin.co.jp/chusyosien.pdf

○民間金融機関の支援策
仙台に本店を置く七十七銀行は「東日本大震災復興支援ローン」を公表しています。
http://www.77bank.co.jp/pdf/kinri/loan/77houjinshienloan.pdf
          ※他にも民間金融機関の支援は数多く存在します。

○地方自治体の支援
○宮城県 
東日本大震災で被災された中小企業者へ新しい融資制度を創設しました。
「災害復旧対策資金  (東 日 本 大 震 災 災 害 対 策 枠)」
http://www.pref.miyagi.jp/syokeisi/shokinhan/syoukin1/saigaisikin.pdf
          ※他にも地方自治体の支援策は多く存在します。
○福島県・経済産業省
原子力災害に伴う「特定地域中小企業特別資金」を開始。
http://www.chusho.meti.go.jp/earthquake2011/download/110523NCA-T-Fin1.pdf
福島県及び経済産業省は、4月22日の基本合意を踏まえ、中小企業基盤整備機構の高度化融資スキームを活用し、原子力発電所事故の被災区域から移転を余儀なくされる中小企業等が、福島県内の移転先において事業を継続・再開し、雇用を維持するために必要な資金の融資申請を6月1日より受付開始。
融資利率: 無利子  担保: 無担保 です。 これは、今までに例のない制度です。  

○金融支援制度を如何に活用方するか
 中小企業は平素から取引金融機関と、大地震発生時にキヤッシュフロー面から事業継続が出来るか、政府の施策の利用をも含めて良く協議しておく必要があります。信用保証協会の保証制度の活用に当たっても先ずは取引金融機関の理解が大事です。
 取引金融機関も、大地震が発生した場合に備え、与信リスク管理の視点から,企業の事業継続、キャッシュフロー対策の状況を把握し,検討しておくべきです。この点についての民間金融機関の対応は、現状まだ不十分であると私は思います。
 地震発生後、企業は大規模な災害発生時等に設置される相談窓口に相談をされることをお勧めします。担保・返済等について問題がある場合も、弾力的に相談に応じてくれるはずです。
 また、中小企業は平素から日本政策金融公庫・中小企業事業部門や商工組合中央金庫との間で融資取引関係を構築しておけば、地震発生後に災害復旧貸付を申し込む場合、既に会社の状況を把握して貰っていますから、話が早く進むと思います。

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災害時の金融支援 ③ 東日本大震災に対する中小企業庁の支援策

2011年7月20日水曜日 | ラベル: |

 7月10日の記事で、経済産業研究所のBBLセミナーにおけるJR東日本(東日本旅客鉄道株式会社)冨田哲郎副社長のお話をご紹介致しました。

 7月17日(日)の日本経済新聞3面の左上の記事で、大林尚編集委員が冨田哲郎副社長のお話の内容に触れておられます。大林尚編集委員も7月6日のBBLセミナーに参加されて感じることがおありだったのだと思います。

 日比谷公園の角、今新築中の飯野ビルの向かい、経済産業省別館のビルに中小企業庁があります。入口のチェックカウンターの前の書架に中小企業庁のパンフレットが並んでいます。そこに「中小企業向け支援策ガイドブック」が置いてあります。今回の東日本大震災に対する中小企業庁の対策の詳細が記載されていますから、霞が関界隈にお越しの折には是非お立ち寄り頂き、ガイドブックをお持ち帰りになることをお勧めします。

 東日本大震災についての 中小企業庁の支援策は3月13日の「 2011 年東北地方太平洋沖地震等による災害の激甚災害の指定及び被災中小企業者対策について」で詳細に述べられています。
http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/2011/110313TohokuGekijinShitei.htm
 特に注目すべきことは「措置の対象は 〈全国〉 」 と言う点です。従来は地域を限定するのが普通でした。今回こういう指定となったため、例えば船橋市の液状化による損害も措置の対象になるなど大きな効果を挙げています。
 更に、5月2日「平成 23 年度第 1 次補正予算を踏まえた東日本大震災の被災中小企業者向け資金繰り支援策のご相談の開始について」にその後の追加の施策が述べられています。
http://www.chusho.meti.go.jp/earthquake2011/110502Eq-F-K.html

