東京電力㈱の「福島原子力事故調査報告書」について

2012年7月1日日曜日 | ラベル: |

6月27日(水)に東京電力㈱の株主総会が開かれ、東京電力㈱の実質国有化が決まりました。しかし、原子力発電所の再稼働の見通し、廃炉費用の見通し、除染費用の見通し、原子力損害賠償総額・賠償事務費用の見通しは何れも不明のまま、発電と送電の分離問題、発電事業者の参入問題、企業体質の改善問題等も先送りのままの実質国有化なので、前途は暗澹たるものがあると思います。
 6月20日(水)には東京電力㈱の「福島原子力事故調査委員会」による「福島原子力事故調査報告書」が公表されました。
 概要版44ページ、概要版別添26ページ、正誤表1ページ、本編373ページ、別紙①11ページ、別紙②155ページ、添付資料567ページ、平成23 年12 月2 日の中間報告書からの主な変更点について54ページ,正誤表27ページ合計1,258ページの極めて膨大な報告書です。私は主に概要版を読んでこの感想を書きました。

 今回は九州の唐津市の景色です。佐賀県の北部にあり、風光明媚、唐津焼も有名です。
 唐津市の西隣りが、九州電力・玄海原子力発電所のある玄海町です。
○唐津(舞鶴)城です。藩主小笠原氏の居城でした。
 天守閣からの大パノラマが素敵です。 

○虹の松原 
 全長5km、幅1kmにわたって続く松は、約100万本と言われています。
 三保の松原、気比の松原とともに日本三大松原の一つに数えられ、国の特別名勝に指定されています。有明海は干潟なので、佐賀市からは唐津に海水浴に行きます。


 ○東京電力㈱の「福島原子力事故調査報告書」概要版の抜粋
                                            *アンダーラインは筆者

1.本報告書の目的
 福島第一原子力発電所(以下,「福島第一」)の事故について,これまでに明らかとなった事実や解析結果等に基づき原因を究明し,原子力発電所の安全性向上に寄与するため,必要な対策を提案すること。
このため,同様の事態を再び招かぬよう,現に生起した事象を設備や運用の改善につなげていくことが重要であるとの観点から,炉心損傷の未然防止に関する課題を中心に検討した。

2.福島原子力事故の概要
 平成23年3月11日,福島第一では,1 号機~3号機は運転中,4号機~6号機は定期検査のため停止中,福島第二原子力発電所(以下,「福島第二」)では1号機~4号機が運転中。14時46分に発生した東北地方太平洋沖地震を受けて,運転中の原子炉は全て自動停止した。
 福島第一では,全ての外部電源が失われたが,非常用ディーゼル発電機(以下,「非常用D/G」)が起動し,原子炉の安全維持に必要な電源が確保された。
 その後,史上稀に見る大きな津波により,福島第一では,多くの電源盤が被水・浸水するとともに,6号機を除いて非常用D/Gが停止し,全交流電源を喪失,交流電源を用いる全ての冷却機能が失われた。1号機~3号機では直流電源喪失により交流電源を用いない炉心冷却機能も順次停止した。(後略)

3.東北地方太平洋沖地震の概況と地震・津波への備え
 (5) 津波への備え
① 津波高さの評価
当初,小名浜港で観測された既往最大の潮位として,昭和35年のチリ地震津波による潮位(O.P.+3.122m)を設計条件とした。国の審査においても,この潮位により「安全性は十分確保し得るものと認める」として原子炉設置許可を取得している。設置許可申請書に記載されているこの津波高さについては,現状でも変更されていない。
 当社は津波評価技術に基づく津波評価を行うとともに,必要な対策を実施し,平成14年3月に国へ報告し確認を受けた。
 その後も,確立された最新の知見に基づき津波の高さを評価してきた。
② 地震本部の見解,貞観津波に対する当社の取り扱い決定経緯
 当社は,津波高さについては,土木学会の「津波評価技術」に基づき評価することで一貫しているが,津波に関する知見・学説等が出された場合は,試算も含め,自主的に検討・調査等を実施。その一環として,津波評価に必要な波源モデル等の知見が定まっていない中,以下の2つの仮定に基づく試算や津波堆積物調査を実施。
 平成14年に国の調査研究機関である地震調査研究推進本部(以下,地震本部)が「三陸沖から房総沖の海溝沿いのどこでもM8.2前後の地震が発生する可能性がある」との見解(以下,「地震本部の見解」)を公表。
  • 当社は,平成20年に,耐震バックチェックにおいて,地震本部の見解をどのように扱うか社内で検討するための参考として,試し計算を実施(福島県沖の海溝沿いの津波評価をするために必要な波源モデルが定まっておらず,三陸沖など他の地域に設定されていた波源モデルを仮に借用して計算したに過ぎない)。
    この概要について,当時の武藤原子力・立地本部副本部長,吉田原子力設備管理部長は以下のように判断・決定(平成20年7月)。後日武黒原子力・立地本部長に報告。
  • 津波評価技術による評価は保守性を有し,発電所の安全性は担保。
  • 地震本部の見解には具体的な波源モデルもなく,即座に津波高への影響が定まるものではない。
  • 原子力発電所の津波評価は,津波評価技術に従って実施していることなどから,大きな地震は起きないとされてきた福島県沖の日本海溝沿いを含む太平洋側津波地震の扱いを土木学会に検討依頼し,明確にルール化した上で対応。それまでは現行ルールである津波評価技術に従って評価。
<貞観津波の波源モデルによる試し計算と津波堆積物調査>
  • 平成20年10月,産業技術総合研究所(当時)佐竹氏から貞観津波に関する投稿準備中の論文の提供を受け,未確定ながら示されていた波源モデル案を用いた試し計算を実施。
  • その後,吉田部長は,貞観津波の正確な情報を得ることを主たる目的に,福島県沿岸の津波堆積物調査を決定するとともに,地震本部の見解と同様に貞観津波も土木学会へ審議を依頼することとし,後日武藤副本部長,武黒本部長に報告。
  • 平成21年6月に土木学会へ審議を依頼。
  • 津波堆積物調査の結果,福島県南部では津波堆積物を確認できず。調査結果と試し計算に使用した波源モデル案で整合しない点があることが判明したことから,貞観津波の波源確定のためには,さらなる調査・研究が必要と考えた。
    なお,今回の地震は,地震本部の見解に基づく地震でも,貞観地震でもなく,より広範囲を震源域とする巨大な地震であったことが判明している。

