キヤドバリー卿の著書 『トップマネジメントのコーポレート・ガバナンス』

2012年11月1日木曜日 | ラベル: |

 10月10日に「次回以降、エンタープライズ・リスクマネジメントとコーポレート・ガバナンスについて考えてみたいと思います。」と書きました。今回から主としてイギリスにおける経過を中心に振り返って見たいと思います。

○11月初旬の軽井沢です。若葉の頃も素敵ですが,晩秋の趣はまた格別です。
雲場の池

同  上


六本辻

○トップマネジメントのコーポレート・ガバナンス
 1990年代の主要国のコーポレート・ガバナンス議論の先駆となったのは,イギリスにおいて1992年に公表された「キヤドバリー委員会報告書」です。この委員会の委員長を勤めたキヤドバリー卿の著書に,『トップマネジメントのコーポレート・ガバナンス』と言う本があります。注1
 (注1)日本コーポレート・ガバナンス・フォーラム、英国コーポレート・ガバナンス研究会専門委員会訳『トップマネジメントのコーポレート・ガバナンス』シュプリンガー・フェアラーク東京㈱ 2003年 (原著 Adrian Cadbury  『Corporate Governance and Chairmanship 』 Oxford University Press 2002)

  その第一章に,「イギリスにおけるコーポレート・ガバナンスは1600年12月31日にロンドン貿易商会による東インドとの通商に対して国王から勅許状が与えられ,投票権を持つすべての所有者により構成される所有者役員会(Court of Proprietors) が理事役員会(Court of Directors)を通してロンドン貿易商会を管理したこと」が起源である。
 「所有者役員会は最高の権限を持ち,資金の調達は所有者役員会の承認が必要とされ,所有者役員会が理事を選任していた。理事役員会による政策の決定は所有者役員会によって承認されなければならなかったが,それ自身は執行体(executive body) としての機能を持ち,会社の運営に責任を負っていた。」「このようなガバナンス機構は今日の会社とほぼ同じであった。所有者役員会は今日の株主総会に相当し,理事役員会は今日における取締役会の標準的な機能の大部分を実行していた。」と述べられています。

余談ですが、アメリカ合衆国の独立は1976年7月4日ですから、1600年12月31日にロンドン貿易商会に国王から勅許状が与えられた時点ではアメリカ合衆国は影も形もなかった訳で、「コーポレート・ガバナンス」と言う思想に対するキャドバリー卿(またはイギリス人)の強烈な自負心を私は感じます。
 イギリス王室御用達のキャドバリーチョコレートを作っている会社の経営者が、コーポレート・ガバナンス議論の先駆となった「キヤドバリー委員会報告書」の作成にあたって委員長をされたと言う点にも感ずるところがあります。
 キャドバリー委員会報告書では「コーポレート・ガバナンスとは,会社が(それによって)指揮され,統制されるシステムである」と定義されています。所有と経営が分離している現在「株主の代表である取締役会が会社を統治することがコーポレートガバナンスである」ということが、イギリスにおけるコーポレート・ガバナンスの考え方の基礎だということを,しっかりと抑えておく必要があります。この考え方はアメリカでも同じです。
 10月10日のブログで申しましたように、欧米から輸入した法律や制度の建前と、我が国の組織や実務との甚しい乖離は大きな問題だと思います。我が国の株式会社の制度は明治時代にヨーロッパから輸入されたもので、敗戦後大きく改定されましたが、コーポレート・ガバナンスの議論は我が国には歴史的には存在していないと思います。
 元日本銀行理事の若月三喜雄氏は,講演の中で「コーポレート・ガバナンスは、その国の発展段階,資本市場の発展段階,国民性,社会的環境,文化的背景によって違ってくるものである。」と述べておられます。コーポレート・ガバナンスの思想が新に導入された後の我が国における議論は様々です。
 それに加え、我が国では取締役会の構成員はCEO,CFO,その他の執行役員にあたる人達が殆ど一体となっているケースがまだ数多く存在するため、取締役会が経営者を統治することが事実上難しいという問題があります。
 イギリスのコーポレート・ガバナンス論の展開において,内部統制によって支えられるリスクマネジメントが求められることとなりました。
 アメリカにおいては2004年にCOSO2報告書「Enterprise Risk Management Framework」公表され,コーポレート・ガバナンスにリスクマネジメントがビルトインされました。これらのプロセスを概観すればコーポレートガバナンスと内部統制及びリスクマネジメントの関係が良く理解出来ると私は思います。
 次回からは、イギリスの「統合規範」・「内部統制;統合規範に関する取締役のためのガイダンス」(通称、ターンブル委員会報告書)・「ターンブルの実行ー取締役会への説明(Implementing Turnbull)」・「A New Risk Management Standard」の中身を覗いて、イギリスにおいてコーポレート・ガバナンスとリスクマネジメントが結び付いたプロセスを理解をして頂こうと思います。

○イギリスにおけるプロセス
1980 「監査実施基準」で内部統制を規定
1992 「キャドバリー委員会報告書」 
1995 「取締役の報酬;リチャード・グリーンブリー卿を委員長とする検討委員会報告書」
1998 「コーポレート・ガバナンス委員会:最終報告書」
1998 「コーポレート・ガバナンス委員会:統合規範」
1998 「統合規範」はロンドン証券取引所の上場規則集に添付された。
1999 「内部統制;統合規範に関する取締役のためのガイダンス」
      通称「ターンブル委員会報告書」(その後改定あり)
      「ターンブルの実行ー取締役会への説明」で更に詳しい実行方法が解説されている 。
2002 英国の3大リスクマネジメント機関(IRM The Institute of Risk Management: AIRMIC The Association of Insurance and Risk Managers: ALARM The National Forum for Risk Management in the Public Sector) が 「A New Risk Management Standard」を発表。

○参考
1992 COSO報告書 「Internal Control Framework」
              アメリカにおける内部統制のモデルとなる
2004 COSO2報告書 「Enterprise Risk Management Framework」
                                        
 
                                        
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防災・危機管理に取り組む企業が評価される仕組みを構築するために

