このブログを初めて4年目に入ります。読んで下さり、「いいね」といって下さる方に励まされて、続けることが出来ました。厚くお礼を申し上げます。
11.「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」の「財務診断モデル」 ①
「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」のキャッシュフロー対策の部分は「財務診断モデル」と言う項目に記述されています。
〇「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」第1版 (平成18年) http://www.chusho.meti.go.jp/bcp/contents/level_a/bcpgl_01.html
「財務診断モデル」基本コース
http://www.chusho.meti.go.jp/bcp/contents/level_a/bcpgl_05a.html
〇「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」第2版(平成24年)では
http://www.chusho.meti.go.jp/bcp/
【参考】財務診断モデル(基本コース) •••••••••••••••••••••••••••••• 参考- 1
財務診断モデル(中級コース) •••••••••••••••••••••••••••••• 参考-14
財務診断モデル(上級コース) •••••••••••••••••••••••••••••• 参考-46
となりました。
既に何回か触れていますが、中小企業庁の「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」策定作業が平成17年6月に開始された時、既に内閣府の「事業継続ガイドライン」(平成17年8月1日公表)の作業が進行していました。そこで、中小企業向けに重ねて新しいBCPガイドラインを作る必要があるのかと言う議論が生じました。
中小企業庁は、『政府の中小企業災害対策は、災害発生後の対策は既に相当充実しているが、災害発生前の対策は未だ手つかずの状態である。中小企業庁としては、現行の中小企業災害対策の空白部部分である事前対策を確立することにより中小企業災害対策を完成させることが「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」を新たに作成する目的である。』従って中小企業のために別途BCPの指針を策定する必要があると明確に考えておられ、「政府の中小企業災害対策」→「災害復旧貸付制度」の有効活用のための事前対策の確立が目的なので、「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」には「財務診断モデル」という災害時のキャッシュフロー対策が詳述されています。これが「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」の一つの大きな特徴になっていました。
第2版の改定では『我が国企業へのBCPの導入を図るためには、99%を占める中小企業への普及促進が必要不可欠であり、そのためには特に太宗を占める小規模事業者への導入を含めた対応が求められています。このため、平成18年に公表した「中小企業BCP策定運用指針(第1版)」を一部見直し、小規模事業者を含めた初心者を念頭に「入門コース」を新たに加えるとともに、業種別の事例を追加する等、分かり易い内容に改訂しました。』とされています。
第1版の有識者会議委員として「財務診断モデル」の作成に関与した者としては「財務診断モデル」が第2版では本体から参考資料になったことについて、一抹の寂しさを感じます。これは「財務診断モデル」が中小企業に普及しなかった結果だと私は思います。
BCPにおけるキャシュフロー対策の重要性は何人も否定できないことだと思いますが「中小企業BCP策定運用指針(第1版)」のキャッシュフロー対策が普及しなかった理由については、中小企業BCPのサポートをするコンサルタントの方々にキャッシュフロー対策に関する知識やサポートの経験を有する人が少ないこと、さらには民間金融機関がお得意様のBCPのキャッシュフロー対策のサポートに熱心ではないことが大きな理由だと思います。
私は、平成18年度以降3年間「中小企業BCP策定運用指針」普及セミナーの講師として、受託の三菱総合研究所とご一緒に北は札幌から南は高知・福岡まで全国で「財務診断モデル」の話をしました。その際、27行の金融機関を訪問して、お得意様のBCPの作成のサポートをお願いしました。結論は仙台や静岡など地震災害が身近な地区の金融機関以外は、「総論においては賛成ですが、そのために人と費用を掛けても収益には寄与しないので。」と消極的でした。
東日本大震災後の金融機関の損益状況は、例えば仙台の七十七銀行の有価証券報告書を見ますと、平成23年3月期連結で下記のように報告されています。
〇災害による損失 50,687百万円 当期純損失 30,458百万円。
「災害による損失」には、貸倒引当金繰入額48,847百万円及び固定資産関連損失1,023百万円(うち災害損失引当金繰入額848百万円、固定資産処分損170百万円)を含む。
七十七銀行には、先の「中小企業BCP策定運用指針」普及セミナーの際、平成19年3月にお伺いしました。宮城県は頻繁に地震が発生する地域なので、七十七銀行はBCPに対しては最も理解が深く、またお得意様に対するサポートに最も熱心な銀行の一つでした。それでも490億円と言う多額の貸倒引当金を積むことになりました。しかし、日頃からのBCPのサポートがあるので、実際に貸倒れになる確率は低くなっている筈だと私は信じています。
「中小企業BCP策定運用指針」策定に関与していた当時、『金融庁の検査マニュアルに「お得意様に対するBCPサポート」の項目を入れたら立ちどころに「中小企業のBCP」は普及すると思う。』と言う意見を述べたところ、ある方から「そんなことをしたら我が国の金融機関の貸出金債権は自然災害に対しウイークであるといことを国として世界に対して認めることになる。我が国金融機関の対外的信用を害することにもなる。」と窘められました。今回の東日本大震災が金融機関に与えた影響は、既に公表されている訳ですからその意見は最早通用しなくなっていると私は思います。
地震発生時には、貸出先顧客の被災により貸出金債権が毀損される結果の貸倒引当金繰入増が民間金融機関の損益悪化の主因となります。民間金融機関は事業継続体制の策定・整備を行っていますが、これはあくまで民間金融機関自身のことであって、取引先に対するBCP(事業継続計画)の策定支援は現在でもあまり行われていないと思われます。
私は民間金融機関が取引先、特に融資先に対し「BCP(含むキャッシュフロー対策)」のサポートを行うことにより、金融機関の資産の太宗をなす貸出金債権が地震等のリスクで毀損することを防止することが出来ますから、恰も製造業において工場の耐震化工事を行うのと同じことになると確信します。
以前、銀行系のコンサルタント会社で広島の自動車メーカーのリスクマネジメント体制確立の支援を行った際、オーストラリア出身のCFOがリスクマネジメントの責任者になると名乗り出られ、結局損害保険担当の総務部門担当役員が責任者になられました。欧米ではリスクマネジメントやBCPの実践にあたって、キャッシュフロー対策は当然の前提になっていてCFOが中心となっているからだと思いました。
「中小企業BCP策定運用指針」策定当時、『「アメリカのBCPの指針」には「キャッシュフロー対策」なんか入っていない。そんなものを入れるのは可笑しい。』と言われた方もいました。私はアメリカでは「キャッシュフロー対策」は当然の前提になっていてわざわざ書く事ではないことだと思っているのですが,如何でしょうか。
『企業のリスクマネジメントと金融機関の役割・キャッシュフローに着目した支援が不可欠に(金融財政事情・平成12年)』、『金融機関は損害の財務的処理の重要性を認識すべし(金融財政事情・平成13年)』と主張してから13年経ちましたが、私の意見はなかなか金融機関に普及しません。
次回から「財務診断モデル」の中身をご説明致します。
続きを読む »
陸前高田市・今泉天満宮の杉 樹木の生命力
2014年3月20日木曜日 | ラベル: |
〇震災前の高田松原
陸前高田市の白砂青松の高田松原は、平成23年3月11日の大津波で壊滅しました。ただ一本残った「奇跡の一本松」はその後枯死し、保存工事がなされました。
〇奇跡の一本松(保存工事後)
同じ陸前高田市気仙町に鎮座する今泉天満宮(荒木眞幸宮司)は、樹齢約800年と言われる御神木「天神の大杉」のみを残し、跡形もなく流失してしまいました。私はご縁があって、「今泉天満宮の再建を支援する会」のお手伝いをしています。3月12日の会議で嬉しいご報告がありました。
御神木「天神の大杉」も「奇跡の一本松」同様、その後枯死したと思われていました。ところが昨年根元から新しい芽が生えて来ました。
当初は草刈の際誤って何本かは刈ってしまったとのことですが、その後新芽と判り、現在は写真のように大きく伸びています。杉の木の根は生きていたわけで、古木の生命力には驚く他ありません。「今泉天満宮の再建を支援する会」会長の池上信夫様は園芸の専門家ですが、「奇跡としか言いようがない」と仰っていました。社殿の復興に希望を与える出来事だと痛感します。
天満宮には菅原道真公が祀られています。住友銀行亀戸支店勤務時代「亀戸天神」はお得意様でした。当時お正月には休日出勤してお賽銭の整理に当たっていました。
「亀戸天神」は太宰府天満宮の東国一の宮です。亀戸天神の神主様からは、「太宰府天満宮は菅公(菅原道真公)の没後、そのご遺徳を偲んで建立されたお宮です。京都の北野天満宮は菅公の没後、京都でしきりに天変地異が起こり、疫病が流行ったため人々は<これは菅公の祟りである>と考え,菅公の霊を鎮めるために建立されたものです。両社は建立の趣旨が全く異なっています。」と言われていました。国宝「北野天神縁起」に天変地異や疫病のことが描かれています
もし良かったら、三井住友銀行本店営業部 普通預金 2505973 「今泉天満宮の再建を支援する会」に一口1,000円からのご支援をお願い申し上げます。
「今泉天満宮の再建を支援する会」HP
http://imaizumitenmangu-sien.net/
古木の話を続けます。
〇薄墨の桜
「薄墨の桜」は岐阜県根尾(現本巣市)にある樹齢1500年と推定される古木です。私は住友銀行岐阜支店在勤当時、1回だけ桜を見ることが出来ました。「淡墨の桜」は蕾のときは薄いピンク、満開時には白色、散りぎわには特異の淡い墨色になります。「淡墨の桜」の名前はこの散りぎわの花びらの色から来ています。気高い品のある桜でした。