16.事故原因と対策 
 <事故原因>
  • 今回の福島第一1号機~3号機が炉心損傷事故に至った直接的な原因は,1号機では津波襲来によって早い段階で全ての冷却手段を失ったことであり,2,3号機では津波による瓦礫の散乱や1号機の水素爆発により作業環境が悪化したため,高圧炉心注水から安定的に冷却を継続する低圧炉心注水に移行できず,最終的に全ての冷却手段を失ってしまったことである。
  • すなわち,これまでの原子力発電所における事故への備えは,今般の津波による設備の機能喪失に対応できないものであった。津波の想定高さについては,その時々の最新知見を踏まえて対策を施す努力をしてきた。この津波の高さ想定では,自然現象である津波の不確かさを考慮していたものの,想定した津波高さを上回る津波の発生までは発想することができず,事故の発生そのものを防ぐことができなかった。このように津波想定については結果的に甘さがあったと言わざるを得ず,津波に対する備えが不十分であったことが今回の事故の根本的な原因である。
<対策の考え方>
 今回の津波のような事例に対するためには,基本的な考え方として想定を超える事象が発生することを考慮した上で,以下の考えに沿って対策を講じる。
① 津波に対して遡上を未然に防止する対策を講じる。
② さらに,津波の遡上があったとしても,建屋内に侵入することを防止する。
③ 万一,建屋内に津波が侵入したとしても,機器の故障と違って,津波の影響範囲は甚大で多くの機器に影響を与える可能性があることから,その影響範囲を限定するために,建屋内の水密化や機器の設置位置の見直し等を実施する。
④ 上記①~③の徹底した対策の実施により津波によるプラントへの影響は,最小限にとどめることが出来ると考えられるが,それさえも期待せず,津波により発電所のほとんど全ての設備機能を失った場合を前提としても,原子炉への注水や冷却のための備えを発電所の本設設備とは別置きで配備することで事故の収束を図る。
 以上の考え方に従い,設計想定として,蓋然性のある脅威に対して徹底した設備設計で対抗することを基本とするとともに,今般の事故のようにほぼ全ての設備の機能が喪失する場合についても対抗策を備えておく。
 すなわち,『今回の事故原因となった津波事象を含む外的事象に対して,事象の規模を想定し,徹底した対応をすることで事故の発生を未然に防止することを基本とするが,さらに発電所の設備がほぼ全て機能を喪失するという事態までを前提とした事故収束の対応力を検討すること』が安全思想面からの対策として必要不可欠と考える。

(所感)
 『本報告書の目的は、福島第一原子力発電所(以下,「福島第一」)の事故について、これまでに明らかとなった事実や解析結果等に基づき原因を究明し,原子力発電所の安全性向上に寄与するため,必要な対策を提案すること。』とされています。

 東京電力㈱は福島第一原子力発電所を運転していた事業者です。福島第一原子力発電所(以下,「福島第一」)の事故について原因を究明した場合、これだけの大きな事故を起こしたのですから、痛烈な反省が述べられていて然るべきだと思って報告書を読みましたが、淡々とした記述ばかりで、全くそのような記述はありません。
 「地震発生後、福島第一では,全ての外部電源が失われたが,非常用ディーゼル発電機いて(以下,「非常用D/G」)が起動し,原子炉の安全維持に必要な電源が確保された。
 その後,史上稀に見る大きな津波により,福島第一ででは、(中略)全交流電源を喪失,交流電源を用いる全ての冷却機能が失われた。1号機~3号機では直流電源喪失により交流電源を用いない炉心冷却機能も順次停止した。(後略)」と記述されています。ここも本当にそうだったのか議論がある点だと思います。
 津波への備えについては、国の審査・確認を得て行っていたこと。国の調査研究機関である地震調査研究推進本部(以下,地震本部)の意見を参考にしていた。貞観津波に対する対策等も終始土木学会の「津波評価技術」に基づき評価することで一貫していたと述べられています。更に『今回の地震は,地震本部の見解に基づく地震でも,貞観地震でもなく,より広範囲を震源域とする巨大な地震であったことが判明している。』と記述しています。

 2011年12月26日に公表された畑村洋太郎氏・柳田邦男氏等の「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」の中間報告書には、
『何かを計画、立案、実行するとき、想定なしにこれらを行うことはできない。したがって、想定すること自体は必ずやらなければならない。しかし、それと同時に、想定以外のことがあり得ることを認識すべきである。たとえどんなに発生の確率が低い事象であっても、「あり得ることは起こる。」と考えるべきである。発生確率が低いからといって、無視していいわけではない。起こり得ることを考えず、現実にそれが起こったときに、確率が低かったから仕方がないと考えるのは適切な対応ではない。確率が低い場合でも、もし起きたら取り返しのつかない事態が起きる場合には、そのような事態にならない対応を考えるべきである。今回の事故は、我々に対して、「想定外」の事柄にどのように対応すべきかについて重要な教訓を示している。』
と記述されています。
 これだけの事態が発生した後なのに、畑村洋太郎氏・柳田邦男氏等の報告書の指摘の最も重要な部分についての東京電力の反省は全く見られません。
 16.事故原因と対策  <事故原因> において、『想定した津波高さを上回る津波の発生までは発想することができず,事故の発生そのものを防ぐことができなかった。このように津波想定については結果的に甘さがあったと言わざるを得ず,津波に対する備えが不え十分であったことが今回の事故の根本的な原因である。』とまるで人ごとのように記述されています。『津波想定については結果的に甘さがあった』ことの東京電力としての反省が全くありません。<対策の考え方>においても、起こった結果の対策であって、東京電力㈱が今回の津波発生前に立てていた津波対策に関する問題点の反省は全くなされていません。 事故を起こした当事者の報告書では無く、まるで第三者からみた報告書のようです。
 今回のような厳しい状況を想定しておくことは、原子力発男電事業を行う東京電力も含む関係者の責務であったはずです。もし損害賠償責任のことを考えているのならば、こう言うことで自社の責任が軽くなるとでも思っているのでしょうか。
 本報告書は、これ以外にも事故の詳細・災害時の対応態勢・事故想定に対する甘さ・情報伝達・情報共有・情報公開等々にも大きなページを割いています。然し、『あくまで国・或いは学会の方針に従ってやってきたことで、「想定外」のことが起こったのだから仕方がない。』と言うスタンスは変わっていません。これでは如何に分厚い報告書でも、その内容が今後の教訓になる筈がありません。
 たまたま、29日の朝日新聞19面、原子力委員会近藤駿介委員長のインタビュー記事で「事実は何よりも雄弁です。専門家として、とことん突き詰められなかったことを深く反省しています。(中略)日本の過酷事故対策はお詰めが甘かった。悪い時にはさらに悪いことが起こると考えるのが、事故対応を考える人間の基本。それが現場でどこまで貫徹されていたのか。」と近藤委員長は言っておられます。
 本報告書を読むと、東京電力は実際に原子力発電事業を行っている者としての責任感が不足していたのではないかと私は思います。もし徹底した安全策をとることが私企業としての限界を越えると言うのであれば、原子力発電事業の「国策民営」を返上すべきであったのかも知れません。
 本報告書は東京電力旧体制下の最後の主張だと思います。トップは交替しましたが、このままでは東京電力の前途は真っ暗だと思います。