 以下は「東日本大震災復興緊急保証」の概要です。
 直接被害を受けた中小企業者に加えて、全国的な震災被害対策として、3階建ての信用保証枠が用意されています。
一般保証枠とは別枠で セーフティネット保証・災害関係保証とあわせて、無担1億6千万円、最大5億6千万円まで利用が可能です。












○東日本大震災復興緊急保証の概要 ①
項   目
内    容
限度額
最大限度額
東日本大震災復興緊急保証(法律により新設) ①  対象 震災被害により経営に支障を来たしている次の中小企業者等
ア. 特定被災区域内 * で今般の地震・津波等により直接又は間接被害を受けた方。
イ. 原発事故に係る警戒区域・計画的避難区域・緊急時避難準備区域内の方
ウ. 特定被災区域外で特定被災区域内の事業者との取引関係により被害を受けた方
② 保証割合 融資額の 100 %
無担保 8 千万円
最大 2 憶 8 千万円
 (別  枠)
東日本大震災復興緊急保証
セーフティネット保証・災害関係保証
とあわせて
 
無担保
1 億6千万円
最大
5億6千万円
災害関係保証 ① 対象 
・今般の地震・津波等直接の被害を受けた中小企業者等
・原発事故に係る警戒区域・計画的避難区域・緊急時避難準備区域内の中小企業者等
② 保証割合 融資額の 100 %
無担保 8 千万円
最大 2 憶 8 千万円
 (別  枠)
セーフティネット保証 ① 対象 業況が悪化している中小企業者 ( 平成 23 年度上期は。原則全業種― 82 業種― )
② 保証割合 融資額の 100 %
一般 保証 ① 対象 すべての中小企業者
② 保証割合 融資額の 80 %
無担保 8 千万円
最大 2 憶 8 千万円
 
 
* 特定被災区域:東日本財特法第2条第3項に規定する区域 ( 岩手県、宮城県、福島県の全域、青森県、茨城県、栃木県、千葉県、新潟県、長野県の一部の市町村 )
○東日本大震災復興緊急保証の概要 ②
 区域
利用対象者
要  件
  内  容
特定被災区域 *1 ① 地震・津波等により直接被害を受けた中小企業者 ( 原発事故に係る警戒区域等内 *2 に事業所を有する中小企業者を含む) 〈罹災証明書〉
(寫しも可)
警戒区域等の事業者は商業登記簿 / 納税証明書等
1. 【 対象資金 】
事業再建資金その他経営の安定に係る資金
2.保証限度額
○普通2億円
○無担保8千万円
最大2億8千万円
○無担保無保証人
1千250万円
*災害関係保証、セーフティネット保証と合わせて
無担保で1億6千万円
最大5億6千万円
( 一般保証と別枠 )
ア)保証割合 融資額の100%
ィ)保険てん補率
90%
3.【保証料率】
0.8%以下
4.【保証人】
代表者保証のみ(第三者保証人については原則不要)
② 震災の影響により業況が悪化している中小企業者 〈市区町村長の認定〉
震災後の3ヶ月 *3
の売上高等が前年同期比10%減
特定被災区域以外 ③ 特定被災区域内の事業者との取引関係により 業況が悪化している中小企業者 〈市区町村長の認定〉
震災後の3ヶ月 *3
の売上高等が前年同期比10%減+理由書
④ 震災災害により風評被害による契約の解除等の影響で急激に売上が減少している中小企業者 ( 主に宿泊業、旅行業を想定 ) 〈市区町村長の認定〉
しない後の3ヶ月 *3
の売上高等が前年同期比10%減+理由書
*1特定被災区域:東日本財特法第2条第3項に規定する区域 ( 岩手県、宮城県、 福島県の全域、青森県、茨城県、栃木県、千葉県、新潟県、長野県の一部の市町村 )
*2警戒区域等: 警戒区域・計画的避難区域・緊急時避難準備区域
*3 震災後の3ヶ月の売上高等は、3ヶ月の実績集計前の場合、1ヶ月(平成23年3月又は同年4月に限る)の実績+2ヶ月の見込み(実績値が集計されている月は実績値)を含む3ヶ月とする。
○被災した地域市町村長の認定の取得が困難な場合については、関係の地方自治体と協議中。
 詳しくは各保証協会にご相談下さい
 