近年では老化が著しく、樹木医や地元の人々の手厚い看護によって守られています。作家の宇野千代さんがその保護を訴えて活動されたこともよく知られ、作品「薄墨の桜」が有名です。
〇荘川桜
岐阜県御母衣ダムの湖畔に立っている2本の巨桜は、樹齢450余年といわれています。湖底に沈む地区の照蓮寺および光輪寺の境内にあった桜です。昭和34年、ダム建設中のこの地を訪れた電源開発(J-POWER)初代総裁高碕達之助氏は、この巨桜が湖底に沈むのを惜しみ、「桜博士」と言われた桜研究家の第一人者、故笹部新太郎氏に依頼し移植が実行されました。多くの専門家をして、「不可能」といわしめた世界に例を見ない大規模な移植工事は昭和35年12月に完了し、「荘川桜」と名付けられ今も咲き誇っています。私は「荘川桜」も岐阜在勤当時1回だけ見ることが出来ました。
余談ですが、佐藤 良二(さとう りょうじ、1929年8月3日 - 1977年1月25日)さんという方は、名古屋市から金沢市までを結ぶ名金急行線の路線沿いに桜を植え続けた、旧国鉄バスの車掌さんです。御母衣ダム建設に伴い、水没地区にある桜の木の移植を撮影記録することを依頼され、その後、名金急行線の路線沿いに移植された荘川桜が再び開花したことに感銘を受け、1966年頃より名金急行線の道路沿いに桜を植え始め、以後、余暇を苗木の手入れや植樹に費やし、生涯に約2,000本の桜を植えたと言われています。
このブログの第1回は「バラとリスクマネジメント」です。私は植物が好きで、今も狭い庭にはアメリカ花水木1本以外は全てバラを植えています。このところの暖かさでバラの赤い芽が日に日に大きくなっていきます。キザな台詞ですが「春の足音」が目に見えて、一年中で一番心温まる季節です。
次回からは、又本題に戻ります。
続きを読む »
「リスクとキャッシュフロー」について ㉑
2014年3月10日月曜日 | ラベル: BCP, キャッシュフロー, リスクマネジメント |
10.中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」
大震災に備える対策について考えてみましょう。例えば、製造業の場合、地震が発生したら工場が損壊・,生産がストップし、売上がゼロになります。生産がストップする期間は自社の工場の復旧期間とインフラの復旧期間の長い方で決まります。そして、工場の復旧費用と、生産がストップした期間の損害により発生するキャッシュフローの悪化に対する対策が必要になります。事故・災害に備え,企業は事業の継続のために色々な対策を講じます。地震,津波、風水害,火山の噴火など自然災害の発生を防ぐことは出来ません。企業に出来ることは自然災害の被害を極小化する対策・事業を継続する対策、そして最後はキャッシュフロー対策です。
地震に備え、地震保険に加入するのが通常の対策です。しかし、東日本大震災後、平成23年5月20日の朝日新聞は「損害保険の大手3社(東京火災日動・三井住友・損保ジャパン)が企業向けの地震保険特約*1の新規募集を停止し、すでに加入している顧客からの保険拡充の要望も断っている。」と報じました。これは一時的なことだったと思いますが、もともと我が国では中小企業は地震保険が付け難く現状も困難な状況にあると思います。更に、地震による生産のストップ(事業中断)の損害を補填する保険(地震利益保険)を付保することは極めて困難です
*1:通常企業の地震保険は火災保険契約の特約の形で付保されます。
一方、自然災害による企業の損害を政府は補償するのでしょうか。阪神淡路大震災の時、兵庫県議会で「地震による中小企業の被害を国や県は救済出来ないのか。」と言う質問がありましたが、「資本主義社会だから特定の企業に国費や県費を出すことは出来ない。長期低利融資で助ける。利息は出来るだけ補給するのが限度だ。」という答が述べられました。今回の東日本大震災による、企業の損害についても同様で、今後とも、政府や地方自治体の支援は金融支援が中心であり、最も重要な部分になると思います。
2005年6月、中小企業庁の「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」策定作業が開始された際、既に内閣府の「事業継続ガイドライン」(2005年8月1日公表)の作業がかなり進行していました。従って、その時点で中小企業向けに重ねて新しい「BCP(事業継続)ガイドライン」を作る必要があるのかと言う議論が生じました。
中小企業庁は、「政府の中小企業災害対策は、災害発生後の対策は既に相当充実しているが、災害発生前の対策は未だ手つかずの状態である。中小企業庁としては、現行の中小企業災害対策の空白部部分である事前対策を確立することにより中小企業災害対策を完成させることが‹中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針≻を新たに作成する目的である。」従って中小企業のために別途BCPの指針を策定する必要があると明確に考えておられました。私はご縁があって、「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」の策定に当たり有識者会議のメンバーを勤めました。
「政府の中小企業災害対策」→「災害復旧貸付制度」の有効活用のための事前対策の確立が目的なので、「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」には「財務診断モデル」という災害時のキャッシュフロー対策が詳述されています。これが「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」の一つの大きな特徴になっています。
既に何回も引用していますが、自然災害発生時のキャッシュフロー対策の基本的な考え方について、世界銀行のレポートは「保険と緊急時災害融資と自己資金の最適な組合せが、企業のリスクファイナンス戦略である。」と言っています。
地震発生時のキャッシュフロー対策については、地震保険は中小企業の場合は頼りになりません。自己資金については、中小企業庁の「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」の「財務診断モデル(キャッシュフロー対策)」では、緊急時に備え、平素から「月商の1ヶ月分くらいの資金(現金・預金)を用意しておく」ことを勧めています。これは流動性リスクに対する経験則です。しかし、自己資金の保有は中小企業の場合は限度があります。
災害発生直後は、工場や事務所の整備、事業再開への対応等で資金の手当てを考える暇などありません。事業はストップしたままです。最低1ヶ月くらいの出費を賄えるだけの資金を持っていれば、当面の対策を樹てる時間が出来ます。厳密に言えば、人件費・家賃等売上の有無に関係なく支出される費用(固定費)の1ヶ月分が最低必要なのですが、災害時の不時の出費等も考えて、売上の1ヶ月分と言っている訳です。災害発生後、1ヶ月くらいの間に事業の継続やその後のキャッシュフロー対策を講ずることが現実的な手段になると言う考えです。
2004年3月期のソニー㈱のアニュアルレポートには、「流動性マネジメントおよびコミットメントライン」と言う項目がありました。その記述は下記です。
ソニー㈱も月商の1カ月分ぐらいの手元資金をもつことを基本方針に掲げていました。残念ながらその後のソニー㈱の業況の変化で、現在はこの記述は削除されています。
中小企業庁の考え方からも、世界銀行の考え方からも、結局「緊急時災害融資」→「政府の災害復旧貸付制度」を活用することが、我が国では最も有効なキャッシュフロー対策になります。
2006年(平成18年)2月「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」が公表されました。2007年度から2009年度の3年間普及活動が行われ、全国で「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」の普及セミナーが開催されました。私はキャッシュフロー対策の部分を担当し、北は札幌から南は福岡まで各地に行きました。現在は地道な普及活動の時代です。中小企業に普及させるのは至難の技だと痛感します。
中小企業庁のホームページに「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」が掲載されています。覗いて見て下さい。
http://www.chusho.meti.go.jp/bcp/
「東日本大震災後の資金繰り支援策の実施状況」も発表されています。
http://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/shikinguri/earthquake2011/2014/1gatu.htm
今年1月末の支援件数は914,364件・金額は16兆9,652億円です。
東日本大震災の被害額は約16.9兆円と言われていますから、それと同額以上の資金支援が全国の中小企業に対して行われています。従来は資金支援に当たり地域を限定するのが普通でした。今回は「措置の対象は‹全国≻」となったため、直接被害を受けた中小企業だけでなく、例えば船橋市における地盤液状化による損害も措置の対象になるなど大きな効果を挙げています。
次回からは「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」のキャッシュフロー対策をご紹介致します。
続きを読む »
大震災に備える対策について考えてみましょう。例えば、製造業の場合、地震が発生したら工場が損壊・,生産がストップし、売上がゼロになります。生産がストップする期間は自社の工場の復旧期間とインフラの復旧期間の長い方で決まります。そして、工場の復旧費用と、生産がストップした期間の損害により発生するキャッシュフローの悪化に対する対策が必要になります。事故・災害に備え,企業は事業の継続のために色々な対策を講じます。地震,津波、風水害,火山の噴火など自然災害の発生を防ぐことは出来ません。企業に出来ることは自然災害の被害を極小化する対策・事業を継続する対策、そして最後はキャッシュフロー対策です。
地震に備え、地震保険に加入するのが通常の対策です。しかし、東日本大震災後、平成23年5月20日の朝日新聞は「損害保険の大手3社(東京火災日動・三井住友・損保ジャパン)が企業向けの地震保険特約*1の新規募集を停止し、すでに加入している顧客からの保険拡充の要望も断っている。」と報じました。これは一時的なことだったと思いますが、もともと我が国では中小企業は地震保険が付け難く現状も困難な状況にあると思います。更に、地震による生産のストップ(事業中断)の損害を補填する保険(地震利益保険)を付保することは極めて困難です