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㈱資生堂の「企業価値向上に向けたコーポレートガバナンス」について

2012年6月20日水曜日 | ラベル: |

5月29日(火)に経済産業研究所のBBLセミナー*1で㈱資生堂の前田新造会長の「企業価値向上に向けたコーポレートガバナンス」のお話をお聞きしました。㈱資生堂がトップの強力なリーダーシップの下、企業価値向上に向けたコーポレートガバナンス体制の確立に努力しておられる状況が良く理解出来ました。コーポレートガバナンスは、企業のリスクマネジメント体制にも大きな影響を及ぼします。以下にその内容をご紹介申し上げます。

 今回の景色は、私が小・中・高校時代に住んでいた九州の佐賀市です。佐賀平野にあり、目立たない小さな街ですが、緑が多く綺麗な川やクリークが市内至るところに流れています。

○市内を流れる多布施川です。

○神野公園 ・藩主鍋島家のお茶屋の跡です。


○㈱資生堂の「企業価値向上に向けたコーポレートガバナンス」について
Ⅰ.社名の由来
  『至哉坤元 万物資生』   易経 坤卦の巻
  「至れる哉(かな)坤元(こんげん) 万物資(と)りて生(しょう)ず。」
  (大地の徳はなんと素晴らしいものであろうか。すべてのものはここから生まれる。)

Ⅱ.資生堂の企業理念
  「私たちは、多くの人々との出会いを通じて,新しく深みのある価値を発見し、美しい
   生活文化を創造します。」
  「日本をオリジンとし、アジアを代表するグローバルプレーヤー」

Ⅲ.コーポレートガバナンスの基本的考えかた
  「目指すミッションを高いレベルで果たし、それぞれのステークホルダー(お客さま・
  株主・社会・社員・取引先)から価値を認めていただくこと。」
    ↓
  「企業価値の向上」
  「企業は社会の公器である。」
  「ガバナンス強化は企業価値向上の前提条件。仕組み・ルールだけに頼らず
  企業理念・使命で統治する企業へ。」

Ⅳ.コーポレートガバナンスの基本方針
  責任体制の明確化
  経営の透明性・健全性の強化
  意思決定機能の強化
  監督・監査機能の強化

① 取締役会
 取締役が独立性や倫理性に欠けることなく、十分な権限をもって取締役会に「多様な視点」「多様な経験」「多様なスキル」を持ち込み、十分にその機能を果たしていく。
 定款で取締役の定数は2001年度までは「7名以上」とされていたが、2002年度以降「12名以内」とした。現在8名である。
 その構成は、会長・社外取締役3名・執行役員兼務取締役4名(社長・専務1名・常務1名・取締役1名)。因みに専任執行役員は常務2名・執行役員12名。
 監査役は5名、社外監査役3名・社内監査役2名。
 役員の任期は取締役1年・監査役3年、社内ルールで同一役位での在任上限期間を設定している。原則4年最長2年延期可能。その後は昇格か退任。
 取締役会の諮問委員会として、役員報酬諮問委員会・役員指名諮問委員会がある。
社外役員の起用に当たっては「経営に外部視点を取り入れ、業務執行に対する一層の監督機能強化を図ることを目的に起用している。
 招聘段階から恣意性を排除し、社外役員の独立性、倫理性を徹底して確保できる環境を整え、それを維持する。

② 役員報酬制度
 ○2005年 - 2007年
50
固定報酬
〈 月額基本報酬 〉
50
業績連動報酬
〈 賞与・ストックオプション 〉
 

 ○2008年 以降 
 
(平均)
 
40
固定報酬
〈 月額基本報酬 〉
60
業績連動報酬
〈 賞与・ストックオプション 〉
 
社 長
31
固定報酬
69
業績連動報酬
副社長・専務・常務(平均)
44
固定報酬
56
業績連動報酬
執行役員
48
固定報酬
52
業績連動報酬

Ⅴ.前田会長の3つの夢
① 100%お客様指向の会社に生まれ変わること。
② 大切な経営資源であるブランドを磨きなおすこと。
③ 魅力ある人で組織を埋め尽くすこと。

(所感)
 5月10日の『藤井範彰著 「内部監査の課題解決法」を読んで』で、私は「新会社法・金融商品取引法と内部統制・リスク・リスクマネジメントの関係を理論的に整理することは極めて重要だと思っています。」と書きました。さらに、根底には、コーポレートガバナンスの在り方があります。
 5月29日のBBLセミナーで、現職の社外取締役の方から、前田会長に対し、「社外取締役は、企業の内容を十分に把握出来ないのではないかと懸念ずる。」との質問がありました。前田会長のお答えは、『執行役員が会社の業務を遂行しているのに対して、社外取締役の方々からは、「多様な視点」「多様な経験」「多様なスキル」を持ち込み、十分にその機能を果たして頂いている。』と言うことでした。私はお話を聞いていて、経営がしっかりしていれば、優秀な社外取締役は「経営あるいは経営者の後継者に関して十分な意見をお持ちになれるのだ。」と痛感しました。総ての会社がこうなっているとは思えませんが。
 「和魂洋才」と言いますが、㈱資生堂が欧米と異なる日本の会社組織に、かくも見事にコーポレートガバナンスを根付かせているのは、優れた経営者の徹底したご努力の結果だと感銘致しました。特に、「役員の任期は取締役1年・監査役3年、社内ルールで同一役位での在任上限期間を設定している。原則4年最長2年延期可能。その後は昇格か退任。」を厳格に実行されているのは、トップの確固たる信念がなければ行えないことだと思いました。コーポレートガバナンス体制は各社で異なると思いますが、一つの模範例かと思います。
 なお最後に前田会長が言われた、『人は「コスト」ではなく、「キャピタル」である。人材育成を重視し、社員の成長と会社の成長が重なるような会社にしたい。』と言うお言葉には全く同感致しました。