 中小企業庁のHPに融資実績が公表されています。下記のように、7月8日までの 中小企業への災害復旧貸付実績は ,  政府系中小企業向け金融機関の貸付件数 79,732 件 金額 1 兆 4877 億円 , 保証協会の保証件数 148,432 件 金額 2 兆 7173 億円、 合計件数 234,338 件、金額 4 兆 3,597 億円 です。
 6月20日に、 阪神淡路大震災における中小企業への災害復旧貸付実績は、 合計件数 82,704 件、金額 1 兆 1,807 億円 だったと書きました。今回政府の復旧対策は遅遅として進んでいませんが、その結果を大幅に増加した金融支援が支えているのだと思います。
 
○融資実績( 3 月 14 日 〜 7 月8日)
 
貸付合計
( 公庫‣商中 *4 )
東日本大震災
復興特別貸付
(5 月 23 日 〜 )
災害復旧貸付
セーフティネット貸付
累  計 件数 81,796 件 35,071 件 7,369 件 39,356 件
金額 1 兆 5,242億円 8,211 億円 884 億円 6,147 億円
 
○保証実績 ( 3 月 14 日 〜 7 月8日)
 
保証合計
( 保証協会)
東日本大震災
復興緊急保証
(5 月 23 日 〜 )
災害関係保証
セーフティネット保証5号
累  計 件数 152,542 件 23,835 件 3,190 件 125,517 件
金額 2 兆 8,355億円 6,665 億円 474 億円 2 兆 1,216 億円
 
*4 日本政策金融公庫の災害復旧融資制度については「東日本大震災により被災された皆様への支援体制について」
http://www.jfc.go.jp/c_news/news_bn/news230318.html
商工中央金庫の災害復旧融資制度については 「 東日本大震災の影響を受けている中小企業等の皆さまへ ~ 東日本大震災復興特別貸付の概要 ~」
http://www.shokochukin.co.jp/chusyosien.pdf 参照。

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東日本大震災について思う ⑤ JR東日本(東日本旅客鉄道株式会社)の場合

2011年7月10日日曜日 | ラベル: |

 7月6日(水)経済産業研究所のBBLセミナー*1でJR東日本(東日本旅客鉄道株式会社)代表取締役副社長・総合企画本部長 冨田哲郎様の「東日本大震災への対応と今後の課題」と言うお話をお聞きしました。以下はその内容です。
 先ず、過去の地震の際の新幹線の状況を振り返り、東日本大震災におけるJR東日本の対応をご紹介致します。

  • 阪神淡路大震災と山陽新幹線
     阪神淡路大震災は、1995年(平成7年)1月17日午前5時46分に起こりました。山陽新幹線の高架橋は倒壊しましたが、未だ新幹線は動いていなかったので、大惨事は免かれました。運休期間は83日でした。
  • 新潟県中越地震と上越新幹線
     新潟県中越地震は2004年(平成16年)10月23日午後5時56分に起こりました。上越新幹線では、新潟行き とき325号が長岡駅への停車のため、時速約200kmに減速して走行中でした。早期地震検知警報システムによる非常ブレーキが作動し、8両が脱線したものの、軌道を大きく逸脱せず、逸脱した車両も上下線の間にある豪雪地帯特有の排雪溝にはまり込んだまま滑走したおかげで、横転や転覆、高架橋からの転落を免れ、脱線地点から約 1.6 Km新潟寄り、長岡駅の東京寄り約 5 km の地点で停車しました。対向列車がなかったことなどの幸運も重なり、死者・負傷者は1人も出ませんでした。運休期間は66日でした。
  • 東日本大震災と東北新幹線
     3月11日午後2時46分東日本大震災発生時、東北新幹線では上下27本の列車が運行中でした。*2特に仙台エリアを時速270Kmで走行中の2本の列車が地震による強い振動を受けました。海岸地震計(太平洋岸9ヶ所設置・設置図参照)がP波(初期微動)を検知し、最初の揺れが到達する9-10秒前に電力がシャットダウンし、非常ブレーキが作動しました。非常ブレーキが作動した70秒後に最大の揺れが到達。その時までにこれらの列車は時速100Kmまで減速していたものと考えられ、乗客・車両ともに無事でした。