*1:通常企業の地震保険は火災保険契約の特約の形で付保されます。
一方、自然災害による企業の損害を政府は補償するのでしょうか。阪神淡路大震災の時、兵庫県議会で「地震による中小企業の被害を国や県は救済出来ないのか。」と言う質問がありましたが、「資本主義社会だから特定の企業に国費や県費を出すことは出来ない。長期低利融資で助ける。利息は出来るだけ補給するのが限度だ。」という答が述べられました。今回の東日本大震災による、企業の損害についても同様で、今後とも、政府や地方自治体の支援は金融支援が中心であり、最も重要な部分になると思います。
2005年6月、中小企業庁の「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」策定作業が開始された際、既に内閣府の「事業継続ガイドライン」(2005年8月1日公表)の作業がかなり進行していました。従って、その時点で中小企業向けに重ねて新しい「BCP(事業継続)ガイドライン」を作る必要があるのかと言う議論が生じました。
中小企業庁は、「政府の中小企業災害対策は、災害発生後の対策は既に相当充実しているが、災害発生前の対策は未だ手つかずの状態である。中小企業庁としては、現行の中小企業災害対策の空白部部分である事前対策を確立することにより中小企業災害対策を完成させることが‹中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針≻を新たに作成する目的である。」従って中小企業のために別途BCPの指針を策定する必要があると明確に考えておられました。私はご縁があって、「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」の策定に当たり有識者会議のメンバーを勤めました。
「政府の中小企業災害対策」→「災害復旧貸付制度」の有効活用のための事前対策の確立が目的なので、「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」には「財務診断モデル」という災害時のキャッシュフロー対策が詳述されています。これが「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」の一つの大きな特徴になっています。
既に何回も引用していますが、自然災害発生時のキャッシュフロー対策の基本的な考え方について、世界銀行のレポートは「保険と緊急時災害融資と自己資金の最適な組合せが、企業のリスクファイナンス戦略である。」と言っています。
地震発生時のキャッシュフロー対策については、地震保険は中小企業の場合は頼りになりません。自己資金については、中小企業庁の「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」の「財務診断モデル(キャッシュフロー対策)」では、緊急時に備え、平素から「月商の1ヶ月分くらいの資金(現金・預金)を用意しておく」ことを勧めています。これは流動性リスクに対する経験則です。しかし、自己資金の保有は中小企業の場合は限度があります。
災害発生直後は、工場や事務所の整備、事業再開への対応等で資金の手当てを考える暇などありません。事業はストップしたままです。最低1ヶ月くらいの出費を賄えるだけの資金を持っていれば、当面の対策を樹てる時間が出来ます。厳密に言えば、人件費・家賃等売上の有無に関係なく支出される費用(固定費)の1ヶ月分が最低必要なのですが、災害時の不時の出費等も考えて、売上の1ヶ月分と言っている訳です。災害発生後、1ヶ月くらいの間に事業の継続やその後のキャッシュフロー対策を講ずることが現実的な手段になると言う考えです。
2004年3月期のソニー㈱のアニュアルレポートには、「流動性マネジメントおよびコミットメントライン」と言う項目がありました。その記述は下記です。
ソニーは手元流動性の範囲を(a)現金・預金および現金同等物、定期預金と(b)銀行との間で設定されるコミットメントラインの内ムーディーズによる財務格付け‛c’以上の銀行と締結したものと定義しています。その上でソニーは流動性の確保のために、グループ全体で、年度における平均月次売上高および予想される最大月次借入債務返済額の合計の100%以上に相当する手元流動性を維持することを基本方針としています。
ソニー㈱も月商の1カ月分ぐらいの手元資金をもつことを基本方針に掲げていました。残念ながらその後のソニー㈱の業況の変化で、現在はこの記述は削除されています。
中小企業庁の考え方からも、世界銀行の考え方からも、結局「緊急時災害融資」→「政府の災害復旧貸付制度」を活用することが、我が国では最も有効なキャッシュフロー対策になります。
2006年(平成18年)2月「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」が公表されました。2007年度から2009年度の3年間普及活動が行われ、全国で「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」の普及セミナーが開催されました。私はキャッシュフロー対策の部分を担当し、北は札幌から南は福岡まで各地に行きました。現在は地道な普及活動の時代です。中小企業に普及させるのは至難の技だと痛感します。
中小企業庁のホームページに「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」が掲載されています。覗いて見て下さい。
http://www.chusho.meti.go.jp/bcp/
「東日本大震災後の資金繰り支援策の実施状況」も発表されています。
http://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/shikinguri/earthquake2011/2014/1gatu.htm
今年1月末の支援件数は914,364件・金額は16兆9,652億円です。
東日本大震災の被害額は約16.9兆円と言われていますから、それと同額以上の資金支援が全国の中小企業に対して行われています。従来は資金支援に当たり地域を限定するのが普通でした。今回は「措置の対象は‹全国≻」となったため、直接被害を受けた中小企業だけでなく、例えば船橋市における地盤液状化による損害も措置の対象になるなど大きな効果を挙げています。
次回からは「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」のキャッシュフロー対策をご紹介致します。
続きを読む »
「リスクとキャッシュフロー」について ⑳
2014年3月1日土曜日 | ラベル: キャッシュフロー, リスクマネジメント, 企業経営 |
〇演奏会のポスターより
2月24日(月)東京文化会館小ホールで行われた、二期会会員で2013年の第56回NHKニューイヤーオペラコンサートでカルメンのホセ役で歌われた大澤一彰さんの初めての独演会を聞きに行きました。大澤さんは東京芸大卒業後ローマで研鑽を積み、180センチを越える恵まれた体躯と日本人離れした高音で聴衆を魅了します。
アンコールでは拍手が鳴りやまず何曲も歌われました。アンコールを重ねるごとに更に盛り上がる拍手・ブラヴォーの声、私の80年の生涯で初めて体験した熱狂的なコンサートでした。26日の夕方大澤さんご夫妻からお礼のお電話を頂き、感激を新たにしました。2013年6月10日の「アンネ=ゾフィー・ムターさんのサイン」でも書きましたが、この歳になっても音楽に感動出来るのは、誠に幸せなことだと痛感します。
9.企業におけるキャッシュフローの悪化と金融機関の役割について ②
一昨年の初頭、或る友人から、親しくしている営業担当専務の方の勤務する企業の業績が悪化しているので、アドバイスをして欲しいと頼まれました。大阪の商社でしたが、業績が悪化して取引銀行から「リスケ*1」をしたらと言われていました。
*1:「リスケ」とは「リスケジュール」の略。企業の業績が悪化し、毎月の融資の返済が困難になった際、銀行に依頼して、毎月の元金返済を少なくしてもらったり、元利金の返済を猶予してもらったりすること。
「リスケ」は通常は企業から銀行に頼むものですが、この会社の場合はメインバンクの支店長さんから勧められていました。この会社の悩みは「粉飾決算」と「融通手形*2」でした。「どうしましょうか。」と相談を受けましたが、「リスケをするに際し、銀行は企業の内容を調査します。隠していても表れると思います。正直に白状して銀行の出方を見守るしかないでしょう。」と答えました。
*2:決済を必要とする現実の商取引がないにもかかわらず、振り出される手形。一方的またはお互いに手形を発行し、その手形を銀行で割り引いて貰うことにより、一時的に資金調達が出来る。
巨額の粉飾、巨額の融通手形の存在を銀行に白状した後、結局銀行の指示で営業権を或る商社に売却し、その企業は民事再生手続に入りました。
営業担当専務は代表取締役として取引銀行に対する連帯保証債務の履行請求と、担当取引先に対する融通手形の発行に関与したとして会社側から損害賠償の請求を受け、その金額は合計十数億円に達しました。銀行・会社側の弁護士からは「自己破産(自分で破産手続きに入る)しかないですよ。」と迫られ窮地に陥りました。
営業担当専務は粉飾決算については,蚊帳の外でした。融通手形については、確かに当初先方の資金繰りのために依頼を受け会社に取次いだのですが、その後会社側も自社の資金繰りのため相互に手形を発行し、金額が大きくなっていったので、ある段階で「これ以上の増大は会社が危殆に瀕する」と役員会で反対したにも拘らず押し切られています。その時点で事態を明らかにしたら、会社自体が破綻するとの判断で押し切られたわけで、法的には責任は免れません。然し,永年勤務した会社から訴えられ、自己破産を迫られ本当にお気の毒でした。
私は大学のゼミの後輩の有能な弁護士に助けを求め、彼は犠牲的な料金で相談に乗ってくれて、種々折衝の結果、結局債権者側から破産の申し立てがなされ(費用負担の点で大差があります。)彼は私財を吐き出して、2月上旬に免責が確定しました。この間彼に「癌」が発見されるなど、心身ともに大変だった2年間を強い意思で乗り切ったことは凄いことだと思います。
重ねて言いますが、法的には請求手続に全く問題は無く、責任は免れません。しかし銀行の代理人である弁護士が、法的には殆ど無知である役員を追い詰め、冷酷に取り立てる状況は、古い銀行員としては耐え難い思いがしました。血も涙も無いベニスの商人の「シャイロック」です。私の考えは古いとは重々思いますが、その会社も業績が順調な時代は良いお得意様だった筈です。銀行は、お得意様の気持を少しは考えたらとつくづく思いました。