2012年10月21日日曜日 | ラベル: |

19日(金)東京ビッグサイトの危機管理産業展2012の危機管理セミナー 「BCP への投資と企業の新たな成長モデル」の中で、「防災・危機管理に取り組む企業が評価される仕組みを構築するために」という話をしました。250人定員の会場は満席で補助椅子を出すなど、BCPに対する関心の高さが改めて窺われました。大変残念だったのは金融機関の関係者の出席が極めて少なかったことです。
 なお、セミナーの資料は、GRCジャパン㈱のHPにアップしてありますのでご覧下さい。
GRCジャパン http://www.grc-j.com/

○秋の箱根 千石原  すすき



○同上  コスモス


○「防災・危機管理に取り組む企業が評価される仕組みを構築するために」

 昨日のセミナーで私に与えられたテーマは、下記の3点でした。
  Ⅰ.防災に取組む企業に保険料を下げることは可能か  
  Ⅱ.融資条件にBCPを取入れることは可能か
  Ⅲ.品質管理が普及した理由とBCPが普及しない理由

 Ⅰ,Ⅱについては,既に日本政策投資銀行(DJB)で制度化されています。
 同行のHPを見ますと、「企業経営とその評価は財務的な指標を中心に行われており、一般の金融取引においては、企業の防災・減災や事業継続(=非財務情報)への取り組みを十分に評価できていない。 DBJでは、防災・減災や事業継続への取り組みを行っている先進的な企業や、今後取り組みを推進していくことを考えている企業に対し、金融技術を活かした支援を行っていきたい。」として、「BCM格付融資制度」が記載されています。
 これはDBJが開発した独自の評価システムにより防災及び事業継続対策への取り組みの優れた企業を評価・選定し、その評価に応じて融資条件を設定するというものです。
 これまでの実績や経験に加え、東日本大震災等を踏まえた個別企業への緊急ヒアリングも行い、得られた教訓や事業継続の要諦を踏まえ、評価システムの内容を大幅に見直し、予防だけに留まらず、危機事案発生後の戦略・体制等を含めた企業の事業継続性(=組織レジリエンス)を総合的に評価する内容となっています。

○BCPコンサルティングサービス
「自然災害対応のみならずシステムダウンや新型インフルエンザ等の危機対応のためのBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の策定を民間企業や自治体に対して行う。リスク対応分野における日本政策投資銀行の持つノウハウと日本経済研究所の経験を活かし、お客さまの事業の特色を踏まえ、かつ確実に利用できるBCPを作成する。」と書いてあります。
 更に株式会社損害保険ジャパンと提携し、同社の子会社のNKSJリスクマネジメント㈱が有償で、①BCPの策定・見直し支援、BCM体制構築支援②BS25999-2事業継続マネジメントシステム取得支援③2012年度発行予定の事業継続に係る国際標準ISOの取得支援 のサービスを提供 します。

○震災時復旧資金特約付融資
 「DBJ BCM格付」融資による“地震発生前”の事業継続の為の各種支援に加え、震災時復旧資金特約付融資により“地震発生直後”の復旧資金の提供を行い、お客様の事業継続推進・高度化支援をはかり、 予め定められた条件を満たす大規模な地震が発生した場合、一定金額の復旧資金が支払われます。
 本特約の設定により、企業は、大規模震災発生時における復旧資金の確保、財務の健全性の維持および震災からの速やかな復旧を支援することとなります。
本特約を通じて、企業のみならず、企業が属するサプライチェーン全体への地震の影響を防ぐ効果も期待されます。

○企業費用・利益総合保険割引制度と被災設備修復サービス
  DBJは株式会社損害保険ジャパンと提携、同社が下記サービスを提供させます。
  1.  企業費用・利益総合保険割引制度
    損保ジャパンは、「DBJ BCM格付」取得企業の災害時のリスクをより正確に評価できると判断し、平成24年1月1日以降を始期とする保険契約に対して、「企業費用・利益総合保険 割引制度」の適用可能割引を行います。 「DBJ防災格付」に加えて、損保ジャパン独自の審査も行い、最大で20%の割引を適用を可能とします。
  2. 被災設備修復サービス
    火災、水災などで汚染した建物・機械設備の煙・すす等による災害汚染の調査、汚染除去(※)を行います。
    従来は新品に交換する以外に方法がなかった被災設備を被災前の機能・状態に修復することで、事業の 早期復旧を支援します。
日本政策投資銀行の「BCM格付融資制度」は、防災・危機管理に取り組む企業が評価される仕組みで、防災に取組む企業に保険料を下げ、融資条件にBCPを取入れた、世界でも類の無い融資制度だと記述されています。

 「一般の金融機関・保険会社で防災に取組む企業に保険料を下げることは可能か」については、私は悲観的です。
  1. 保険料については、損害保険会社が自ら企業の策定したBCPを評価し、その結果保険料を下げると言うことは積極的 には行われ難いと思います。
  2. 民間金融機関が企業の策定したBCPを評価する動きもあまり見受けられません。
  3. 「BCPコンサルティングサービス」は企業に取って費用が掛かります。特に中小企業に対しての「BCPコンサルティングサービス」は一般的に費用対効果の関係で行われ難いと思います。
 保険料の割引以前に、わが国の中小企業に取っての最大の問題は地震保険や地震を原因とする利益保険の付保が困難であると言うことです。
 
 「一般の金融機関において融資条件にBCPを取入れることは可能か」についても、私は悲観的です。
  1.  企業の策定したBCPに対する汎用の評価システムはまだありません。日本政策投資銀行のように、独自の評価システムを保有している一般の金融機関は皆無と思われます。
    又これを策定しようとする動きも見受けられません。
  2.  融資先に対し、自行又は関係会社で「BCPコンサルティングサービス」を行うことが可能な金融機関は少なく、又大規模に行う能力も不足していると思われる。特に中小企業 への「BCPコンサルティングサービス」は一般的に費用対効果の関係で行われ難いと思います。
○金融機関の融資先に対するBCPサポートの必要性
 後記のように、東日本大震災における各銀行の損失の殆どは貸倒引当金の計上です。
 融資先に対する 「BCP(事業継続計画)特に、資金繰り(キャッシュフロー)対策」の推進は、金融機関の資産の太宗をなす貸付金債権が、地震等のリスクで毀損することを防止することになます。それはあたかも製造業において工場の耐震工事を行うのと同じことだと思います。
 企業の事業継続は、BCPとキャッシュフロー対策の両輪があってこそ実効性が確保されることを、金融機関も企業の経営者も、改めて認識すべきです。