*1 BBLセミナー (RIETI 独立行政法人 産業経済研究所HPより)
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/index.html

米国の大学や研究機関では、先生、学生たちの間でBrown Bag Lunch Meetingというものが頻繁に行われています。(自分の昼食を茶色の紙袋に入れて集まるところから、この名前がついたそうです。)
BBL(Brown Bag Lunch Seminar Series)とは、ワシントンのマサチューセッツアべニューにあるシンクタンクで日夜繰り広げられているような政策論争の場を日本にも移植し、policy marketを作りたいという思いで、当研究所が企画しているブレインストーミングセッションです。
国内外の識者を招き、様々な政策について、政策実務者、アカデミア、産業界、ジャーナリスト、外交官らとのディスカッションを行っています。会場スペースの制約もあり、現状では非公開としておりますが、これまでに行われたセミナーの概要や配付資料、今後の開催予定等は、こちらでご覧頂けます。

●㈱資生堂前田新造会長の「企業価値向上に向けたコーポレートガバナンス」
BBLセミナー資料 (引用許可済)
http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/12052901.pdf

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内田知男著「リスクマネジメントの実務」を読んで

2012年6月10日日曜日 | ラベル: |

内田知男さんの「リスクマンジメントの実務」をご紹介致します。内田さんがリスクマネジメントのコンサルティング実務に従事されたご経験と、慶応義塾大学・大分大学・関西学院大学・名古屋商科大学におけるリスクマネジメントの講義の集大成で、リスクマネジメント、BCP(事業継続計画)の実務の解説と、「リスクマネジメントの教科書」としての基礎的事項の解説の双方を含んでいます。リスクマネンジメントに関わる者に取って、この分野についての広い視野を与えて頂けるご本だと思います。
 3月10日に東京ガス吉野太郎さんの「事業会社のためのリスク管理・ERMの実務ガイド」をご紹介致しました。これは吉野さんが長年企業のリスク管理・ERMの実務に従事されたご経験をご本に纏められたものです。
 5月10日の藤井範彰さんの「監査の課題解決法」も藤井さんの長い実務経験に基づく視点で内部監査の現在の問題点を論じたご本です。
 私がお付き合いしているリスクマネジメントの各分野の優れた実務家の方々が、ご経験に基づく解説書を次々に出版されていることは、誠に意義深いことです。

今回から趣向を変えて、私の印象に残った各地の景色をお目に掛けます。
バーミューダの主要産業は観光と損害保険です。損害保険代理店時代に研修旅行で2泊3日滞在しました。
バーミューダの夕焼け。


志摩半島大王崎の夕日。


○内田知男氏について
 内田さんは、1973年一橋大学商学部卒業後住友銀行にご入行、経済調査部・企画部金融調査室長・企画部部長を経て、銀泉保険コンサルティング㈱(現銀泉リスクソリューションズ)社長・理事長として、リスクコンサルティングの実務に従事されました。
昨年6月エリーパワー㈱監査役に就任されました。エリーパワー㈱は大型リチウム・イオン電池製造のベンチャー企業です。http://eliiypower.co.jp/

○リスクマネジメントの実務【ISO31000への実践的対応】 














同書「はじめに」で、
「この十数年間に、米国COSOの内部統制フレームワークに始まり、英国ターンブルガイダンス、米国COSOのエンタープライズリスクマネジメントフレームワークあるいはわが国の会社法並びに金融商品取引法の下での内部統制への要請など、様々な形でのリリスクマネジメントに対する考え方や組織的対応への要請事項が示されてきた。(中略)これまで様々な形で取組が進められてきたリスクマネジメントについてISO31000をガイドラインとして用いて、いかに現在のリスクマネジメントシステムを効率的に改善し運営していくかが多くの組織にとっての課題となろう。」
と述べておられます。
 第1編リスクマネジメントでは、①リスクマネジメントトは、②リスクとは、③リスクマネジメントのア枠組み、④リスクマネジメントプロセス、⑤リスクマネジメントを支える枠組み、⑥リスク定量化とリ企業価値経営、⑦リスクファイナンシングの順で
リスクマネジメントに関する広汎な解説がなされています。 
 第2編では①事業継続管理(BCM)とは、②BCM体制の実践的対応の順で、内田さんが企業のBCMのコンサルタントに当たられた実務経験に基づく叙述がなされています。
 リスクマネジメント、BCMについての広い視野を得るには絶好の入門書だと思います。


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東京電力の現状と将来の見通し⑩ ~ 平成24年3月期決算 ~

2012年6月1日金曜日 | ラベル: |

東京電力平成24年3月期決算が公表されました。決算短信「来期見通し」添付資料に、除染費用については、「法律に基づく具体的な実施内容を把握出来る状況になく、賠償額を見積もることが出来ないから計上しない」と記載されています。こんな前提での業績予想の開示で良いのでしょうか。 以下は東京電力平成24年3月期決算についての感想です。

素敵な京都の6月その1.2です。

善峰寺  経堂下 さつき HP 「京都の四季」より

同上 HP 「京都の四季」より
 京都では東山、西山と言います。東山三十六峰が有名ですが、私は西山が好きです。西山に善峰寺があります。素敵なお寺です。

 ○業 績 (連結)
  平成 22 年度実績 平成 23年度実績  
 前期比増減
(22.4.1 - 23.3.31) (23.4.1 - 24.3.31)
売上高 53,685 53,494 △ 191
営業利益又は損失
 (同上率)
3,996
( 7.4 %)
△ 2,725
(△ 5.1 %)
△ 6,721
(△ 12.5 %)
経常利益又は損失
(同上率)
3,177
( 5.3 %)
△ 4,004
(△ 8.1 %)
△ 7,181
(△ 13.4 %)
引当金増減 61 24   △ 37
特別利益
特別損失
   ―
△ 10,777
25,169
△ 28,679
25,169
△ 17,902
税金等調整前当期損失 △ 7,661 △ 7,538 123
法人税等 4,784 228 △ 4,556
当期純利益又は損失
 (同上率)
△ 12,473
(△ 23.2 %)
△ 7,816
(△ 14.6 %)
4,657
( 8.6% )
 月  商 4,474 4,458 △  16

 平成23年度売上高は前期比1910億円減の53,494億円、人件費・経費の圧縮に努めたものの、撚料費の大幅増により営業利益は△2,725億円、経常利益は△4,004億円となっています。