京橋の元全国信用金庫連合会の建物の横に、城南信用金庫理事長だった小原鐵五郎氏の胸像があります。私がまだ旧住友銀行員だった1983年に小原氏は「私の体験的経営論・貸すも親切貸さぬも親切」(東洋経済新報社)を上梓されました。そのなかで、
「もともと庶民金融は担保が十分あるから貸そう、利息も元金も取りはぐれがなさそうだから貸そうというものではないはずである。その人が手がけようとしている仕事がうまくいくかいかないか、どうすればうまくいくかを相手の身になって親切に考えてそのうえでおカネを貸すようにしなければ、本当の金融にはならない。考えてみて、どうもまずいと思った時には、どんないい担保があっても〃これはおやめになったらどうです。〃と説得する。(中略)リスクは当然ある。借り手が一所懸命やっても、景気やめぐり合わせでどうしようもない貸倒れも出てくる。しかしそれはやむをえない。貸倒れはないに越したことはないが、それをおそれて安全安全といって自分が損しないことばかり考えていたのでは、本当の生きた中小企業金融はできない。(50-51ページ)」と書かれています。私が現職の時代大いに考えさせられた言葉です。
下記は、レイモンド・チャンドラーの「プレイバック」の中で、私立探偵のフィリップ・マーロウと一夜を共にした女主人公が「あなたのようなしっかりした男がどうしてそんなに優しくなれるの。」と訪ねた時の有名な台詞です。
If I wasn’t hard、I wouldn’t be alive
If I culdn’t ever gentle、I wouldn’t to be alive
「しっかりしていなかったら生きていられない。優しくなれなかったら生きている資格がない」(清水俊二訳・早川書房)
企業を診るには冷徹な判断が必要です。しかし小原氏も言っておられるように「どうすればうまくいくかを相手の身になって親切に考えて」対処すべきです。上記のセリフと小原氏の考えには相通じるものがあります。
私は現職時代、決してうまくやっていたとは思いませんが、こうした気持でお得意様と接し色々な問題を解決していくことが大切だと思っていました。
企業のキャッシュフローは、企業活動の結果です。メインバンクは平素から企業の活動の状況を見て、問題点をアドバイスし、健全な経営が行われるようにしていれば、貸倒のリスクは減少します。与信管理です。
2013年8月20日に書きましたように、旧住友銀行では、後に朝日監査法人理事長、日本公認会計士協会会長になられた小澤修冶氏の経営分析論『一般には「経営分析」の意味するところは、貸借対照表・損益計算書、その他財務諸表によって会社の資産内容などを分析してその適否・欠陥・傾向などを発見する方法である。』『「会社分析」と題した所以は、財務諸表の計数の分析にとどまらず、貨幣価値をもって表現出来ない外的な経済環境とその変化、内的な経営の人的要素とその運営管理を含めて会社の実態を認識すべきである。』という考えに基づき、定量的な分析に加え定性的な分析を加味した経営分析を行っていました。
現在コンピューター・システムの発達により金融機関の担当者は定量的な分析作業をしなくても、コンピューター・システムがやってくれていると思います。そこに定性的な分析を加えるえることによって、効率的に与信管理が出来る状況が整備されているにも拘らず、今の金融機関では定性的な分析がおろそかになっているのではないかと私は思います。敢えて言わせて頂ければ、バブル期の不動産担保重視の貸出時代を経て、更にコンピューター・システムの発達が金融機関における定性的な分析能力を失わせたのではないかとさえ思います。効率の問題もあり、そんなことを考えている暇は無いのかも知れませんが、銀行員がそういった能力を持つことが効率に影響するのか。
また、相手の身になって考えることが,与信管理上プラスになる場合もある私は確信します。
続きを読む »
「リスクとキャッシュフロー」について ⑲
2014年2月20日木曜日 | ラベル: キャッシュフロー, リスクマネジメント, 企業経営 |
2月14日(金)関東地区2度目の大雪の日、経済産業省別館のセミナー室で行われたBBLセミナー*1で、熊本県商工観光労働部観光経済交流局 くまもとブランド推進課 課長 成尾雅貴様の「くまモンにみる熊本県のブランド戦略」というお話をお聞きし、「くまモン」と握手をして来ました。
くまモン オフィシャルHP https://kumamon-official.jp/ より
2011年3月の九州新幹線全線開通をきっかけに生まれ、「ゆるキャラグランプリ」を獲得した「くまモン」が、如何にして人気者になれたのかについては『①トップ(知事)の理解と支援、②くまモンの弛まぬ努力③軽快な動き・豊かな表現力④新旧メディアを最大限に活用⑤いつもサプライズを忘れないこと。』だと言われました。
地方の活性化のため色々な試みがなされ、各地で多くの「ゆるキャラ」が活動していますが、尋常一様のことでは上手くいかないのだと思いました。「くまモン」の事例には大変感銘しました。もうすぐ、BBLセミナーのHPに当日の資料がアップされると思いますので是非ご覧下さい。
*1:BBLセミナー (経済産業研究所のHPより)
米国の大学や研究機関では、先生、学生たちの間でBrown Bag Lunch Meetingというものが頻繁に行われています。(自分の昼食を茶色の紙袋に入れて集まるところから、この名前がついたそうです。) BBL(Brown Bag Lunch Seminar Series)とは、ワシントンのマサチューセッツアべニューにあるシンクタンクで日夜繰り広げられているような政策論争の場を日本にも移植し、policy marketを作りたいという思いで、当研究所が企画しているブレインストーミングセッションです。
国内外の識者を招き、様々な政策について、政策実務者、アカデミア、産業界、ジャーナリスト、外交官らとのディスカッションを行っています。会場スペースの制約もあり、現状では非公開としておりますが、これまでに行われたセミナーの概要や配付資料、今後の開催予定等は、こちらでご覧頂けます。
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/
9.企業におけるキャッシュフローの悪化と金融機関の役割について ①
2011年6月10日(金曜日)・2013年7月20日(土曜日)のブログで触れた経済産業省の「リスクファイナンス研究会報告書*2」には、
『わが国では、メインバンクは、最大の貸出しシェアを占める債権者として、また長期安定的な株主として、企業が災害や事故等により一時的に業績が悪化しても、長期的視野に立ち、事業活動の継続や相応の収益性が見込まれる場合には、(中略)メインバンクは融資先企業のリスクファイナンスをサポートする機能を提供してきたといえる。
しかし、企業の財務状況、金融環境の変化により、メインバンク制は次第に弱まってきており、企業がデフォルト(倒産)した際にメインバンクが被る損失も相対的に小さくなってきている。このためメインバンクによる企業救済のインセンティブは低下している可能性がある。「いざという時は、メインバンクに資金を手当てしてもらえる」と考えている企業も数多く見られるが、これまで提供されてきたメインバンクによるリスクファイナンス機能は、その提供される度合いや実現性が低下してきている点に留意する必要がある。』と記述されています。
事故や自然災害は企業のキャッシュフローを悪化させます。私が旧住友銀行に勤務していた時代は、私どもの銀行も融資先企業のリスクファイナンスをサポートしていました。
私の旧住友銀行における後輩は安宅産業の救済にあたり、アメリカでその業務に従事していました。当時彼はアメリカのバンカー達から「どうして住友銀行はそこまで企業を助けるのか。」と言われたと言っていました。2013年8月1日(木曜日)のブログに書きましたように,CSR(企業の社会的責任)の議論がまだあまり行われていなかった1970年代後半に、『安宅産業の破綻は日本の商社全般に対する国際信用の失墜と、日本の銀行に対する国際的な信用不安を齎し「第二の昭和恐慌」の引き金になるかも知れないから、安宅産業の破綻は日本経済のために絶対に避けなければならない。』と言う考えで、メインバンクとしての公共的使命を果たすべく、多額の負担の下に安宅産業の救済を行った事は評価されるべきことだったと私は今でも思います。
1978年10月第1次オイルショックの結果、原油価格が高騰し、アメリカにおけるロータリーエンジン車が売れなくなり、マツダが危機に陥った際、マツダが破綻すれば広島地区の経済が破綻するという事態を救済するため、メインバンクの旧住友銀行・サブメインの旧協和銀行などが支援をしました。資金支援・人材派遣に加え、支店長車を全面的にマツダの「ルーチェ」にした時私は亀戸支店長でした。他行の支店長車のトヨタ・クラウンや日産・セドリックなどに比べ,遥かに小さな車に乗っていました。
1980年代の後半「アサヒビール」の市場占有率が10%を割り「夕日ビール」と揶揄されていたころ、メインバンクの旧住友銀行従業員は、本体の資金支援・人材派遣に加え、支店における接待・会合や自宅での晩酌でも一生懸命「アサヒビール」を飲んでいました。
現在の、東京電力、オリンパス、シャープ等の経営危機におけるメインバンクの対応と比べて、当時のメインバンクの対応の著しい違いは、「メインバンクの公共的使命に徹し、メインバンの責任と犠牲において企業の救済を主導し」全社を挙げて努力をしいていたと言う点だと思います。
「リスクファイナンス報告書」の『これまで提供されてきたメインバンクによるリスクファイナンス機能は、その提供される度合いや実現性が低下してきている点に留意する必要がある。』と言うことは、場合によっては取引をしている金融機関に取って「貸倒れリスクの増加に繋がっている部分」もあるのではないかと古い銀行員である私は思います。
*2:経済産業省「リスクファイナンス研究会報告書」
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1009715
世界銀行のレポートは、リスク発生時の資金繰り対策では、「自己資金+保険+災害復旧融資」のベスト・ミックスが大切であると論じています。
地震の発生により、金融機関本支店の建物・機械等が毀損され、固定資産関連の損失が発生します。従業員に死傷者も生じ、一部の店部では営業の継続が困難となりますが、更に貸出先顧客の被災により貸出金債権が毀損されます。その結果、貸倒引当金が増加します。
東日本大震災後の金融機関の損益状況を、東北地区の地方銀行の有価証券報告書で見ますと、平成23年3月期連結で、例えば下記のように報告されています。
・A銀行 災害による損失 50,687百万円 当期純損失 30,458百万円。
「災害による損失」には、貸倒引当金繰入額48,847百万円及び固定資産関連損失1,023百万円(うち災害損失引当金繰入額848百万円、固定資産処分損170百万円)を含む。