○東日本大震災における各銀行の損失状況
  1. A銀行    災害による損失  50,687百万円 当期純損失 30,458百万円。
    「災害による損失」には、貸倒引当金繰入額48,847百万円及び固定資産関連損失
    1,023百万円(うち災害損失引当金繰入額848百万円、固定資産処分損170百万円
  2. 銀行    その他の特別損失 6,919百万円  当期純利益 1,109百万円。
    東日本大震災による与信費用6,075百万円及び震災関連のその他費用807百万円
  3. C銀行  災害による損失  5,184百万円  結果 当期純損失 4,955百万円
    貸倒引当金繰入額5,100百万円及び固定資産関連費用84百万円 
  4. D銀行 貸倒引当金繰入額2,898百万円及び減損損失113百万円
    当期純損失 4,834百万円
  5. E銀行  災害による損失  15億円  結果 当期純損失 10億円
    貸倒引当金繰入額1,457百万円及び固定資産関連損失74百万円
○品質管理が普及した理由とBCPが普及しない理由
 昨年7月1日のブログ「QC(品質管理)とリスクマネジメント・戦後のアメリカ流マネ
ジメント手法の導入を振りかえる」を読んで下さい。再度問題点を下記します。
  1. 危機意識の欠如
    QC導入時に比べ、経営者・管理者・社員の危機意識の欠如が根本問題です。QC
  2. 導入にあたり,中心となって推進する強力な団体、リーダーの不在。
  3. 単独部部門の経営管理手法か、全社的経営管理手法か。
    QCは主として製造部門の問題でしたが、BCP・BCMは全社マターであり、縦割りの我が国の企業組織では定着するには問題があります。
  4. 経営者の関与
 経営者自らがリーダーシップを取って全社を挙げてBCP/BCMに真摯に取組むと言う態勢が出来ていない企業がまだまだ存在します。
 
○参考文献 財団法人日本科学技術連盟 「創立50年史」
http://www.juse.or.jp/about/pdf/history/history_50_2.pdf

  ○一橋大学 佐々木聡教授 『戦後日本のマネジメント手法の導入』
『一橋ビジネス レビュー』(東洋経済新報社)2002年秋号


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法律の解釈と適用について 〜法制度と実務の乖離〜

2012年10月10日水曜日 | ラベル: |

 我が国では法制度と実務が乖離している場合が多々あります。欧米から輸入した株式会社法の建前と、我が国の株式会社の実務・実状との甚しい乖離は大きな問題です。ごく最近そのことを痛感しました。

○長崎くんち
 今年、10月7日(日)8日(月)9日(火)は「長崎くんち」です。
 これは長崎の氏神様「諏訪神社」の秋季大祭です。 寛永11年(1634年)が「長崎くんち」の始まりと言われています。 爾来、長崎奉行の援助もあって年々盛んになり、さらに奉納踊には異国趣味のものが多く取り入れられ、江戸時代から絢爛豪華なお祭りとして有名です。私の父は長崎で育ちました。私は一回だけ「長崎くんち」を見物する機会がありました。

○諏訪神社です。



○演しものの一つです。

○取締役の善管注意義務
 取締役の基本的な義務として、会社に対する取締役の善管注意義務と忠実義務があります。
 取締役は、株主総会による選任決議を受けて、会社がこの者に経営を委任し、選任された者がこれを引き受ける(就任を承諾する)ことによって取締役の地位につきます。このように、会社と取締役の間には委任契約が存在し(会社法330条)、会社が委任者、取締役が受任者の関係にあります。
 そこで、取締役は委任契約における受任者として、善良なる管理者の注意をもって業務執行を行う義務を負うことになります(民法644条)。これを、「善管注意義務」といいます。 善管注意義務とは大まかにいえば、『取締役という地位にある者として一般に要求される程度の注意を払って業務を遂行する』ということになります。
 万が一、受任者に専門家としての注意不足があり、そのことにより委任者に損害が発生したときは、受任者は委任者に対して賠償しなければならないということになります。これが、善管注意義務違反による損害賠償です。

○60年前の教え
 私は1952年に京都大学法学部に入学しました。2年目から専門科目の授業が始まりました。今から約60年前、私は民法のゼミナールに所属し、当時新進気鋭の林良平教授からご指導を受けました。今もその教えに従っています。ゼミでは下記のようなことを徹底的に叩き込まれました。
①法律の解釈については、論理的であることは当然であるが、具体的妥当性のある解釈を下すについては、その人の経験・教養が重要である。全人格が解釈に反映するものである。
②法律の適用については、事実関係の確認が極めて重要である。事実の中に法律の解釈を決するものがある。

○何故裁判官を信用するのか

 私は銀行退職後、銀行のお世話で就職した大手製薬会社で、国際化に備えて英会話の個人レッスンを受けましたが、先生のアメリカ人から「刑事裁判において、何故日本人は職業裁判官を信用するのか」と言われました。当時はあまり議論されていなかった、陪審員制度のことです。アメリカ人は、社会の一般常識が刑事裁判の判決に反映されるべきだと思っています。これは民事裁判についても同じことが言えると思います
 判決は裁判の場における正義だと思います。裁判官・検事の一般常識と乖離した法律の解釈や適用についてあまり問題にしない日本人は、何とお人良しなのでしょうか。 私を含め、日本人の殆どは一生裁判に関係しないで済む幸せな(?)国に生きているからだと考えます。