 過去の地震の教訓に基づき、JR東日本では新幹線の高架橋15,400本、新幹線橋脚2,340基の耐震補強対策は2007年までに完成していましたので、高架橋・橋脚は大丈夫でした。しかし、平成13年度までの強化を目標に行いつつあった架線の柱が折れたりして、架線の断線が470ヶ所に及びました。因みに折れた柱は1本も列車には倒れ掛らず、幸運でした。JR東日本初代会長山下勇氏は、「幸運のダムに水を貯めておきなさい。」といつも言っておられた由で、「事前対策+幸運に恵まれ今回の大震災で新幹線では1人の死者・負傷者もなかった。」という言葉が大変印象的でした。

 阪神淡路大震災・新潟県中越地震と、災害ごとの教訓を生かして、事故の発生を防止したことは高く評価されるべき事態だと思います。また、今回の運休期間は50日です。

 問題は来るべき首都圏直下型地震では、P波とS波の時間差が小さいので如何に対処するかだということでした。
  • 在来線の復興について
     在来線の被害については省略しますが、太平洋沿岸の七線区の復興をどうするかについて、今後居住地が海から離れた高台に移転し、職住が分離するのであれば鉄道の線路の位置も変える必要があるかも知れない。町づくりと一体の復旧・復興を考えることが必要である。また従来型の鉄道で良いのか、富山市で運行されているLRT*2のような交通機関も検討に値する。と言う示唆に富んだお話でした。
  • 3.11当日の首都圏における対応について
     JR東日本は3月11日、早期に当日の運行中止を発表し、そのこと自体も論議を呼んだのですが、更に駅を閉鎖し、駅構内からお客様を締め出したことが大変非難されました。この点についてJR東日本の災害時のマニュアルに反して、東京駅・横浜駅・八王子駅の駅長さんは、日ごろからの地元との連繋の中で駅構内を開放したそうです。この点について、現場への権限委譲と、現場力を再考すべきだと思ったと言っておられました。
 なお、世界の高速鉄道の動向、これからの鉄道産業の方向性などに関し、非常に興味深いお話がありましたが、割愛致します。

*1 BBLセミナー (RIETI 独立行政法人 産業経済研究所HPより)http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/index.html
米国の大学や研究機関では、先生、学生たちの間でBrown Bag Lunch Meetingというものが頻繁に行われています。(自分の昼食を茶色の紙袋に入れて集まるところから、この名前がついたそうです。)
BBL(Brown Bag Lunch Seminar Series)とは、ワシントンのマサチューセッツアべニューにあるシンクタンクで日夜繰り広げられているような政策論争の場を日本にも移植し、policy market を作りたいという思いで、当研究所が企画しているブレインストーミングセッションです。
国内外の識者を招き、様々な政策について、政策実務者、アカデミア、産業界、ジャーナリスト、外交官らとのディスカッションを行っています。会場スペースの制約もあり、現状では非公開としておりますが、これまでに行われたセミナーの概要や配付資料、今後の開催予定等は、こちらでご覧頂けます。


*2 LRT ライトレール(Light rail(軽量軌道)とは、北米の都市内および近郊で運行されるある種の軽量な旅客鉄鉄道を指すために、米国の機関によって作られた言葉・概念である。ライトレール交通:Light rail transit (LRT) とも呼ばれる。輸送力を持つ欧米の都市間路線等の本格的な鉄道(ヘビー・レール、Heavy Rail)と区別・対比した考え方である。(ウィキペディア)


●JR東日本(東日本旅客鉄道株式会社)代表取締役副社長・総合企画本部長 冨田哲郎様の「東日本大震災への対応と今後の課題」BBLセミナー資料 (引用は許可済)
プレゼンテーション資料
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/11070601_p.pdf
配布資料:1
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/11070601_h1.pdf
配布資料:2
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/11070601_h2.pdf

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QC(品質管理)とリスクマネジメント - 戦後のアメリカ流マネジメント手法の導入を振りかえる

