東日本大震災について思う ⑦ 〜通商白書による東日本大震災の分析〜

2011年9月20日火曜日 | ラベル: |

 経済産業研究所のBBLセミナーで、経済産業省 経済産業政策局 企画調査室 関口訓央氏の: 「東日本大震災から垣間見える我が国と世界の通商・経済関係 (『平成23年版 通商白書』 第4章)」のお話をお聞きしました。
 『平成23年版 通商白書』 第4章の主な目的は、「震災による我が国の自動車部品の生産等への被害が、グローバルサプライチェーンに影響を与えた要因の分析を通じて、我が国経済が海外経済との結びつきを更に強めている実態を指摘する」と言うことです。


1. 震災前後の我が国の生産・輸出の概況

① 生産の状況
 東日本大震災により、被災地域の製造拠点の生産が停止し、また電力不足の解消のために東北地域、関東地域において計画停電が行われ、我が国の生産活動に大きな影響を及ぼしました。2011 年3 月の我が国の鉱工業生産は鉱工業全体で前月比(季節調整済、以下同じ。)が15.5%減と1995 年の阪神淡路大震災(2.6%減)や2008 年の世界経済危機(最大で8.6%減)を超え、比較可能な1953 年2 月以来最大の落ち込みとなりました。

 ○全国の業種別生産動向(2011年3月・4月・5月) 


業  種
3  月
4   月
5  月
寄与度
(%)
前月比
(%)
寄与度
(%)
前月比
(%)
寄与度
(%)
前月比
(%)
鉱工業全体 -15.5 % - 15.5% 1.6% 1.6% 6.2% 6.2%
輸送機械工業
(内 乗用車)
 (自動車部品)
-8.0%
-4.8%
-2.1%
-46.7%
-54.2%
-42.1%
-0.2%
-0.5%
-0.0%
-1.9 %
-9.9%
-0.3%
3.8%
2.5%
0.6 %
36.6 %
59.5%
17.2%
一般機械工業 -1.8% -14.5% 1.5% 12.0% 0.8% 5.6%
電子部品・デバイス工業
( 内  IC 〈集積回路〉 )
-0.7%
-0.5%
-46.7%
-11.7%
-1.5%
-0.5%
-12.6%
-12.5%
1.5%
-0.1%
5.6%
-0.6%
食料品・たばこ工業 -0.7% -8.7% 0.6% 7.1% 0.1% 1.0%
金属製品工業 -0.5% -10.7% 0.1% 2.1% 0.2% 3.4%
化学工業 -0.3% -2.3% 0.0% -0.1% 1.4% 11.0%
パルプ・紙・紙加工品工業 -0.2% -8.3% -0.0% -0.4% -0.0% -1.5%
その他工業 -0.5% -9.4% 0.3% 6.1% 0.0% 0.5%

 業種としては、乗用車や自動車部品を含む輸送機械工業が前月比46.7%減(内乗用車は同54.2%減、自動車部品は同42.1%減)となり、全業種のうちで最大のマイナス寄与となりました。また、生産の水準を時系列でみても、輸送機械工業の2011 年3 月、4 月の生産は、世界経済危機の直後に記録した近年の最低水準をさらに下回る水準にまで低下しました。なお、全般的に2011 年4 月以降の生産では、一般機械工業をはじめとして回復傾向を示しており、先行きはさらに回復が見込まれています。
 
○被災地域等の震災後の鉱工業生産(主な業種別)の動向
 
業  種
   3  月   4   月    5  月
寄与度
(%)
前月比
 (%)
寄与度 
(%)
前月比
 (%)
寄与度
(%)
前月比
 (%)
鉱工業全体 -35.1 % - 35.1% 11.0% 11.0% 13.7% 13.7%
電子部品・デバイス工業
( 内  IC 〈集積回路〉 )
-6.3%
-2.4%
-26.2%
-26.3%
2.9%
0.9%
10.8%
8.2%
1.5%
0.1%
5.6%
0.6%
化学工業 -4.0% -45.6% 2.1% 28.7% 0.2% 2.5%
食料品・たばこ工業 -3.5% -38.0% -0.5% -5.2% 2.9% 38.9%
輸送機械工業
( 内 乗用車)
(自動車部品)
-3.3%
-1.5%
-1.6%
-44.4%
-56.5%
-36.7%
-1.2%
-1.0%
-0.3%
-18.5 %
-55.4%
-6.4%
2.4%
1.1%
1.2 %
51.9 %
159.0%
33.9%
一般機械工業 -2.8% -28.0% 2.7% 24.5% 0.9% 7.4%
その他工業 -2.1% -40.2% 1.3% 27.2% 0.9% 17.4%
パルプ・紙・紙加工品工業 -2.0% -59.6% -0.9% -41.1% 0.7% 62.3 %
金属製品工業 -2.0% -44.6% 0.7% 18.8% 1.5% 36.3%

被災地域等の業種別生産増減の状況と全国ベースの業種別生産増減の状況は異なっています。最後に書きましたが、サプライチェーンへの影響を良く分析すべきです。

② 輸出の動向

○ 震災前後の我が国の輸出の概況
2011 年 1  月 2   月 3   月 4   月
全 世 界 1.4 % 9.0 % -2.3 % -12.4 %
中   国 0.9 % 29.1 % 3.7 % -6.8 %
米   国 6.0 % 2.0 % -3.5 % -23.3 %
Eu 27 -0.7 % 12.7 % 4.2 % -10.7 %
○数値は、前年同月比。  資料:財務省「貿易統計」から作成。