・B銀行 その他の特別損失 6,919百万円 当期純利益 1,109百万円。
東日本大震災による与信費用6,075百万円及び震災関連のその他費用807百万円を含む。
貸倒引当金繰入額5,100百万円及び固定資産関連費用84百万円を含んでおります。
・C銀行 貸倒引当金繰入額2,898百万円及び減損損失113百万円を含む。
当期純損失 4,834百万円
・D銀行 災害による損失 15億円 当期純損失 10億円。
貸倒引当金繰入額1,457百万円及び固定資産関連損失74百万円。
即ち、貸出先顧客の被災により貸出金債権が毀損された結果の貸倒引当金繰入増が民間金融機関の損益悪化の主因となります。
民間金融機関が融資先に対し「BCP(含むキャッシュフロー対策)」のサポートを行えば、金融機関の資産の太宗をなす貸出金債権が地震等のリスクで毀損することを防止することが出来ると私は思います。
企業におけるキャッシュフローの悪化と金融機関の役割について、古い銀行員の感想を次回も書きたいと思います。
続きを読む »
くまモン オフィシャルHP https://kumamon-official.jp/ より
2011年3月の九州新幹線全線開通をきっかけに生まれ、「ゆるキャラグランプリ」を獲得した「くまモン」が、如何にして人気者になれたのかについては『①トップ(知事)の理解と支援、②くまモンの弛まぬ努力③軽快な動き・豊かな表現力④新旧メディアを最大限に活用⑤いつもサプライズを忘れないこと。』だと言われました。
地方の活性化のため色々な試みがなされ、各地で多くの「ゆるキャラ」が活動していますが、尋常一様のことでは上手くいかないのだと思いました。「くまモン」の事例には大変感銘しました。もうすぐ、BBLセミナーのHPに当日の資料がアップされると思いますので是非ご覧下さい。
*1:BBLセミナー (経済産業研究所のHPより)
米国の大学や研究機関では、先生、学生たちの間でBrown Bag Lunch Meetingというものが頻繁に行われています。(自分の昼食を茶色の紙袋に入れて集まるところから、この名前がついたそうです。) BBL(Brown Bag Lunch Seminar Series)とは、ワシントンのマサチューセッツアべニューにあるシンクタンクで日夜繰り広げられているような政策論争の場を日本にも移植し、policy marketを作りたいという思いで、当研究所が企画しているブレインストーミングセッションです。
国内外の識者を招き、様々な政策について、政策実務者、アカデミア、産業界、ジャーナリスト、外交官らとのディスカッションを行っています。会場スペースの制約もあり、現状では非公開としておりますが、これまでに行われたセミナーの概要や配付資料、今後の開催予定等は、こちらでご覧頂けます。
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/
9.企業におけるキャッシュフローの悪化と金融機関の役割について ①
2011年6月10日(金曜日)・2013年7月20日(土曜日)のブログで触れた経済産業省の「リスクファイナンス研究会報告書*2」には、
『わが国では、メインバンクは、最大の貸出しシェアを占める債権者として、また長期安定的な株主として、企業が災害や事故等により一時的に業績が悪化しても、長期的視野に立ち、事業活動の継続や相応の収益性が見込まれる場合には、(中略)メインバンクは融資先企業のリスクファイナンスをサポートする機能を提供してきたといえる。
しかし、企業の財務状況、金融環境の変化により、メインバンク制は次第に弱まってきており、企業がデフォルト(倒産)した際にメインバンクが被る損失も相対的に小さくなってきている。このためメインバンクによる企業救済のインセンティブは低下している可能性がある。「いざという時は、メインバンクに資金を手当てしてもらえる」と考えている企業も数多く見られるが、これまで提供されてきたメインバンクによるリスクファイナンス機能は、その提供される度合いや実現性が低下してきている点に留意する必要がある。』と記述されています。
事故や自然災害は企業のキャッシュフローを悪化させます。私が旧住友銀行に勤務していた時代は、私どもの銀行も融資先企業のリスクファイナンスをサポートしていました。
私の旧住友銀行における後輩は安宅産業の救済にあたり、アメリカでその業務に従事していました。当時彼はアメリカのバンカー達から「どうして住友銀行はそこまで企業を助けるのか。」と言われたと言っていました。2013年8月1日(木曜日)のブログに書きましたように,CSR(企業の社会的責任)の議論がまだあまり行われていなかった1970年代後半に、『安宅産業の破綻は日本の商社全般に対する国際信用の失墜と、日本の銀行に対する国際的な信用不安を齎し「第二の昭和恐慌」の引き金になるかも知れないから、安宅産業の破綻は日本経済のために絶対に避けなければならない。』と言う考えで、メインバンクとしての公共的使命を果たすべく、多額の負担の下に安宅産業の救済を行った事は評価されるべきことだったと私は今でも思います。
1978年10月第1次オイルショックの結果、原油価格が高騰し、アメリカにおけるロータリーエンジン車が売れなくなり、マツダが危機に陥った際、マツダが破綻すれば広島地区の経済が破綻するという事態を救済するため、メインバンクの旧住友銀行・サブメインの旧協和銀行などが支援をしました。資金支援・人材派遣に加え、支店長車を全面的にマツダの「ルーチェ」にした時私は亀戸支店長でした。他行の支店長車のトヨタ・クラウンや日産・セドリックなどに比べ,遥かに小さな車に乗っていました。
1980年代の後半「アサヒビール」の市場占有率が10%を割り「夕日ビール」と揶揄されていたころ、メインバンクの旧住友銀行従業員は、本体の資金支援・人材派遣に加え、支店における接待・会合や自宅での晩酌でも一生懸命「アサヒビール」を飲んでいました。
現在の、東京電力、オリンパス、シャープ等の経営危機におけるメインバンクの対応と比べて、当時のメインバンクの対応の著しい違いは、「メインバンクの公共的使命に徹し、メインバンの責任と犠牲において企業の救済を主導し」全社を挙げて努力をしいていたと言う点だと思います。
「リスクファイナンス報告書」の『これまで提供されてきたメインバンクによるリスクファイナンス機能は、その提供される度合いや実現性が低下してきている点に留意する必要がある。』と言うことは、場合によっては取引をしている金融機関に取って「貸倒れリスクの増加に繋がっている部分」もあるのではないかと古い銀行員である私は思います。
*2:経済産業省「リスクファイナンス研究会報告書」
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1009715
世界銀行のレポートは、リスク発生時の資金繰り対策では、「自己資金+保険+災害復旧融資」のベスト・ミックスが大切であると論じています。
地震の発生により、金融機関本支店の建物・機械等が毀損され、固定資産関連の損失が発生します。従業員に死傷者も生じ、一部の店部では営業の継続が困難となりますが、更に貸出先顧客の被災により貸出金債権が毀損されます。その結果、貸倒引当金が増加します。
東日本大震災後の金融機関の損益状況を、東北地区の地方銀行の有価証券報告書で見ますと、平成23年3月期連結で、例えば下記のように報告されています。
・A銀行 災害による損失 50,687百万円 当期純損失 30,458百万円。
「災害による損失」には、貸倒引当金繰入額48,847百万円及び固定資産関連損失1,023百万円(うち災害損失引当金繰入額848百万円、固定資産処分損170百万円)を含む。
・B銀行 その他の特別損失 6,919百万円 当期純利益 1,109百万円。
東日本大震災による与信費用6,075百万円及び震災関連のその他費用807百万円を含む。
貸倒引当金繰入額5,100百万円及び固定資産関連費用84百万円を含んでおります。
・C銀行 貸倒引当金繰入額2,898百万円及び減損損失113百万円を含む。
当期純損失 4,834百万円
・D銀行 災害による損失 15億円 当期純損失 10億円。
貸倒引当金繰入額1,457百万円及び固定資産関連損失74百万円。
即ち、貸出先顧客の被災により貸出金債権が毀損された結果の貸倒引当金繰入増が民間金融機関の損益悪化の主因となります。
民間金融機関が融資先に対し「BCP(含むキャッシュフロー対策)」のサポートを行えば、金融機関の資産の太宗をなす貸出金債権が地震等のリスクで毀損することを防止することが出来ると私は思います。
企業におけるキャッシュフローの悪化と金融機関の役割について、古い銀行員の感想を次回も書きたいと思います。
続きを読む »
「リスクとキャッシュフロー」について ⑱
2014年2月10日月曜日 | ラベル: キャッシュフロー, リスクマネジメント, 企業経営 |
8.事故とキャッシュフロー悪化の事例
(2)雪印乳業 ③ 森永乳業の砒素ミルク事件との対比
平成12年(2000年)の中毒事故の45年前、昭和30年(1955年)3月にも雪印乳業は東京都で学校給食の粉乳の中毒事故を起こしています。その3ヶ月後昭和30年(1955年)5月から8月にかけて森永乳業のドライミルクに砒素が混入し、乳児128名が死亡、12,103名が被害を受けるという事故が発生しました。事故発生後の森永乳業の業績。売上の推移は下記の通リです。
〇損益計算書 (単位億円)
*更にその後後遺症に対する補償費用が発生している。
〇品目別販売実績 (単位 億円)
〇主要勘定科目増減
(単位 億円)
ドライミルク(扮乳)でこれだけの事故を起こしたのですから、扮乳の売上は激減するかと思いきや30%くらいしか減っていません。その他の品目の伸びもあって売上は4億円(4.4%)減、当期利益は1億円の増です。中毒事故の損失負担後も2億円の利益を計上しています。現在だったら128名の死者が出たら企業の存続は危殆に瀕していると思います。
当時の補償金は死亡者25万円・患者は一律2万円とされました。その後、後遺症に対する補償がなされています。
未だ「製造物責任法」が制定されていない時代のことです。人命の価値について非常に考えさせられます。こういった時代だったので、昭和30年の雪印乳業の事故の教訓が会社の中に残らなかったとも言えます。
(3)その他の企業の事故とキャッシュフロー悪化の事例
1)チッソの水俣病問題
2011年5月25日(水)のブログでチッソについて書きました。再度その要約です。
水俣病は、チッソ水俣工場の工場廃水に含まれて排出されたメチル水銀化合物が水俣湾内の魚貝類を汚染し、それを摂取した地域住民が発病したものです。昭和48年(1973年)に原因が確定し、その後チッソの水俣病の補償金が急増しました。