○法制度と実務の乖離
 私の親しい中小企業の元代表取締役専務の方が相談役になられた後に、その会社は民事再生手続きを開始しました。会社は旧代表取締役に対し、善管注意義務違反として巨額の損害賠償を請求して来ました。私はゼミの後輩の弁護士と相談をして対応しました。
 その方は東日本地区の営業を担当する役員として職務に精励していたのですが、東日本地区の或る取引先に対する支援(含む融通手形の交換)がその会社の民事再生手続き開始の原因であるとして、彼の取締役としての善管注意義務違反が問われました。彼は担保範囲を越える支援には終始反対していました。また融通手形の交換については、彼の担当外である西日本地区の業績不振による資金繰りの悪化の糊塗策の結果とみられます。彼は決算粉飾を含め社長や経理担当常務からは何の情報も得ていなかったので、その旨を答弁したのですが、裁判官からは一顧だにされませんでした。
 私も上場会社の取締役・監査役の経験があります。我が国の企業では、担当外の事業の状況について、個々の取締役が実態を承知するのは至難の技です。実際は執行役員の立場でいながら、会社の制度上取締役になっているケースも多いと思われます。
 法律の建前と、実務が大きく乖離している場合でも、法律の解釈としては責任を逃れることは出来ないと思いますが、裁判官が法律の建前だけで、実務の実際に対して一顧だにしない事に彼は非常に傷ついています。全く責任を逃れることは出来ないにしても、裁判官には実情を理解して貰えないのかと嘆いています。
 当時、彼があくまで支援に反対する、或いは会社の状況に対し経理担当常務を詰問すれば、会社では内粉になり、得意先・金融機関の信用を失い、最悪の場合その時点で倒産に至っていたかも知れないと私は思います。結果からみれば,善管注意義務違反でしょうが、割り切れないものがあります。
 もし裁判官がこれらの事情を斟酌しようとすれば、会社経営に対する実務知識が必要になります。それは必要ないいう裁判官の判断だろうと思われます。
 林良平千先生から60年前に教えられた
②法律の適用については、事実関係の確認が極めて重要である。事実の中に法律の解釈を決するものがある
 は、その後会社経営の実務においても、裁判官の判断においても全く改善されることなく、今日に至っていることを痛感致します。
 裁判官からすれば、法律に定められた通りの会社経営をしていないことが問題だということでしょう。然し、多くの会社の取締役会が法律に定められた通りの会社運営をしていないという事実の重みも重大です。法曹界と実務の双方で、何故そうなのか、どうすべきかについてのシリアスな議論がなさるべきだと思います。
 今年1月オリンパスは現旧取締役に対し、巨額の損害賠償訴訟を提起しました。私の経験からオリンパスの多くの現旧取締役の方々に取っては大変酷な話だと思います。役員損害賠償訴訟に関して極めて有能な研究仲間の弁護士さんにその感想を述べました。彼は自分も同感だが、法律的には根拠のあることだからと言っていました。
「我が国の会社経営における、法制度と実務の乖離」特に「善管注意義務違反による損害賠償」の問題は会社に問題が起らなければ我が身に振りかかって来ませんから、現在の取締役の方々は楽観的なのだろうと思います。然し、実は大きなリスクだと考えます。
 次回以降、エンタープライズ・リスクマネジメントとコーポレートガバナンスについて、そのあたりを考えてみたいと思います。


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中小企業基盤整備機構の国際化支援について

2012年10月1日月曜日 | ラベル: |

 中国の現状は進出企業にとって大問題です。先月末、中小企業基盤整備機構にお伺いして、同機構の中小企業向け国際化支援の状況をお聞きして来ました。今回はその内容をご紹介致します。海外へ進出している、或いは進出しようと考えている中小企業に取って、必ずお役に立つことだと確信します。

 10月1日JR東京駅の「丸の内駅舎復原工事」が完成します。しかし台風17号の影響で駅前広場で天皇、皇后両陛下をお迎えして開催予定だった東京駅丸の内駅舎の保存・復元工事の完成式典が中止になったのは大変残念です。私は鉄道が好きで、昭和31年秋の就職活動に際し日本国有鉄道も受検する積りでいましたが、当時のルールで一番早く内定した都市銀行に入りました。昭和39年9月27日東海道新幹線開業の4日前の日曜日,伝手があって東京―大阪間を往復9時間かけて、グリーン車で東海道新幹線全線を試乗しました。鉄道に対する好奇心は今も止み難く、復原工事の完成は誠に喜ばしいことです。

鹿島建設株式会社 HPより







創建時[1914~1945]  ドーム形状 地上3階建 鉄骨煉瓦造

工事着工前 [1947~2007]  寄棟形状 地上2階(一部3階)建 鉄骨煉瓦造

復原後[2012~] ドーム形状 地上3階建・地下2階 鉄骨煉瓦造、RC造(一部S造・SRC造)、免震工法

○中国事業リスク管理ハンドブック(基礎編)(応用編)、
私は中小企業基盤整備機構の平成20年度「中国事業リスク管理ハンドブック(基礎編)」、平成21年度「中国事業リスク管理ハンドブック(応用編)」作成プロジェクトの有識者会議委員長を致しました。そのころ中国では、労働争議の嵐が吹き荒れていました。
 同書の「まえがき」には

「中国において直面するかもしれない多種多様な事業上のリスクに円滑に対処していくことは、中国における事業に関わっている全ての日本企業にとって共通の課題になっています。殊に、大企業とは異なり経営上の各種の資源が限られている中小企業に取っては事業上の各種のリスクへの対応は企業自体の存在にも影響する決定的な重要性を有しています。(中略)
 本書が、中国において事業を展開されている、あるいはこれから展開されようとしている中小企業の皆さんにとって、中国での事業上のリスクに適切に対処していく上でお役に立つものとなれば幸甚です。」
と書かれています。
 この過程で、委員になっておられた中小企業基盤整備機構のアドバイザーの方のご意見をつぶさにお聞きする機会がありました。中小企業基盤整備機構のアドバイザーは、大企業の経営幹部として実務を幅広く経験した方や、中小企業支援の経験を積まれた中小企業診断士・公認会計士・弁護士・税理士など多彩な顔ぶれの方がたが、極めて実務的なアドバイス・支援を行っておられることを実感致しました。現在中国の事業リスクは大変シリアスな状態にあり、進出企業は重大な危機に直面していると思います。こう言う時期にこそ、スタッフも乏しく、また財務基盤も弱い中小企業はこうした制度を活用して危機を乗り越えるべきだと思います。