2011年7月1日金曜日 | ラベル: |

 「第二次世界大戦に敗北した翌年の1946年11月に、連合軍最高司令部(GHQ)の担当者が日本電気の真空管工場視察の際、統計的品質管理(SQC・Statistical Quality Control)の導入を勧告した。
 1948年11月に統計的品質管理委員会が設置され、1949年1月日本科学技術連盟は経済安定本部から海外技術調査の委託を受け、3ケ月の調査を実施し、4月に調査報告書を提出した。調査費は10万円。この中で、ファクトリー・マネジメント〈統計的品質管理〉の調査がなされ、これが我が国に品質管理(QC・Quality Control)を導入するきっかけとなった。」と財団法人日本科学技術連盟「創立50年史」に記述されています 。*1

 1950年3月には雑誌『品質管理』創刊、6月にアメリカからデミング博士が初来日し、各地で講義を行いました。9月には統計的品質管理の研究のための研究会「K委員会」が発足しました。「K委員会」は東京大学の石川馨教授を始め、東京工業大学、神戸大学、総理府、日本科学技術連盟、太平鉱業、三井化学工業のメンバーが参画しています。1950年後半に日本科学技術連盟は『品質管理教程』を作成、教材も充実して来ました。1951年9月には第一回デミング賞の授賞式が行われました。
 ここで注目すべきことは、QC導入のスピードの早さです。戦後我が国の技術の後進性が極めて大きいことが認識され、官民を挙げて遅れを取り戻し、産業の合理化と高度化を実現しようと努力していた時代であったからだと考えられます。 
 日本科学技術連盟は、その後経営トップのための講習会、部課長クラスのための講習会を次々に開催し参加者も急増しました。
 1962年4月『現場とQC』が創刊され、5月に現場のQC活動に対しQCサークル本部が設置されました。かくして、QCの普及活動は経営層・管理層・現場の3本立てとなり、QCサークル活動は“カイゼン”の名のもとに海外でも取り入れられました。(財団法人日本科学技術連盟「創立50年史」の記述*2) 
 私は1961年に生産性本部の中小企業コンサルタント指導者養成講座に1年間参加し、石川馨教授の「SQC(統計的品質管理)」の講義を受講しました。
 1961年9月には、愛知県刈谷市にあるトヨタ自動車の下請けの中堅メーカーで2週間SQCのコンサルティング実習に従事しました。当時の報告書をひもときますと、
① 親会社(トヨタ自動車)から半強制的にQCの導入を指示され、統計技術を講習会で習得しこれを忠実に実施しようとしているに過ぎない。

② 工程管理は増産のための進度統制の面から進められているだけである。

③ QCに対する理解は不十分で、教育訓練もなされていないため、全社的盛り上りが無く、現場と品質管理担当者との乖離が甚だしい。
結論として、管理以前の状態において、如何なる高等な管理技術を駆使せんとしても、無益である。いやそれよりも有害であるとさえいえる。 
と慨嘆しています。

 SQCが有効に機能するためには、先ず生産工程が安定していて、不良品の発生する原因が十分管理されていることが前提となります。当時この会社では、工程管理の重点は増産のみにあって、生産工程の安定を顧慮しないまま増産し、製品を全数検査して、不良品を排除していました。SQCの前提が安定した生産工程であるということが、現場に浸透しないままSQCの実践を強行していたので、現場は不安と不信の念を持つだけでした。経営管理手法の導入について、経営者や社員が経営管理手法の真の意味を理解しないまま導入すれば、決して成功しないと思いました

 その後日本科学技術連盟の努力によって、SQCは着実に我が国の企業に定着していきました。さらに生産部門の管理手法であったSQCは、我が国で独自の発展を遂げ、全社的経営管理手法としてのTQC(総合的品質管理Total Quality Control ) へと発展していきました。

 QCの導入と定着の過程は、QCという言葉をリスクマネジメント、ERMや内部統制・コーポレート・ガバナンス体制の導入と定着という言葉に置き換えて考えるとき我々に数多くの示唆を与えてくれます。