昭和48年(1973年)3月期(6ヶ月)チッソの売上高264億円、純利益7億円に対し、水俣病関係費用は66億円が計上されました。昭和53年(1978年)3月末には繰越欠損金は363億円に達し、期末自己資本は △276億円となり,上場廃止になりましたが、熊本県は県債を発行してチッソに補償費用の融資を行っていたので、水俣病の補償遂行のため 会社は存続しなければなりませんでした。)
平成17年(2005年)3月期は、売上高1147億円・経常利益78億円(水俣病補償損失45億円・公害防止事業負担金12億円)、期末繰越損失1509億円、長期借入金1420億円でした。年間売上高を上回る繰越損失、長期借入金(熊本県からの借入金)で、会社は実質死に体状態でした。
平成22年(2011年)3月期は売上2612億円、経常利益220億円、純利益105億円 (水俣病補償46億円)、長短借入金1881億円、純資産合計△807億円と状況は大分改善されて来ました。平成23年(2012年)3月末に分社化し、事業譲渡受会社はJNC㈱(チッソ子会社)、チッソ㈱は持株会社となり、従来同様補償を継続することになりました。原因確定から38年後のことです。
2)マツダの工場火災
平成16年(2004年)12月16日24時45分、主力工場の宇品第1工場から出火、塗装工程など8000平方メートルが焼失しました。
マツダ㈱は平成17年2月5日に平成17年年3月期の損益見通しを発表しました。そのなかで、昨年12月に広島の主力工場で発生した火災による損害は100億円超になると説明しています。 損害の内訳は、①火災で焼けた塗装設備・建物・半製品などの直接被害。②3万台の自動車の生産を取りやめる影響です。これが、キャッシュフローを悪化させます。
3)新潟三洋電子㈱の地震被害
公表されている新潟中越地震(平成16年)の三洋グループの被害です。
新潟三洋電子㈱の工場・機械が受けた直接的な被害額 184億円
在庫被害 46億円
復旧費用 270億円
復旧のための新たな設備投資 3億円
被害額合計 503億円
地震被害に起因した販売の機会損失 370億円
連結損益に与える影響 873億円
〇新潟中越地震が三洋電機のキヤッシュフローに与えた影響は、復旧費用+新たな設備投資+機会損失=643億円 となります。
(機会損失は新潟三洋電子だけでなく、本社、後工程の関係会社、販社分も含む連結べース。)
(4)「大阪アメ二ティパーク」の土壌汚染隠蔽
三菱マテリアル㈱・三菱地所㈱が三菱マテリアル㈱(旧三菱金属㈱)の精錬所跡に建設し平成13年(2001年)1月に完成したマンションで、平成14年ころより土壌汚染が問題化しました。平成16年11月には宅建業法違反で本社を捜索。平成17年3月には両社並びに両社役職員は宅建業法違反の疑いで書類送検されました。平成17年6月起訴猶予処分になりました。三菱マテリアル㈱西川会長・三菱地所㈱高木社長が引責辞任することで宅建業法違反による営業停止等の処分を免れたと言われています。
入居者(455所帯)に対する補償に関しては、平成17年5月に管理組合と確認書を締結し、①引き続き入居を希望する住民には購入額の25%を支払う。②売却希望者には不動産鑑定業者の示した金額で買取り、さらに別途鑑定価格の10%を補償する。ことになりました。
これによるキャッシュフローへの影響は公表されていませんが、本件支払いは75億円超と報道されていて企業の根幹を揺るがすほどのものではないと考えられます。然し、宅建業法違反で業務停止・営業停止等の処分を受ければ、企業の存続に関わる大問題となったかも知れない事例です。
続きを読む »
(2)雪印乳業 ③ 森永乳業の砒素ミルク事件との対比
平成12年(2000年)の中毒事故の45年前、昭和30年(1955年)3月にも雪印乳業は東京都で学校給食の粉乳の中毒事故を起こしています。その3ヶ月後昭和30年(1955年)5月から8月にかけて森永乳業のドライミルクに砒素が混入し、乳児128名が死亡、12,103名が被害を受けるという事故が発生しました。事故発生後の森永乳業の業績。売上の推移は下記の通リです。
〇損益計算書 (単位億円)
昭和30年度実績
|
昭和31年度実績
|
||
| (29.4.1-30.3.31) | (30.4.1-31.3.31) | 前年同期比 | |
| 売上高 | 91 | 87 | -4 |
| 売上総利益 (同上率) |
13 (14.3%) |
14 (16.1%) |
1 (1.8%) |
| 販売費・一般管理費 (同上率) |
8 (8.8%) |
9 (10.3%) |
1 ( 1 。5%) |
| 営業利益 (同上率) |
5 ( 5.5%) |
5 (5.7%) |
0 (0.2%) |
| 営業外収支 | ―2 | ―1 | 1 |
| 税引前当期純利益 (同上率) |
3 (3.3%) |
4 (4.6%) |
1 (1.3%) |
| 中毒事故損失 | 0 | 6* | -6 |
| 中毒事故損失 | 0 | ―2 | ―5 |
〇品目別販売実績 (単位 億円)
| 昭和30年度実績 |
昭和31年度実績
|
|||
( 29.4.1-30.3.31 )
|
(30.4.1-31.3.31)
|
前 年同期比
|
前年度比
|
|
練 乳
|
22
|
24
|
2
|
109.1%
|
份 乳
|
33
|
23
|
―10
|
69.7%
|
バター・チーズ
|
4
|
4
|
0
|
100.0%
|
市 乳
|
29
|
30
|
1
|
103.4%
|
その他
|
3
|
6
|
3
|
200.0%
|
計
|
91
|
87
|
―4
|
95.6%
|
〇主要勘定科目増減
(単位 億円)
| 31.3.31 現在 30.3.31 対比増減額 |
|
| 現・預金 | ―3 |
| 長期借入金 | 未満 |
| 社 債 | 5 |
| 資金流出額 | 8 |
ドライミルク(扮乳)でこれだけの事故を起こしたのですから、扮乳の売上は激減するかと思いきや30%くらいしか減っていません。その他の品目の伸びもあって売上は4億円(4.4%)減、当期利益は1億円の増です。中毒事故の損失負担後も2億円の利益を計上しています。現在だったら128名の死者が出たら企業の存続は危殆に瀕していると思います。
当時の補償金は死亡者25万円・患者は一律2万円とされました。その後、後遺症に対する補償がなされています。
未だ「製造物責任法」が制定されていない時代のことです。人命の価値について非常に考えさせられます。こういった時代だったので、昭和30年の雪印乳業の事故の教訓が会社の中に残らなかったとも言えます。
(3)その他の企業の事故とキャッシュフロー悪化の事例
1)チッソの水俣病問題
2011年5月25日(水)のブログでチッソについて書きました。再度その要約です。
水俣病は、チッソ水俣工場の工場廃水に含まれて排出されたメチル水銀化合物が水俣湾内の魚貝類を汚染し、それを摂取した地域住民が発病したものです。昭和48年(1973年)に原因が確定し、その後チッソの水俣病の補償金が急増しました。
昭和48年(1973年)3月期(6ヶ月)チッソの売上高264億円、純利益7億円に対し、水俣病関係費用は66億円が計上されました。昭和53年(1978年)3月末には繰越欠損金は363億円に達し、期末自己資本は △276億円となり,上場廃止になりましたが、熊本県は県債を発行してチッソに補償費用の融資を行っていたので、水俣病の補償遂行のため 会社は存続しなければなりませんでした。)
平成17年(2005年)3月期は、売上高1147億円・経常利益78億円(水俣病補償損失45億円・公害防止事業負担金12億円)、期末繰越損失1509億円、長期借入金1420億円でした。年間売上高を上回る繰越損失、長期借入金(熊本県からの借入金)で、会社は実質死に体状態でした。
平成22年(2011年)3月期は売上2612億円、経常利益220億円、純利益105億円 (水俣病補償46億円)、長短借入金1881億円、純資産合計△807億円と状況は大分改善されて来ました。平成23年(2012年)3月末に分社化し、事業譲渡受会社はJNC㈱(チッソ子会社)、チッソ㈱は持株会社となり、従来同様補償を継続することになりました。原因確定から38年後のことです。
2)マツダの工場火災
平成16年(2004年)12月16日24時45分、主力工場の宇品第1工場から出火、塗装工程など8000平方メートルが焼失しました。
マツダ㈱は平成17年2月5日に平成17年年3月期の損益見通しを発表しました。そのなかで、昨年12月に広島の主力工場で発生した火災による損害は100億円超になると説明しています。 損害の内訳は、①火災で焼けた塗装設備・建物・半製品などの直接被害。②3万台の自動車の生産を取りやめる影響です。これが、キャッシュフローを悪化させます。
3)新潟三洋電子㈱の地震被害
公表されている新潟中越地震(平成16年)の三洋グループの被害です。
新潟三洋電子㈱の工場・機械が受けた直接的な被害額 184億円
在庫被害 46億円
復旧費用 270億円
復旧のための新たな設備投資 3億円
被害額合計 503億円
地震被害に起因した販売の機会損失 370億円
連結損益に与える影響 873億円
〇新潟中越地震が三洋電機のキヤッシュフローに与えた影響は、復旧費用+新たな設備投資+機会損失=643億円 となります。
(機会損失は新潟三洋電子だけでなく、本社、後工程の関係会社、販社分も含む連結べース。)
(4)「大阪アメ二ティパーク」の土壌汚染隠蔽
三菱マテリアル㈱・三菱地所㈱が三菱マテリアル㈱(旧三菱金属㈱)の精錬所跡に建設し平成13年(2001年)1月に完成したマンションで、平成14年ころより土壌汚染が問題化しました。平成16年11月には宅建業法違反で本社を捜索。平成17年3月には両社並びに両社役職員は宅建業法違反の疑いで書類送検されました。平成17年6月起訴猶予処分になりました。三菱マテリアル㈱西川会長・三菱地所㈱高木社長が引責辞任することで宅建業法違反による営業停止等の処分を免れたと言われています。
入居者(455所帯)に対する補償に関しては、平成17年5月に管理組合と確認書を締結し、①引き続き入居を希望する住民には購入額の25%を支払う。②売却希望者には不動産鑑定業者の示した金額で買取り、さらに別途鑑定価格の10%を補償する。ことになりました。
これによるキャッシュフローへの影響は公表されていませんが、本件支払いは75億円超と報道されていて企業の根幹を揺るがすほどのものではないと考えられます。然し、宅建業法違反で業務停止・営業停止等の処分を受ければ、企業の存続に関わる大問題となったかも知れない事例です。
続きを読む »
「リスクとキャッシュフロー」について ⑰
2014年2月1日土曜日 | ラベル: キャッシュフロー, リスクマネジメント, 企業経営 |
8.事故とキャッシュフロー悪化の事例