○特別損益内訳                   (単位 億円)
 項  目 平成 23 年度実績
(22.4.1 - 23.3.31)
平成 23 年度実績
(23.4.1 - 24.3.31)
 
増  減
特別利益 ①
(原子力損害賠償支援機
構交付金)
(有価証券売却益)
(固定資産売却益) 
( 関係会社株式売却益 )
   -
   -
   -
   -
  -
25,169
( 24,263 )
( 288 )
(416)
( 202 )
25,169
 
( 24,263 )
( 283 )
( 416 )
( 202 )
特別損失 ②
( 災害特別損失 )
(資産除去債務会計基準
適用に伴う適用額)
(原子力損害賠償費)
(有価証券売却損)
(関係会社株式売却損)
10,777
(10,205)
 
  ( 572 )
   -
   -
   -
28,679
(2,978)
 
 -
( 25,249 )
  ( 404 )
   ( 47 )
17,902
•  7,277
 
•  572
25,249
404
47
① - ②  △ 10,777
 
•  3,519 7,258

 特別損失中、原子力損害賠償費は原子力損害賠償支援機構交付金で賄っていて、東日本大震災による損失2,978億円が赤字を拡大させています。
 いつも思うことですが、キャッシュフロー計算書では、原子力損害賠償の支払い額は5,663億円となっており、未収原子力損害賠償支援機構交付金が17,627億円も計上されています。折角原子力損害賠償支援機構からの支援が決まっているのですから、残りについても早期に支払われることを希望します。

○ キヤッシュフロー  (連結)                     (単位 億円)
科  目  
平成 22年度実績
 
平成 23年度実績
前年同期比
増  減
現金及び現金同等物の期首残高 1,531 22,062 20,531
       
営業活動によるキャッシュ・フロー 9,887 △ 29 △ 9,916
投資活動によるキヤッシュフロー △ 7,920  △ 3,351 4,569
事業のキヤシュフロー 1,967 •  3,380 △ 5,347
財務活動によるキヤッシュフロー 18,596 △  6,147 △ 24,743
当期総合キヤッシュフロー 20,563 •  9,527 △ 30,090
       
現金及び現金同等物の期末残高 22,062 12,539 △ 9,523
月 商 比 4.9  ヶ月 2.8  ヶ月 △  2.1 ケ月

 営業活動によるキャッシュ・フローは,前期比9,916億円の大幅悪化です。投資は大幅に削減されていますが、社債償還を主因として財務活動によるキヤッシュフローは△6,147億円です。

○社債・借入金残高推移                  (単位 億円)
   
22.3.31
 
23.3.31
24.3.31
 残 高 23.3.31 対比
  社   債 47,396 44,266 36,775 △ 7,491
長期借入金 16,144 34,238 32,761 △ 1,477
1 年以内に返済の長期借入金 7,476 7,748 9,325 1,578
短期借入金 3,636 4,062 4,418 356
合   計 74,652 90,314 83,279 △ 7,035

 上記の残高推移で明かなように、社債減7,491億円が大きくキャッシュフローを悪化させています。長期借入金と1年以内に返済の長期借入金の合計額は101億円増加しています。これは平成23年3月31日期末の1年以内に返済の長期借入金7,748億円を返済後7,849億円を改めて借り入れていることを意味します。短期借入金も356億円増加しています。金融機関は引続き貸出を継続して残高を維持しています。
 問題は社債の償還です。資金調達にあたり社債に対する依存度が大きいと事故災害発生時に、社債の償還がキャッシュフロー悪化の大きな要因となります。その結果大事な現預金は9,523億円の大幅減となっています。

  ○来期業績見込み                   (単位 億円)
  平成 23年度実績 平成 24 年度見込  
 前期比増減
(23.4.1 - 24.3.31) (24.4.1 - 2 5 .3.31)
売上高 53,494 60,250 6,756
営業利益又は損失
 (同上率)
△ 2,725
(△ 5.1 %)
△ 2,350
(△ 3.9 %)
375
( 1.2 %)
経常利益又は損失
(同上率)
△ 4,004
(△ 8.1 %)
△ 3,550
(△ 5.9 %)
454
( 2.2 %)
当期純利益又は損失
 (同上率)
△ 7,816
(△ 14.6 %)
△ 1,000
(△ 1.7 %)
6,816
( 12.9% )
 月  商 4,458 5,021 563

前回の繰り返しになりますが、

① 家庭用電気料金の値上げを前提としているが、どの程度認められるかは現状不明。
② 廃炉費用については、「現段階では、各(廃炉)工程の具体的な費用の積上げによる総額の見積りは困難である。」とされている。
③ 除染費用については添付資料に、「法律に基づく具体的な実施内容を把握出来る状況になく、賠償額を見積もることが出来ないから計上しない」と記載されていて、平成23年3月期の実績の記載も無い。
等の問題点があり、来期業績の見通しを検討することは困難です。
 廃炉費用・除染費用・原子力損害賠償の事務経費等を何処まで国が負担するのか、発送電を分離するのかなど、根本的な議論を行った上で対処しなければ東京電力の再生は困難だと思います。依然前途は暗澹たるものがあります。

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東京電力の現状と将来の見通し⑨ 〜 総合特別事業計画の変更 〜

2012年5月20日日曜日 | ラベル: |

東京電力4月27日付けの「総合特別事業計画の変更」は、5月9日に認定されました。
5月14日には平成24年3月期決算短信が公表されました。先ず、「総合特別事業計画の変更」についての感想を書きます。

素敵な京都の5月の新緑  その3-4です。


HP 「京都の四季」より   平安神宮
 

HP 「京都の四季」より   平安神宮

○総合特別事業計画の変更
 東京電力が4月27日、内閣府及び経済産業省資源エネルギー庁に提出した「総合特別事業計画の変更」は5月9日に認定されました。
 東京電力は「総合特別事業計画に基づき、原子力損害の被害に遭われた方々の目線に立った親身・親切な賠償を実現するとともに、着実な廃止措置の実施、電力の安定供給の確保、抜本的な経営の合理化を進めてまいります。」と言っています。
 総合特別事業計画は107ページに及ぶ膨大なものです。以下は私の感想です。