○中小企業基盤整備機構の国際化支援事業について
 中小企業基盤整備機構の資料によって、国際化支援事業の概略をご紹介致します。

Ⅰ.海外投資、輸出入や海外企業への委託生産など、海外展開で悩んでいる中小企業からの相談に対し個別にアドバイスをする。(無料)

  国別・分野別の専門家(アドバイザー約370名)が相談者の経営状況を踏まえ、海外展開の可否・対象国の剪定・海外向け製品の開発・改良の必要性等、海外進出の初期段階から実現段階まで、経営支援の観点から必要な情報提供・アドバイスを行う。
中小機構本部及び支部でのアドバイスは無料。相談はEメールや電話でも受け付ける。
○平成22年度 国別相談件数・内容
国  別
相談内容別
国  名
  件数 比率 %
相談内容
   比率 %
中  国
1,206
 46



投資環境
  18.4
ベトナム
  322
 12
事業運営
  12.4
 タ  イ
  150
  6
事業手続
  12.2
アメリカ
  140
  5
小  計
  43.0
韓  国
  119
  4
国際取引
47.5
台  湾
   99
  4
業務提携
 6.2
インド
   82
  3
移転・撤退
   0.4
その他
  526
 20
その他
   2.9
2,644
100
 100.0

Ⅱ.海外現地への同行アドバイス(有料:企業負担は専門家謝金の1/3)
  海外現地でのF/S (事業可能性調査)を行う際に、機構の専門家が同行し、立地・環境・許認可・規制・従業員の採用・取引先の開拓などについて実践的なアドバイスを行う。

 Ⅲ.海外への販路開拓支援
  海外への販路開拓を目指す中小企業を対象に、海外展示会及び国内展示会への出展を支援
1.海外展示会への出展支援
・国内の事前準備支援   
  ①アドバイス 無料 
   展示会情報提供・現地マーケット情報・需要動向・商品情報の提供
   商品のブラッシュアップ
  ②実務支援(有料:実費の1/3受益者負担)
   パンフレット・商品カタログ等資料の翻訳等
  ③海外販路拡大ワークショップ(無料)
・出展時支援
  ① アドバイス(無料)
   ブース設営・市場、製品動向・商談契約締結
  ② 出展料(有料)  ジェトロ等主催機関に支払い。
・帰国後の商談フォロー(無料・一部有料)
2.国内で行われる国際展示会への出展支援(無料・一部有料)

Ⅳ.その他
 ・海外展開のためのセミナーや個別相談会の開催。
 ・海外事業展開のキーパーソンの人材養成。中小企業大学校における研修(有料)
 ・海外展開に役立つ施策情報や成功事例などの情報提供。
 ・海外機関との連携により販路開拓支援。

    
 ○中小企業基盤整備機構 国際化支援センター
 http://www.smrj.go.jp/keiei/kokusai/index.html

(まとめ)
 平成22年度の相談件数が2,644件というのは、如何にも勿体ないと思います。この制度をもっともっと周知せしめて、数多くの中小企業が利用すべきだと思います。
 「中国事業リスク管理ハンドブック」策定の経験から、中小企業基盤整備機構のアドバイザーの方のコンサル能力の高さを実感しました。
 なお、中小企業基盤整備機構の支援は国際化以外の分野にも及んでいます。
 ○中小企業基盤整備機構  http://www.smrj.go.jp/index.html



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電機大手の業績について想う ④ 「赤字では会社はつぶれない」

2012年9月20日木曜日 | ラベル: |

 16日の日本経済新聞32面「私の履歴書」今井敬様の文章の中に、富士製鉄永野重雄社長が「赤字では会社はつぶれない。手元にキャッシュがなくなり銀行が貸してくれなくなったときが本当の危機だ。」と語られたと書かれています。キャシュフローリスクの重要性を唱える者として「我が意を得たり」の思いが致します。