 本震災前の2010 年の我が国の輸出状況は、世界経済危機により大幅に減少した2009 年の輸出から一転し、回復軌道に乗っていました。今年に入ってからも、2011 年1 月・2 月の輸出は、一般機械や電気機器を中心に高い伸びを記録していました。直前の2011 年3 月上旬の輸出は前年同期比で14.8%の増加となっていました。こうした状況下で本震災に見舞われたことにより、2011 年3 月の輸出は前年同月比で2.3%減(季節調整済み前月比7.7%減)となりました。特に、輸送用機器については前年同月比19.1%減(うち、自動車部品は同5.0%減)となり、全品目のうち最大のマイナス寄与となりました。同様に2011 年4 月も全体で同12.4%減となりましたが、輸送用機器が同43.2%減(うち、自動車部品は同14.8%減)とさらに大きく減少し、やはり全品目のうちで最大のマイナス寄与となっています。
その他、電子部品であるIC の落ち込みも大でした。
なお、被災地域等に所在する港からの輸出も激減しています。
 本大震災直後の生産や輸出で最大の影響があった産業は輸送用機器産業でしたが、このうち自動車部品の生産停滞の影響は、グローバルサプライチェーンを通じて海外の生産にも影響を与えることとなり、例えば、我が国からの自動車部品の輸出減少により、米国の2011 年4 月の自動車・部品生産は、前月比(季節調整済)8.9%減と大きく減少しました。
 被災地域からの「間接輸出」を考慮すると、東北地域は関東地域に自動車部品を大量に中間投入している関係上、グローバルサプライチェーンに与える影響はより大きいものとなりました。
 本大地震の結果サプライチェーンは、実際にはピラミッド型でなく樽型・ダイヤモンド型だったことが判り、またグローバルサプライチェーンの可視化にも貢献したと言われています。
 在庫管理の在り方は業種ごとのサプライチェーン・マネジメントに依存する部分が大きく、本大震災が在庫を最小にする第4四半期末に発生したことも供給制約に大きく影響していると思われます。
 効率的な在庫管理とBCP等のリスクマネジメントをどのように調和させていくかも今後のポイントになると思います。

○我が国の2011年3月から6月までの輸出の動向

業  種
3  月
4   月
5  月
寄与度
(%)
前月比
(%)
寄与度
(%)
前月比
(%)
寄与度
(%)
前月比
(%)
全    体 -2.3 % - 2.3% 12.4% 12.4% 10.3% 10.3%
輸送用機器
( 内 乗用車)
(自動車部品)
-4.5%
-3.3%
-0.2%
-19.1%
-27.3%
-5.0%
-9.8%
-7.7%
-0.7%
-43.2%
-67.9%
-14.8%
-5.5%
-4.4%
-0.8%
-26.6%
-41.3%
-18.5%
電気機器
( 内  IC 〈集積回路〉 )
-1.1%
-0.3%
-6.1%
-8.6%
-2.3%
-1.0%
-12.5%
-24.0%
-3.2%
-1.0%
-16.5%
-23.2%
一般機械 -3.5% -38.0% -0.5% -5.2% 2.9% 38.9%
その他 1.4% 7.0% 0.3% 1.5% 0.7% 3.5%

 
業  種
6  月
寄与度
(%)
前月比
(%)
全    体 -1.6 % . - 1.6%
輸送用機器
( 内 乗用車)
(自動車部品)
-2.5%
-1.8%
-0.5%
-10.5%
-14.4%
-10.3%
電子部品・デバイス工業
( 内  IC 〈集積回路〉 )
-1.6%
-0.9%
-8.7%
-21.2%
一般機械 0.3% 2.1%
その他 2.1% 11.0%

○被災地域等に所在する港からの震災後の輸出の動向

 
港  名
 
所在県
3 月前年同月比
( % )
4 月前年同月比
( % )
5 月前年同月比
( % )
青 森
青 森
19.1%  15.9% -26.4%
八 戸
-37.4% -90.6% -87.9%
宮 古
岩 手
  - -100.0%   -
釜 石
-45.3% -98.4% -38.4%
大船渡
-27.6%  -5.4%  57.3%
仙台・塩釜
宮 城
-48.2% -95.7% -94.9%
石 巻
 43.6% -100.0% -100.0%
気仙沼
-88.1% -100.0% -100.0%
仙台空港
-49.6% -100.0% -100.0%
小名浜
福 島
-31.2% -55.6% -72.3%
相 馬
-48.7% -87.4%  98.3%
福島空港
  - -100.0%   -
鹿 島
茨 城
 -23.1% -61.3% -45.4%
日 立
-30.3% -68.6% -67.5%
つくば
 -5.9%  -9.3%   3.8%

このように、東日本大震災は、わが国の生産・輸出に多大な影響を与えました。
詳細は『平成23年版 通商白書』をご覧下さい。

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集合訴訟とリスクマネジメント ② ~経営法友会の意見~

2011年9月10日土曜日 | ラベル: |

 8月20日の読売新聞35面に「悪質商法賠償訴訟を代行」という記事が掲載されていました。8月11日の「集合訴訟とリスクマネジメント」で触れましたように、日本における集合訴訟(クラスアクション)の立法化がいよいよ始まります。 
 読売新聞の記事の見出しは「悪質商法賠償訴訟を代行」となっています。悪質商法でない場合にも、「集合訴訟」が日本でもアメリカのように乱用されないかが問題になると思われますが、記事にはそういう印象は全くありません。また読売新聞以外は記事にすらなっていません。 
 今後企業に生ずるであろう、大きなリスクについて対策を考えるべきだと思い、「集合訴訟とリスクマネジメント」の続きを書きます。

 研究仲間が、平成23 年7 月22 日付けの、経営法友会の「消費者集合訴訟制度の現状の議論に対する意見」が参考になると教えて下さいました。以下はそのご紹介です。

  • 本制度は、消費者のみならず、中小企業を含む多数の事業者に大きな影響を与えるものであることから、一方の当事者となる事業者をも含めた関係者から幅広く意見等を聴取する機会(パブリック・コメント等)が確保されなければならない。
    また、制度案等の周知・啓発についても、関係者に十分な時間的猶予を与える必要がある。2012 年の通常国会への法案提出が前提で進んでいるが、拙速な制度の導入を行うことは、多くの弊害が発生することにつながりかねない。
  • 少額・多数の被害を救済するという目的は正当であるが、目的達成の手段として、本制度が最も適切か議論が尽くされたとはいえない。法律扶助、ADR(裁判外紛争解決手続)、選定当事者制度、通常共同訴訟等の既存制度の改善により、本制度よりも適切な手段を設計できるかをさらに慎重に検討すべきである。
    (落合先生は、行政による救済等も手段の一つとされています。)
  • また、消費者被害を真に救済するという観点からは、まず優先すべきは悪質な事案における消費者被害の救済制度の設計であると考える。いわゆる“真面目な事業者”が主たる対象となってしまうおそれがある。わが国の民事訴訟制度、裁判実務、これを前提とした事業者の組織体制の変更が予想される本制度を設けることは、わが国産業の競争力のさらなる低下をもたらす事態を生じかねない。本制度の導入には、それが与える影響の大きさから、今後も十分な議論を重ねる必要があると考える。