Ⅰ.実質国有化
 私は、今回の「総合特別事業計画の変更」の最大のポイントは、東京電力の「実質国有化」だと思います。
 米倉経団連会長は「国有化とはとんでもない。勘違いしている」「国有化して、きちんとした経営になった企業を見たことがない」と反対で、経団連は東京電力の経営者・社外取締役の人選に協力しなかったと報じられています。一方経済同友会の副代表幹事経験者3氏が社外取締役候補になっておられます。例え意見は異っても、経団連には政府に協力してわが国の将来を支えるという気概は無かったのかと非常に残念に思います。経済同友会は志をお持ちです。心から敬意を表します。
 報告書には、『2012年6月の株主総会後、 原子力損害賠償支援機構は、東電発行に係る株式(払込金額総額1兆円)の引受けを行う。機構出資時において、議決権付種類株式により、総議決権の2分の1超の議決権を取得する(「一時的公的管理」)とともに、追加的に議決権を取得できる転換権付無議決権種類株式を引き受けることにより、潜在的には総議決権の3分の2超の議決権を確保する。』また、『本年6月の定時株主総会において、取締役及び監査役の全員が退任し、一部を除き、再任しない。役員退職慰労金の支給の対象となる者(退任後未支給の者を含む)については、その受取を辞退する。』と書かれています。
 私は現状こうする他再生の道は無いと思います。

Ⅱ.コスト削減
 東京電力の営業費用のコスト構造は、大別すると、ⅰ)資材・役務調達費用(12.5%)、ⅱ)買電・燃料調達費用(45.6%)、ⅲ)人件費(9.0%)、ⅳ)その他経費(附帯事業営業費用含む)(19.2%)、ⅴ)設備投資関連費用(13.7%)です。(報告書記載・2010年度実績)。
報告書は、「10年間で3兆3,650億円を超えるコスト削減」を行うとし、その内容について多くのページを割いて詳細に記述しています。然し、後述しますが、肝心な部分は曖昧な記述のままです。

○コスト削減 (損益・キャッシュフローの改善策)
①各種費用の削減
ⅰ)資材・役務調達に係る費用(10年間の削減額:6,641億円)
ⅱ)買電・燃料調達に係る費用(10年間の削減額:1,986億円)
ⅲ)人件費(10年間の削減額:12,758億円)
ⅳ)その他経費(10年間の削減額:9,687億円21)
 (主な内容)
  【研究費】(10年間の削減額:2,146億円)
  【普及開発関係費】(10年間の削減額:2,160億円)
ⅴ)設備投資に関連する費用(10年間の削減額:2,578億円27)

②設備投資計画の見直し 設備投資  2011年  6975億円  2012年 7552億円

③資産売却
資産売却については、緊急特別事業計画に基づいて定めたアクションプランに基づき、づき、着実な売却を実施。
不動産売却はグループ全体で2,826億円、有価証券の売却 2011 年度から グループ
全体で 3,301億円、子会社売却 2011年度の売却額(年度内キャッシュインベース)
は470億円計6,5987億円。売却対象26社の子会社・関連会社の売却2012年度においては、金額ベースで433億円。

 これらについては、徹底的に実行されるべきです。
 然し、これで東京電力の将来が見通せる訳ではありません。ここが今回の「総合特別事業計画の変更」の内容の最大の問題点だと思います。

○業績・キャッシュフローの見通し
  「総合特別事業計画の変更」99ページ~101ページに今後10年間の損益・キャッシュフローの見通しが記述されています。然し、

① 電気料金の値上げを前提としていること。どの程度認められるかは現状不明です。
② 2013年4月以降柏崎刈羽原子力発電所の各号機が順次稼働すると見込んでいること。
現状見通しは不明です。
③ 原子力発電所事故の賠償業務全体では、社員約3,300人を含む13,100人規模の体制を取っているが、その費用についての言及は一切ありません。
④ 廃炉費用については、原子力事故の発生以来、2011年12月末までの間に、現時点で合理
的な見積りが可能な範囲で、ステップ2完了までに要した費用として2,256億円、中長期ロードマップ対応費用として4,878億円、廃止措置費用として1,867億円、計9,002億円を計上済みであが、「現段階では、各(廃炉)工程の具体的な費用の積上げによる総額の見積りは困難である。」とされていて、業績・キャシュフローの見通しには含まれていない部分が大きいと考えられます。
⑤ 要賠償額の見通しについては、一過性及び資産性の損害分として約2.4兆円となっている。(ただし、委員会報告において、この金額はマクロ指標等を用いた推計であって、会計上合理的に見積もられる「要賠償額」とは性質の異なるものとされている。)
 中間指針や、東電の賠償基準に示されている損害項目の中には、依然として今回の事故との相当因果関係のある範囲がまだ明確にならないなど、現時点では合理的な見積りが難しく、当該算定の対象となっていないものもある。
 これらの損害項目に関する更なる状況把握の進展をはじめ、被害者の方々との合意等によって個別具体的な損害賠償額が明らかになるなど、現時点では合理的に見積もれない損害賠償額が明らかになるなどの状況変化が生じた場合には、迅速な損害賠償に万が一にも支障が生じることのないよう、引き続き、必要に応じて特別事業計画の要賠償額の見通しについて変更申請を行うこととする。
と記述されていて、要賠償額の見通しは判然としていません。
⑥ 除染費用について全く記載がなく、2012年3月期の実績の記載もありません。

等の問題点があり、業績・キャッシュフローの見通しを検討することは、能力不足な私には到底出来ません。
 これだけの大きな問題を抱えている企業の報告書が、こんなことで良いのかと思います。恐らく東京電力・原子力損害賠償支援機構・経済産業省の聡明な当事者達は良く々々判っていて、然し当面はこんな報告書を出して問題を先送りするしかないと考えているものと拝察します。メインバンクの優秀な担当者も同じことを考えているのでしょう。
 5月10日(木)の日本経済新聞「経済教室」で八田達夫氏の「破綻前国有化は前途多難」の中の「破綻を回避して資本注入を際限なく続けるのではなく、早い段階で国が事故費用を負担することにして、東電を破綻させたうえで国有化し、再建すべきだ。」と言うご意見は誠に傾聴に値します。
 現政権の下ではそういった決断がなされる可能性は限りなく小さく、先延ばし策で事態が推移して行くものと思われます。嘆かわしいことです。

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藤井範彰著 「内部監査の課題解決法」を読んで

2012年5月10日木曜日 | ラベル: |

公認会計士・公認内部監査人・米国公認会計士の藤井範彰さんは、新日本監査法人に所属され、内部監査・内部統制・リスク管理に従事され、今年1月新日本監査法人を退任されました。藤井さんの「企業のガバナンスを支える内部監査の在り方について」の実践の集大成が本書です。実務経験に基づく視点で内部監査の現在の問題点を論じておられます。
 藤井さんは私の属する日本ナレッジ・マネジメント学会リスクマネジメント研究部会のメンバーです。