○8月末、35年振りに嘗ての勤務地岐阜へ行って「鵜飼い」を見て来ました。

 山の上は 岐阜城です。

 長良川です。
 

○「赤字では会社はつぶれない」 

16日の日本経済新聞32面今井敬様の「私の履歴書」
 


○赤字では会社はつぶれない 
 東京電力のケースでも、自己資本がマイナスになったら会社が倒産すると言うような議論が散見されます。東証の上場廃止基準は、「債務超過の状態となった場合において、1年以内に債務超過の状態でなくならなかったとき(原則として連結貸借対照表)」となっています。自己資本がマイナス(債務超過)になっても、直ちに上場廃止にもなりません。
 企業の損益が赤字であっても、更にその結果自己資本がマイナス(債務超過)になっても、手元にキャッシュがあれば会社は潰れません。そこのところをはっきりと理解することが肝心です。元富士製鉄社長永野重雄様の言葉として、「赤字では会社はつぶれない。手元にキャッシュがなくなり銀行が貸してくれなくなったときが本当の危機だ。」と、16日の日本経済新聞の今井敬様の「私の履歴書」の中で、キャッシュフロー・リスクの神髄を語って頂きこんなに嬉しいことはありません。
 昨年6月10日にご紹介した「経済産業省のリスクファイナンス研究会報告書」を是非読んで頂きたいと思います。私の申し上げたいことがみんな書いてあります。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1009715
 シャープのケースでは、主力銀行の態度が判然としないまま、主力銀行が8月の新規融資に担保権を設定して内外に不信を招きました。
 9月5日の朝日新聞9面に「新規融資に際し8月31日付でシャープ本社・亀山工場に主力銀行が担保権を設定。異例のこと。」と報じられたため、主力銀行はシャープの将来を信用していないことを内外に知らしめました。
 また、前回にも書きましたが、9月4日の日本経済新聞に『6月末の残高は3年前の3倍弱4600億円に上るが、(主力銀行は)経営改善に積極的に関与してこなかった。「シャープほどの優良企業なら大丈夫だと思った。」と銀行幹部は明かす。(中略)バブル崩壊を経て一度遠くなった企業との距離を埋められずにいる。』とか、9月5日の朝日新聞には『これ以上の融資には黒字転換するための事業計画が必要」(幹部)との声もある。』と報じられるなど、新聞記事で見る限りは銀行幹部の言動は今一つでした。
 支援の方針を明かにしないままの担保権の設定も一因となって、シャープは格付けの低下、株価の低落を招き、鴻海に足元を見られるなど、支援の順序が違っていたのではないかと古い銀行員としては思います。直近の融資に担保を付けてもエクスキューズにしかならないと思います。過去の無担保融資はシャープが行詰まれば損失になります。
 昔ならメインバンクとしての支援の姿勢を先ず明確にし、他方会社側と一緒に知恵を絞って事態の打開を図る場面です。その間の融資を躊躇っても全くプラスは無いのではないかと思います。主力銀行は歯を食いしばってでも支援する姿勢を示すのがシャープのためだったのではないかと思います。
 15日の朝日新聞11面に「シャープ創業100周年の記念行事は奥田社長の訓示のみ」と報じられています。哀れな100周年記念日になりました。
 主力銀行のみずほコーポレート銀行佐藤頭取は13日の会見で「モバイル端末の中核技術を高く評価し、協力を惜しまない」と言われました。何故最初からそう仰らなかったのでしょうか。投資政策を誤ったとしても、培った液晶技術が他国に流出するのは国益に反するのではないかと私は思います。
 折しも、18日の各紙は、アサヒビール元社長樋口広太郎氏のご逝去を報じています。嘗て勤務した銀行の大先輩です。ビールのシェアが10%を切って「夕日ビール」と言われ、土俵際にあったアサヒビールに1986年住友銀行副頭取から社長に転じ、スーパードライで同社を復活・再生させた方です。企業とメインバンクの協力の好事例だと思います。
 私は「夕日ビール」の時代から個人で飲む時でもビールはアサヒビールしか飲みませんでした。メインバンクの社員として、窮地にあるアサヒビールのためには他社のビールを飲むのはご法度でした。蛍光灯はナショナルかNECを付けていました。事の可否は別にして、そのくらい企業とメインバンクは強く結び付いていました。
 企業が窮地に陥った場合、メインバンクは先ず支援の姿勢を表明していました。一方メインバンクと企業の間では会社再生の方策を巡って徹底した協議がなされました。営業店の融資部門とは別に、銀行の企業調査部門は、業界を分担して業界の調査を行うと共に、業界別に自行の融資先の内容を分析し問題は無いかを常に検討していました。企業の危機に際し、営業店と調査部は協力して企業の再生方策を検討します。「自行のどの企業の支援を受けるか」などについても調査部は業界横断的な検討が出来ました。今回、オリンパスがソニーの出資を受けるについて、オリンパスは旧住友がメイン、ソニーは旧三井がメインです。他の理由もあったのでしょがが、金融面ではベストの組み合わせだと思います。
 今の主力銀行がそうした能力を失っている筈はないと思います。然し、シャープが液晶に会社の将来を賭けていた以上、世界のマーケットにおける液晶テレビのシェアの推移を見ていれば、主力銀行として将来に対する問題点は当然何年か前から予測されていた筈だと思います。「シャープほどの優良企業なら大丈夫だと思った。」と銀行幹部が明かしたなどとは信じられません。もしそうならば、「バブル崩壊を経て一度遠くなった企業との距離を埋められずにいる」のではなく、貸出金債権の保全という重大な義務をないがしろにしていたことだと思います。液晶テレビの世界的な生産・販売状況の問題は、シャープとの距離の問題では無く、業界調査の不備だと思います。また問題点が明らかになった場合、企業に意見を言わなかった(言えなかった?)としたら、与信保全上の怠慢だと思います。
 外から見ているので、当事者の方からは異論があると思います。また、欧米の銀行では取引先企業の苦境に当たってサポートすると言った議論は無いのかも知れません。仮にそうであっても貸出金債権の保全を図ることは、今でも銀行業務の重要な基本業務の一つだと思います。
 今の銀行で、定量的なデータをコンピューターに打ち込んで正確な分析結果が機械的に表示される仕組みは、効率的で手作業の時代に比べ大変良いことだと私は思います。ただ中小企業取引だけでなく(それにも大いに異存がありますが)大企業の与信判断でも主にコンピューターのデータで行い、定性的な部分が抜けているのではないかと懸念します。
 嘗ての銀行は貸出金利息収入と預金支払利息の差が収益の基盤でした。従って企業の倒産による貸倒れは銀行の収益基盤を揺るがすもので、「貸倒れリスクの管理」=「貸出金債権の保全」は銀行員に取って最重要業務でした。
 『財務諸表の計数の分析は過去の実績の分析ですから、現在の状態並びに将来の見通しは別途分析検討が必要です。更に貨幣価値をもって表現できない外的な経済環境とその変化、内的な経営の人的要素とその運営管理を含めて会社の実態を認識すべきであるという定性的な分析を加味した経営分析』がなされなければ、正確な与信判断は出来ません
                              *貸出の可否に関する判断を「与信判断」と言います。
 私は都市銀行勤務中、常に取引先の将来の見通しを考慮して与信判断を行って来ました。精一杯の努力をしても将来を見通すことは至難の技で、見通しを誤ったケースもあります。しかしその時々自分として精一杯の与信判断を繰り返して行くしかありません。後輩も取引先企業のために、優れた与信判断を行って欲しいと思います。

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電機大手の業績について想う ③ 「シャープに関する新聞報道」 

2012年9月10日月曜日 | ラベル: |

 シャープに関する新聞報道を読みますと、主力銀行の対応について違和感を覚えます。
外から見た意見ですが、主力銀行は、取引先の業況についてもっと理解しているべきです。人ごとではありません。また無担保の貸出金を有する場合は、貸出金債権の保全のためにも極力企業の再建をサポートすべきだと思います。

○一度だけ行った沖縄の風景です。

 