以下のような制度設計の検討が必要と考える。
  1. 通常共同訴訟に対するあくまで補充的な手段であることを徹底する。
    訴訟追行主体は適格消費者団体に限るべきと考えているが、その場合でも被害者本人でない適格消費者団体が原告となって訴訟追行することには、多くの弊害・濫用の危険性がある。
  2. 本制度は、少額・多数の案件を束ねることにより、消費者一人あたりの負担軽減を図り、消費者被害の救済を図ることを目的として検討されている制度である点を踏まえると、その対象となる事案は、当然、少額事案に限るべきであり、また予測可能性の観点から限定列挙とすべきである。多数の少額被害の簡易・迅速な救済を達成するためには、対象事案の限定や訴訟要件を制限することは当然であり、さらに、米国の集団訴訟の例を挙げるまでもなく、請求を糾合する制度は濫用のおそれがあるため、濫用防止の観点から、訴訟追行要件は厳格に定めるべきである。
    集団訴訟制度が高度に発達した米国においては、濫用防止の観点から手続追行要件については厳格な見直しが図られている。長い実務経験に裏打ちされた米国の最高裁判決の示すところは、日本の消費者集合訴訟の立法議論において十分に参考とされなければならない。
  3. 本制度はあくまで通常の民事訴訟手続の特則として、現行の民事訴訟制度では救済されない少額・多数の被害を救済するための制度であるので、現行の民事訴訟制度で救済可能なもの、たとえば金額が多額なものや、すでに(または消費者集合訴訟提起後)通常の訴訟が係属しているものについては、手続追行要件を満たさないこととすべきである。また、事案が複雑で上述のような消費者集合訴訟の目的に合致せず、他に適切な方法がありうる場合には、本制度の対象としないことを明確にすべきである。
  4. 対象消費者の利益を適切に保護するためには、手続追行者の組織体制、経理的基礎専門的知識・能力等を踏まえて、また、差止請求訴訟の当事者としての活動実績から、行政からあらかじめ認定されている適格消費者団体のみを手続追行主体とするのが適切である。
    ただし、制度の濫用を防止するとともに授権した消費者が確実に救済されるように、適格消費者団体(や適格消費者団体が委任する弁護士)が成果報酬制度をとる、あるいは利益配分を前提として出資者を募るといった本来の趣旨を外れた行為に及ぶことがないようにすべきである。また、適格消費者団体の適格性が行政規制によって厳しく保たれる制度設計が必要である。
  5. 本制度は、手続追行主体を適格消費者団体に限り、また、通知公告が必要といった従来の民事訴訟実務とは異なる制度であるため、裁判実務の効率化の観点から、管轄は一定の裁判所にのみ認めるべきである。
    そして、本制度を創設するとした場合、複雑で多数の関係者が関与することから、裁判所の負担は非常に大きく、訴訟事務の効率や安定性を考慮すると、相当程度の専門性を有する裁判所に限定すべきである。
  6. 現在、消費者集合訴訟の具体例で挙げられている請求権は、契約の無効又は取消しによる不当利得返還請求権(虚偽又は誇大な広告・表示事案、不当な勧誘事案、契約条項の無効が問題となる事案、契約そのものの無効・違法事案、クーリングオフによる請求が可能か問題になる事案)と不法行為等に基づく損害賠償請求権(虚偽又は誇大な広告・表示事案、不当な勧誘事案、契約そのものの無効・違法事案、個人情報流出事案)であるところ、各々の事案における契約の締結主体や行為の主体は、あくまで事業者(法人)であり、通常は、事業者(法人)の取締役や監査役等が、直接その主体となることはない。したがって、消費者集合訴訟の被告は、事業者(法人)に限るべきであり、事業者(法人)の取締役や監査役等は被告に含まれないとすべきである。役員を被告とすれば、経営判断の萎縮や日常の業務執行への影響も甚大である。
    また、事業主体となりうる団体として、国、地方公共団体、その他の公的団体や独立行政法人のほか、消費者団体、事業者団体を除外する理由はない。
  7. 二段階目に参加する被害者は敗訴のリスクとコストを負わない結果、実際に被害がないにもかかわらず金銭賠償を得るために購入証明資料の偽造を行うなど、米国で大きな問題となっている訴訟実務におけるモラルハザードが発生する問題は看過しえない。モラルハザードを防止すべく、消費者に担保の提供を求めることができる制度等を検討すべきである。また、適格消費者団体には、偽造のないことの証明等モラルハザードを防止する実務を適切に処理する能力や資力がなければならない。
 経営法友会の指摘する問題点は落合 誠一先生が憂慮されている点と殆ど同じです。
 私は知人の大衆消費財メーカーのリスクマネジメント担当の方3人に本件をどう思うか聞いて見ました。結果は、法務リスクは企業のリスクマネジメント担当者の守備範囲の外みたいに思われました。
 落合先生が憂慮され、経済法友会が指摘するように、今後とも事業者をも含めた関係者から幅広く意見等を聴取する機会を設け、企業の営業部門なども含めた関係者に制度案等の周知・啓発をする必要があると思います。

 経営法友会の意見の最後の部分
「当会は、消費者被害を救済する制度の整備自体を否定するものではない。
当会が最も懸念しているのは、本制度の制度設計によっては、制度が本来求めている目的を達成できないばかりか、“真面目な事業者”に対し制度対応のための過度なコスト負担を課すことになり(特に中小企業には大きな負担となる)、わが国産業の国際競争力のさらなる低下をもたらす事態が生じることである。さらには、今般の経済状況から、そのコストを商品やサービスの価格に転嫁せざるをえない状況となり、結果的に多くの消費者の利益が阻害されることになる。
本制度の創設にあたっては、このような事態に陥る可能性をできる限り排除したものでなければならない。」
 が当面の結論だと思います。

○ 経営法友会 「消費者集合訴訟制度の現状の議論に対する意見」
  http://www.keieihoyukai.jp/opinion/opinion72.pdf