 アメリカから導入されたSQCという経営手法が我が国の企業に定着し、さらに我が国独自のTQCに発展した理由について、私は次のように考えています。
  1. 当時の、経営者・管理者・現場では、我が国の技術の後進性が極めて大きいことが認識されており、企業構成員のすべてが新しい経営手法の導入に熱心であった。
  2. 本科学技術連盟を中心として、産、官、学一体となった普及活動が強力に推進された。
  3. SQCは生産部門という単一の部門に対する管理手法であったため、経営者の理解も得易く、縦割色の強い我が国企業において、他部門との調整をあまり必要としないで導入が可能であった。
  4. 我が国企業は、もともと生産工程の中に現場で情報の共有と協調の仕組みを持っていたため、現場の情報を基盤に自発的に生産工程を「改善」していくQCサークル活動により、高い品質と生産性を実現出来た
    アメリカでは現場はマニュアル通りに働くワーカーの集まりであった。
  5. 石川教授らは、当初からわが国に適したQC手法の確立という思想を持っておられた。
  6. SQCがまず企業に定着出来た結果、QCの思想・手法を全社に適用して経営管理の高度化を図る、我が国独自のTQCに発展し、全社的な経営管理手法に進化させることが可能となった。かくてQC・TQCはわが国の経済的発展に大きく貢献した。
 QCは、「戦後日本のマネジメント手法の導入」の歴史の中で、唯一、手法の日本化に成功した例だと言えます。今日我が国の企業がリスクマネジメント→ERMを導入するについて、QCの導入時とどのような相違点があるのでしょうか。私たちはQC導入の歴史と比較して、教訓を汲み取る必要があります。

  1. 危機意識の欠如
    QC導入時に比べ、経営者・管理者・社員の危機意識の欠如が根本問題だと思います。QC導入時の精神に立ち帰ることが必要だと思います。
  2. 導入にあたり、中心となって推進する団体、リーダーがいない。
    QC導入時には、財団法人日本科学技術連盟(会長は初代経済団体連合会会長石川一郎氏)が普及の主体となり、普及が進むにつれて、個別的なコンサルティングを行う民間のコンサルティング会社が発達して来ました.今日、リスクマネジメントさらにはERMを導入するについては、当時とは逆に個別マターを扱う民間のコンサルティング会社は夥しくありますが、我が国全体として導入の推進を図る嘗ての日本科学技術連盟のような団体は存在しません。
  3.  単独部部門の経営管理手法か、全社的経営管理手法か
    QCは主として製造部門の問題で、製造担当役員を頂点とする製造部門が推進すれば良く、縦割りの日本企業においては、やり易いことであったと考えられます。品質管理と違って、リスクマネジメント→ERMは全社的マターであり、縦割りの我が国の企業組織では定着するには問題があると思います。
  4. 前記石川馨教授の弟さんである石川六郎氏が1978年2月に鹿島建設の社長に就任された際、「大企業病がはびこっている社内の精神作興を計るためにTQCを導入した」と私の履歴書に書いておられます。
    リスクマネジメント→ERMの導入について、経営者自らがリーダーシップを取って全社を挙げて真摯に取組むと言う態勢が出来ていない企業がまだまだ存在することは憂慮に耐えません。
    リスクマネジメント→ERMの普及・推進には、経営者が自らリスクマネジメント→ERMの本質を理解して取り組むことしか方策は無いと思います。
 私が或る外資系の出版社の手伝いをしていた時に、デミング博士の自叙伝を翻訳出版しようと思って、日本科学技術連盟にご相談を致しました。日本科学技術連盟は、「現在日本において生産部門の地位は当時に比し低下しています。デミング賞も国内で無く、東南アジアの会社の受賞が増えています。恐らくその本は日本ではあまり売れないでしょう」と言うことでしたので,断念しました。
 私が若いころのQCに対する熱気を思い出す時、隔世の感があります。

○参考文献:一橋大学 佐々木聡教授 『戦後日本のマネジメント手法の導入』
       『一橋ビジネス レビュー』(東洋経済新報社)2002年秋号

*1・*2:財団法人日本科学技術連盟 「創立50年史」


○8月3日(水)印刷関連業者向けのBCPセミナーで話をします。

 http://www.print-info.co.jp/bcpseminar.php

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