○メインバンクとは
 メインバンクと言う言葉は、わが国の経済が発展途上で、企業の自己資本の蓄積が少なく、銀行借入依存度が大きかった時代において存在しました。私が嘗て勤務した都市銀行の実務経験から、メインバンクの定義を私なりに致しますと、
  1. 当該企業に対する当該銀行の融資シェアがトップである。
  2. 当該企業と当該銀行の間に信頼関係が成立している
  3. 当該銀行は当該企業の資金調達についての最終責任を持っていると認識している
  4. 当該銀行は、当該企業の経営・業績に関して詳細を承知しようとし、且つ経営に関して意見を申し述べる
  5. 当該企業の経営危機に際しては、当該銀行が救済するとの暗黙の諒解が存在している。(銀行・企業・世間)
と言ったことかと思います。
 私の実務経験からは②当該企業と当該銀行の間に信頼関係が成立している。と言うことが最も重要なことでした。単に数字の上で融資シェアがトップであっても、大企業では企業と銀行の経営者間に、中小企業の場合は企業経営者と支店長の間に信頼関係が成立していなければ、メインバンクではありませんでした。
 企業の自己資本比率が大きくなり、また増資や社債等による資金調達が主になって、銀行借り入れ依存度が低下し、最後には借入金ゼロの企業も出来て、メインバンクの制度は崩壊したように思われます。
 ただ、企業の盛衰は激しいので、経営不振或いは事故・災害発生時のリスクファイナンスの見地からは銀行借入の価値はまだまだあると私は思います。数兆円の年商以上の手元現・預金を有する会社が、僅か数十億円の銀行借入を残しているのは、いざという場合に備えて平素から自社の状況を銀行のトップと融資部門に報告して置くためではないかと私は思っています。

○シャープに関する新聞報道
 9月4日の日本経済新聞1面「金融ニッポン・第2部 原点に帰る」 の記事に、
『銀行の現場力が落ちているのではないか。液晶パネルの雄、シャープの業績悪化に取引銀行が慌ただしく動き出したのは最近のことだ。「最終赤字が300億円から2500億円に拡大する。」みずほコーポレート、三菱UFJ両行は急遽、資産査定部隊を立ち上げた。8月末に決めた1500億円の追加融資では初めて担保も取った。(中略)6月末の残高は3年前の3倍弱4600億円に上るが、経営改善に積極的に関与してこなかった。「シャープほどの優良企業なら大丈夫だと思った。」と銀行幹部は明かす。(中略)バブル崩壊を経て一度遠くなった企業との距離を埋められずにいる。オリンパスの粉飾に主力銀行の三井住友銀行は気づかなかった。(中略)コンピューターに財務データを打ち込み、基準を満たせば機械的に貸し出す仕組みに慣れ(後略)」
と記述されています。
 オリンパスについては、私は監査法人の交替の問題、更には多くの企業が財テクで損失を出しているのにオリンパスだけが損失を出していないと言うことをメインバンクは本当に信じていたのか。もしかすると、今更知っていたと言えないのではないかと疑っています。
 コンピューターに財務データを打ち込み、機械的に貸出す仕組に慣れて、(正確な与信判断を怠っている。)と記述されていることについては、私は、定量的なデータをコンピューターに打ち込んで、正確な分析結果が機械的に表示されるのは効率的であり、手作業の時代に比べ大変良いことだと思います。ただ中小企業取引だけでなく(それにも大いに異存がありますが)大企業取引の与信判断までコンピューターのデータで行い、定性的な部分が抜けているのであれば話になりません。財務諸表の計数の分析は過去の実績の分析ですから、決算後の現在の状態並びに将来の見通しは別途分析検討をしなければ、正確な与信判断は出来ません。         *貸出の可否に関する判断を「与信判断」と言います。
 同紙はさらに企業育成こそ融資の王道。新たな資金需要を掘り起こすには従来以上に銀行員が取引先とともに経営を考える必要があるとも言っています。
 9月7日の朝日新聞9面にも「8月31日付でシャープ本社・亀山工場にメインバンクが担保権を設定」と報じられ,各紙が追随しています。この時期の担保権の設定は、メインバンクはシャープの将来を信用していないことを内外に知らしめることだと思いますので、果たして得策なのでしょうか、古い銀行員としては首を傾げます。格付にあたっても不利ですし、株価も下落します。また鴻海からは益々足元を見られることになると思います。主力銀行は歯を食いしばってでも支援する姿勢を示すのがシャープのためになるのではないかと思いました。
 直近の融資に担保を付けてもエクスキューズにしかならないと思います。過去の無担保融資はシャープが行詰まれば損失になります。昔ならメインバンクとしての支援の姿勢を明確にし、他方会社側と一緒に知恵を絞って事態の打開を図る場面です。その間に融資を躊躇っても全くプラスは無いのではないかと思います。旧日本興業銀行・三菱銀行を含む主力の二行がそのようなことを判っておられないとは到底思えません。
 しかし、朝日新聞には「これ以上の融資には黒字転換するための事業計画が必要」(幹部)との声もある。と報じられています。シャープが如何に対処すべきか銀行は判っておられないのでしょうか。先の日本経済新聞の記事と言い、銀行幹部のこうした言動が報じられるのは全く遺憾です。
 私は、都市銀行勤務中、主として本店における企業分析・審査や、支店おける貸出業務に従事しました。多くの企業との取引に関わりましたが、支店における貸出の稟議・本店における貸出の決栽あたっては、常に取引先の将来の見通しを考慮して判断を行って来ました。銀行勤務約30年の私の結論は、「企業の盛衰は経営者による。経営者に最も必要な資質は環境の変化に対する適応能力である。」ということでした。
 
1984年(昭和59年)に出版された日経ビジネス編「会社の寿命〃盛者必衰の理〞」は当時大変話題になりました。百年間の上位百社のランキングを作成した結果、『企業が繁栄を維持出来る期間、すなわち「会社の寿命」は、平均わずか三十年に過ぎない。』という本です。同書の「会社の生き残り条件5ヶ条」の第3番目は「危険を冒して活力を出す」、この項目の好事例として紹介されちる経営者はシャープの早川徳次氏とオリンパス光学工業の渡辺八太郎氏です。昭和59年現在のシャープ・オリンパス光学工業は評価に値する企業だったと思います。その後の経営者が方向を誤った訳です。「会社の寿命」最終章の標題は「壽命を握るのは経営者」です。

 私は、シャープも、パナソニックやソニーも、我が国の家電メーカーが良き経営者を得て再生することを心から願っています。



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電機大手の業績について想う ② 「会社の寿命”盛者必衰の理”」