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推理小説とリスクマネジメント

2011年9月1日木曜日 | ラベル: |

 私は推理小説を読むのが大好きです。一回だけ行ったロンドンで、1995年(平成7年)11月1日(水)早朝、宿泊先のモントカームホテルから、シャーロックホームズが住んでいた(ことになっている)「Baker Street 221b」へジョギングし、プレートを見て感激して帰って来ました。
 アーサー・コナンドイル、エドガー・アラン・ポー、アガサ・クリスティー、エラリー・クイーン等々,高校時代から、特に大学時代に推理小説を乱読しました。色々な手掛かり・情報を基に名探偵が真相を暴き出すについては、論理力に加え、構成力・イマジネーションが不可欠です。リスクマネジメントで将来のリスクを見極めるについても同様の能力が必要だと私は思います。
 また、ハードボイルドも読みました。レイモンド・チャンドラーの「プレイバック」の中の探偵、フィリップ・マーロウの有名な台詞「しっかりしていなかったら生きていられない。やさしくなれなかったら生きている資格がない。(清水俊二訳)」は、私が企業を分析・判断する際の基本的な心構えでした。即ち、判断は厳しく、しかし対象企業に対しては暖かい見方をすると言うことです。
If I wasn’t hard
I wouldn’t be alive
If I couldn’t ever be gentle
I wouldn’t deserve to be alive
 私は中小企業のキャッシュフロー対策を専門にしていますが、京橋の旧全国信用金庫連合会の建物の前に、城南信用金庫理事長であった故小原鐡五郎氏の銅像があります。1983年(昭和58年)に上梓された「私の体験的経営論 貸すも親切貸さぬも親切」の中で
「もともと庶民金融は担保が十分あるから貸そう、利息も元金も取りはぐれが無さそうだから貸そうというものではないはずである。その人が手掛けている仕事が上手くいくかいかないか。どうすれば上手く行くかを相手の身になって親切に考えてお金を貸すようにしなければ本当の金融にはならない。どうもまずいと思った時には、どんないい担保があっても〈おやめになったらどうです〉と説得する。リスクは当然ある。借り手が一生懸命やっても、景気やめぐり合わせでどうしようもない貸倒れも出てくる。貸倒れはないに越したことはないが、安全・安全といって自分が損しないことばかり考えていたのでは、本当の生きた中小企業金融はできない。(50-51ページ)」
と書かれています。マーロウの台詞と気持ちが相通ずるところがあります。中小企業のリスクマネジメント、BCPのサポートに際して、企業の体力からどうしても十分な対策が出来ない場合は、万一の際は倒産の可能性もあると考えるなども大切なことだと思います。
 私は若いころ都市銀行の事業調査部門に属して、取引先企業の分析をしていました。企業分析・経営分析に関しては昔から沢山の参考書があり、分析項目・内容・順序が詳細に述べられています。新米の調査部員が参考書の記述の順番に、数多くの項目を分析をして終章まで行っても、一向に結論が出せません。それは、各項目の分析結果に軽重がついていないため、どこの部分は良い、どこの部分は問題だとはなっても、結局全体としてどうなのかの判断が出来ないからです。
 企業を分析する場合、恰も探偵が色々な手掛かり・情報を基に真相に辿りつくのと同じような論理力(思考能力)・構成力・イマジネーションが必要です。さらに論理的な推論を加えることも必要となります。例えば「この企業は営業力に問題があるのではないかと推論し、その見地で各項目を分析し、問題の無い項目は無視する、問題のある各項目は営業力強化の視点からさらに深く検討して問題点をあぶり出す」と結論が見えて来ます。
 リスクマネジメントの実践に際し、色々なリスク事象から、将来起こるであろうリスクを想定し、評価する場合、その内容はリスクマネジメントの担当者によって大きく変わって来ます。リスクマネジメントの参考書にはこう言ったことは書いてありません。
 私はリスクマネジャーとしての能力の重要な部分は、企業に取って最も重要なリスクは何かを想定し、それを評価し、対策を講じるについて、本格推理小説における名探偵と同じような論理力・構成力・イマジネーションだと考えます。単独のリスクでもそうですが、幾つかのリスクが絡み合って大きなリスクになるような場合は特にこうした能力が必要です。
 ではどうやって名探偵のような能力を身に付けるのか。若いころの都市銀行の事業調査部門では、1対1の徒弟制度で身に付けさせていました。前にも書きましたように、参考書にはこの部分は何も書いてありませんから、先ず、先輩の傍で先輩が企業分析の作業をするのを見る。大体理解出来たら次に自分が企業の分析作業をするのを先輩に見て貰う。こうした過程を繰り返すことによって徐々にスキルが身に付いて来ます。この場合、自分で考えられない、自分では判断が出来ないタイプの人にはスキルが身に付きません。そういう人は部署を代って貰うしかありません。
 さらに、自分の考えを持つことと、頑固とは異なります。例えば「この企業は営業力に問題があるのではないか」と推論し分析しているうちに、実は技術力が問題なのではないかと思われたら、自分の考え・判断を弾力的に訂正することも必要です。ここも非常に難しく、デリケートな部分です。
推理小説を読むのが大好きな人が,良きリスクマネジャーになれると言っているわけではありません。推理小説を読み、名探偵のような思考能力を身に付けることは、リスクマネジメントの実践にプラスになると言っているだけです。
 BCP(事業継続計画)の策定においても、参考書の記載の順番通りに計画を策定したらうまく行くわけではありません。将来起こるかもしれない色々なリスクに対し、事前に色々な対策を考えておく訓練がいざと言う場合に必ず役に立ちます。事業継続計画を作っても、固定した計画に依存したままでは、計画外の事態が発生した場合に対応出来ません。
 名探偵、企業の分析、リスクマネジメントの実践、事業継続計画の策定・遂行には、何れも共通の能力 =論理力、構成力・イマジネーション= が必要だと私は思います。しかもそれは、持って生まれた天性とその後の訓練とが両々相俟つて始めて可能になる能力だと私は思います。

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東日本大震災について思う ⑥ 〜中小企業白書による東日本大震災の分析〜

2011年8月20日土曜日 | ラベル: |

 経済産業研究所のBBLセミナーで、中小企業庁 事業環境部 調査室長: 星野光明氏の「2011年版中小企業白書・-震災からの復興と成長制約の克服」のお話をお聞きしました。中小企業白書は例年なら4月下旬に公表されるのですが、今年は東日本大震災の分析を加えたため、7月1日に公表されました。
 「中小企業の業況は総じて持ち直しの動きが見られたが、東日本大震災の影響により大幅に悪化している。」と言うのが冒頭の結論です。
 以下星野光明氏のお話に沿って分析内容をご紹介致します。

1. 資金繰り
 資金繰りについては、「資金繰りは、リーマン・ショック前の水準以上に回復していたが、震災が発生した2011年3月に、大幅に悪化した。」とされています。震災関連倒産件数を見れば下記の通りです。
東日本大震災
(3月11 日発生)
阪神淡路大震災
(1 月17日発生)