素敵な京都の5月の新緑  その1-2です。

HP 「京都の四季」より   南禅寺

HP 「京都の四季」より   南禅寺 水道橋

 明治18年に着工した、大津市三保ヶ崎から京都に流れる疏水の赤レンガの水道橋が南禅寺の境内を通っています。不思議に違和感がありません。

○藤井範彰著 「内部監査の課題解決法」

 私は都市銀行退職後、1988年から数年製薬会社の経理部長・監査部長・常勤監査役を致しました。当時は内部監査部門の重要性の理解は未だ十分でなく、監査役は閑散役と揶揄されていた時代です。その後内部監査の重要性が認識されるようになり、更にコーポレート・ガバナンス、内部統制、リスク管理と内部監査の関係が重要な問題になりました。藤井さんの著書ではそのあたりについて、実務のご経険から詳細に論じておられ、深く感銘致しました。

○第1章 最近の内部監査事情
 2008年4月以降に始まる会計年度から、金融商品取引法の「内部統制に対する経営者の評価」の実務が適用されることになりました。各社は膨大な費用と人員を投入して対応しました。その後内部統制の効率化・簡素化に移行し、代わりに内部監査の充実、例えば非財務領域の内部監査、海外監査、経営監査、不正対応等の展開が行われて来た。厳しい経営環境の中で、今内部監査の価値が問われていると藤井さんは言っておられます。

○内部監査部門の当面の課題は、
① 本来の内部監査に対する経営ニーズへの対応。
  経営者層からの内部監査の役割に対する要望に応えなければならない。
② 内部監査部門と内部統制部問との協調と連携が必要。
③ 経済混迷期には、効率性志向、リスク状況の変化に対する対応が必要。

○内部監査の進化の方向は、
① 守備範囲の拡大、地域、部署、プロセスの三方面からの拡大
② コンサル的手法の導入。アシュアランス(保証)とコンサルティングの使い分け、組み合わせ。
③ 経営監査。経営者の片腕として経営を支援する監査。
④ ガバナンス、リスクマネジメントの監査の重視。

第2章 内部監査とガバナンスの関係を見直す

○ガバナンス関連の監査については、
①  経営層と十分な話合いがなされていない。
②  内部監査の重点と経営戦略・方針が連動していない。
③  内部監査の立場はまだ弱い
⑤ リスク管理部門、本社機能にある他の部署との連繋が不十分。
等の問題点に対する、藤井さんの実務経験に基ずく解決策が縷々述べられています。

内部監査と他のリスク管理機能のタテヨコの関係の整理をするには、
① 内部監査以外のリスク管理機能の把握。
② 内部監査と他のリスク管理機能都の関係をPDCAを使って考える。
③ 全社的リスク管理における内部監査の立ち位置と互いの関わり方を決める。
と言う解決策を提言しておられます。
 リスクマネジメントの組織体制・チェックポイントを抑えるべき、或いはリスクマネジメントと内部監査との連繋を最適化をどうするかなど、実務の⑤経験からの詳細な提言は非常に勉強になりました。

第3章内部監査の人材を活性化させる。
企業リスクに照準を合わせた内部監査のための人材育成策の提言です。

第4章 内部監査のインフラを再構築する。と第5章 内部監査の付加価値を向上させるメカニズムについては、本ブログの守備範囲を越えていますので言及致しません。

(所感)
 私は金融商品取引法が要求する内部統制は、「不正な財務報告のリスク」を防止するためのリスク管理体制だと思っています。
 外部からのリスクの発生そのものを防止することは、内部統制システムをいくら整備しても不可能です。しかし、外部からのリスクが発生した場合に少しでも損失を小さくするための措置、対処(例えば、災害への事前準備、リスク低減のための体制整備など)については、それらも含めて内部統制の問題だとも言えます。また、リスクが現実化してクライシスになった場合に、どのように対処するかという問題も(会社法の損失の危険の管理はこの部分を含む)内部統制の問題かも知れません。経営者としては、内部リスクであるか外部リスクであるかを問わず、それに対応する準備を整え、対処する必要と義務があると言われています。そのことをアシュア(保証)する内部監査の役割は重大です。
 このことは、リスクマネジメントの実務上は特に問題を生じないため、新会社法・金融商品取引法と内部統制やリスクマネジメントの関係については、リスクマネジメントの実務においては殆ど議論されていません。
 然し乍ら、新会社法・金融商品取引法と内部統制・リスク・リスクマネジメントの関係を理論的に整理することは極めて重要だと思っていました。
 藤井さんは内部監査の視点から、この問題について理路整然と整理され、意見を述べておられます。リスクマネジメントの関係者に取っても大変参考になる書物だと思います。

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オリンパスの粉飾について想う ② ~マイケル・ウッドフォード著 「解任」を読んで~

2012年5月1日火曜日 | ラベル: |

オリンパスのCEOを解任されたマイケル・ウッドフォード氏の著書「解任」を読みました。1月10日の記事で「オリンパス株式会社第三者委員会調査報告書」に触れていますので、今回は「解任」の読後感です。

 先ずは恒例、5月の京都です。東山三条から大津に向かって東へ、都ホテルの隣が蹴上浄水場です。つつじの名所で毎年5月初めに一般公開され、京都市が一望出来ます。

素敵な京都のつつじ その1-2です。


HP 「京都の四季」より   蹴上淨水場

HP 「京都の四季」より   蹴上淨水場

マイケル・ウッドフォード著 「解任」

 同書の帯に、マイケル・ウッドフォード氏は、「1981年オリンパスの英国代理店に入社、1990年同社社長、2005年オリンパス・メディカル・システムズの欧州法人社長を経て、2008年オリンパス・ヨーロッパ・ホールディング社長兼オリンパス執行役員、2011年4月オリンパス・グループ社長、同年10月にはCEOに昇格。そのわずか2週間後、過去の不正の責任を追及したため解任された。」と書いてあります。
 マイケル・ウッドフォード氏の経歴はオリンパスにおける叩き上げで、他社からのスカウトでは無い点が大きな特徴だと言えます。 解任に至る経緯とその後の経緯は広く報道されています。
 「FACTA」と言う会員制のビジネス誌2011年8月号の「オリンパスが過去の巨額の損失を粉飾していた。」と言う告発記事を知ったウッドフォード社長が、菊川会長他の辞任を求め、逆に2011年10月14日に解任されました。
 同書によれば、