(2)雪印乳業 ②
1)事故発生前の業績とキャッシュフロー
雪印乳業では、2000年(平成12年)6月27日以降中毒事故が発生しました。
雪印乳業は乳業界のトップメーカーとして、事故発前は第1表のように年間5.500億円前後の売上で、経常利益も100億円以上を挙げていました。
(第1表) 雪印乳業 業績 (単位 億円)
第2表は雪印乳業のキャッシュフロー計算書の要約です。黒字の会社ですから、営業活動によるキャッシュフローは毎期150億円以上のプラスになっています。然し、当時の社長は新規事業の開拓に熱心だったので、投資活動によるキヤッシュフローの金額を差し引くと、フリーキャッシュフロー(事業活動の結果生み出されたお金)は毎期100億円程度のマイナスになっていました。フリーキヤッシュフローのマイナス(資金の不足)を社債の発行で補っていました。
(第2表) 雪印乳業 キヤッシュフロー実績 (単位 億円)
* 社債発行200億円を含む。
雪印乳業の期末の資金残高(現・預金+一時保有の有価証券)は事故の直前の期末では月商の0.3ヶ月分に過ぎませんでした。手元資金残高は過小です。
(第3表) 雪印 資金残高推移 (単位 億円)
事故が発生した時、月商の僅か0.3ヶ月分117億円程度の手元資金は直ちに枯渇し資金繰りは破綻する恐れがありました。雪印乳業は事故・災害発生時におけるキヤッシュフローの対応力は充分では無かったと言えます。
経験則ですが、手許資金残高は月商の1ヶ月分くらいはあった方が良いと言われています。この考えは,「リスク発生直後1ヶ月くらいを手元資金で事業を繰り回せなければ、事故の対策を講ずる暇もない。」と言う企業の財務担当者の実感に基づくものです。例えば
2003年3月期のソニー㈱の有価証券報告書の「流動性マネジメント」の項には「ソニー
は流動性確保のために、グループ全体で年度における平均月次売上高および予想される最大借入債務返済額合計の100%以上に相当する手元流動性を維持することを基本方針としています。」と記載されていました。(その後のソニー㈱の業績・キャッシュフローの悪化により現在は記載されていません。)
また、第4表に明らかなように雪印乳業の中毒事故発生直前の期末の長短借入金44億円に対して、預金残高は117億円でしたから、世間からは雪印乳業は「無借金の優良会社」だと言われていました。社債も外部負債ですから、私は無借金といえないと思いますが、世間の評価は「無借金」でした。雪印乳業自体も、取引金融機関も事故の発生によって、同社の資金繰りが危殆に瀕することがあるとは考えてもいなかったと思われます。
(第4表) 雪印乳業 有利子負債残高推移 (単位 億円)
中毒事故発生の翌月7月18日の新聞に「雪印乳業は当座の運転資金として金融機関から300億円を借り入れる」と報じられました。すなわち僅か半月で手許資金は無くなり、金融機関から借り入れをしなければ雪印乳業の資金繰りは破綻する状態になったわけです。
雪印乳業の製品は約70%がスーパー、コンビニで販売されていました。社長が「自分も寝ていないんだ」とテレビに向かって話すなど対応に不十分なところが多々ありましたので、消費者がスーパー、コンビニに「あんな会社の製品を売るとは怪しからん」と電話をかけてくると、スーパー、コンビニは雪印乳業の製品を一斉に売場から撤去しました。その結果、事故の翌月から雪印乳業の売上げは1/3に激減しました。
牛乳で食中毒が起こったのですから、牛乳が売り場から撤去されるのは仕方ありませんが、主力のバター・チーズまで雪印乳業の全製品が売り場から撤去されてしまいました。一般大衆向けの商品をスーパー、コンビニのマーケットで売っている場合の事故によるマーケットのリスクは極めて大きいことがわかります。
事故発生9ヶ月後の決算では第6表の通り、売上高は前年度売上高5,440億円の3分の2の3,616億円に激減し、資金不足は955億円の巨額に達しました。中毒事故の処理費用302億円に対し、売上の減少による損益の悪化を原因とするキヤッシュフローの悪化額は643億円と事故処理費用の2倍以上に達しています。(第7表)後者の金額が事故
処理費用を大きく上回っている点に注意して下さい。
雪印乳業は不足資金を、手元現・現金減127億円、有価証券売却106億円の他は、殆どを金融機関からの借入671億円で賄いました。
(第6表)雪印乳業損益計算書 (単位億円)
* 中毒関係特別損失 たな卸資産除却損 113億円
補償金他 189億円
計 302億円
(第7表)雪印乳業主要勘定科目増減 (単位 億円)
雪印乳業のメインバンクは都市銀行ではありませんでした。雪印乳業の起源は北海道の酪農農家の組合であり、組合設立当初から関係の深かった農林中央金庫にとって雪印乳業は古い大切な顧客でした。また、雪印乳業の興廃は北海道の酪農業者に大きな影響を与えるものと考えられ、当時役員も派遣していたメインバンクの農林中央金庫にとって、雪印乳業を支援しないと言う選択肢は殆ど無かったものと考えられます。
然し、当面の運転資金の貸出しが報道された7月18日ころの貸出決定は、7月6日に社長が辞意を表明して経営者不在、再建策の行方も見えず、不足資金の総額も、ましてや返済の目処も全く立っていない時期の決断です。極言すれば殆ど何も検討出来ない状態での融資決定だったと言わざるを得ません。また、一度救済融資に踏み切れば、中途で止めれば即倒産ですから最後まで融資を継続しなければなりません。
メインバンクの支援方針の決定を受けて取引各銀行も応分の支援を行ったので、雪印乳業の当面の資金繰りは無事解決しました。このような背景でリスクファイナンスが可能となった雪印乳業は非常に恵まれていたと言うべきです。ところが、雪印乳業はその後、国内産牛肉の廃棄処理に輸入牛肉を混入した子会社が解散のやむなきに至り、その子会社の債務超過は198億円に達しました。この結果雪印乳業も債務超過に陥り、上場廃止の危機に陥りました。
メインバンクは、最初の事故発生から僅か2年9ヶ月後の2003年(平成15年)3月に300億円の債務免除を行いました。実質2度目の破綻です。メインバンクは都市銀行ではなかったので債務免除を行えましたが、サブメインの都市銀行は債務免除ではなく、債務の株式化200億円を引受けました。更に減資・増資を行って債務超過を解消し雪印乳業は上場を継続しました。実質無借金の状態から急速に貸出しを行い、僅か2年9ヶ月で債務免除をしたわけですから、若しメインバンクが都市銀行だったら株主代表訴訟が提起されたかも知れなかった事態です。
それでは、メインバンクが翌月に運転資金の支援を決定したのは誤りだったのでしょうか。これは大変難しい問題です。前回書きましたように、世の中→投資家は雪印乳業が資金繰りで行詰まるとは毛頭考えていませんでした。事故後7月7日の新聞記事でも「財務体質は極めて強固だ。借入金は42億円で、豊富な手元資金を考えると実質無借金」と記述されています。7月18日、に「雪印乳業は当座の運転資金として金融機関か300億円を借り入れることになった」と報じた新聞にも「借入金を300億円増やしても優良な財務体質がすぐに崩れる心配は無い。(中略)しかし事件の処理が長引いて販売再開が遅れれば収益への影響は大きくなり、財務体質が悪化されることも懸念される」と解説しています。雪印乳業の当面の資金繰りに対する懸念は全く感じられません。世の中は、バランスシートの静的な財務体質や収益ばかりを見ています。自己資本の金額が如何に大きくとも、手元に現・預金がどれだけあるかが重要です。新聞の経済面も暗黙のうちにメインバンクの資金支援を当然のことと考えていたのだと思われます。
メインバンクと雪印乳業との長い親密な取引関係からすれば、支援は当然であったとして、それで良かったのかについては、グループ関係会社を含めた貸出後の管理をもっともっと厳にすべきであったと考えます。当時は新会社法制定前で、グループ関係会社に関する内部統制の規定は明文化されていませんでした。(注1)
経営陣は雪印乳業本体に関しては内部管理体制・コンプライアンス等に関して十分な努力をされていたことと推察しますが、関係会社には浸透していなかったのではないか。特にコンプライアンスに関しては徹底が不十分であったといわざるを得ません。
本件は事故・災害時における救済融資のリスクの大きさ、難しさを示しています。2003年(平成15年)3月ころはまだ不良債権償却の話題が多く、300億円程度の債務免除は当時としては巨額と言う印象は無く、あまり話題になりませんでしたが、事故・災害発生時のメインバンクの救済融資のあり方に関して、極めてシリアスな問題を提起した事例だと言えます。
(注1)(会社法施行規則)第100条
法第362条第4項第六号に規定する法務省令で定める体制は次の体制とする。
五.当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制
続きを読む »
(2)雪印乳業 ②
1)事故発生前の業績とキャッシュフロー
雪印乳業では、2000年(平成12年)6月27日以降中毒事故が発生しました。
雪印乳業は乳業界のトップメーカーとして、事故発前は第1表のように年間5.500億円前後の売上で、経常利益も100億円以上を挙げていました。
(第1表) 雪印乳業 業績 (単位 億円)
| 第4 8 期実績 ( 9.4.1 〜 10.3.31 ) |
第49期実績 ( 10.4.1 〜 11.3.31 ) |
|
| 売上高 | 5,601 | 5,431 |
| 売上聡利益 ( 同上率 ) |
1 , 748 ( 31.3 %) |
1 , 696 ( 31.2 %) |
| 販売費・一般管理費 ( 同上率 ) |
1 , 653 ( 29.5 %) |
1 , 590 ( 29.3 %) |
| 営業利益 ( 同上率 ) |
95 ( 1.7 %) |
106 ( 2.0 %) |
| 経常利益 ( 同上率 ) |
109 ( 1.9 %) |
116 ( 2.1 %) |
第2表は雪印乳業のキャッシュフロー計算書の要約です。黒字の会社ですから、営業活動によるキャッシュフローは毎期150億円以上のプラスになっています。然し、当時の社長は新規事業の開拓に熱心だったので、投資活動によるキヤッシュフローの金額を差し引くと、フリーキャッシュフロー(事業活動の結果生み出されたお金)は毎期100億円程度のマイナスになっていました。フリーキヤッシュフローのマイナス(資金の不足)を社債の発行で補っていました。
(第2表) 雪印乳業 キヤッシュフロー実績 (単位 億円)
| 科 目 | 平成 9 年度 | 平成 10 年度 |
| 営 業 収 入 | 5,549 | 5,390 |
| 営 業 支 出 | 5,388 | 5,153 |
| 収 支 尻 | 211 | 237 |
| 営業外収支・決算支出 | 61 | 58 |