備  考
件 数
件 数
 3   月  8 件 (1 件) 1  月 1 件(1 件)



1995 年合計
144 件(78件)
 4   月  25件 (3 件) 1  月13件(3 件)
 5   月  64件 (8 件)   3  月 21件(10件)
 4  月 27件(14件)
 5  月 14 件(8 件)
 6  月 12件(7件)

* ( )内は直接被害による倒産件数  6月7日現在
○東日本大震災 破産準備中等の実質破綻も40件発生(3~5月)。

 東日本大震災の場合、阪神淡路大震災に比べ倒産件数が大きく上回っています。

2.東日本大震災の中小企業への影響
 東日本大震災では、地震、津波、原子力発電所事故、電力供給制約等の様々な事象が生じ、これらが複合的に関連して中小企業に広範かつ甚大な影響が生じました。このほか、サプライチェーンを通じた影響や消費マインドの低下による影響が全国的に拡大しました。
 商工会が把握している会員企業の被災状況によると、建屋・家屋の被害は、沿岸部で全壊が約5割である一方、内陸部で一部損壊が約8割と、津波の影響を受けた沿岸部でより大きな被害が発生しています。
 津波の影響を受けた地域には約7万5千社、地震の影響を受けた地域には約74万社、原子力発電所事故の避難区域等には約7千5百社。東京電力管内都県には約145万社の企業が存在しています。(最後に添付の資料参照)

3.津波の影響 
 津波により影響を受けた地域は、生活面、経済面双方から見て、小規模な都市雇用圏*1であるものが多く、これらの地域では、漁業及び漁業から派生する食品加工業等が主要産業となっていましたが、津波により、工場、店舗、港湾等の産業基盤や地域のコミュニティの基本的機能が壊滅的な被害を受けました。
*1都市雇用圏とは、おおむね①人口集中地区の人口が1万人以上で、②周辺市町村から中心市町村への通勤率(通勤者数/就業者数)が10%以上の圏域であり、単一の市町村を超えて形成される通勤圏を表す。このような都市雇用圏は我が国全体で251ある。
○1995年の神戸都市圏の人口は、221.9万人。(第5位)

4.地震の影響
 津波の影響は受けていないが、地震により影響を受けた地域でも

   ①建物の損壊・液状化
   ②設備の保守・点検が専門家の不足で受けられないこと
   ③物流の停滞により原材料の調達や商品の配送が行えないこと

などにより、中小企業や商店街の事業活動に大きな影響が生じました。
【政府の支援策 】
 このような状況を受けて政府は、金融支援、雇用支援の大幅な拡充を実施するとともに、事業を再開したいという要望があることから、仮設店舗、仮設工場等の整備、地域経済の核となる企業グループ支援等を進めています。
 (独)中小企業基盤整備機構は、地域コミュニティにとって不可欠な機能を提供しています。例えば地域の中心的な商店街等支援等です。

5.原子力発電所事故の影響
 原子力発電所事故の避難区域等では、農林漁業で約12%、建設業で約15%、製造業で約21%、電気・ガス・熱供給・水道業で約2%が働いており、全国、福島県と比較すると、これらの業種で就業する者の割合が高い傾向にあります。
 また、原子力発電所事故の避難区域等では、化学部品、輸送機械部品、電子機器部品等の特定の分野において高いシェアを有する企業が存在し、当該企業の事業活動の継続が困難となり、自動車やエレクトロニクス等のサプライチェーン全体に影響が波及したとも考えられます。
避難区域等の企業は事業の継続が著しく困難となっており、先行きの見通しも立たない状況にあります。
 避難区域等の周辺で生産された商品では、取引の停滞や取りやめが発生。国内外を問わず、旅館ホテル等でも、風評被害が広がり、また取引先から製品の安全性の検査、確認が求められています。
【政府の支援策】
 こうした状況を踏まえ、影響を受けた中小企業に対して、特別な金融支援、雇用支援、経営支援、風評被害への対応支援、仮払い補償の実施等を行っています。

6.電力供給制約の影響
 東京電力管内の企業数は、約145万社であり、その大半は中小企業です。
 帝国データバンクのデータでは、管内企業数と、管内企業と直接取引を行う管外企業数を合わせると、全国の約5割を占めます。特に、製造業と卸売業では、管内企業と直接取引を行う管外企業数 が多く、全国的に影響が及ぶ可能性があります
 夏期に向けて、東京電力・東北電力管内において、ピーク期間・時間帯15%の需要抑制を達成するためにも、中小企業は、更なる節電に取り組んでいく必要があります。

7.その他の全国的な影響
○サプライチェーンへの影響
 被災地域における出荷額が大きく、産業に不可欠な品目を供給する企業との取引が困難になることにより、サプライチェーンに影響が及んだケースもありました。
こうした影響の全国的な広がりを受け、特別相談窓口を設置しており、資金繰り、雇用、税制等についての多岐にわたる相談が寄せられています。
○被災地域における出荷金額上位5品目1

 
順  位
 
品目名
出荷額 ( 百億円 )
 
構成比(%)
被災地域
全  国
1
自動車部分品・附属品
67
2,654
2.5
2
その他の電子部品・デバイス・電子回路
33
405
8.1
3
集積回路
31
431
7.1
4
洋紙・機械すき和紙
30
208
14.4
5
 
自動車
( 二輪自動車を含む)
27
969
2.8
     全   品   目
1,165
30,525
3.8

資料:経済産業省「平成20年工業統計表」再編加工
(注)1.被災地域は、青森県、岩手県、宮城県、福島県における災害救助法を適用した市町村(2011年3月24日時点)を集計した。
2.工業統計表の商品分類表の製造品番号に基づいた品目単位での集計値である。

○消費マインドの低下による影響
 震災による消費マインドの低下により、小売業、旅館、ホテル等のサービス業を中心に影響が拡大しました。

【 所 感 】
 断片的には既に報道されている部分もありますが、企業(特に中小企業)について、東日本大震災が与えた影響を包括的・網羅的に分析されていて、大変参考になると思います。

○プレゼンテーション資料
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/11071101.pdf

○中小企業白書 2011年版
http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h23/h23_1/h23_pdf_mokuji.html