2012年9月2日日曜日 | ラベル: |

 2月1日の記事でコダックの破綻と富士フィルムの発展を対比し、2月10日の記事で電機大手の業績についてパナソニックとソニーの再生を心から願うと書きました。
 28年前、昭和59年(1984年)に刊行された日経ビジネス編「会社の寿命”盛者必衰の理”」を読み返しますと、結局「会社の寿命を握るのは経営者」だという結論は今も昔も変らないということを痛感します。

○甲子園からさらに西へ、明石海峡大橋です。




○会社の寿命”盛者必衰の理”
 1984年(昭和59年)に出版された日経ビジネス編「会社の寿命”盛者必衰の理”」は当時大変話題になりました。百年間の上位百社のランキングを作成した結果、『企業が繁栄を維持出来る期間、すなわち「会社の寿命」は、平均わずか三十年に過ぎない。』という本です。





 同書によれば、会社の生き残り条件 5ヶ条は下記です。
  1.  時代を見抜く指導力。先を見通したリーダーの鋭い決断。
  2.  社風一新,沈滞を破る。
  3.  危険を冒して活力を出す。
  4.  大樹に寄りかからない。
  5.  ムダ金使いの勇気を。
さらに、強力なリーダーシップが不可欠だと言っています。
最終章の標題は『壽命を握るのは経営者』です。 
 私は、都市銀行勤務中、主として本店における企業分析・審査や、支店おける貸出業務に従事しました。多くの企業との取引に関わりましたが、支店における貸出の稟議・本店における貸出の決栽あたっては、常に取引先の将来の見通しを考慮して判断を行って来ました。銀行勤務約30年の私の結論は、「企業の盛衰は経営者による。経営者に最も必要な資質は環境の変化に対する適応能力である。」ということです。
昨年9月1日の記事で、「企業分析・経営分析に関しては昔から沢山の参考書があり、分析項目・内容・順序が詳細に述べられています。参考書の記述の順番に、数多くの項目を分析をして終章まで行っても、結論は出せません。それは、各項目の分析結果に軽重がついていないため、どこの部分は良い、どこの部分は問題だとはなっても、結局全体としてどうなのかの判断が出来ないからです。」と書きました。
今回の東日本大震災におけるBCPに関し、或る大手家電メーカーの方から、実践の結果をお聞きする機会がありました。その方は我が社は十分な対応が出来たと誇らしげに仰っていました。しかし、その後の同社の業況は悪化の一途です。
 リスクマネジメントやBCPの実践において、平成15年6月経済産業省のレポート「リスク新時代の内部統制」で言っている『事業活動の遂行に関連するリスク(オペレーショナルリスク)』に関しては十分に実践していても、『事業機会に関連するリスク(経営上の戦略的意思決定における不確実性)』の対応が不十分であれば、結局企業経営は上手く行きません。両者のリスクはともにバランスが取れた管理が必要です。
 パナソニック・ソニー・シャープなどの家電メーカーは、従来からの家電の分野に拘って抜本的な体質改善が行われないまま、主力製品のテレビの極端な不振に直撃され、大幅に業績が悪化したと考えます。『経営上の戦略的意思決定』に関しては全く経営者の責任であると思います。 
8月20日の二本経済新聞電子版の記事、「よみがえるか日本の電機 いでよ信念の経営者 稲盛和夫氏に聞く 中途半端な決断、病巣に」の記事の中で、稲盛氏は
「バブルで大きな痛手を被ったものだから石橋を叩いても渡りたくない、危険、リスクを冒したくないという方向へ日本全体の経営者が向いている。苦労知らずで意思決定が中途半端なトップばかり。それが今日の日本企業が抱える問題だと思う
と言っておられます。
「今の日本の家電業界に強力なリーダーの姿は見えるか。」の質問に対しては、
「残念だが、皆無だ。個別の企業の話をするのは何だが、例えばソニーでゲーム事業をゼロから立ち上げた久多良木健さん(元ソニー副社長)。異端だったかもしれないが、優れたリーダーの資質を備えていたのではないか。大事なのは技術や現場のわかる経営者。昔はIHIや東芝など技術系で武骨なやんちゃな人がトップになっていたが、今は文系で物わかりの良い人が偉くなる」
 「リーダーとは自分の仕事について壮大なビジョンが描ける人。ビジョンを描けて実行しようと思えばそれは信念にかわる。矢が降ろうとやりが降ろうと何があろうと信念を貫き通す。命さえも落とす覚悟で臨める強い意志をもつ。いわば頑固者。自分のビジョンを開陳し、賛成を得られなくても、そうですね、とやめるのではなく、むしろ勝手にしますとやり遂げる決意のある人。人間性に問題がなければ社員はそのトップについてくる」
 「どの会社でもトップから末端の社員の考え方を変えれば再生できる。要するに過去の成功体験などに固執せずこれまでの考え方を破壊できる企業であれば十分に再生可能だ。もちろん、痛みや苦痛も伴う。日航もその成功例だと思っている」
同記事の最後の『《記者の目》 勝ち組企業はトップダウン』では、
 『日本のデジタル産業界には「強力なトップが不在だ」と稲盛氏は嘆く。世界的なベンチャー企業を育て、通信業界の再編を仕掛け、日本航空を再建した現代のカリスマ経営者。その目には現在の経営者たちは「いずれも苦労知らずの決断力に乏しいエリート」にしか映らないのだろう。
今の世界のデジタル業界で勝ち組は、いずれも強力なリーダーを擁したトップダウン型企業だ。デジタル業界のトレンドは常に激しく変貌していく。経営には「スピードと集中」が求められる。ソニーは、米アップルにインターネットを活用した音楽配信事業で先手を打たれ、パナソニックとシャープは薄型テレビの世界競争で、韓国のサムスン電子の物量に圧倒された。デジタル業界の再生には、命懸けで改革に挑む豪腕トップが必要とされているのだろう。(聞き手は佐々木聖)』
と書かれています。
 私ごときが偉そうなことは言えませんが、豪腕なトップが育たない今日のわが国の企業風土は、将来に禍根を残すと思います。
 私は、パナソニックはじめ我が国の家電メーカーが良き経営者を得て再生することを心から願っています。

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