| 営業活動によるキヤッシュフロー | 150 | 179 |
| 投資活動によるキヤッシュフロー | 269 | 286 |
| 事業のキヤシュフロー | △119 | △107 |
| 財務活動によるキヤッシュフロー | *46 | △8 |
| 当期総合キヤッシュフロー | △73 | △115 |
雪印乳業の期末の資金残高(現・預金+一時保有の有価証券)は事故の直前の期末では月商の0.3ヶ月分に過ぎませんでした。手元資金残高は過小です。
(第3表) 雪印 資金残高推移 (単位 億円)
| 10.3.31 | 11.3.31 | |
| 現金・預金 | 232 | 117 |
| 一時所有の有価証券 | 6 | 6 |
| 期末資金残高 計 (平均月商比) |
238 ( 0.5 ヶ月) |
123 ( 0.3 ヶ月 ) |
事故が発生した時、月商の僅か0.3ヶ月分117億円程度の手元資金は直ちに枯渇し資金繰りは破綻する恐れがありました。雪印乳業は事故・災害発生時におけるキヤッシュフローの対応力は充分では無かったと言えます。
経験則ですが、手許資金残高は月商の1ヶ月分くらいはあった方が良いと言われています。この考えは,「リスク発生直後1ヶ月くらいを手元資金で事業を繰り回せなければ、事故の対策を講ずる暇もない。」と言う企業の財務担当者の実感に基づくものです。例えば
2003年3月期のソニー㈱の有価証券報告書の「流動性マネジメント」の項には「ソニー
は流動性確保のために、グループ全体で年度における平均月次売上高および予想される最大借入債務返済額合計の100%以上に相当する手元流動性を維持することを基本方針としています。」と記載されていました。(その後のソニー㈱の業績・キャッシュフローの悪化により現在は記載されていません。)
また、第4表に明らかなように雪印乳業の中毒事故発生直前の期末の長短借入金44億円に対して、預金残高は117億円でしたから、世間からは雪印乳業は「無借金の優良会社」だと言われていました。社債も外部負債ですから、私は無借金といえないと思いますが、世間の評価は「無借金」でした。雪印乳業自体も、取引金融機関も事故の発生によって、同社の資金繰りが危殆に瀕することがあるとは考えてもいなかったと思われます。
(第4表) 雪印乳業 有利子負債残高推移 (単位 億円)
| H. 10.3.31 | H. 11.3.31 | |
| 短期借入金 | 35 | 34 |
| 社債・転換社債 | 608 | 600 |
| 長期借入金 | 11 | 10 |
| 計 | 652 | 644 |
中毒事故発生の翌月7月18日の新聞に「雪印乳業は当座の運転資金として金融機関から300億円を借り入れる」と報じられました。すなわち僅か半月で手許資金は無くなり、金融機関から借り入れをしなければ雪印乳業の資金繰りは破綻する状態になったわけです。
雪印乳業の製品は約70%がスーパー、コンビニで販売されていました。社長が「自分も寝ていないんだ」とテレビに向かって話すなど対応に不十分なところが多々ありましたので、消費者がスーパー、コンビニに「あんな会社の製品を売るとは怪しからん」と電話をかけてくると、スーパー、コンビニは雪印乳業の製品を一斉に売場から撤去しました。その結果、事故の翌月から雪印乳業の売上げは1/3に激減しました。
牛乳で食中毒が起こったのですから、牛乳が売り場から撤去されるのは仕方ありませんが、主力のバター・チーズまで雪印乳業の全製品が売り場から撤去されてしまいました。一般大衆向けの商品をスーパー、コンビニのマーケットで売っている場合の事故によるマーケットのリスクは極めて大きいことがわかります。
事故発生9ヶ月後の決算では第6表の通り、売上高は前年度売上高5,440億円の3分の2の3,616億円に激減し、資金不足は955億円の巨額に達しました。中毒事故の処理費用302億円に対し、売上の減少による損益の悪化を原因とするキヤッシュフローの悪化額は643億円と事故処理費用の2倍以上に達しています。(第7表)後者の金額が事故
処理費用を大きく上回っている点に注意して下さい。
雪印乳業は不足資金を、手元現・現金減127億円、有価証券売却106億円の他は、殆どを金融機関からの借入671億円で賄いました。
(第6表)雪印乳業損益計算書 (単位億円)
| 第 50 期実績 | 第 51 期実績 | |||
| (11.4.1 - 12.3.31) | (12.4.1 - 13.3.31) | 前年同期比 | 前年度比 | |
| 売上高 | 5.440 | 3.616 | -1,824 | 66.5% |
| 売上総利益 (同上率) |
1,788 ( 32.9 %) |
1,036 ( 28.7 %) |
-752 ( -4.2 %) |
58.0% |
| 販売費・一般管理費 (同上率) |
1,676 ( 30.8 %) |
1,596 ( 44.1 %) |
-80 ( 13.3 %) |
― |
| 営業利益 (同上率) |
112 ( 2.1 %) |
-560 ( -15.5 %) |
-672 ( -17.5 %) |
- |
| 経常利益 (同上率) |
122 ( 2.2 %) |
-587 ( -16.2 %) |
-709 ( -18.4 %) |
- |
| 特別利益 特別損失 |
21 530 |
396 *427 |
375 103 |
ー - |
| 税引前当期純利益又は純損失 (同上率) |
-387 ( -7.1 %) |
-618 ( -17.1 %) |
-231 ( -10.0 %) |
- |
* 中毒関係特別損失 たな卸資産除却損 113億円
補償金他 189億円
計 302億円
(第7表)雪印乳業主要勘定科目増減 (単位 億円)
| 第 50 期末 | 第 51 期 期末 | ||
| 12.3.31 | 13:3:31 | 前年同日比 | |
| 現金・預金 ( 平均月商比 ) |
144 ( 0.3 ヶ月) |
17 (0.06 ヶ月 ) |
-127 |
| 投資有価証券 | 188 | 82 | -106 |
| 短期借入金 | 36 | 707 | 671 |
| 社 債 | 600 | 650 | 50 |
| 長期借入金 | 6 | 7 | 1 |
〇資金不足額 現金・預金減127+投資有価証券減106+短期借入金増671
+社債増50+長期借入金増1=955億円
(事故前月商の2.1ヶ月分)
+社債増50+長期借入金増1=955億円
(事故前月商の2.1ヶ月分)
雪印乳業のメインバンクは都市銀行ではありませんでした。雪印乳業の起源は北海道の酪農農家の組合であり、組合設立当初から関係の深かった農林中央金庫にとって雪印乳業は古い大切な顧客でした。また、雪印乳業の興廃は北海道の酪農業者に大きな影響を与えるものと考えられ、当時役員も派遣していたメインバンクの農林中央金庫にとって、雪印乳業を支援しないと言う選択肢は殆ど無かったものと考えられます。
然し、当面の運転資金の貸出しが報道された7月18日ころの貸出決定は、7月6日に社長が辞意を表明して経営者不在、再建策の行方も見えず、不足資金の総額も、ましてや返済の目処も全く立っていない時期の決断です。極言すれば殆ど何も検討出来ない状態での融資決定だったと言わざるを得ません。また、一度救済融資に踏み切れば、中途で止めれば即倒産ですから最後まで融資を継続しなければなりません。
メインバンクの支援方針の決定を受けて取引各銀行も応分の支援を行ったので、雪印乳業の当面の資金繰りは無事解決しました。このような背景でリスクファイナンスが可能となった雪印乳業は非常に恵まれていたと言うべきです。ところが、雪印乳業はその後、国内産牛肉の廃棄処理に輸入牛肉を混入した子会社が解散のやむなきに至り、その子会社の債務超過は198億円に達しました。この結果雪印乳業も債務超過に陥り、上場廃止の危機に陥りました。
メインバンクは、最初の事故発生から僅か2年9ヶ月後の2003年(平成15年)3月に300億円の債務免除を行いました。実質2度目の破綻です。メインバンクは都市銀行ではなかったので債務免除を行えましたが、サブメインの都市銀行は債務免除ではなく、債務の株式化200億円を引受けました。更に減資・増資を行って債務超過を解消し雪印乳業は上場を継続しました。実質無借金の状態から急速に貸出しを行い、僅か2年9ヶ月で債務免除をしたわけですから、若しメインバンクが都市銀行だったら株主代表訴訟が提起されたかも知れなかった事態です。
それでは、メインバンクが翌月に運転資金の支援を決定したのは誤りだったのでしょうか。これは大変難しい問題です。前回書きましたように、世の中→投資家は雪印乳業が資金繰りで行詰まるとは毛頭考えていませんでした。事故後7月7日の新聞記事でも「財務体質は極めて強固だ。借入金は42億円で、豊富な手元資金を考えると実質無借金」と記述されています。7月18日、に「雪印乳業は当座の運転資金として金融機関か300億円を借り入れることになった」と報じた新聞にも「借入金を300億円増やしても優良な財務体質がすぐに崩れる心配は無い。(中略)しかし事件の処理が長引いて販売再開が遅れれば収益への影響は大きくなり、財務体質が悪化されることも懸念される」と解説しています。雪印乳業の当面の資金繰りに対する懸念は全く感じられません。世の中は、バランスシートの静的な財務体質や収益ばかりを見ています。自己資本の金額が如何に大きくとも、手元に現・預金がどれだけあるかが重要です。新聞の経済面も暗黙のうちにメインバンクの資金支援を当然のことと考えていたのだと思われます。
メインバンクと雪印乳業との長い親密な取引関係からすれば、支援は当然であったとして、それで良かったのかについては、グループ関係会社を含めた貸出後の管理をもっともっと厳にすべきであったと考えます。当時は新会社法制定前で、グループ関係会社に関する内部統制の規定は明文化されていませんでした。(注1)
経営陣は雪印乳業本体に関しては内部管理体制・コンプライアンス等に関して十分な努力をされていたことと推察しますが、関係会社には浸透していなかったのではないか。特にコンプライアンスに関しては徹底が不十分であったといわざるを得ません。
本件は事故・災害時における救済融資のリスクの大きさ、難しさを示しています。2003年(平成15年)3月ころはまだ不良債権償却の話題が多く、300億円程度の債務免除は当時としては巨額と言う印象は無く、あまり話題になりませんでしたが、事故・災害発生時のメインバンクの救済融資のあり方に関して、極めてシリアスな問題を提起した事例だと言えます。
(注1)(会社法施行規則)第100条
法第362条第4項第六号に規定する法務省令で定める体制は次の体制とする。
五.当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制
続きを読む »
登録:
投稿 (Atom)