○参考資料
①  津波被災地域
2009年 企業数       75,098社
2008年 製造品出荷額等  4.4兆円.
2007年商品販売額      7.4兆円
○東日本大震災により、災害救助法を適用した市町村(2011年3月24日時点)のうち、国土地理院が4月18日に公表した「津波による浸水範囲の面積(概略値)について(第5報)」により、津波の浸水を受けた青森県、岩手県、宮城県、福島県の39市町村を集計した。そのうち仙台市については、宮城野区、若林区、太白区を集計した。
②地震被災地域
2009年 企業数       742,462社
2008年 製造品出荷額等 35.6兆円
2007年商品販売額     206.5兆円
○東日本大震災により、災害救助法を適用した市町村(2011年3月24日時点)のうち、国土地理院が4月 18日に公表した「津波による浸水範囲の面積(概略値)について(第5報)」により、津波の浸水を受けた青森県、岩手県、宮城県、福島県の39市町村を除いた市町村及び仙台市青葉区、仙台市泉区を集計した。
③原子力発電所事故の避難区域等
2009年 企業数       7,503社
2008年 製造品出荷額等  0.3兆円
2007年商品販売額      0.3兆円
○原子力発電所事故の避難区域等を含む市町村として、田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村の全域を集計した。
④東京電力管内都県
2009年 企業数        1,454,598社
2008年 製造品出荷額等   111.6兆円
2007年商品販売額       262.9兆円
○茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、静岡県を集計した。


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集合訴訟とリスクマネジメント

2011年8月11日木曜日 | ラベル: |

 今日で満78歳になりました。この年になっても未だブログが書けるのは幸せだと思います。
 7月27日、公益財団法人 損害保険事業総合研究所の損害保険特別講座で、東京大学名誉教授、中央大学法科大学院教授 西村高等法務研究所 所長 落合 誠一先生の「大量消費者被害の解決と集合訴訟』―集合訴訟は問題の真の解決となるか― のお話をお聞きしました。

 消費者庁の「集団的消費者被害救済制度専門調査会」は平成22年10月28日の第1回会合以降審議を重ね、平成23年8月19日 の第15回会合で取纏めを終え、消費者委員会の承認を得る運びとなり、早ければ来年にも、集合訴訟の立法化が実現される状況になっているそうです。

 ○消費者庁 制度 集団的消費者被害救済制度について
  http://www.caa.go.jp/planning/index.html#m01-1
  http://www.caa.go.jp/planning/index.html
  http://www.consumer.go.jp/seisaku/caa/soken/seido/shiryo/index.html
  http://www.consumer.go.jp/seisaku/caa/soken/seido/seido.html

 アメリカにおいて、タバコ・銃などについて大規模な集合訴訟(クラスアクション)が提起されたことは記憶に新しいことです。日本でも身近な問題になるとは思ってもいませんでした。
 私は、本件に関しては全くの素人ですが、方向は「二段階型」になるようです。即ち、

 ① 手続追行主体が対象消費者の範囲を特定して、訴訟を提起。
 ② 一段階目の判決において、対象消費者の範囲を定めた上で、共通争点について確認する判
決を行う。判決の効力は、その後に届出(④)をした者に有利にも不利にも及ぶ。
 ③ 一定の期間までに、対象消費者に届出を促す通知・公告を行う。
 ④ 一定の期間までに届出をする。

 集合訴訟(クラスアクション)の導入は、消費者に取って金額が少額で多数の被害者が生ずるような「集団的消費者被害紛争」解決の切り札だと言われています。弁護士さんに取っては、仕事が増えることになります。しかし企業は大きなリスクを負うことになります。
 落合誠一先生は、「集団訴訟制度の導入は、日本の社会がアメリカ型の訴訟社会へ大きく舵を切ることを意味し、わが国の社会の在り方についての大問題である。従って各層の広範囲な議論を経た、社会的コンセンサスが必要である。」と言う視点から見ると、検討過程が訴訟手続上の技術的な問題だとして法律関係者中心で行われており、一般国民、さらには実際にリスクが発生する企業側にどこまで検討・理解されているか問題だと憂えておられます。
 *例えば、消費者庁の集団的消費者被害救済制度研究会はメンバーは学者・弁護士ばかりで、オブザーバーにパナソニックの法務室長さんがいるだけです。
 「集団的消費者被害紛争」解決の手段は、裁判、ADR(裁判外紛争解決)、行政による解決等さまざまであり、どの手段をより活用すべきか我々自身が決めるべき問題だと落合誠一先生は強く訴えられました。私もその通りだと感銘しましたので、ご紹介申し上げる次第です。

○ご興味のある方は、下記の本をお読み下さい。
 「集合訴訟の脅威」〜企業経営・経済成長戦略に与える影響〜 西村高等法務研究所編
平成23年3月 商事法務研究会 2,200円(税別)    ISBN978-4-7857-1852-7

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災害時の金融支援 ④ 東日本大震災に対する㈱日本政策金融公庫の支援策及びその他の機関の支援策

2011年8月1日月曜日 | ラベル: |

 ㈱日本政策金融公庫は国民生活金融公庫、中小企業金融公庫、農林漁業金融公庫、国際協力銀行が担っていた業務を引き継いで、2008年(平成20年)10月1日に設立された政策金融機関です。
 国民民生活事業(旧国民生活金融公庫)部門は、小規模企業者「製造業・その他の業種:従業員20人以下 、商業✳・サービス業:従業員5人以下 (✳商業とは、卸売業、小売業〈飲食店含む〉を指す。)」を取引の対象としています。
 中小企業事業(旧中小企業金融公庫)部門は、一般の中小企業を取引の対象としています。
東日本大震災についての日本政策金融公庫の支援策は、「東日本大震災により被災された皆様への支援体制について」に記載されています。

 前回述べた信用保証協会の保証枠の拡充と、日本政策金融公庫の災害時の融資制度が「政府の災害復旧貸付制度」の二本の柱です。これを活用することが中小企業に取って、最も有効な災害時のキャッシュフロー対策になります。

1) 特別相談窓口の設置及び電話相談の実施(詳細略)
2) 各種融資制度
【国民生活事業】  6000万円 (各融資制度の限度額に上乗せ)
【中小企業事業】  3億円(別枠)

●中小・小規模企業向け融資制度(国民生活事業・中小企業事業)
「東日本大震災復興特別貸付」(平成23年5月23日より取扱い開始)


利用対象者融資限度額融資期間
(据置期間)
融資利率
○直接被害を受けた方
○原発事故に係る警戒区域等*1内に事業所を有する方
【国民生活事業】
6千万円
(各融資制度の限度額に上乗せ)
【中小企業事業】
3億円(別枠)