当初日本のメディアの多くは、会社発表に従い「文化の相違」による解任と報じました。然し、ウッドフォード社長が提供した資料に基き「フィナンシャル・タイムズ」がかなり詳しく事件の内容を報じ「たんなる二文化の衝突ではない問題」とし、その後「ウォール・ストリート・ジャーナル」「ニューヨーク・タイムズ」などが後を追った結果、日本のメディアも取り上げるようになりました。
10月30日には、野田首相がフィナンシャル・タイムズのインタヴューで「市場経済国としての日本の評価をおとしめる恐れがある。」とのコメントを発表し、11月1日には、第三者委員会が正式立ち上がり、ついに11月8日オリンパスは不正の存在を認めた。
と記述されています。

○日本のメディアの報道姿勢
 「FACTA」誌の報道に日本のメディアは追随せず、ウッドフォード社長の解任後の「フィナンシャル・タイムズ」「ウォール・ストリート・ジャーナル」「ニューヨーク・タイムズ」などの報道によって日本のメディアも取り上げるようになり、国内で漸く問題が拡大した点が注目されます。
 日本のメディアは従来から、企業に致命的な打撃を与えるようなことについては殆ど報導しません。これは株主を始め多くのステークホルダーに大きな影響を与えるから慎重になるのだと思います。
 例えば、雪印乳業の事故発生の翌月中旬に主力銀行が金融支援を発表した際に、日本のメディアはキャシュフローの危機だとは一言も言わず、海外のメディアの言及もなかったので株価は急落しませんでした。
 東日本大震災後の東京電力の状況について、日本のメディアは業績・キャッシュフローの危機について報道せず、「フィナンシャル・タイムズ」が先ず懸念を表明し、次いで「ウォール・ストリート・ジャーナル」などが報道したため、日本のメディアも追随して、東京電力の株価は急落しました。
 今回のオリンパスの問題は、日本企業のコーポレート・ガバナンスの信頼を根底から揺るがす事態であり、こうした日本のメディアの報道姿勢が果たして良かったのかが問われていると思います。 

○取締役の在り方
 ウッドフォード氏は、オリンパスの取締役の在り方について「彼等は会社と株主の利益を守る義務があり、もし不正が露呈すれば法的責任を問われる。菊川会長に個人的忠誠を尽くすのが仕事では無い。」と厳しく断罪しています。
 私は法的には誠に尤もだと思いますが、当時のオリンパスの取締役がウッドフォード氏の意見の通りに行動するには失職の覚悟が必要だったと思います。特に従業員から昇格したオリンパスの取締役方に何処までウッドフォード氏が求める自覚と覚悟があったかは疑問です。
 わが国では自分の考えを持たないサラリーマンが多く、会社において自己の信念を貫くことに対する社内外の評価の無さなどの社会環境があります。私はこのことは決して良いことだとは思いません。社内取締役の方々が,眞に取締役としての機能を果たすためには、わが国の企業組織・社会の評価が変らなければ上手く行かないと思います。わが国の企業組織・社会の根本問題です。
 今、訴訟で法的責任を追及されているオリンパスの元取締役の方々は、法的には責任は免れませんが、中には心中察するに余りあるお気の毒な方もおられることと個人的には深い同情の念を禁じ得ません。

○第三者委員会報告書
 ウッドフォード氏は「12月6日、オリンパスの第三者委員会は調査報告を発表しました。私は第三者委員会をいくらか見くびっていたことを認めなければなりません・実に見識の高い報告でした。」と言っています。
 1月10日の記事でも書きましたように「企業風土はワンマン体制で社内で異論を述べられない雰囲気、経営者の透明性やガバナンスに対する意識・コンプライアンス意識の欠如、社外取締役の機能不全、監査役会の形骸化等、起こるべくして起こったこと。」だとすれば、これを機会に是非徹底的に会社が改革されることを期待します。

○三井住友銀行のこと
 私としては、古巣の三井住友銀行がメインバンクとしての機能と責任を果たしているのかは非常に気になるところです。 同書の192ページに、
のちに「FACTA」は次のように報じました。
英ジャイラス買収の際に、オリンパスからの融資要請に対し、三井住友銀行の審査部がいったんは「買収金額が高すぎる。」などと難色を示し、融資すべきでないと「ノ―」の判定を下していたという。これに他のメガバンクも追随、ジャイラス買収が危ぶまれた時期があった。が、菊川社長(当時)と親しい三井住友銀行幹部がこれを覆し、融資にゴーサインを出したため、他行も右へならえとなった。(後略)
と書かれています。
 私は旧住友銀行のOBとして、これが事実であったとは到底信じられません。銀行退職後25年を経過し、後輩に確認するすべもありませんが、私は、「銀行が貸出金債権保全のため貸出先の実態把握に務め、管理を行うことは最早過去の遺物になっているのでは無い」と言うことを信じたいと思っています。

○「ボールドネス・イン・ビジネス・アワード」受賞
 ウッドフォード氏は2012年3月20日「フィナンシャル・タイムズ」が選ぶ「ボールドネス・イン・ビジネス・アワード」「今年の人」を受賞しました。「ボールドネス」とは勇気や大胆を意味します。
 しかも『ウッドフォード氏をイギリスの全国紙四紙が、「今年の人」または「今年のビジネスパーソン」に選び、四紙がすべて同じ人物を選んだのは史上初のことだ。』と同書に書いてあります。
 一人のイギリス人が日本の企業の不正の是正に挑戦したことが、英国でこれほどの大きな反響を巻き起こしたという事実を無視できないと思います。
 オリンパスの事件が、日本企業の組織の後進性・ガバナンスの弱体などをイギリス人に強く印象付けたとすれば誠に遺憾なことです。

○わが国の企業は外国人社長を受け入れられる企業になれるのか
 同書を読むと、ウッドフォード氏の意見は尤もですが、彼はオリンパス社長就任後、役員以下社員の把握が十分ではなかったように思われます。当時の菊川会長がウッドフォード氏を対外的なお飾りの存在にしていたのかも知れませんが。
 日産自動車のカルロス・ゴ―ン社長を除き、ソニーも日本板硝子も外国人社長が定着しないように見えます。わが国の企業組織の特殊性かもと思います。わが国の企業が外国人社長を受け入れられる企業になるためにはどうすべきか良く々々考えてみるべきだと思います。

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