設備資金20年以内
(5年以内)
運転資金 15年以内
(5年以内)

(1)被害証明書*5等の発行を受けた方
 ○基準利率より0.5%引下げ
 ○融資後3年間について中小企業事業の場合は1億円、国民生活事業の場合は3千万円を上限に基準利率より1.4%引下げ
(2)上記以外の方
 ○基準利率

○間接被害を受けた方
(上記対象者の方と一定以上の取引がある方)

設備資金 15年以(3年以内)
運転資金 15年以(3年以内)
(1)被害証明書*5等の発行を受けた方
 ○基準利率より最大0.5%引下げ*2
 ○融資後3年間について3千万円を上限に基準利率より最大1.4%引下げ
(2)上記以外の方
 ○基準利率
○その他震災の影響により、売上が減少している方など
(風評被害による影響を含む)
セーフティネット貸付(経営環境変化資金)と合わせて
【国民生活事業】
4千8百万円*3
【中小企業事業】
7億2千万円
設備資金 15年以内
(3年以内)
運転資金 8年内
(3年以内)
(1)特に業況が悪化している方など、一定の要件に該当する方
 ○基準利率*4より最大で0.5%引下げ*2
(2)上記以外の方
 ○基準利率*4


*1: 警戒区域、計画的避難区域、緊急時避難準備区域。
*2: 売上高等の減少で0.3%引下げ、雇用の維持・拡大を要件に0.2%引下げ。
*3: 生活衛生セーフティネット貸付(運転資金のみ)の融資限度額は5千7百万円です。
*4: 中小企業事業の場合、信用リスク・融資期間等に応じて所定の利率が適用されます。
    国民生活事業2.25%・中小企業事業1.75%・(貸付期間5年以内の基準利率)  
    国民生活事業 http://www.jfc.go.jp/k/riritsu/index.html#a1
    中小企業事業 http://www.jfc.go.jp/c/jpn/topics/base.html
*5: 被害証明書等: 災害などで被災したことを証明するための書類。災害によって家屋が損壊を受けた場合には市町村が被害の状況を調査して、『罹災証明書』が発行される。塀や家財・車といった家家屋以外の対対象について「被災証明書」が発行される。

○商工組合中央金庫の支援
東日本大震災の影響を受けている中小企業等の皆さまへ
~ 東日本大震災復興特別貸付の概要 ~ を公表しています。
http://www.shokochukin.co.jp/chusyosien.pdf

○民間金融機関の支援策
仙台に本店を置く七十七銀行は「東日本大震災復興支援ローン」を公表しています。
http://www.77bank.co.jp/pdf/kinri/loan/77houjinshienloan.pdf
          ※他にも民間金融機関の支援は数多く存在します。

○地方自治体の支援
○宮城県 
東日本大震災で被災された中小企業者へ新しい融資制度を創設しました。
「災害復旧対策資金  (東 日 本 大 震 災 災 害 対 策 枠)」
http://www.pref.miyagi.jp/syokeisi/shokinhan/syoukin1/saigaisikin.pdf
          ※他にも地方自治体の支援策は多く存在します。
○福島県・経済産業省
原子力災害に伴う「特定地域中小企業特別資金」を開始。
http://www.chusho.meti.go.jp/earthquake2011/download/110523NCA-T-Fin1.pdf
福島県及び経済産業省は、4月22日の基本合意を踏まえ、中小企業基盤整備機構の高度化融資スキームを活用し、原子力発電所事故の被災区域から移転を余儀なくされる中小企業等が、福島県内の移転先において事業を継続・再開し、雇用を維持するために必要な資金の融資申請を6月1日より受付開始。
融資利率: 無利子  担保: 無担保 です。 これは、今までに例のない制度です。  

○金融支援制度を如何に活用方するか
 中小企業は平素から取引金融機関と、大地震発生時にキヤッシュフロー面から事業継続が出来るか、政府の施策の利用をも含めて良く協議しておく必要があります。信用保証協会の保証制度の活用に当たっても先ずは取引金融機関の理解が大事です。
 取引金融機関も、大地震が発生した場合に備え、与信リスク管理の視点から,企業の事業継続、キャッシュフロー対策の状況を把握し,検討しておくべきです。この点についての民間金融機関の対応は、現状まだ不十分であると私は思います。
 地震発生後、企業は大規模な災害発生時等に設置される相談窓口に相談をされることをお勧めします。担保・返済等について問題がある場合も、弾力的に相談に応じてくれるはずです。
 また、中小企業は平素から日本政策金融公庫・中小企業事業部門や商工組合中央金庫との間で融資取引関係を構築しておけば、地震発生後に災害復旧貸付を申し込む場合、既に会社の状況を把握して貰っていますから、話が早く進むと思います。

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災害時の金融支援 ③ 東日本大震災に対する中小企業庁の支援策

2011年7月20日水曜日 | ラベル: |

 7月10日の記事で、経済産業研究所のBBLセミナーにおけるJR東日本(東日本旅客鉄道株式会社)冨田哲郎副社長のお話をご紹介致しました。

 7月17日(日)の日本経済新聞3面の左上の記事で、大林尚編集委員が冨田哲郎副社長のお話の内容に触れておられます。大林尚編集委員も7月6日のBBLセミナーに参加されて感じることがおありだったのだと思います。

 日比谷公園の角、今新築中の飯野ビルの向かい、経済産業省別館のビルに中小企業庁があります。入口のチェックカウンターの前の書架に中小企業庁のパンフレットが並んでいます。そこに「中小企業向け支援策ガイドブック」が置いてあります。今回の東日本大震災に対する中小企業庁の対策の詳細が記載されていますから、霞が関界隈にお越しの折には是非お立ち寄り頂き、ガイドブックをお持ち帰りになることをお勧めします。

 東日本大震災についての 中小企業庁の支援策は3月13日の「 2011 年東北地方太平洋沖地震等による災害の激甚災害の指定及び被災中小企業者対策について」で詳細に述べられています。
http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/2011/110313TohokuGekijinShitei.htm
 特に注目すべきことは「措置の対象は 〈全国〉 」 と言う点です。従来は地域を限定するのが普通でした。今回こういう指定となったため、例えば船橋市の液状化による損害も措置の対象になるなど大きな効果を挙げています。
 更に、5月2日「平成 23 年度第 1 次補正予算を踏まえた東日本大震災の被災中小企業者向け資金繰り支援策のご相談の開始について」にその後の追加の施策が述べられています。
http://www.chusho.meti.go.jp/earthquake2011/110502Eq-F-K.html

 以下は「東日本大震災復興緊急保証」の概要です。
 直接被害を受けた中小企業者に加えて、全国的な震災被害対策として、3階建ての信用保証枠が用意されています。
一般保証枠とは別枠で セーフティネット保証・災害関係保証とあわせて、無担1億6千万円、最大5億6千万円まで利用が可能です。












○東日本大震災復興緊急保証の概要 ①
項   目
内    容
限度額
最大限度額
東日本大震災復興緊急保証(法律により新設) ①  対象 震災被害により経営に支障を来たしている次の中小企業者等
ア. 特定被災区域内 * で今般の地震・津波等により直接又は間接被害を受けた方。
イ. 原発事故に係る警戒区域・計画的避難区域・緊急時避難準備区域内の方
ウ. 特定被災区域外で特定被災区域内の事業者との取引関係により被害を受けた方
② 保証割合 融資額の 100 %
無担保 8 千万円
最大 2 憶 8 千万円
 (別  枠)
東日本大震災復興緊急保証
セーフティネット保証・災害関係保証
とあわせて
 
無担保
1 億6千万円
最大
5億6千万円
災害関係保証 ① 対象 
・今般の地震・津波等直接の被害を受けた中小企業者等
・原発事故に係る警戒区域・計画的避難区域・緊急時避難準備区域内の中小企業者等
② 保証割合 融資額の 100 %
無担保 8 千万円
最大 2 憶 8 千万円
 (別  枠)
セーフティネット保証 ① 対象 業況が悪化している中小企業者 ( 平成 23 年度上期は。原則全業種― 82 業種― )
② 保証割合 融資額の 100 %
一般 保証 ① 対象 すべての中小企業者
② 保証割合 融資額の 80 %
無担保 8 千万円
最大 2 憶 8 千万円
 
 
* 特定被災区域:東日本財特法第2条第3項に規定する区域 ( 岩手県、宮城県、福島県の全域、青森県、茨城県、栃木県、千葉県、新潟県、長野県の一部の市町村 )
○東日本大震災復興緊急保証の概要 ②
 区域
利用対象者
要  件
  内  容
特定被災区域 *1 ① 地震・津波等により直接被害を受けた中小企業者 ( 原発事故に係る警戒区域等内 *2 に事業所を有する中小企業者を含む) 〈罹災証明書〉
(寫しも可)
警戒区域等の事業者は商業登記簿 / 納税証明書等
1. 【 対象資金 】
事業再建資金その他経営の安定に係る資金
2.保証限度額
○普通2億円
○無担保8千万円
最大2億8千万円
○無担保無保証人
1千250万円
*災害関係保証、セーフティネット保証と合わせて
無担保で1億6千万円
最大5億6千万円
( 一般保証と別枠 )
ア)保証割合 融資額の100%
ィ)保険てん補率
90%
3.【保証料率】
0.8%以下
4.【保証人】
代表者保証のみ(第三者保証人については原則不要)
② 震災の影響により業況が悪化している中小企業者 〈市区町村長の認定〉
震災後の3ヶ月 *3
の売上高等が前年同期比10%減
特定被災区域以外 ③ 特定被災区域内の事業者との取引関係により 業況が悪化している中小企業者 〈市区町村長の認定〉
震災後の3ヶ月 *3
の売上高等が前年同期比10%減+理由書
④ 震災災害により風評被害による契約の解除等の影響で急激に売上が減少している中小企業者 ( 主に宿泊業、旅行業を想定 ) 〈市区町村長の認定〉
しない後の3ヶ月 *3
の売上高等が前年同期比10%減+理由書
*1特定被災区域:東日本財特法第2条第3項に規定する区域 ( 岩手県、宮城県、 福島県の全域、青森県、茨城県、栃木県、千葉県、新潟県、長野県の一部の市町村 )
*2警戒区域等: 警戒区域・計画的避難区域・緊急時避難準備区域
*3 震災後の3ヶ月の売上高等は、3ヶ月の実績集計前の場合、1ヶ月(平成23年3月又は同年4月に限る)の実績+2ヶ月の見込み(実績値が集計されている月は実績値)を含む3ヶ月とする。
○被災した地域市町村長の認定の取得が困難な場合については、関係の地方自治体と協議中。
 詳しくは各保証協会にご相談下さい
 
 中小企業庁のHPに融資実績が公表されています。下記のように、7月8日までの 中小企業への災害復旧貸付実績は ,  政府系中小企業向け金融機関の貸付件数 79,732 件 金額 1 兆 4877 億円 , 保証協会の保証件数 148,432 件 金額 2 兆 7173 億円、 合計件数 234,338 件、金額 4 兆 3,597 億円 です。
 6月20日に、 阪神淡路大震災における中小企業への災害復旧貸付実績は、 合計件数 82,704 件、金額 1 兆 1,807 億円 だったと書きました。今回政府の復旧対策は遅遅として進んでいませんが、その結果を大幅に増加した金融支援が支えているのだと思います。
 
○融資実績( 3 月 14 日 〜 7 月8日)
 
貸付合計
( 公庫‣商中 *4 )
東日本大震災
復興特別貸付
(5 月 23 日 〜 )
災害復旧貸付
セーフティネット貸付
累  計 件数 81,796 件 35,071 件 7,369 件 39,356 件
金額 1 兆 5,242億円 8,211 億円 884 億円 6,147 億円
 
○保証実績 ( 3 月 14 日 〜 7 月8日)
 
保証合計
( 保証協会)
東日本大震災
復興緊急保証
(5 月 23 日 〜 )
災害関係保証
セーフティネット保証5号
累  計 件数 152,542 件 23,835 件 3,190 件 125,517 件
金額 2 兆 8,355億円 6,665 億円 474 億円 2 兆 1,216 億円
 
*4 日本政策金融公庫の災害復旧融資制度については「東日本大震災により被災された皆様への支援体制について」
http://www.jfc.go.jp/c_news/news_bn/news230318.html
商工中央金庫の災害復旧融資制度については 「 東日本大震災の影響を受けている中小企業等の皆さまへ ~ 東日本大震災復興特別貸付の概要 ~」
http://www.shokochukin.co.jp/chusyosien.pdf 参照。

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